「金持ち」はお金のために働かない。お金に働いてもらう

本書は「私には二人の父がいる。金持ちの父と貧乏な父だ」という印象的な一文で始まります。読み進むにつれて、タイトルにある「貧乏父さん」とは著者であるロバート・キヨサキ氏の実の父親を指し、一方「金持ち父さん」とは著者の親友マイクの父親であることが分かってきます。
著者は少年時代にマイクの父親と出会い、以来三十年にわたって、そのユニークで実践的なお金についての哲学を学び、ビジネスパーソン・投資家として成功を収めました。本書で紹介されるのはそのエッセンスです。

著者は少年時代、裕福な家庭の子弟であるクラスメートたちとの格差を常に意識させられてきました。実の父親は博士号を取得した知的な人でしたが、学究肌で蓄財やお金の運用には関心を示さず、生活には余裕がありませんでした。

「将来お金持ちになるためにはどうしたらいいの?」。著者はマイクの父親に初めて会った時、こう尋ねました。「金持ち父さん」は建設会社やコンビニエンスストアの経営に乗り出し、それらの業績は好調でした。

彼は言いました。「中流以下の人間はお金のために働く。金持ちは自分のためにお金を働かせる」。

「金持ち父さん」は、投資・運用に回せるお金を一刻も早く蓄え、労働以外にもお金を得られる手段を持つことが大切だと著者に教えたのでした。

著者にとってこれは目から鱗が落ちるような指摘でした。こんなことは、実の父親や学校の先生から一度も聞いたことが無かったのです。彼らにとって、お金を稼ぐとはすなわち働くことに他なりませんでした。だからこそ彼らは、学校で一生懸命勉強し、いい大学を卒業して、社会的ステータスの高い安定した仕事に就く人生を子どもたちに期待したのです。

著者は「お金についてはマイクの父親を手本にしよう」と決めました。もちろん実の父親のことをとても尊敬していたし、誠実さや責任感など多くの良い影響を受けてもいましたが、お金を味方につけるという「金持ち父さん」の考え方が子ども心にも魅力的に思えたからです。

では「自分のためにお金を働かせる」ためにはまず何をすれば良いのか。「金持ち父さん」が著者に授けたのは「ファイナンシャル・リテラシーを身につけること」でした。

ファイナンシャル・リテラシーを身につける

ファイナンシャル・リテラシーとは一般的に「金融リテラシー」と訳されますが、「金持ち父さん」は「お金の流れを表す数字の意味を正しく理解する能力」と定義します。

彼は著者に「この能力がないと数字の意味を理解できず、金持ちにはなれない」と言い、持ち家を例に挙げました。

多くの人は持ち家の購入を投資と考え、資産とみなします。しかし「金持ち父さん」は「多くの人たちにとって持ち家は資産ではなく負債に他ならない」と指摘します。なぜなら多くの人たちは住宅ローンを組んで、持ち家を購入するからです。

住宅ローンという負債を抱えていれば、毎月利息や元本を支払う分、実収入は減ってしまいます。「資産とはポケットにお金を入れてくれるもの」だと考える「金持ち父さん」からすれば、このような持ち家は「資産」どころか「負債」だと言わざるを得ません。

加えて持ち家にふさわしい家具や自家用車を分割払いで購入すれば、負債はますます膨らんでいきます。そうなったら「負債を返済するために、ただただ働き続ける人生が待っているだけだ。人生を変えるチャンスがあったとしても、金銭的リスクを考え尻込みしてしまうだろう。それでは永遠に金持ちにはなれない」。

もちろん、これはすべての人に当てはまる話ではないでしょう。持ち家の評価額が住宅ローンの残高を上回る幸運もあるかもしれません。家賃を支払うより、月々同額の住宅ローンを返済する方が長い目で見れば得になるはずだという考え方もあるでしょう。

とはいえ、住宅のような高額なモノを購入する時には、それが「ポケットにお金を入れてくれる資産」になるのか、「ポケットの金を持っていってしまう負債」になるのかをよく考えるべきだという「金持ち父さん」の指摘は極めて重要です。お金の流れをきちんと理解すること。これは投資・運用のみならずお金との付き合い方の基本だと言ってもいいでしょう。

「忙しい人」と言う人が実は一番の怠け者

ファイナンシャル・リテラシーを身につけようと言われても、「目の前の仕事が忙しくて、勉強する時間はない」という人は少なくないでしょう。そんな人たちに対して、著者は「忙しさを言い訳にして、大切なことから逃げようとしている」と釘を刺し、「『忙しい』と言う人が一番の怠け者」だと断言します。

著者の指摘は極論にも聞こえますが、言われてみれば、お金ときちんと向き合い、お金を上手に管理することは、家庭・社会生活を安定、充実させる上でとても大切です。健康管理と同じくらい大切だと言っても過言ではないでしょう。

まずは、忙しい日々の隙間を縫って、1カ月のうちに30分〜1時間でも自分自身のお金の流れ──収入や支出状況をチェックしてみるのもいいかもしれません。そうした積み重ねが、やがてお金持ちへの道を開く──著者は本書で繰り返しそう指摘します。

渋谷和宏のコレだけ覚えて

投資は慎重に。ただし「恐れすぎないこと」

リスクを伴う投資にはリスクに見合った慎重さが必要です。しかしその一方で著者は「恐れすぎないこと」もまた重要だと指摘します。「世の中にお金に困っている人が多いのは、投資に関することとなると『空が落ちてくる、空が落ちてくる』と根も葉もない警告を発して騒ぎ立てるチキン・リトルのようになってしまう人がたくさんいるからだ」。
ではお金を失うことへの過剰な恐怖心から、チャンスをみすみす逃さないためにはどうしたらいいのか。

それは、ファイナンシャル・リテラシーを身につけ、金融商品や経済の知識を得ることだと著者は言います。

その際には、株や投資信託などの金融商品の価格がどう推移してきたのかを長期的な視点で振り返ってみる姿勢も大切だと私は思います。例えば株価は2000年以降、リーマンショックなどで何度か大幅に下落しましたが、十年単位で見れば年平均で3〜5%上昇してきました。この事実を知るだけでも、一時期な下落局面でうろたえなくなるでしょう。

「知識を身につけ、慎重に、恐れ過ぎず、長期で」投資に一歩踏み出してみるのもいいのではないでしょうか。

  • 2020年10月現在の情報です。今後、変更されることもありますのでご留意ください。
渋谷 和宏

渋谷 和宏

しぶやかずひろ/作家・経済ジャーナリスト。大学卒業後、日経BP社入社。「日経ビジネスアソシエ」を創刊、編集長に。ビジネス局長等務めた後、2014年独立。大正大学表現学部客員教授。1997年に長編ミステリー「錆色(さびいろ)の警鐘」(中央公論新社)で作家デビュー。「シューイチ」(日本テレビ)レギュラーコメンテーターとしてもおなじみ。

シリーズの記事一覧を見る

関連記事