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経済ジャーナリスト・渋谷和宏が解説! "時代の変化に対応する技術"を学べる一冊
2019.6.195分で読む、マネーの名著
本書は、フロイト、ユングと並ぶ「心理学の三大巨匠」と呼ばれながら、日本では無名に近かったオーストリア出身の精神科医、アルフレッド・アドラーの心理学を紹介しています。
「人は変われる」「世界はシンプルである」「誰もが幸福になれる」。
アドラーはそう主張します。
現実の世界や私たちの人生は、私たち一人一人の主観的な意味づけによって構成されている。
だから「私が変われば、世界も人生も変わる」と言います。
「人間は皆、何かしらの"目的"に沿って生きている。
過去の経験で生じたトラウマ(心的外傷)など、何らかの"原因"が現在の行動を抑制し、支配しているかのように思いがちだが、それは間違っている。
現在の"目的"が"原因"をつくり出しているのだ」、と言うのです。
このアドラー独特の「目的論」の考え方は、私たちに価値観の転換を迫ります。
たとえば、精神的に不安定で家に閉じこもっている人が「不安だから、外に出られない」と悩んでいるとします。
アドラーの「目的論」では、閉じこもっている人自身が、外に出て他者と接触したくないから、不安という感情を作り出しているとなります。
「外に出ない」目的が先にあるというわけです。
それだけではありません。
「閉じこもっている人は、そうすることで、誰かに注目されたい・大事にされたいという目的を果たしている」とも分析します。
「家に閉じこもっている限りは親が心配してくれる。外に出てしまうと誰からも注目されなくなることを、彼は分かっている」と指摘するのです。
いかがでしょうか。
極論に思われた人はきっと少なくないと思います。
しかし、アドラーの主張はこれにとどまりません。
すべての悩みは、「対人関係の悩み」であるとさえ断言します。
すべての悩みは「対人関係」の悩みである──そう主張するアドラーは、悩みを解決する手段として「承認欲求の否定」を提示します。
「他者から承認される必要などありません」というのです。
なぜなら他者からの承認が人生の目的になると、自分ではなく、他者の人生を生きるしかなくなってしまうからです。
「他者が私をどう思うかは、最終的には他者の課題であって、私の課題ではない」──他者と自分の課題を切り分けるべきだというアドラーの指摘には目から鱗が落ちます。
私たちは他者の視線や思惑を気にしながら生きています。
「周囲の人たちによく思われたい」「会社や上司に評価されたい」──そんな思いから仕事を頑張っている人は少なくないでしょう。
日々のSNSへの投稿にどれだけの「いいね!」が付くか、常に気にしている人もいるでしょう。
他者の視線や思惑を完全に無視できる人はごく少数だろうと思います。
とりわけ、適切な行動をすれば褒められ、不適切な行動をすると叱られる賞罰教育を受けてきた人の多くは、幼い頃から周囲の視線や思惑を意識させられ、他者の期待に応え、評価される生き方を良しとされてきました。
しかし他者からの承認だけが目的になってしまったら、確かにそれはもはや自分の人生ではないのかもしれません。
アドラーは、そんな私たちに対して、「他者からの承認を意識するのはもうやめよう。自分のために生きよう」と呼びかけます。
これこそが本書のタイトル「嫌われる勇気」の真意でしょう。
では承認欲求を否定したら、私たちは何を支えに生きていけばいいのでしょうか。
仕事のやりがいなどを、何に求めるべきなのでしょうか。
アドラーは「他者に対して何らかの働きかけをしていくこと、貢献しようとすることの大切さ」を強調します。
自己犠牲の精神を説いているのではありません。
「他者貢献とは、私の価値を実感するためにこそ、なされるものである」とアドラーは言います。
なぜなら「私たちは、"私はだれかの役に立っている"と思えたときにだけ、自分の価値を実感できるから」です。
この指摘は、私たちが仕事と向き合ううえでの貴重なアドバイスにもつながります。
他者の承認を追い求めるのではなく、たとえば、仕事上の"お客様"の生活をより豊かにしたり、より幸せにしたりするために働く。
"社会"をより良くするために働く。
それによって私たち一人ひとりが、自分の価値を実感する。
そんな自分軸をつくり上げることができたら、私たちは「今、何をすべきなのか」「どうすべきなのか」をブレずに選択できるようになるでしょう。
本書の終盤にこんな印象的な文章があります。
「たとえあなたを嫌う人がいようと、"他者に貢献するのだ"という導きの星(筆者注:この方向に向かい進めば幸福があるという人生の指針)」さえ見失わなければ、迷うこともないし、なにをしてもいい。嫌われる人には嫌われ、自由に生きてかまわない」。
人生100年時代、資産運用も「自分軸」を前提に
人生100年時代を迎え、「資産寿命」をどう延ばすかがますます切実な課題になってきています。
その際に大切なのは、自身の年齢や資産、収入、ライフスタイルといった「自分軸」で、どんな金融商品に分散して運用するか、どの程度リスクを取るかなどを考えることでしょう。
資産運用・投資については様々な人が様々な意見、感想を言います。
「株は怖いよ」「バブル崩壊がトラウマになってしまって...」などと言う人が、もしかしたらあなたの周囲にもいるかもしれません。
しかし、それらはあくまで他者の意見や感想です(もしかしたらリスクを取りたくない言い訳として、バブル崩壊のトラウマを強調しているのかもしれません)。
アドバイスには耳を傾け、時に参考にしつつ、あくまで「自分軸」を前提に、収入や保有資産を確認し、将来必要になる資金に対して、どのくらいの利回りで運用していく必要があるか、考えてみるべきでしょう。
渋谷 和宏
しぶやかずひろ/作家・経済ジャーナリスト。大学卒業後、日経BP社入社。「日経ビジネスアソシエ」を創刊、編集長に。ビジネス局長等務めた後、2014年独立。大正大学表現学部客員教授。1997年に長編ミステリー「錆色(さびいろ)の警鐘」(中央公論新社)で作家デビュー。「シューイチ」(日本テレビ)レギュラーコメンテーターとしてもおなじみ。
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