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経済ジャーナリスト・渋谷和宏が解説! 人生100年時代を生き抜くために必要な力とは?
2018.11.75分で読む、マネーの名著
投資家たちはこれまで株価を予測する手法として主に2つの対照的なアプローチを用いてきました。本書の著者バートン・マルキール氏はこれらを「砂上の楼閣」理論と「ファンダメンタル」理論と呼んでいます。
「砂上の楼閣」理論とは、投資家たちの群集心理が株価形成に決定的な影響をもたらすという考えです。「この会社は将来、大化けするかもしれない」そんな期待が投資家の間に生まれると買いが買いを呼び、株価はその企業の本来の実力を超えて上がっていく。逆に期待がはがれ落ちれば売りが売りを呼び株価は下落する、と言うわけです。「砂上の楼閣」理論では、株価を予測する際には過去の株価の推移を罫線などで示した株価チャートの分析(テクニカル分析)を重視します。しかし著者は「昨日までの株価から明日の株価は予測できない。株価チャートが示す未来は幻想に過ぎない」と一刀両断に否定します。
一方「ファンダメンタル」理論は、株価には本来それぞれの企業ごとに適正な価格があり、それはその企業の利益や配当の予想成長率によって決まるという考えです。したがって「ファンダメンタル」理論では「現在の株価が適正価格より安ければ買い、高ければ売り」になります。しかし傾聴に値するかのように聞こえる「ファンダメンタル」理論についても、著者は「将来の成長を予測するのにはしばしば困難がつきまとう」と指摘します。企業の業績に影響を与える事件は突発的に発生するし、企業が発信する情報にはある種の演出が加わっていることもあり、将来を正確に予測するのは難しいと言うのです。
著者はこれら以外にも様々な投資手法や予測手法を検証し、株価はランダム(不規則)にウォークする(変化する)ものであり、予測するのは並大抵ではないと認識すべきだとアドバイスします。
では、株価がランダム(不規則)にウォークする(変化する)のだとしたら、株式投資の成否は偶然に任せるしかないのでしょうか。決してそうではなく、投資に伴うリスクの低減は十分に可能だと著者は指摘し、リスクコントロールの手法について本書の後半で具体的に解説します。その基本は分散投資で、架空の離れ小島を例に挙げた著者の説明はまさに秀逸です。
小島にはリゾート企業と傘メーカーの2社の企業があり、平均して1年の半分は晴れ渡り、半分は雨が降っている。この場合、どちらか1社に投資するよりも2社に投資する方が確実に儲かる。晴れていればリゾート企業が潤い、雨が降れば傘メーカーが潤う。つまり1年を通してどちらかの企業の株価上昇や配当の恩恵に浴せるからだ──。
現実の株式市場は小島のように単純ではありませんが、分散投資によるリスク低減効果がよく分かります。実際、米国企業に投資する場合、50社程度に分散投資をすると、1社の株式だけを買う場合よりも値下がりリスクを60%低減できると著者は解説します。
株式投資では、誰かが売却益を出した時には別の誰かがその利益を負担している、つまり損している関係が常に生じています。投資信託も同様です。勝者と敗者が目まぐるしく入れ替わり続けているのが株式投資の世界であり、勝ち続けるのは容易ではありません。だとすれば勝ちを狙い個別銘柄を選択するのではなく、初めから市場平均で「よし」とする、つまり株価指数連動型のインデックスファンドに投資する方がむしろ賢いのではないかと言うのが著者の結論です。
もちろん投資信託のファンドマネジャーの中には、市場平均を上回る収益を上げ続けている人たちもいます。しかしそうした一握りの優秀なファンドマネジャーも20年、30年の期間で見ると、指数連動型のインデックスファンドから得られる収益には勝てません。ファンドマネジャーに支払う手数料が指数連動型のインデックスファンドに比べてずっと高いからです。それならばプロの機関投資家に比べて、得られる情報や運用にかけられる時間がはるかに少ない個人投資家は、手数料が安い指数連型のインデックスファンドをもっと利用すべきだと著者は薦めます。
そして、その際には「ゆっくりと確実に資産を運用する」「国内株だけでなく外国株や債券など多様な金融商品を上手に組み合わせ、幅広い国際分散投資を心がける」──これらも本書が指摘する重要なポイントです。
地道にコツコツ&ほんの少しアクティブ!“良いとこ”取りをするのも一考
本書の著者であるバートン・マルキール氏は、「一部の投資家だけが知り得るような確実に儲かる秘策などあり得ず、あったとしてもいずれ周知の事実になる」「株価はそもそも予測できない」と主張します。これらは「効率的市場理論」と呼ばれ、指数連動型のインデックスファンドで地道にコツコツと運用していくことが長い目で見た場合、最も合理的だという主張につながっていきます。
私も指数連動型のインデックスファンドをコア(資産運用の中心)に位置づけるのに賛成ですが、一方で金融市場について深く知るために、例えば運用資産の5%程度を個別銘柄やアクティブ型の投資信託などで運用してみるのも一考ではないかと思います。
渋谷 和宏
しぶやかずひろ/作家・経済ジャーナリスト。大学卒業後、日経BP社入社。「日経ビジネスアソシエ」を創刊、編集長に。ビジネス局長等務めた後、2014年独立。大正大学表現学部客員教授。1997年に長編ミステリー「錆色(さびいろ)の警鐘」(中央公論新社)で作家デビュー。「シューイチ」(日本テレビ)レギュラーコメンテーターとしてもおなじみ。
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