「同一労働同一賃金」で賃金や待遇はどう変わる?

「同一労働同一賃金」とは、2018年7月に公布された働き方改革に基づく「短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律」(通称「パートタイム・有期雇用労働法」)の改正により、「雇用形態にかかわらない公正な待遇の確保 」の1つとしてはじまるものです。

制度導入の目的について、厚生労働省では次のように定めています。

同一労働同一賃金の導入は、同一企業・団体におけるいわゆる正規雇用労働者(無期雇用フルタイム労働者)と非正規雇用労働者(有期雇用労働者、パートタイム労働者、派遣労働者)の間の不合理な待遇差の解消を目指すものです。

つまり、同じ職場で同じ仕事をしている従業員であれば、正規・非正規雇用に関係なく同額の賃金が支払われるということ。

  • 派遣社員は、派遣先労働者との均等・均衡方式の場合

あわせて休暇の取得や技能の習得など、福利厚生や教育訓練などの内容も同一にすることで、雇用形態の種類による待遇差をなくすことが目的です。

制度の対象となるのは、「有期雇用」「パートタイム」「派遣」の3つの雇用形態で働く人たちです。また、賃金や手当、待遇については主に以下のようなものが挙げられています。

  • 1.基本給
  • 2.賞与(ボーナス)
  • 3.各種手当
    役職手当/精皆勤手当/時間外労働手当/通勤手当・出張旅費/食事手当/単身赴任手当など
  • 4.福利厚生・教育訓練
    食堂、休憩室、更衣室などの利用/慶弔休暇/健康診断に伴う勤務免除・有給保証/病気休職/職務に必要な技能習得のための教育訓練など

正規雇用者と非正規雇用者の不合理な待遇差の解消へ

今回の制度導入の背景の1つとして、非正規雇用者の増加が挙げられます。
総務省「労働力調査」によると、2019年の役員を除く雇用者の総数は、5,660万人で、そのうち非正規雇用者の数は2,165万人でした。非正規雇用者は前年より45万人増え、全体の約38%に。
2009年時点と比較すると、正規雇用者が99万人の増加に留まる一方、非正規雇用者は438万人増となっています。

  • 総務省統計局「労働力調査」を参照し、編集部作成。

正規雇用者と非正規雇用者との間で同じ仕事をしているにも関わらず、賃金や福利厚生などの待遇に格差があることへの疑問の声が挙がるようになり、社会的な問題となってきました。

そこで、「パートタイム労働法」が改正され、「同一労働同一賃金」が導入されることになりました。

待遇が改善されて非正規雇用者の賃金が上がれば、個人消費が増加して経済が活性化することも期待できます。さらに、経済的な理由であきらめていた結婚・出産への意欲が高まることで少子化対策への効果も期待されています。

「同一労働同一賃金」のメリット・デメリット

今回の制度導入について、働く人たちはどのように感じているのでしょう。
エン・ジャパン『エン派遣』の調査※1では、「同一労働同一賃金」に関して「良いと思う」と答えたのは、正社員54%、契約社員79%、アルバイト・パート66%、派遣社員74%。肯定的に捉えている人が多いことがうかがえます。

では、労働者や企業にはどのようなメリットとデメリットがあるのでしょうか。労働者や経営者への調査・アンケート結果とともにご紹介します。

【労働者のメリット】

@賃金・手当など待遇の改善
相対的に待遇が改善されることにより、非正規社員にとっては賃金アップや、これまでなかった手当ての支給、慶弔休暇など福利厚生の充実が期待できます。

先述の調査によると、非正規社員が同一労働同一賃金の「導入後に期待すること」で最も多かったのが、「給与アップ」(契約社員、アルバイト・パート)、「賞与の支給」(派遣社員)でした。

A仕事への意欲向上
労働者は正規・非正規にかかわらず、すべて同じ基準で評価されることで、仕事への意欲が高まりやすくなります。雇用形態にとらわれることなく能力を発揮できる環境が整うでしょう。

B働き方の柔軟な選択が可能に
どの雇用形態を選んでも同じ待遇が受けられることで、自分自身のライフスタイルに合わせた、柔軟な働き方が選びやすくなります。
たとえば、パートタイムで働きながら将来のスキルにつながる学校に通うなどが、より選択しやすくなるでしょう。

【労働者のデメリット】

@正社員の給与が減るリスク
非正規社員の賃金が上がると、企業全体の人件費を予算内に収めるために、能力以上の賃金をもらっていた正社員の給与が減らされる可能性があります。

A非正規社員の雇用が減るリスク
企業全体の人件費を調整するために、非正規社員の雇用が減らされたり、打ち切られたりする可能性があります。
調査でも「正社員との待遇に差をなくすと雇用契約の難易度がグッとあがるor正社員の待遇が現在よりも下がると思います」(派遣社員)との声がありました。

B非正規社員への評価が厳しくなるリスク
非正規社員も正社員と同じ待遇になるので、同様の仕事が問題なくできているかを見極められる可能性があり、非正規社員の業務遂行能力への評価が厳しくなるかもしれません。

【企業のメリット】

@生産性の向上
非正規社員の仕事への意識が改善して会社への貢献意識が高まり、生産性の向上が期待できます。
「正社員もバイトも同じ時給になった事でバイトの意欲が上がったのを目の当たりにしたのでいいと思う」(派遣社員)との声もありました。

A優秀な人材の確保
子育てや親の介護などで一時的に非正規社員として働いている、優秀な人材の流出を防げるようになるでしょう。同時に、非正規社員として働く外部の優秀な人材を確保できるチャンスにもなるでしょう。

【企業のデメリット】

@人件費がアップするリスク
雇用形態に関係なく、公平な評価で報酬を決めることになれば、非正規社員の賃金を上げることにつながり人件費がアップする可能性があります。

帝国データバンクが行った「働き方改革における企業の意識調査(2019年12月) 」によると、働き方改革に取り組んでいる企業からは、「同一賃金同一労働で人件費は必ず上昇し、赤字になる可能性があるため、人員を削減するしかない」 といった声もあったそうです。

A説明会の開催や調査などの業務が発生
報酬や評価方法などについて、雇用者から要望があれば説明が必要になります。そのための説明会の開催や調査など新たな業務が発生するでしょう。

以上、メリットとデメリットをご紹介してきましたが、今回の制度は、非正規社員の待遇改善が主になるため、正社員にとっては、デメリットがクローズアップされやすいという側面があります。賃金が下がったり、手当や福利厚生が縮小されたりするという報道もありました。

ただし、厚生労働省の同一労働同一賃金ガイドラインには、「正社員の待遇を引き下げる場合は、合理的な理由や労使の合意が必要になる」との記載があります。
制度導入後すぐ、雇用側の一方的な待遇の引き下げがあることは考えにくいですが、今後の動きを注視しておく必要はあります。

私の暮らしはどう変わる?

今後、「同一労働同一賃金」の導入により、正規・非正規といった雇用形態の違いによる待遇差は禁止されていきます。

また、非正規社員の年間所得については、給与アップや賞与、交通費の支給などで、増加する可能性が高まります。これまで、節税のために扶養内や配偶者控除を意識して働いていた人は、その適用範囲について再確認する必要があります。
世帯収入アップのために、扶養を外れて働く選択肢も視野に入れ、将来にむけたライフプラン・マネープランを立ててみてはいかがでしょう。

正社員で働く人やその家族であれば、今後の賃金の変化や賃金体系の見直しについて、アンテナを張っておきたいところです。
所得の変化によっては、住宅ローンや生命保険料などの固定費や、子どもの教育プランなどを見直し、今後のマネープランや資産形成の方法を検討していくようにしましょう。

配偶者控除について詳しく知りたい方は、下記の記事もあわせてチェックしてみてください。

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  • 2020年3月現在の情報です。今後、変更されることもありますのでご留意ください。

高橋 浩史(たかはし・ひろし)

ファイナンシャルプランナー。 FPライフレックス 代表。 書籍編集者を経て2011年にFP事務所を開業。マイホーム実現のため、資金計画・家計改善の面から応援する「住まいの相談FP/家計の赤字V字回復アドバイザー」として活動中。セミナー講師、書籍・雑誌、webでの執筆業務も行う。「災害に備えるライフプランニング」(近代セールス社)、「老後のお金安心ガイド」(イースト・プレス)他。趣味はバイクツーリング、ギター、落語。

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