コラム

戻る

環境経営を見据える視座 株式会社日本総合研究所 主席研究員 足達 英一郎氏

 「環境経営」とはなんでしょうか。しかし、ここでは、ひとまずそれを「事業活動の環境インパクトを勘案し、企業価値を最大化させようとする経営(もしくは経営意思決定)」と定義することにします。

 企業は有限な経営資源を組み合わせて、製品・サービスを生み出していきます。経営資源にはコストがかかります。一方で製品・サービスは売上を実現します。そして、この両者を別々に考えることができないことから企業経営には、多様性が生まれ、同時にその巧拙が生じることになります。例えば、徹底的にコストを抑えても品質が悪くなっては製品が売れない、逆に画期的な品質を持つ製品を作っても、コストが高すぎては顧客に買ってもらえない。このように相反する矛盾のなかで意思決定を重ねていくことから「企業経営はアートだ」と呼ばれます。

 ところで、近年、さまざまな環境問題が深刻化の一途をたどり、「事業活動の環境インパクトを企業の意思決定や行動に勘案すること」が不可欠になってきたという認識が、広く共有されるようになりました。言い換えれば、環境問題が企業のさまざまなコストに影響を与え、売上にも影響を与えるようになってきたことから、そうした環境インパクトを企業の意思決定や行動に勘案しなければ、従来と同じような手法では企業価値を最大化させることは望めないというわけです。

 ここでいう、インパクトには、正の(ポジティブな)ものと負の(ネガティブな)ものとがあります。正の(ポジティブな) インパクトの代表は、所謂、環境ビジネスや環境配慮型製品によるものでしょう。こうした正の(ポジティブな)インパクトを生じさせる事業活動は、需要を上手く捉えることができれば、企業の売上を拡大させることに繋がります。これは「攻めの環境経営」です。

 負の(ネガティブな) インパクトの代表は、生産活動や物流、製品の使用や廃棄に伴って生じる環境負荷です。一昔前であれば、こうした負の(ネガティブな) インパクトを生じさせても、企業には何らコストは生じませんでした。しかし、今日では、規制や経済的措置によって、確実に環境負荷を生じさせる事業活動には、一定のコストが課されるようになってきています。したがって、こうした負荷を回避、緩和することが、事業の顕在的もしくは潜在的なコストを縮小させることに繋がるのです。これは「守りの環境経営」といえるでしょう。

 残念ながら、こうした「環境問題が企業の売上を左右している」、「環境問題が企業のコスト構造を変えている」という認識は、未だすべてのビジネスパーソンに共有されているとは言い切れません。しかしながら、環境問題と事業活動との矛盾の側面は、今後、確実に増大します。「環境インパクトを勘案し、企業価値を最大化させようとする」姿勢が不可欠になるという方向は間違いありません。個々の企業は、いわば戦略的に環境問題、とりわけ地球温暖化の問題に向き合っていかなければなりません。

プロフィール

足達英一郎(あだち えいいちろう)
株式会社日本総合研究所 主席研究員 ESGリサーチセンター長。環境問題対策を中心とした企業社会責任の視点からの産業調査、企業評価を担当。金融機関に対し社会的責任投資や環境配慮融資のための企業情報を提供。主な共著書に「図解 企業のための環境問題」(1999年、東洋経済新報社)、「SRI社会的責任投資入門」(2003年、日本経済新聞社)、「CSR経営とSRI」(2004年、きんざい)「地球温暖化で伸びるビジネス」(2007年、東洋経済新報社)、「環境経営入門」(2009年、日本経済新聞出版社)等。日本規格協会ISO/SR国内委員会委員(現任)(2009年5月までISO26000作業部会日本エクスパート)。