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経済ジャーナリスト 渋谷和宏が解説! バブルの裏側が学べる一冊
2020.12.95分で読む、マネーの名著
せっかく整理整頓しても部屋がすぐに散らかってしまうという経験は、誰にでもあるのではないでしょうか。
そんな片づけに悩む多くの人たちから絶大な支持を集めているのが本書です。2010年に出版されるやいなや「一度片づけたら、絶対に元に戻らない方法を習得できる」としてベストセラーになりました。人気は海外にも波及し、著者の「こんまり」こと近藤麻理恵氏が提唱する片づけメソッドは世界中で注目されています。
本書が画期的なのは「片づけとは意識や生き方の問題である」と指摘した点にあります。
これまでの片づけ本は物理的な整理整頓・収納の指南に終始してきたのに対し、本書は「正しいメソッドに基づいた片づけは人の意識を変え、生き方を変える」と明言します。筆者がコンサルティングした人の中には実際に、子どもの頃からの夢に気づいて起業したり、自分に自信が持てるようになったりした人もいるそうです。
なぜ片づけが意識や人生を変えるのでしょうか。著者は言います。
「ひと言でいうと、片づけをしたことで『過去に片をつけた』から。その結果、人生で何が必要で何がいらないか、何をやるべきで何をやめるべきかが、はっきりとわかるようになるのです」。
そのためも「まずは一気に片づけること」が大切だと言います。
一気に片づけると、部屋の風景が見事に一変します。衝撃的と言ってもいいその経験が意識の変化を引き起こし、生活習慣を変え、これまで目を逸らしてきた問題にしっかりと向き合えるようになります。
その結果、人生が前向きに動き出すというのです。
また、そうなったら部屋が再び散らかるリバウンドは起こらないと著者は言います。なぜならリバウンドの本当の原因は、目の前の問題から目を逸らしたい心の乱れにあるからです。
片付けると目の前の問題が見えてくるのは、「お金」についても同じことが言えます。お金を使い過ぎてしまう、いつも何に使ったかわからないうちに何となく、なくなってしまう。それは、お金の使い方が散らかっているからです。
一度家の中のレシートを集めて、買ったものを「必要なもの」と「不要なもの」に分けてみましょう。そうやって使い方を片づけてみると、今の家計の問題が見えてくるはずです。
正しく片づけるためにはモノを捨てなければなりません。モノがあふれていてはどんなに整理整頓しても限界があります。とはいえ何を捨て、何を残したらよいのでしょうか。
著者は捨てるモノ、残すモノを線引きする基準として「心のときめき」を挙げます。実際に触ってみて心がときめくモノだけを残し、あとは全部思い切って捨てようと提案するのです。
「心がときめくモノだけに囲まれた生活をイメージしてください。それこそ、あなたが手に入れたかった、理想の生活ではありませんか? 心がときめくモノだけを残す。あとは全部、思い切って手放してみる。すると、その瞬間から、これまでの人生がリセットされ、新たな人生がスタートするのです」。
これは、洋服や書籍だけでなく、写真や手紙のような思い出のモノについても同様です。写真の場合は、アルバムから外し、手に取って一枚一枚向き合って見て、ときめく写真だけを残すのです。
「思い出の写真をそんな簡単には捨てられない」と思われた人は少なくないでしょう。そんな人に向けて、著者はこう言います。
「大切なのは、過去の思い出ではありません。その過去の経験を経て存在している、今の私たち自身が一番大事だということを、一つひとつのモノと向き合うことを通じて、片づけは私たちに教えてくれます」。
支出を見直す際も、「その支出をしたことで心のときめきを得られたか」を判断材料にしてみてもよいかもしれません。
実際に触ってみて心がときめくモノだけを残し、あとは全部思い切って捨てていくと、「ある時、自分の持ちモノの適正量に気づく瞬間が訪れる」と著者は言います。
「突然、頭の中がカチッと鳴って、それと同時に、『ああ、私って、これだけのモノを持っていればまったく問題なく暮らせるんだな』とか『これだけあれば幸せに生きていけるんだな』という感情に、体が包み込まれる瞬間がやってくるのです」
本書は、この瞬間を「適正量のカチッとポイント」と名付けます。そして、このポイントを一回通過するとその後は絶対にモノが増えなくなり、二度と不要なモノで部屋が散らかることもなくなるとも明言します。
モノの適正量について、もし一般的な物差しがあれば、私たちはそれを基準に残すモノを絞り込めるでしょう。
しかし、残念ながらモノの適正量に一般的な物差しはありません。ライフスタイルや収入、年齢、家族構成、価値観などによって、適正量は異なるからです。
自分の持ちモノの適正量を知るためには、片づけを通して自ら気づきを得るしか方法はありません。その意味では、片づけとは自分自身を知るための行為でもあるのです。
お金についても、「適正量のカチっとポイント」はあるはずです。自分の家族の場合、これだけの家計費があれば1カ月やっていける、というカチっとポイントさえわかれば、もうぶれることはないでしょう。
家の片付けとともに、「お金」の片付けにも取り組みたいものです。
「引き算」の考え方は片づけだけでなく、運用や生活習慣にもあてはまる
片づけを通して、本当に大切なものやすべきことが見えてくると指摘する本書は、「引き算」の発想の大切さを教えてくれていると言ってもいいでしょう。
これは仕事にも当てはめられそうです。例えば、これまでと同じ頻度で定例のオンライン会議を開いているけれど、それが本当に必要なのか。業務においても捨てるコト、残すコトの仕分けをするきっかけになるかもしれません。
「引き算」の発想はお金においても力を発揮します。毎日の買い物の中で不要なモノはないのか。毎月支払っている会費の中に無駄なコトはないのか。
「引き算」の発想でチェックして、浮いたお金を運用に回してみる。その際にはライフスタイルや収入、年齢、家族構成、価値観などをふまえて、どの金融商品に絞り込んだらよいのか、時には金融機関の担当者のアドバイスもふまえてじっくり検討してみる。
それだけでもきっと資産形成にプラスになるはずです。
渋谷 和宏
しぶやかずひろ/作家・経済ジャーナリスト。大学卒業後、日経BP社入社。「日経ビジネスアソシエ」を創刊、編集長に。ビジネス局長等務めた後、2014年独立。大正大学表現学部客員教授。1997年に長編ミステリー「錆色(さびいろ)の警鐘」(中央公論新社)で作家デビュー。「シューイチ」(日本テレビ)レギュラーコメンテーターとしてもおなじみ。