ここがポイント! 消費でなく資本が中心となった、現在の資本主義の限界 資本主義から価値主義へ。価値が資本を凌駕する!? 新しい経済圏が無数に生まれ、一定のバランスのもとに共存する

消費でなく資本が中心となった、現在の資本主義の限界

筆者の佐藤氏は、既存の資本主義が今や限界を露呈し始めているのではないかと指摘します。「価値の交換・保存などの役割を担うお金は本来、企業活動や経済システムを支える手段だったはずなのに、手段の目的化が行き過ぎて、ひたすらお金すなわち資本を増やすことを追求するゲームの対象になってしまった」──そんな既存の資本主義への懐疑的な思いが1990年代後半あたりから人々の間に芽生え、2008年のリーマンショックによって決定的になったのではないかと言うのです。
筆者はさらにリーマンショック以降、「お金にはならないけれど、価値があるモノやコトって存在するよね」という思いを人々がより強く抱くようになったとも指摘します。
そして今後は「お金」「資本」だけでなく、「これまでお金には換えられなかった価値」をも人々が追求するようになり、やがて「お金」「資本」に変換される前の「価値」を中心とした社会に変わっていく。つまり既存の資本主義から「価値主義」への転換が起きると予想します。

資本主義から価値主義へ。価値が資本を凌駕する!?

「価値」とは何とも曖昧で抽象的な概念ですが、本書では「価値」を次の3つに分類しています。
1つ目は「有用性としての価値」。「高速鉄道は短時間で長距離を移動するのに役立つ」とか「食べ物は生命を維持するのに必要だ」といった具合に「実生活に役立つか?」「必要か?」という観点から考えた「価値」です。
2つ目は「内面的な価値」。共感や愛情、興奮、好意など、実生活に役立つわけではないが個人の内面にポジティブな効果をもたらす「価値」です。
3つ目は「社会的な価値」。社会全体の持続性を高めるための「価値」で、NPOによる環境保護活動や慈善活動はまさに「社会的な価値」を生み出す行為に他なりません。
筆者によれば、既存の資本主義の中では、これら3つの「価値」の中でお金に換えられたのは、主に1つ目の「有用性としての価値」でした。既存の資本主義は「内面的な価値」や「社会的な価値」をお金に換えられる「価値」だとは積極的に認めてこなかったからです。
しかし「価値主義」の時代には「内面的な価値」や「社会的な価値」も容易にお金に換えられるようになると筆者は予想します。
その分かりやすい例として、TwitterやInstagramなどのソーシャルメディア上で多くのフォロワーを持つインフルエンサーと呼ばれる人たちを挙げます。インフルエンサーが発信する情報は、多くの人たちの関心や共感、好意を得ており、それらがもたらすインフルエンサーの影響力は広告という形でいつでもお金に交換できます。ソーシャルメディアの登場によって、人々の関心や共感、好意は「いいね!」やフォロワー数などで数値化できるようになりました。テクノロジーの進歩が「内面的な価値」をお金に換えられるようにしたのです。
そして、ここで重要なのは、ソーシャルメディア上での評価や影響力などの「価値」は「いつでもお金に換えられる」点です。Twitterのフォロワーが100万人以上いる人は、思い立った時──例えば社会全体の持続性を高めるための事業を始めたいと考えた時、すぐにネットで仲間を集め、クラウドファンディングを通して資金を募れるでしょう。
ネットの普及によって「価値」を保存する方法はお金だけではなくなりました。この結果、人々は「お金」「資本」に変換される前の「内面的な価値」や「社会的な価値」をも追求するようになっていく。だから資本主義から「価値主義」への転換が起きると言うのです。

新しい経済圏が無数に生まれ、一定のバランスの元に共存する

筆者はさらに「価値主義」のもとでは「複数の経済システムが並存し得る」と主張します。何だか難しく聞こえますが、要は既存の資本主義で優位な立場にある人はこれまでと同じように既存の経済システムの中で活動し、既存の資本主義に違和感を覚える人は「内面的な価値」や「社会的な価値」を重視する経済システムで活動するといったような選択が可能になると言うのです。
ビットコインなどの仮想通貨も「複数の経済システムの並存」を実現するツールとして位置づけられます。私たちが使っているお金はこれまで一国の中央銀行、日本では日本銀行が発行し、その価値を担保・管理してきました。テクノロジーの発達によって登場した仮想通貨は様々な問題をはらみながらも、それぞれの仮想通貨の──ビットコインならビットコインの経済システムを作り上げようとしています。私たちはある時には円で買い物をし、ある時にはビットコインを使うというように複数の貨幣システムを使い分けられるようになってきていると言うのです。
もちろん既存の資本主義や貨幣のシステムは精緻・堅牢かつ合理的ですから、そう簡単には揺らぎません。ただ、それらの既存の資本主義や貨幣のシステムを補完するような形で新たな経済システムが次々に生まれ、人々がそれぞれの価値観を踏まえて参加、発展させていく、そんな社会が生まれつつあるのは間違いないでしょう。

渋谷和宏のコレだけ覚えて!

若者の話に見える『お金2.0』。実は定年世代にこそ、自分の「価値」を意識すべき

僕は『お金2.0』を読み始めた時、若い人向けの書籍かなと思いました。しかしページをめくるにつれて、これは中高年がこれからの働き方や生き方を考える上でも参考になる書籍だなとも思うようになりました。中高年の多くは企業社会という主に「有用性としての価値」が支配する経済システムの中で働き、生きてきましたが、これからは「内面的な価値」や「社会的な価値」も重視したらどうかと言うわけです。定年後にシニアユーチューバーとして活動したり、休日にはネット上で得意分野を教えたりする──そんな活動は間違いなく新たな可能性や新たな仲間との出会いを広げてくれるはずです。僕自身、人生100年時代を生きるため、老後を見すえたお金の管理・運用に加え、自分に潜む新たな「価値」にも投資してみたいと思います。

渋谷 和宏(しぶや かずひろ)

渋谷 和宏

しぶやかずひろ/作家・経済ジャーナリスト。大学卒業後、日経BP社入社。「日経ビジネスアソシエ」を創刊、編集長に。ビジネス局長等務めた後、2014年独立。大正大学表現学部客員教授。1997年に長編ミステリー「錆色(さびいろ)の警鐘」(中央公論新社)で作家デビュー。「シューイチ」(日本テレビ)レギュラーコメンテーターとしてもおなじみ。

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