勤め先や勤続年数などによって異なる退職金事情

退職金の平均額

1,000〜2,000万円

  • *退職給付(一時金・年金)制度がある勤続20年以上かつ45歳以上の退職者がいた企業について、平成29年1年間における勤続20年以上かつ45歳以上の定年退職者に対し支給した、または支給額が確定した退職者1人平均退職給付額。

実は、退職金の制度は、法律で定められているわけではありません。企業や勤続年数によっては、支給されないこともあります。
厚生労働省の「平成30年 就労条件総合調査」によると、退職金制度のある企業割合は80.5%。企業規模別にみると「1,000人以上」が92.3%、「300∼999人」が91.8%、「100∼299人」が84.9%、「30∼99人」が77.6%でした。約2割の企業で、退職金の制度がないことがわかります。
また、同資料によると、定年時の退職金の平均額は、大学・大学院卒(管理・事務・技術職)で1,983万円、高校卒(管理・事務・技術職)で1,618万円、高校卒(現業職)で1,159万円でした。

自分の退職金の有無や金額を調べる際は、勤め先の人事部や総務部に問い合わせるのが確実でしょう。直接聞きにくい場合は、就業規則の「退職金規定」を確認してください。「退職金額の計算」「年金給付額の計算」といった条文に詳細が記載されているはずです。

そして、金額はもちろんのこと、退職金の種類も確認しておくと安心です。退職金には、退職時に一括で受け取る「一時金」と、毎月給付される「企業年金」の主に2種類があります。「一時金が5割、企業年金が5割」のように、複数の制度を組み合わせている場合もあります。受け取り方によって控除額が異なりますので、チェックしておきましょう。一般的に、公的年金の受給額が多い人は、一時金として受け取った方が税制面で有利になります。

関連記事:退職金の受け取り方は「一時金」と「年金」どっちがおトク?

人生100年時代、退職金でまかなえる?

一時金にせよ企業年金にせよ、退職金だけで老後の生活費をすべてまかなうのは難しい場合が多いでしょう。そこで確認しておきたいのが、公的年金です。退職後に公的年金はどれくらい受け取れるのでしょうか。年金受給額については、毎年誕生月に送られてくる「ねんきん定期便」に記載されています。ただし、50歳以上の人は、60歳まで働いた場合の年金見込額が載っているので見通しが立てやすいですが、50歳未満の人は、これまでの加入実績による年金額が記載されているので、目安の金額がわかりにくいかもしれません。

そこで、以下に、平均的な年収の夫婦の年金受給額(平成30年度)をシミュレーションしました。ひとつの目安として参考にして下さい。

●夫婦の年金受給額 シミュレーション

下の表は横にスクロールできます

会社員と専業主婦 共働き
(共に会社員)
自営業
(フリーランス)
夫の受給額 <会社員>
国民年金 779,300円/年
厚生年金 1,124,700円/年
<会社員>
国民年金 779,300円/年
厚生年金 1,124,700円/年
<フリーランス>
国民年金 779,300円/年
妻の受給額 <専業主婦>
国民年金 779,300円/年
<会社員>
国民年金779,800円/年
厚生年金749,800円/年
<フリーランス>
国民年金779,300円/年
世帯合計 約22万円/月
約268万円/年
約29万円/月
約343万円/年
約13万円/月
約156万円/年
  • 本シミュレーションは以下の設定を元に計算。
  • ・夫婦の年齢は同じ(加給年金なし)
  • ・夫(会社員)は、標準報酬月額36万円/月、38年間で会社員として勤務、ボーナスは3カ月分/年で試算 (ボーナス含むと標準報酬額45万円)
  • ・妻(会社員)は、標準報酬月額24万円、38年間で会社員として勤務、ボーナスは3カ月分/年で試算 (ボーナス含むと標準報酬額は30万円)

注意したいことは、年金からは税金や社会保険料が天引きされるということ。おおむね受給額の1割程度が天引きされると考えておいてください。

退職後の収入の目安が分かったところで、次は支出を予想してみましょう。
総務省の2017年「家計調査(二人以上の世帯)」 によると、夫65歳以上、妻60歳以上の夫婦のみの無職世帯(高齢夫婦無職世帯)の1カ月あたりの支出は、235,477円でした。

●1カ月の支出シミュレーション

合計 235,477円
<内訳>
食費 64,444円
住居 13,656円
水道光熱 19,267円
家具、家事 9,405円
被服費等 6,497円
保健医療 15,512円
交通通信 27,576円
教育 15円
教養娯楽 25,077円
その他
(交際費、諸雑費、仕送り金など)
54,028円

住宅ローンを完済していない人や、賃貸の住宅に住んでいる人は、上記の世帯よりも住居費がかかります。現在の支出と照らし合わせて、考えてみましょう。

「年金の支給額だけでは赤字になりそうだ」という人もいるでしょう。特に、自営業やフリーランスの人は、国民年金のみ。国民年金だけで生活していくことは難しいでしょう。そこで利用したいのが、自分で年金を上乗せできる「iDeCo(イデコ)」。これは、毎月お金を積み立てて、自分で運用する制度です。
「iDeCo」の大きなメリットは、税制優遇があること。掛け金は全額が所得控除されるので、減税効果があります。また、運用益には、通常は20.315%の税金がかかりますが、iDeCoでは非課税に。積み立てたお金を受け取る際にも税制優遇があります。

積み立てたお金は、60歳まで引き出すことができませんが、退職後の資産作りが目的であれば問題ありませんよね。「iDeCo」は、自営業やフリーランス以外の会社員、公務員、専業主婦・主夫の方でも加入できます。

そして、老後の資金について見落としがちなのが、退職から年金受給開始までのブランク。年金の受給開始年齢は、原則65歳からです。60歳で退職すると、年金受給開始まで5年間の空白期間があります。退職金などで生活費をまかなえるか、慎重に考えておきましょう。

年金は、60歳から受け取ることもできますが、支給額は最大で3割減額されてしまいます。減額された年金は、一生涯そのまま。平均寿命が伸びていることを考慮すると、得策ではないかもしれません。
反対に、受給開始を遅らせると、年金額は1カ月ごとに0.7%増額されます。1年繰り下げると0.7%×12カ月で約8%。2年繰り下げると約17%。70歳まで繰り下げると、年金額は42%増えます。65歳以降の家計に余裕があれば、繰り下げるというのも一つの手ですね。

  • 2019年2月現在の情報です。今後、変更されることもありますのでご留意ください。

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ファイナンシャルライター 瀧 健

『PRESIDENT Online』などの経済系Webメディアでも多数の執筆協力経験をもつ。ライフプランや資産運用の提案が得意。自らも株式・債券・投資信託などの運用を行っている。社会保障にも詳しい。

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