企業型DCとiDeCoの併用要件がどう変わる?

iDeCo(個人型確定拠出年金)は、実はこれまでも「60歳未満の国民年金被保険者なら加入できる」とされてきました。しかし、会社員のうち、企業型DC(企業型確定拠出年金)に加入している人の多くは、条件を満たさなかったことから、iDeCoに加入できませんでした。

企業型DCでは掛金(積立をする資金)を負担するのは企業です。これまで、企業型DCの掛金の上限をiDeCoの拠出限度額分引き下げる「労使合意※」と「規約の変更」がないと、iDeCo併用が認められなかったのです。

  • 従業員の過半数で組織する労働組合、または従業員の過半数を代表する者が同意すること。

法改正によりこの条件が緩和され、2022年10月以降は、本人の意思だけでiDeCoの併用が選択できるようになります。

企業型DCに加入している人がiDeCoに加入するには?

ただし、企業型DCとiDeCoを併用する際には、@iDeCoの拠出限度額は、職場の年金制度に応じた限度額以内で、なおかつ、A企業型DCの掛金とiDeCoの掛金の合計は企業型DC掛金の限度額以内という決まりがあります。この内容を整理したものが下の表です。

会社員のiDeCo限度額と併用時の限度額
  • 確定給付企業年金:企業が掛金を拠出して運用する企業年金制度の1つ。給付内容があらかじめ定められていて、運用のリスクは企業が負う。
  • 筆者作成

iDeCoの積立(拠出)金額の上限が月2万円で、企業型DCとの併用の上限が月5万5,000円のケースをあらわしたものが下図です。
企業型DCで月5万5,000円の積立(拠出)している場合は、iDeCoに加入できません。月3万5,000円以下の場合は、iDeCoを月2万円ずつ積立(拠出)することも可能だということがわかります。

企業型DCとiDeCo併用時の限度額

すでに「マッチング拠出」を行っている場合は、iDeCoとの併用はできない

「2022年10月以降は、職場に企業型DCがあっても本人の意思でiDeCoの併用が選択できるようになる」と前述しましたが、実は例外があります。職場で「マッチング拠出」を行っている人は、そもそもiDeCoに加入できないのです。

マッチング拠出とは、会社が掛金を全額負担する企業型DCに加え、加入者本人が掛金を上乗せする仕組みです。会社によって、マッチング拠出を導入しているところとそうでないところがあるので、確認が必要です。

マッチング拠出の掛金は、iDeCo同様、全額が所得控除の対象になり、いずれも税制優遇を受けながら老後資金の準備ができます。マッチング拠出は規約に定めれば導入することができますが、利用するかどうかは社員の任意です。

また、マッチング拠出の掛金は、企業型DCの掛金と合計して、前出の表にある企業型DCの限度額までとなります。職場に確定給付企業年金がなく、企業型DCのみに加入している場合は月5万5,000円まで、確定給付企業年金と企業型DCに加入している職場では、月2万7,500円が積立(拠出)の上限です。

下図は、企業型DCとマッチング拠出が導入されている職場で、企業型DCとの併用の上限が月5万5,000円であるケースのイメージです。
企業型DCで月5万5,000円を積立(拠出)している場合は、マッチング拠出はできません。マッチング拠出分は会社の拠出分を超えてはいけないルールがあるため、企業型DCが月2万7,500円の場合は、マッチング拠出でも2万7,500円を積立(拠出)できます。

マッチング拠出の限度額

「iDeCo」と「マッチング拠出」、どちらを選ぶ?

職場にマッチング拠出の制度があっても、利用は任意のため、職場の企業型DCの掛金が限度額(5万5,000円または2万7,500円)未満の場合は、iDeCoかマッチング拠出のいずれかを選択できます。

どちらを選ぶか、その判断材料は何でしょうか。iDeCoとマッチング拠出を比較したのが下の表です。マッチング拠出は、加入手数料も口座管理手数料も会社負担でかからないというメリットがあります。

一方、マッチング拠出(企業型DC)の運用商品は企業が提携する運営管理機関(金融機関など)によって決まるため、選択肢は限られる場合があります。一方、iDeCoは運営管理機関(金融機関など)そのものを選択できるため、投資したい商品があれば、それを扱っている金融機関を選ぶことができます。この点は大きなメリットと言えます。

iDeCoとマッチング拠出との比較
  • 表は筆者作成

なお、マッチング拠出分は会社の拠出分を超えてはいけないルールがあるため、個人で拠出できる金額が多めの場合はiDeCoを選択した方が全体の拠出額を増やすことができます。iDeCoとマッチング拠出の掛金は、いずれも所得控除になります。そのため、少しでも掛金が多く拠出できる組合せを選ぶことで、より節税につなげることができます。

企業型DC+iDeCoが向く人

  • 職場にマッチング拠出の制度がない人
  • 職場にマッチング拠出の制度がある場合で以下のいずれかに該当する場合(マッチング拠出額<iDeCo積立(拠出)可能額)
    ・確定給付企業年金あり:会社拠出が7,500円未満
    ・確定給付企業年金なし:会社拠出が2万円未満
  • 職場の企業型DCの商品に好きなファンドがない

会社の積立(拠出)金額を超えない範囲で併用したい場合は、「企業型DC+マッチング拠出」を選ぶことで、口座も1つにまとめることができ、手間やコストが抑えられます。加入手数料も口座管理手数料もマッチング拠出ではかかりません。

企業型DC+マッチング拠出が向く人

  • 職場にマッチング拠出の制度がある人のうち、以下のいずれかに該当する場合(マッチング拠出額≧iDeCo積立(拠出)可能額)
    ・確定給付企業年金あり:会社拠出が7,500円以上
    ・確定給付企業年金なし:会社拠出が2万円以上
  • 職場の企業型DCの商品で納得している人

以上のポイントを踏まえて、iDeCoかマッチング拠出か、自分に向く組み合わせをチェックしてみてください。

iDeCoかマッチング拠出か、自分に向く組み合わせをチェック
  • ※1確定給付企業年金ありの場合:会社拠出が7,500円以上/確定給付企業年金なしの場合:会社拠出が2万円以上
  • ※2確定給付企業年金ありの場合:会社拠出が7,500円未満/確定給付企業年金なしの場合:会社拠出が2万円未満
  • 表は筆者作成

私たちの暮らしはどう変わる?

2022年10月より、企業型DCとiDeCoの併用要件が緩和され、これまで併用できなかった方もiDeCoを選択できるようになります。

また、60歳以降も厚生年金や国民年金に入る可能性がある人は、65歳になるまでiDeCoを積み立てることが可能になっています。さらに、iDeCoの受取り開始年齢も最長75歳まで伸びました。

また、2022年5月31日に政府が公表した「新しい資本主義」の実現に向けた実行計画案の中には、iDeCoの改革やNISA(少額投資非課税制度) の抜本的拡充が盛り込まれました。

「人生100年時代」、税制優遇を受けながら老後資金の準備を進めることができるiDeCoは、ますます注目されるでしょう。これまで加入できなかった方も、この機会に検討してみてはいかがでしょう。

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  • 2022年8月現在の情報です。今後、変更されることもありますのでご留意ください。

豊田 眞弓(とよだ まゆみ)

ファイナンシャルプランナー、住宅ローンアドバイザー、相談診断士。FPラウンジ代表。マネー誌ライター等を経て、94年より独立系FP。現在は、個人相談のほか、講演や研修講師、マネーコラムの寄稿などを行う。6カ月かけて家計を見直す「家計ブートキャンプ」も好評。亜細亜大学等で非常勤講師も務める。「50代・家計見直し術」(実務教育出版)など著書多数。座右の銘は「今日も未来もハッピーに!」。

Webサイト:https://happy-fp.com/

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