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人生の三大資金にどう備える? 子育て世代のお金の色分け術
2022.5.18 お金の色分け
50〜60代で定年が視野に入ってくると、いつまで働き、老後への備えをどうするか、現実的になってきます。将来の年金見込額がほぼ固まってくるのもこの時期です。
健康的に働けるのは何歳までか、いつから退職金を取り崩すか、年金を受け取り始めるのか、早めにイメージしておいたほうが老後生活の選択肢が広がりやすくなります。
現在の資産と受給する年金の額を把握したうえで、働き方・暮らし方の計画を立て、マネープランを考えてみましょう。
年金の受給開始年齢〜何歳から? 繰り上げ受給? 繰り下げ受給? 年金はいつ受け取るとお得?
定年前後世代では、主に以下のようなことにお金がかかる傾向があります。
持ち家の人は残りの住宅ローン、リフォームや住み替え費。賃貸の人は今後の住居費や引っ越し計画のお金などが挙げられます。
退職から公的年金受給までに間があく場合は、その生活費を貯蓄や私的年金(iDeCoや企業型DCなど)からまかなう必要があります。
年齢とともに病気になるリスクは上がってきます。
医療費は「高額療養費制度」により、年収に応じて1ヵ月あたりに支払う医療費の上限が決まっているものの、自分の身体のメンテナンスや検診費にお金がかかりやすい時期だと考えておきましょう。
健康状態によってもかかる医療費は異なりますが、厚生労働省の「国民医療費の概況(令和元年度)」によると、国民医療費※の1人あたりの平均額は、45〜64歳では年間約29万円、65歳以上では年間約75万円でした。
この数字は保険診療の費用の推計であるため、健康保険に加入していれば自己負担分は1〜3割となりますが、自由診療分の費用は含まれていません。想定外にお金がかかることもありますので、余裕をもって考えておくと安心です。
介護費はかかる費用の幅も介護状況も幅広く、事前に想定しておくのが難しい費用です。介護保険や障害年金など活用できる制度も多岐にわたっているので元気なうちから情報収集しておきましょう。
孫の出産祝い、お年玉や誕生日プレゼントなどの出費も念頭に置いておきましょう。
資産が潤沢な場合は、教育資金の贈与なども検討する余地があります。
これらの出費があることを踏まえながら、老後に向けた具体的な計画を立てておくことが大切です。
定年前後世代は、今後の人生でどれくらいの収入が見込めるかを具体的に把握できる時期です。マネープランもより具体的に立てることができます。
これからの人生に必要なお金をリストアップし、お金の色分けをしていきましょう。お金の色分けをすることで、資産運用にまわすことができるお金はいくらになるのかも見えてきます。
まずは、自分の持っているお金を以下の3つに分けて考えてみましょう。
いざというときのために、ある程度の期間分確保しておく「予備の生活費」です。
現役世代で会社員など世帯の収入が安定しているなら、家族の生活費の3〜6ヵ月分、自営業やフリーランス、退職後の世帯で年金をまだ受給していない場合は、1年分を貯めることを考えましょう。
さらに今後3〜5年程度で「使いみちの決まっているお金」について計画を立てましょう。
リフォーム、住み替えなどの住宅費用、孫に贈るお金、さらに旅行などの趣味にかけるお金、冠婚葬祭のお金などが挙げられます。
老後になってからの「使いみちの決まっているお金」が何にあたるかは、個人差があり難しい問題です。ただ、自分の身体や住まいのメンテナンスには必ず費用がかかると思っておくと良いでしょう。
今ある資産から@Aを差し引いたお金が、「当面使う予定のないお金」です。今後のライフイベントをさらに充実させるために準備するお金と言えるでしょう。
さらに@Aが確保できていれば、今後、毎月貯蓄にまわすお金もここに当てはめることができます。
今回のケースでは、預金から@Aを引いた約1,600万円に加え、毎月30万円程度は、「当面使う予定のないお金」になります。
ここから、葬儀やお墓代などの資金として、葬儀費用約200万円、墓石費用約160万円。また、現役時代よりも頻繁にかかることになりそうな医療費として、年50万円ほどを引いておくと安心でしょう。
約1,600万円-約400万円=約1,200万円を活用して、どう資産運用をはじめるかを考えることがポイントになります。
また、仕事を完全にリタイアした場合に、受け取る年金額の見込みとともに、自分がイメージしている老後をおくるための生活費がどれくらいかを把握しておくことも大切です。
たとえば、老後の生活費が月26万円、公的年金の受取見込額が月22万円の場合、毎月の不足額は4万円。年間での不足額は48万円となり、仮に40年続くならなんと1,920万円も不足することになります。
そして、今後退職金が入る場合は、その使い道も考えておきましょう。
定年前後世代が資産運用を行う場合は、Bの「当面使う予定のないお金」がどれくらいあるか、退職金はあるか、住宅ローンなどの負債があるかなどによって、金額やポートフォリオも異なってきます。
たとえば、上のケースのように、Bの「当面使う予定のないお金」が1,000万円程度あり、今後退職金も見込め、さらに定年までに住宅ローンなどの負債も完済しているような場合ではどうでしょう。
それなりに長くなる老後を想定し、リスクとリターンのバランスを意識しながらも、守りに入りすぎない資産運用を選択するのもおすすめです。リスク資産と安全資産が6:4になるポートフォリオを組んでみましょう。
まとまった資産がすでにある場合も、リスクを分散するために定期的に積み立てを行うのがおすすめです。
たとえば、毎月20万円ずつを資産運用にまわすと想定し、約6割の12万円を積立型の投資信託で運用します。
残りの8万円は安全資産とし、半分(4万円程度)は個人向け国債で積み立て、半分(4万円程度)を普通預金に回します。
退職金を運用する場合も、1〜2年かけて徐々に積み立てるお金と商品購入のタイミングを分割して積み立てていくと、リスク分散効果が期待できます。
投資信託での資産運用は、年間40万円まで非課税で運用できるつみたてNISAを優先しましょう。
毎月3万円はつみたてNISA、残りの9万円は課税口座の投資信託で資産運用するようなイメージです。
また、バランス型のファンドを中心に、値動きの幅を小さくすることで、突然お金が必要になった場合のリスクも減らすことができます。
Bの「当面使う予定のないお金」が比較的少額の世帯の場合も、人生100年時代に備え、老後資金を今からでもコツコツ積み立てていくことを考えましょう。
たとえば、現在の貯蓄額1,000万円程度で、退職金は期待できない、もしくは住宅ローン完済に充当予定の夫婦を想定してポートフォリオを考えてみます。
毎月6万円程度貯蓄できるなら、急な出費に備えて、毎月の預金額の半分程度の約3万円は安全資産として普通預金や定期預金で積み立てましょう。
残りの約3万円はリスク資産としてバランス型の投資信託で積み立てるのがおすすめです。
投資信託での毎月3万円の資産運用は、非課税優遇のあるつみたてNISAを優先しましょう。
毎月の積立額に余裕があれば、課税口座である特定口座も活用しながら投資信託をプラスして積み立てましょう。
バランス型のファンドを選んで、値動きの幅を小さくしながらも先のリターンも期待したいところです。
また、定年後も働いて毎月の収入があれば、年金受給までに必要な生活費も少なくすみ、「当面使う予定のないお金」に回せるお金も増やすことができます。お金の計画と同時に、年金受給時期や働き方についても計画を立てましょう。
定年前後世代は、ココがポイント!
定年前後世代では、将来の年金見込額がほぼ固まってきます。年金額は受給開始年齢によって変化するので、何歳まで働き、何歳から年金を受給するかを考えた上で、マネープランを立てておきましょう。
定年前後世代では、生活費6ヵ月〜1年分の当面の生活費として確保しておくお金、リフォーム、住み替えなどの住宅費用、孫に贈るお金、趣味にかけるお金など、使いみちの決まっているお金に加え、もしもの時に必要なお金も考えた上で、資産運用を検討してみましょう。
資産が潤沢にあるなら、守りながらもしっかりと育てるような、リスクとリターンのバランスを意識した資産運用がおすすめです。資産が比較的少額の場合も、人生100年時代に備えて、バランス型の投資信託でコツコツと資産を育てるような資産運用を検討してみてはいかがでしょう。
野原 亮(のはら りょう)
確定拠出年金創造機構 代表
明治大学政治経済学部経済学科卒業。現東証1部上場の証券営業・株式ディーラーとして従事。その後、営業コンサル会社を経てFPとして独立。中小企業の確定拠出年金を中心とした福利厚生の社外担当として活動、上場企業等の金融研修なども担当している。証券外務員1種、ファンナンシャル・プランナー(AFP)、企業年金管理士(確定拠出年金)、公的保険アドバイザー。書籍に『スピードマスター 1時間でわかるiDeCo〜50代からの安心投資』(技術評論社・2020年)『ポイントですぐにできる!貯金がなくても資産を増やせる「0円投資」』(日本実業出版社・2021年)がある。
個人Webサイト:https://fpsdn.net/fp/rnohara/
事務所Webサイト:https://kakuteikyoshutsu.com