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サラリーマンでも確定申告は必要?
2023.6.14 くらしのマネー辞典
定年退職の時期は企業によって様々ですが、公務員の方など、3月に迎える方も多いと思います。まだまだ定年退職は先、と思っている方も、退職金については気になるところですね。ところで、そもそも退職金の受け取り方は複数あることをご存知ですか? 受け取り方によって何が違うのか、どう受け取るのがおトクなのか早速見ていきましょう。
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退職金は、一般的に退職の理由が自己都合の場合より、会社都合の場合の方が多く、いずれの場合も勤続年数とともに増加します。会社都合となる定年退職の場合は、まとまった額の退職金が期待できます。
まずは、勤続年数別にモデルとなる退職金の金額を見てみましょう。厚生労働省のデータによると、大企業のモデル退職金は大学卒の従業員の場合で約2,600万円。東京都産業労働局のデータによると、東京都の中小企業のモデル退職金は大学卒の従業員の場合で約1,100万円となっています。
中小企業より大企業のほうが、一般的に退職金の額は多い傾向となりました。いずれにしても、定年退職後につづくセカンドライフを考えると大事に管理していかなくてはならないお金です。なかには退職金が出ない企業もあります。自分が勤める会社の退職金について、早めに確認しておきましょう。
退職金の受け取り方は3パターンが考えられます。全額を一括で受け取る「退職一時金」、年金のように何年かに分けて受け取る「退職年金」、そして「退職一時金と退職年金の併用」です。どのパターンを選べるかは企業により異なります。
また、「退職一時金」と「退職年金」で受け取る場合では、税負担に違いがあります。それぞれのメリット・デメリットを見ていきましょう。
退職金を一時金として受け取る場合のメリットは、税負担が軽くなることです。通常、所得には税金が課せられますが、退職金を一時金で受け取った場合は「退職所得」となり、税制上の優遇があります。
退職所得の計算式
退職所得の金額=「(収入金額(源泉徴収前の金額)-退職所得控除額)×1/2」
退職所得控除額は、勤続年数が長いほど増えます。
退職金額が2,000万円で30年間勤続した場合、1,500万円が退職所得控除となります。他の所得とは分けて税金計算されるため、税負担がかなり軽減されます。一時金でできるだけ退職金を受け取っておくと、税金の面では有利な場合が一般的です。
一方でデメリットは、退職年金に比べて受取総額が少なくなることです。退職年金の場合は、まだ受け取っていない退職金を金融機関側が運用するため、一般的には受取額が増えます。
退職金を年金としてもらう場合のメリットはご紹介したように、退職金の運用益が上乗せされるため、受取総額がアップする可能性があることです。長期での受け取りを選ぶほど、受取総額が増える可能性は高まります。
一方でデメリットは、税負担額が高くなる恐れがある点です。一時金として支払われる退職金であれば、「退職所得」に対する税制上の優遇措置がありますが、退職年金には優遇措置がありません。毎年受け取る退職年金は、雑所得として計上されるため、公的年金やパート・アルバイト代など他の収入との合計所得が増え、税金や社会保険料が高くなる可能性があります。
たとえば、退職金額が2,000万円で10年間、毎年200万円ずつを退職年金として受け取る場合を考えてみましょう。額面上は運用利回り分が追加されるため、一時金よりも多く受け取れるように見えます。しかし、年間の控除額は65歳未満で77.5万円※、65歳以上で110万円※となり、一時金に比べて控除額が少なくなってしまいます。
※年金以外の所得が年間1,000万円以下の場合。
※退職金に対する具体的な運用利回り、公的年金については考慮しておりません。
また、企業によっては退職一時金と退職年金の併用ができる場合もあります。ご自身の定年後のライフスタイルにあわせて検討してみてください。
▼退職金にかかる税金早わかり
【早わかり】退職金にかかる税金の計算方法! ケース別に具体例も解説
退職金の受け取り方法について、以下の3つのポイントをふまえてトータルな視点で検討することが大切です。
もしも、定年退職後は「もう働く気はない」ということであれば、退職年金で受け取る場合でも所得がそれほど増えないので、税や社会保険料の負担が大きくなることは避けられます。
また、厚生年金に加入しながら働き続けるという人は、退職年金で受け取った場合に、社会保険料が高額になっても、半額を会社が負担してくれるため、自分が払う負担額を減らせます。これらに当てはまる方は退職年金として受け取ってもいいかもしれません。
一方で、退職後は、「自営として独立する」「厚生年金に加入せず、パートやアルバイトでたまに働く」という人は、なるべく一時金で受け取る方がおすすめです。退職年金を選んでしまうと、常に退職金が年間所得に上乗せされるため、税負担や社会保険料が重くなってしまいます。
公的年金には、受取開始時期を遅らせる繰り下げ受給制度があります。この制度を利用し、企業年金をもらえる間はあえて公的年金を受給せず所得額を減らすことで、税負担や社会保険料を軽くすることができます。また、繰り下げ受給を選択すると、将来もらえる公的年金額が増額されます。退職年金を選ぶ場合は、検討してみてください。
先述のように、額面で考えると退職年金の方が多く、税制的に考えると退職一時金の方が負担が少なくなりますが、それぞれメリット・デメリットがあります。どちらを選択するとおトクなのかは、企業年金の運用率や年金額、各自治体の保険料などによっても変わってきますので、一概にどちらがいいとは言えません。
私自身は退職金を一時金で受け取り、自分で運用していきたいと考えています。退職後はあまり大きな収入は見込めないため、リターンもリスクも低めの金融商品を慎重に検討します。運用する際は、税制面でも優遇のあるNISA(少額非課税制度)を活用したいものです。通常、資産運用で利益が出た場合は、その約20%が課税されますが、NISAを利用すれば課税されません。2024年からは、非課税の保有期間の無期限化されるなど制度が拡充され、さらに使いやすくなります。年間投資枠も、つみたて投資枠が年間120万円、成長投資枠年間240万円、合計最大年間360万円まで拡大。退職金の運用もしやすくなるでしょう。
一時金で受け取る場合は急に大きなお金が手に入るため、気持ちが大きくなって無駄遣いしてしまいがち。資産運用のプランを立てるなど、計画的に管理・運用することが大切です。
また、政府は勤続20年を超えた人を優遇している、退職所得控除の見直しを検討しています。今後の動きをチェックしておきましょう。
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まずは、受け取り方を選べるのかどうか、年金がある場合の運用利率はどれくらいなのかなど、ご自身の企業の退職金制度を調べて、しっかりと退職後のマネープランを検討してみましょう。
退職金制度は会社によって制度が異なりますので、自分の会社の退職金制度について、現役世代のうちに確認しておきたいものです。受け取り方が一時金・年金のどちらが良さそうか、自分で選ぶことができるのかなど、人事部などに直接聞いておくと安心です。
退職金の支払時期については、明確に定められているものではなく、会社によって自由ではあるものの、一般的には退職から1〜2ヵ月後に支払われることが多いです。
受け取り方や受け取れる時期については、就業規則の退職金規則に記載されているので、自身で確認するか、会社側に直接聞いて、事前に把握しておきましょう。
■退職一時金
メリット:税制上の優遇がある
デメリット:計画性が無いと使い果たしてしまう
■退職年金
メリット:定期的に収入が得られる、長生きすると有利なこともある
デメリット:各年の所得税・住民税・社会保険料がアップしてしまうこともある
水野 綾香(みずの あやか)
「女性のためのマネーセミナー講師」としてこれまで全国で6,000人以上の方に講演。むずかしく思われがちなお金の情報を、楽しくわかりやすく伝えることがモットー。FPとして、各メディアでのマネーコラム執筆も多数。ライフミッションは、精神・経済・キャリアにおいて自立していて、自分の人生を自分で選択できる女性をもっともっと増やすこと。