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経済ジャーナリスト・渋谷和宏が解説! 定年後の日々をイキイキと過ごすためのノウハウがつまった一冊
2019.1.305分で読む、マネーの名著
2015年を境に日本は人口減少社会へと突入しました。2015年に1億2,700万人を数えた日本の総人口は40年後に9,000万人を下回り、100年も経たないうちに5,000万人ほどに減ると予想されています。さらにこのままいけば200年後には1,380万人、300年後には450万人にまで減少するとの予測もあります。こんなに急激に人口が減るのは世界の歴史上類例がありません。
メディアでは、1947〜49年生まれの団塊世代が一斉に75歳以上の後期高齢者となる「2025年問題」がよく指摘されますが、高齢者数がピークを迎えるのは2042年です。本書ではそれまでの25年間になにが起きるのかを、未来年表によって具体的に紹介しています。
2024年には3人に1人が65歳以上の高齢者となり、2025年にはそれまで人口が増えていた東京でもとうとう人口が減り始めます。2030年には地方から百貨店や銀行、老人ホームが消える可能性が高くなり、社会生活を支えるインフラ減少の問題が顕在化します。2040年頃に向けて死亡数が激増し、火葬場が足りなくなることも予測されます。高齢者数がピークを迎える2042年には、65歳以上の高齢者が4,000万人に達し、高齢者の絶対数が激増します。この結果、介護施設や医療施設、さらにはそこで働く人材が不足し、特に東京では医療、介護難民が激増する医療介護地獄が深刻化するなど、「高齢化が都市問題としてのしかかってくる」と著者は言います。
著者によれば、日本が直面するこれらの課題を改めて整理すると大きく4つに分けられます。1つ目は「出生数の減少」、2つ目は「高齢者の激増」、3つ目は「勤労世代の激減に伴う社会の支え手の不足」、そして4つ目が「これらが互いに絡みあって起こる人口減少」です。
まさに対策は待ったなしですが、現在政府が講じている対策がどこまで有効かと言えば、疑問符が付かざるを得ません。政府は労働力不足への対策として高齢者の活用に期待をかけています。しかし、今後増加していくのは75歳以上の後期高齢者です。企業が即戦力として期待する65〜75歳の高齢者は減っていくため、政府の掲げる「一億総活躍社会」はいずれ焼け石に水になってしまうと著者は予測します。
同様に、少子化対策の効果で合計特殊出生率が改善傾向にあると政府はアピールしますが、これまでの少子化の影響で「未来の母親」となる女児の数が減ってしまうため、合計特殊出生率が多少改善したところで出生数の減少は避けられません。このままいけば、「静かなる有事」は着実に進行し、25年もしないうちに日本の財政は破綻せざるを得なくなると著者は警鐘を鳴らします。
では、日本は今後どうしたらいいのでしょうか。著者は、未曾有の人口減少時代を乗り越え、豊かな国であり続けるには、1人ひとりが発想を転換していくしかないと読者に呼びかけます。人口が減少し、経済規模の縮小が止められないのならば、これからは「小さくても輝く国」になるために、上手に戦略的に縮んでいくことが必要になると言うのです。そのために重要なのが、拡大・発展を前提とした社会的な価値観を考え直し、いわゆる「20世紀型成功体験」と決別することです。
さらに著者は高齢者の年齢基準を引き上げたらどうかと提言します。仮に日本老年学会が提案する「75歳以上」に年齢基準を引き上げた場合、2065年の高齢者の割合は25.5%まで下がります。こうすることで高齢者の絶対数が減り、2人3人で1人を支えていた肩車型社会から脱却し、従来の騎馬戦型社会を維持できると言うのです。
少子化対策についても著者は「第3子以降に1000万円給付」を提案します。子供を産むことがコストにならない政策を徹底的に導入することで、出生数減少に歯止めをかけられると言うわけです。もちろん財源の制約はありますが、出生数の回復は日本の存続にかかわることです。大胆な政策を打ち出すべきだという著者の提言には賛成です。
20世紀型の思考を捨て、ビジネスも投資もグローバルに考えよう
本書を読んだ人は誰もが日本の人口減少問題について危機感を持つでしょう。では個人として、あるいは企業として、歴史上類を見ない人口激減社会にどう対応していけばいいのでしょうか。私は日本や東京といったこれまでの枠にとらわれないグローバルな視点を持つことが重要ではないかと思います。
例えば日本産のブドウを100%使い、日本国内で醸造した日本ワイン。今ではその品質や味が世界から注目されています。これは地方の小規模のワイナリーにとって大きなチャンスでしょう。ネットを活用すれば世界中を相手にビジネスができるはずです。日本ワインだけではありません。日本には世界に発信できる優れた製品やサービスが数多くあります。グローバルな視点を取り入れることで、国内では斜陽とみなされていた産業が息を吹き返す可能性は充分にあると思います。
投資や運用にも同じことが言えるはずです。投資先を日本だけに限るのではなく、外国の投資信託や株、外貨での運用も検討してみてはどうでしょうか。海外投資をはじめると、自然と投資先の国や企業のことを意識するようになります。これはグローバルな視点を持つ上でもプラスに働くはずです。
渋谷 和宏
しぶやかずひろ/作家・経済ジャーナリスト。大学卒業後、日経BP社入社。「日経ビジネスアソシエ」を創刊、編集長に。ビジネス局長等務めた後、2014年独立。大正大学表現学部客員教授。1997年に長編ミステリー「錆色(さびいろ)の警鐘」(中央公論新社)で作家デビュー。「シューイチ」(日本テレビ)レギュラーコメンテーターとしてもおなじみ。
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