年金受給者でも確定申告は必要?
・原則、確定申告は必要
年金受給者は原則、確定申告が必要です。それは、年金も「所得」の一種であり、所得税と住民税の課税対象となるからです。
ただし、高齢者に負担をかけないようにするため、「確定申告不要制度」というものがあります。この制度の条件に当てはまる場合、特別な手続きの必要なく確定申告が不要になります。
【図@】年金受給者の確定申告
※政府広報オンライン「ご存じですか?年金受給者の確定申告不要制度」をもとに株式会社ぱむ作成
確定申告不要制度とは、「公的年金の収入金額の合計額が年400万円以下」で、「公的年金がすべて源泉徴収の対象」かつ「公的年金等に係る雑所得以外の所得が年20万円以下」である場合、確定申告が不要になる制度のことです。
「公的年金等」とは、国からもらえる年金や退職年金のことを言い、所得税のくくりでは「雑所得」と呼ばれるものです。それ以外の所得、たとえばアルバイトによる収入や株式投資による利益が年20万円以上ある場合、上記の条件には当てはまらなくなります。
条件に当てはまらない場合は、確定申告をする必要があります。
公的年金が400万円を超える場合や、アルバイトなどの収入が20万円を超える場合は、確定申告をする必要があります。また、外国の公的年金の支給を受けている方は、源泉徴収の対象にならないため、この場合も確定申告が必要です。
自分に確定申告が必要かどうかを判断するには?
・源泉徴収票の2箇所を確認するだけ!
前述のように、年金受給者が確定申告をする必要があるかどうか判断するポイントは以下の2つで、これらを同時に満たす場合、確定申告は不要です。
- 公的年金の収入金額の合計額が400万円以下かつ、公的年金がすべて源泉徴収の対象になっている
- 公的年金等に係る雑所得以外の所得が20万円以下である
公的年金の収入金額の合計額が400万円以下になっているかどうかは、「公的年金等の源泉徴収票」を確認すればわかります。「公的年金等の源泉徴収票」は、毎年1月頃に日本年金機構から郵送で届きます。
- 【図A】公的年金等の源泉徴収票
- 出典:日本年金機構「平成30年分 公的年金等の源泉徴収票」
上の図は、公的年金等の源泉徴収票のサンプルです。(1)の支払金額を見れば、自分が確定申告をする必要があるかどうかを判断できます。(1)の金額が400万円以下であり、年金以外にその年に20万円以上の所得がなければ確定申告は不要です。
・制度対象者でも住民税の申告が必要な場合がある!
確定申告不要制度の対象者であっても、一定の条件にあてはまると住民税の申告が必要になる場合があります。
例えば、公的年金等の所得のみがある人のうち、「公的年金などの源泉徴収票」に記載されていない控除(生命保険料控除・損害保険料控除・医療費控除など)の適用を受ける場合があります。
社会保険料控除や配偶者控除など以外にも、様々な控除を適用する場合は、自分は申告が必要になるかどうか、一度住んでいる市区町村に問い合わせるのがよいでしょう。
・年金や給与所得が多い場合は確定申告が必要な場合も
確定申告が必要となる条件に「公的年金等の収入金額が400万円以上」の場合と、「400万円以下であったとしても、公的年金等以外の所得金額が20万円以上」の場合、がありますが、それ以外にも「給与所得が2,000万円以下で、公的年金の雑所得が20万円以上」の場合があります。
上記の場合は、例えば公的年金を受給しているのに加えてパートや再雇用などで働き、給与を得ているパターンが考えられます。そのような場合は確定申告をする必要があるので注意しましょう。
ただし、税金の還付を受けたい方は、確定申告不要制度の条件に当てはまっていたとしても確定申告をする必要があります。その理由を次で詳しく解説します。
確定申告不要制度の対象者でも確定申告で税金が戻ってくる!?
・税金が戻ってくる7つのケースを紹介
確定申告不要制度の対象者でも、確定申告をすることで税金が戻ってくることがあります。
公的年金等の源泉徴収票のサンプルの(2)源泉徴収税額に数字が記載されている方は、所得税と復興特別所得税が源泉徴収されています。
この場合は税金を多く納めすぎている可能性があり、それを戻してもらうためには確定申告をする必要があるのです。
ただし、すべての方に税金が戻ってくるわけではありません。戻ってくる可能性が高いのは以下のケースに当てはまる方です。ご自身が当てはまるかどうか、考えながら読み進めてください。
(1)家族構成の変更があった場合
夫婦が離婚や死別した場合など、家族構成が変更したときは、確定申告をすると税金が戻ってくる可能性があります。ちなみに夫婦が死別や離婚するケースでは寡夫(婦)控除が適用され、控除額は27万円です。
控除とは、「課税対象の所得」または「所得税額」から差し引ける金額のことで、一言で説明すると「税金が掛からない部分」です。
(2)医療費の支払いがあった場合
医療費が年間10万円以上の場合、10万円を超えた金額が医療費控除の対象になります。なお年収200万円未満の方は、総所得金額等の5%を超えた場合が対象となります。病院をよく利用する方は領収書を保管し、医療費控除で税金の還付を受けられるか確認しましょう。
(3)国民年金等の社会保険料や生命保険料を支払っている場合
国民年金等の社会保険料や生命保険料を支払っている方は、社会保険料控除または生命保険料控除を受けることができます。金額が大きいので、決して無視できるものではありません。申告しないとかなり損をしてしまう可能性があります。
(4)災害や盗難にあった場合
災害や盗難などの被害に遭ったときは、雑損控除を受けることができます。その際に支出があった場合は、領収書をきちんと保管しておきましょう。
(5)マイホームを住宅ローン等で取得・リフォームした場合
マイホームを住宅ローン等で取得、またはリフォームしたときも、控除の対象になります。購入した場合は住宅借入金等特別控除が適用され、10年にわたってローン残高の1%分の控除が受けられます。
バリアフリー化などのリフォームをした場合は、特定増改築等住宅借入金等特別控除が適用され、5年にわたってローン残高の2%分の控除を受けることができます(2021年12月31日までに居住した場合に適用)。
このように、税金が還付されることにつながる控除はたくさんあります。1つでも当てはまるものがある場合は、確定申告不要制度の対象であっても確定申告を行いましょう。自分が損をしない選択をすることが大切です。
(6)ふるさと納税などで寄付金控除を受ける場合
ふるさと納税のような都道府県や市区町村への寄付金、国への寄付金、公益社団法人や認定NPO法人などといった、国や地方自治体、特定の法人に対して寄付した場合も税金が戻ってくる場合があります。これらは「寄付金控除」の対象となる場合に適用され、その場合は確定申告することで所得控除を受けることができます。
なお、2015年4月1日以降に行うふるさと納税については「ふるさと納税ワンストップ特例」が適用される場合があるので、適用される場合、確定申告は不要になります。
(7)扶養親族等申告書を提出していない場合
公的年金について源泉徴収の対象となる人には、「扶養親族等申告書」が届きます。これは、年金から源泉徴収される所得税について、配偶者控除などの各種控除を受けるために必要な申告書です。
扶養親族等申告書を提出していない場合も、確定申告することで納めすぎた所得税が戻ってくる場合があります。
確定申告の際に必要書類とは
確定申告をする際には、いくつかの書類が必要です。書類は、確定申告をする際に全員必要なものと、収入や受ける控除によって必要な書類があります。
確定申告を行う場合は、以下の書類のうちどれが必要なのか確認し、揃えたうえで所轄の税務署や市町村の税務課まで持って行きましょう。
・全員に共通して必要なもの
- 全員共通:印章
-
確定申告会場での電子申告経験
あり:利用者識別番号等の通知(利用者識別番号及び暗証番号の記載がある書類)
なし:利用者識別番号がわかる書類(事前に税務署から送付されます) -
マイナンバーカード
あり:マイナンバーカード(コピーの場合は裏表面の写しが必要)
なし:運転免許証、公的医療保険の被保険者証、パスポート、在留カードのうちどれか1つ -
扶養している家族や事業従事者の有無
あり:家族や事業従事者のマイナンバーがわかるもの
なし:書類は必要ありません -
税金の還付を受ける申告の有無
あり:申告する人名義の預貯金口座番号のわかるもの
なし:書類の必要はありません
・収入関係で必要なもの
-
給与収入や公的年金を受給がある場合
申告する年分の給与所得、もしくは公的年金等の源泉徴収票 -
その他の収入がある場合
収入額や必要経費のわかる書類
- ※事業所得、不動産所得、山林所得がある場合は、青色申告決算書または収支内訳書を作成する必要があります。
・所得控除関係で必要なもの
-
医療費控除を受ける場合
医療費控除の明細書、医療費通知の原本
※経過措置により、医療費控除の明細書ではなく医療費の領収書とすることも可能 -
社会保険料控除を受ける場合
社会保険料(国民年金保険料)控除証明書等(※1) -
小規模企業共済等掛金控除を受ける場合
小規模企業共済に支払った掛金の証明書(※1) -
生命保険料控除や地震保険料控除を受ける場合
支払った金額に対して保険会社が発行する証明書(※1) -
寄付金控除を受ける場合
寄付した団体などから交付された寄付金の受領書(※2)
- (※1) 給与所得者で、既に年末調整によって控除を受けている場合は書類の提出は不要です。
- (※2) ふるさと納税ワンストップ特例の適用を受けたうえで確定申告を行う場合、ワンストップ特例の適用は受けられませんので、「寄附金受領証明書」を用意する必要があります。
- 引用:国税庁「確定申告の際にご持参いただくもの」
支払い状況を整理して賢く税金を納めよう!
・確定申告はお早めに!
確定申告は年に一度しかないため、つい忘れてしまうことがあります。しかし自分の収入に関わることなので、カレンダーに記入しておくなど忘れないように心がけましょう。
確定申告の期間は、毎年2月16日から3月15日までです。ただし、医療費控除などは1月から受け付けています。
確定申告の期間は約1ヵ月ありますが、終了間際に行くことはおすすめしません。慌てて確定申告に来た方たちが大勢いて、とても混雑するからです。
余裕を持って申告するためにも、2月中には確定申告を終えると良いでしょう。
確定申告書は、国税庁の確定申告書作成コーナーというホームページで作成することもでき、提出は郵送でもインターネットでも可能です。もちろん税務署で職員に相談しながら申告書を作成することもできるので、間違いを防ぐためにも最初は直接税務署に行って、習いながら作成することをおすすめします。
パソコンに詳しい方や確定申告に慣れている方は、パソコンで確定申告書を自分で作成するといいでしょう。
税務署に行く際は、住民票に記載の住所地を管轄するところに行く必要があります。確定申告を行う場合は、印鑑や源泉徴収票、領収書などの書類を持っていきましょう。不明点などを職員に聞きながらその場で確定申告書を作成できます。
他に確定申告に関することで困ったことがあれば、最寄りの税務署に相談しましょう。
まとめ
年金受給者は原則、確定申告が必要です。ただし、確定申告不要制度により、公的年金の収入金額の合計額が年400万円以下で、公的年金や退職年金以外の収入が年20万円以下の方は確定申告が不要です。
しかしながら、「家族構成が変わった」「医療費が多い」「保険に加入し保険料を支払っている」「災害や盗難に遭った」「マイホームを購入した」「自宅をバリアフリー化した」などに当てはまる場合は、税金が戻ってくる可能性が高いので、確定申告をしましょう。
「確定申告は難しい」というイメージがあるかもしれませんが、税務署員に相談すれば作成を手伝ってくれますし、インターネットでの作成も可能です。
損をしないためにも、確定申告は毎年きちんと行いましょう。
- ※この記事は2019年10月に公開した内容を2022年10月に内容を更新して掲載しています。今後、変更されることもありますのでご留意ください。
記事提供元:株式会社ぱむ