ここがポイント 自分の「ものの見方」を客観視し、その限界を知る 人生の終わりを思い描き、自分にとっての成功をイメージする 最優先事項を見極め、ノーと言えるようになる

生産性をあげる目的は「収益を出す」ことにある

「納期遅れが横行する万年赤字の工場を、3か月で立て直せ。さもなければ600人が働く工場は閉鎖する」

『ザ・ゴール』は、本社から無情な宣告を受けた、大手機械メーカーの工場長アレックスが、工場の再生に奮闘、奔走する小説仕立てのビジネス書です。

著者は、アメリカ製造業の復活を後押ししたとされる、全体最適化のシステム改善理論「TOC(Theory of Constraints 制約条件の理論)」の提唱者としても知られており、本書にはそのエッセンスが分かりやすく盛り込まれています。

アレックスは出張の途中、大学時代の恩師で物理学の教授であるジョナに空港のラウンジで偶然、再会します。
ジョナはメーカーの組織や生産システムの問題点を科学的に分析し、工場の生産性を向上させるための独自の理論を編み出した人物でもありました。

アレックスはジョナに工場長をしていると打ち明け、「現場へ導入したロボットについて、メーカー団体の集まりで講演をするためにヒューストンに行くのだ」と幾分自慢気に言います。
かつての恩師に良い格好をしたい気持ちを隠せなかったからです。

そんなアレックスにジョナは予期せぬ質問をぶつけます。
「ロボットを導入した結果、一日あたりの製品の出荷量は以前より一つでも増えたのかい?」「従業員の数は減らしたのかね」「在庫は減ったのかい?」
アレックスは答えられません。
それらは何一つ実現できていないからです。

ジョナはさらに続けます。
「君の問題点は、目標が何なのかよくわかっていないことだ。君の会社の目標とは何だね」

会社の目標、ゴールとは何なのか?
アレックスは考え抜きます。
考え抜いた結果、啓示のように脳裏に浮かんだのは「利益」の一語でした。

「企業の目的=継続的に儲けること」──そう思い至ったアレックスは、ジョナが矢継ぎ早に投げかけてきた質問の真意を察します。

ロボットを導入しても、それが工場全体の生産性を上げ、会社の利益につながらなければ意味はありません。
現場では従業員1人当たりの生産性など細かな数字を弾いていますが、それらは工場を構成する一要素の生産性を示す指標に過ぎず、大切なのは全体の生産性を測る指標です。

では工場全体の生産性を測る指標とは何か。
ジョナはアレックスに「スループット」という指標の存在を教えます。

「スループット」とは、販売を通じてお金を作り出す割合、つまり販売額から人件費や原材料費などのコストを差し引いた数字です。
ある製品を100万円で出荷し、コストが70万円かかったとしたら、製品1つ当たりの「スループット」は30万円になります。

生産性が高い、つまり効率的に製品を生産でき、人件費や原材料費を抑えることができた工場では、「スループット」は高い水準を示すので、全体の生産性を測る指標になり得ると言うわけです。
全体の生産性を測り、その向上を目指す「TOC理論(全体最適化のシステム改善理論)」の根幹を成す指標と言っていいでしょう。

制約を与えるボトルネックを探し、アウトプットを最大化

ではどうすれば「スループット」を向上させられるのか。ジョナは単位時間当たりのアウトプット、つまり生産数量を上げることを提唱します。

そしてそのためには、製造に時間がかかったり、しばしば故障を起こしたりして全体の足を引っ張っている生産設備を見つけ出して、これを集中的に改善しなければならないと言います。

ジョナはこうした全体の足を引っ張る生産設備や工程を「ボトルネック」と名づけました。

アレックスは工場全体の行程をつぶさにチェックして「ボトルネック」を見つけ出します。
それはなんと、最新鋭の工作機械でした。
様々な加工をやってのける機械ですが、単位時間当たりの生産量が少なかったのです。

アレックスはボトルネックを解消するために、「古い機械にも最新鋭の機械が担っている工程を担わせる」「機械を動かす人員配置を見直す」などの改善策を打ち出します。

これまでのやり方に慣れた従業員は反発しますが、「ボトルネックを改善し、製品のアウトプットを増やして収益を上げる」という明確な目標を見つけたアレックスは、迷わず改革を進めていきます。

部分最適ではなく全体最適こそ、システム改善のカギ

本書が一貫して訴えるのは、「部分でなく全体を見る」ことの重要性です。

組織やシステムにおいて、各部署・一要素の問題点に着目し、それぞれ個別に改善して問題解決を図る手法が部分最適ですが、これには各部署・一要素の生産性や効率は上がっても全体で見るとマイナスになってしまうリスクがあります。

アレックスの工場では最新鋭の工作機械がボトルネックになっていました。

現場で最新鋭の工作機械を導入したのは、その工程の問題点を改善するためでしたが、全体から見ると生産性の足を引っ張っていました。部分最適のリスクを示す事例に他なりません。

これに対して著者の分身であるジョナは、工場全体の効率性を上げる全体最適の手法を提唱します。
組織全体の目標を定め(本書では会社に利益をもたらす工場の生産性)、目標への到達度合いを測る指標を示し(本書では「スループット」)、その指標を上向かせるための手法を提示する(本書では「ボトルネック」の特定と改善)。

本書が示すこの手法には、業種や立場を超えた普遍があるのではないでしょうか。

渋谷和宏のコレだけ覚えて!

ムダな“ボトルネック出費”を見直し、賢く運用

「ボトルネックの特定と改善」という手法は、私たちのお金の管理・運用にも活用できそうです。
ムダ使いをしていないのに、なぜか財布にお金が残らない。そんな人は、お金の使い方に思わぬボトルネックが潜んでいるかもしれないからです。

「ボトルネック」すなわち無駄遣いを特定するには、それがどれだけの「アウトプット」、つまり効用を私たちにもたらしてくれるかをチェックするのも手です。

たとえばスマホの有料アプリの場合、「お金を払って、音楽やゲームを楽しんでいる」なら、それは生きたお金の使い方です。

しかし「入会したことすら忘れていた」なら効用はゼロだと言っても過言ではありません。
月あたりの会費は数百円でも、年単位にすると無駄遣いは数千円に膨らんでしまいます。
「小額だから」と油断せず、ムダな出費をたれ流す蛇口はしっかり閉めましょう。

最近は月々数百円程度で始められる積立型の投資信託や外貨預金も増えています。 ムダを見直し、ゴールを見据えて浮いた額をコツコツ運用すれば、お金がお金を生み、数年後・数十年後には一定の差となって返ってきます。

まずは無意識のうちに"ボトルネック出費"を発生させていないか、確認することから始めてみましょう。

渋谷 和宏

渋谷 和宏

しぶやかずひろ/作家・経済ジャーナリスト。大学卒業後、日経BP社入社。「日経ビジネスアソシエ」を創刊、編集長に。ビジネス局長等務めた後、2014年独立。大正大学表現学部客員教授。1997年に長編ミステリー「錆色(さびいろ)の警鐘」(中央公論新社)で作家デビュー。「シューイチ」(日本テレビ)レギュラーコメンテーターとしてもおなじみ。

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