IHI × SMBC サステナビリティ対談 三井住友フィナンシャルグループ 髙梨雅之氏 IHI 瀬尾明洋様 三井住友銀行 重松秀臣氏

中期経営計画「Plan for Fulfilled Growth」を策定し、「社会的価値の創造」を経営の柱に据えたSMBCグループは、社会課題の解決を見据えた上で、お客さまの事業発展のサポートを推進している。
そのうえで重要な役割を果たすのがサステナブルファイナンスだ。

そこで今回、サステナブルファイナンス含むESG経営に積極的に取り組む株式会社IHI様と、「社会的価値の創造」に向けた取組みや、「グリーンエネルギートランジション」含むサステナビリティの実現に向けた金融機関に期待する役割について意見交換を行った。

「社会的価値の創造」に向けた考えと取り組み

髙梨CSuO

株式会社三井住友フィナンシャルグループ執行役員 グループCSuO
(Chief Sustainability Officer)
髙梨 雅之 氏

瀬尾常務

株式会社IHI 取締役 常務執行役員
瀬尾 明洋 様

重松常務

株式会社三井住友銀行 常務執行役員
重松 秀臣 氏

髙梨CSuO

SMBCグループでは、中期経営計画の柱の一つとして「社会的価値の創造」を掲げました。亡くなったSMBCグループの太田前社長も、社会の発展なくしては企業の持続的成長はあり得ない、という危機感のもと、経済の成長とともに社会課題が解決に向かい、そこに生きる人々が幸福を感じられる「幸せな成長」の実現が必要だと考えていました。現在、社会的価値創造本部を設立し、本気で社会的価値創造を目指しており、具体的にどのようなことをすべきかの議論が常に行われています。以前、瀬尾常務がインタビューを受けた新聞記事で、「IHIは170年の歴史の中で社会課題の解決を使命にしてきた」、と語られたものを拝見しました。IHI様では、社会的価値についてどのようにお考えで、これまでどういった議論をされてきたのでしょうか。

瀬尾常務

我々はもともとの起源をたどれば、1853年に江戸幕府がペリー来航を受け、水戸藩に命じ石川島造船所として設立されたのが始まりで、以降、東京駅の駅舎や隅田川の橋梁など、常にその時代の社会インフラに関わる仕事を行ってきました。これはつまり、その時代の社会的課題を解決するということが我々の事業そのものであることを示すものです。
当社では、本業とCSRを分けて議論するということはなく、『本業そのものが社会的価値創造に繋がるものである』と考えています。この考え方をまとめたものとして2021年11月に「IHIグループのESG経営」を策定しました。社会課題に向き合い、これまで以上に自然環境や社会に配慮し、ステークホルダーからの信頼を獲得できるような経営―つまり、ESG(環境、社会、ガバナンス)経営を推進しており、社員の中にも社会貢献をしたい、それに必要な技術のために仕事をしたいという、マインドや心意気のある人間は多いですね。

重松常務

素晴らしいですね。IHI様の従業員は、自社の事業が社会課題解決に貢献しているということを自然に意識して仕事をされており、社会的価値創造に向けて取り組まれていると感じます。金融機関の従業員についても、社会的な要請やIntegrityをより意識するようになり、社会貢献につながる仕事をする環境が整ってきたと思います。一方で、社会課題解決のためにお客さまと協働するには、お客さまのことを確りと知ることが求められると感じています。さらには、お客さまの経営をいかにサポートするかという考えに留まらず、お客さまの事業発展に資する融資やソリューション提供の先に社会課題の解決があることを、より強く意識することが重要だと思います。

瀬尾常務

金融機関も、我々のような会社も歴史をさかのぼれば社会と共に発展してきたと思っています。我々はSMBCグループ様よりも大きな会社ではなく、SMBCグループ様よりも大きな役割を社会で担っているとは言えませんが、どの会社においても、地域・産業・社会の発展につながる話はあると思います。

髙梨CSuO

世の中が短期的な利益至上主義や極端な株主資本主義へ向かってしまった部分はあるかもしれません。改めてさまざまな社会課題が顕在化している中で、我々もマインドセットを変えていく必要があります。

重松常務

SMBCグループも社会的価値創造を打ち出していますが、まだ現場では具体的には何をやればいいのか明確に出来ていない部分が多くあります。お客さまとエンゲージメントを進めると共に、深いディスカッションを行うことも大切だと考えます。加えて、どのようにお客さまと一緒にビジネスを作り上げていくか、この観点が社会的価値の創造になると考えています。

瀬尾常務

高齢者や若者向けに不安の解消や、困ったときの対処といった話だけではなく、社会価値の創出は、楽しいもの、楽しいこととしての価値を提供し、社会全体のエコシステムを作り上げていくことが必要と考えます。お客さまに喜んでもらったうえで、適切な対価を頂ける状態にどうすれば作り上げられるのか、この難しい課題を考えていくことで、社会価値を創造し、『幸せな成長』につなげていきたいと思っております。

「グリーンエネルギートランジション」への取り組み

重松常務

社会的価値創造に向けた取り組みとして、IHI様ではクリーンエネルギーであるアンモニアに関する取組が一つの大きなテーマと理解しています。IHI様では、以前からアンモニアの燃焼技術の開発を進めておられますが、近年、アンモニアへの注目が高まる中で、「グリーンエネルギートランジション」についてどのようにお考えでしょうか。

瀬尾常務

IHIは、1990年代からアンモニアの燃焼技術開発に取り組んできました。現在、注目されている新エネルギーとして水素が挙げられるかと思いますが、日本などでは再生可能エネルギーだけでエネルギーミックスの課題を解決することは難しいと考えております。水素、アンモニアをエネルギー源として当たり前に利用できる社会の構築には膨大な社会コストを要しますが、社会的価値あるものとしてステークホルダーの方々と対話しながら、アンモニア・バリューチェーン構築に取り組んでおります。

重松常務

アンモニアに関する取組においてイニシアチブをとる動きはお見事だと思います。エネルギー源を水素に絞る必要はなく、エネルギーミックスの中で現実解として組み合わせていくことは大きな流れであり、金融機関としてもファイナンス支援を考えていくべき大切な分野だと認識しております。

瀬尾常務

目下我々が直面する気候変動の緩和や適用といった社会課題解決のためには、膨大な資金が必要です。金融機関には、解決される社会課題、生み出される社会的価値までを見据えて、サポートいただけると大変助かります。

髙梨CSuO

SMBCグループは、金融機関としての矜持の下、エネルギー安定供給の確保と脱炭素社会の実現に最大限貢献すべく、トランジションや技術革新に向けたお客さまの取組みをしっかりと支援していきたいと考えています。脱炭素社会への公正な移行は、社会に責任のある企業体として取り組むべき喫緊の課題であるとともに、人類が長期的に果たすべき責務です。我々金融機関は、お客さまの戦略や取組みを深く理解し、エネルギー転換など脱炭素化を促進するトランジションファイナンスを提供する役割を担っています。

サステナビリティの実現された社会に向けた金融機関に期待する役割

重松常務

金融機関は黒子の立場であり、0から1を生み出すIHI様のような事業会社に対して、金融機関が1から10になるためのお手伝いをするものだと考えています。例えばアンモニア燃焼事業で言えば、バリューチェーンの中心にいるのはIHI様であり、金融機関はファイナンスとネットワーキングを提供することにより、結果としてバリューチェーンが社会的価値を創造するのだと思います。近年サステナブルファイナンスに積極的に取り組んでいますが、まだ足りないと考えています。お客さまの事業や企業戦略がサステナブルであるかを判断して融資をするだけでなく、融資によって行われる事業が社会的価値を創造するように金融機関としてリードしていくというところまでやっていく必要があるのではないかと思います。IHI様は弊行においても、トランジションローンやグリーンローンをはじめ、積極的にサステナブルファイナンスにお取組いただいていますが、事業会社として、金融機関に求める役割についてどうお考えでしょうか。

瀬尾常務

金融機関のみなさん方とは資金需要が生まれてから協働するのではなく、より早い段階から一緒にビジネスを考えていただけるとよいと思っています。IHIは技術を使って社会価値の創出を目指していますが、金融機関は、ネットワークを使って社会的価値を創造してきていると考えています。IHIは技術に関しては知見を有していますが、他社との協働を考えたとき、例えば金融機関の持つネットワークの力が必要だと思っています。より早い段階から事業会社と金融機関が社会価値創造につながる事業創出やバリューチェーン構築についてディスカッションを重ねていくことが大切だと考えています。今後も期待しております。