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介護ってどんなことをするの? お金はどれくらいかかる? (前編)
2021.4.28 今から親子で話したい「介護とお金」
前編では介護への関わり方や費用について紹介しましたが、治療費や薬代といった医療費も必要になるということも忘れずにおきたいポイントです。
医療費は、介護を受ける人の健康状態によって高額になる可能性もあります。その時になって慌てないためにも、高齢者の「高額療養費制度」について調べておきましょう。これは医療機関や薬局の窓口で支払った額がひと月の上限を超えた場合、国が支給してくれる制度です。
70歳以上で一般的な所得水準(年収約156万円から約370万円)の場合、ひと月の自己負担額は最大で5万7,600円(外来・入院含む/世帯あたり)ですみます。また、高額療養費制度が適応されず全額が自己負担となる差額ベッド代などをはじめ、病院に行くときのタクシー代やおむつ代も大きな出費となることを念頭に入れておきましょう。
そして、介護費・医療費以外にも、介護が始まると思わぬ負担増があるようです。
親の食事をつくったり日用品を用意したりする費用、親の介護に行くための電車代やガソリン代といった交通費は1回の額は大きくないかもしれませんが積み重なることで負担となる可能性もあります。特に、遠く離れて暮らしていながら親の介護をする、いわゆる遠距離介護においては、交通費は大きな負担となります。目立たなくてもかかる費用をきちんと認識したうえで、介護について話し合うことが大切です。
ここまで、介護かかるお金について紹介してきましたが、「介護にかかるお金について話し合ったかどうか」をこの調査でも聞いてみたところ、介護が必要になる前に話し合っていた人は約1割という結果でした。「病気」や「介護」など終活に関することはネガティブに捉えられがちで、なかなか切り出しにくいという側面がありそうです。
また、「財産を狙っていると勘違いされそうで、話しにくい」という相談も受けます。普段、親子のコミュニケーションがない関係で、いきなり介護の話はしづらいものです。普段からこまめにコミュニケーションをとるよう心がけ、子どもは親を心配しているという姿勢を伝えることが大切です。
同調査でお金の話し合いをした人にその様子を聞くと、以下のような声が集まりました。
<スムーズに話し合いが進んだ人の声>
○母の年金、預貯金を全て教えてもらい、ノートに記入して、兄夫婦とも確認しているので、大変だったことはない。(62歳/女性/専業主婦)
○妹、弟がおり別居しているが、(介護に関わる)金銭の支払いについて実際に関わっていたのは長兄である私。後々金銭トラブルにならないように公正証書を作成してもらったため、(相続の)もめごとは発生しなかった。(81歳/男性/無職)
<話し合いが難しかったという人の声>
○全体的にいくら費用がかかるのかを計算して、それを誰が負担するのか話し合ったが、みんな負担したくないため、なかなか話が進まなかった。(45歳/男性/会社員)
○親の預貯金や年金だけでは足りない分を兄弟でどのように払っていくか、その割合など。
収入や生活状況など違いがある事、また自分の配偶者の理解を得るのが大変だった。(52歳/女性/パート・アルバイト)
○当時、要介護4※であった母親が、自分の貯蓄からお金を出す必要があることを理解できず、納得させるのがひと苦労だった!(62歳/女性/専業主婦)
○本人が、介護が必要になったことを認めないので説得するのに時間がかかった。(46歳/女性/無職)
○預貯金がどこに、どの位あるのか。母単独で把握しているものが大部分だったので。(40歳/女性/専業主婦)
○母親名義の預貯金を引き出す際、キャッシュカードを作っていなかったため、出金の身分確認が大変だった。(60歳/女性/専業主婦)
○親のお金がどこにいくらあるのか分からない。家中探しても預金通帳がない。株を持っているはずだが、どこの証券会社を使っていたか分からない。(74歳/男性/無職)
介護がはじまってから話し合いをした場合、話が進みにくいといったケースが多く見られました。介護には想像以上に時間と労力を要する場合もあります。ある日突然家族の介護をすることになれば、気持ちが動揺したり、心身が疲弊したりして、思うようにいかないこともあるでしょう。そのような状況のなか、話し合いを持とうとしてもうまく進めることが難しいのかもしれません。
また、介護にかけられる親のお金や、介護をする側の兄弟姉妹の経済状況を把握しないままで介護プランを決めようとしても答えが出しにくく、話し合いが困難になりがちです。退院直後に介護がはじまると、親の資産の整理などに手が回らないことも考えられます。やはり、健康なうちに話し合っておくことが重要なのです。
親が自分に介護が必要なことを認めず、スムーズにお金の話ができないという場合もあります。特に、親が認知症になると、資産の管理や介護について決めることがさらに難しくなってしまいます。認知症は現在増加傾向にあり、厚労省の資料によると2030年に高齢者の約4人に1人は認知症になるという推計もあります。他人事だと思わずに考えておきましょう。
「介護のお金」について話し合う際には、親は事前に資産について細かく管理しておくことが大切です。預金や投資信託の残高、保険契約などの資産、毎月受け取っている年金額、さらには負の財産である借入金などを整理しておくと良いでしょう。子どもに資産の情報を共有しておくことで、「いくら介護にかけられるか」がクリアになり、お金の準備もスムーズに行えます。資産の把握や管理には、エンディングノートも活用できます。資産に関すること、自分が受けたい医療や介護のこと、これからの人生で何をしたいかなどを書いておけます。
一方、子どもは、介護費をいくら負担できるかを正直に伝えることが大切です。また、介護がはじまった際に介護離職をしないためにも勤めている会社の福利厚生、また遠距離であれば鉄道や航空会社の交通費の割引制度などを調べて備えておくと良いでしょう。
親の年金や手元の資金が少ない場合、自治体に「世帯分離※」を申請して認められれば、介護費用を節約することもできます。介護サービスを利用して、1ヵ月に支払った利用者負担額が上限額を超えた場合に支給される「高額介護サービス費」という制度もあります。こういった制度も大いに活用し、親子で介護費用として用意できる資金の範囲内で「できる介護」を考えることが大切です。
介護はある日突然はじまるものです。きっかけをつかみにくいという理由で後回しにせず、親が元気なうちに家族で話し合っておきましょう。
【アンケート調査概要】
井豪(たかいつよし)
ファイナンシャルプランナー/終活アドバイザー。終活の専門家集団である「NPO法人 ら・し・さ(終活アドバイザー協会)」の理事。スイス系金融機関に在籍後、1994年にファイナンシャルプランナーとして独立。マネープランから、年金・介護、葬儀など、老後に向けて中立的な立場からのアドバイスを行う。