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人生は「自分で」決断しよう。働き方にかかわらずやりたいことを選ぶ山城さくらさんのキャリア
2020.10.28理想のワークスタイル
簡単なのにきちんとしていておいしいオリジナルレシピを数多く発信しているひろさんきっちん♪さん。料理を始めたのは、中学時代にさかのぼります。
「共働きの両親の帰宅が遅い時、夕食作りを頼まれたのがきっかけでした。最初は面倒くさくて、市販の合わせ調味料を使ってチャーハンをつくるくらいでした」
その頃は嫌々作っていたというひろさんきっちん♪さん。しかし、社会人になったころから前向きに料理をするようになりました。「どうしたら、おいしく早くつくれるだろう」と、さまざまな工夫をするようになったのです。
「家に遊びに来た友人や会社の同僚に手料理をふるまったら、好評で。それで、料理にのめりこんでいったんです。やがて、雑誌やテレビのレシピを自分なりにアレンジするようになりました」
ある時、いつものように会社の後輩に料理をふるまったところ、こんな言葉を投げかけられました。「先輩の料理、ブログに載せてみたらどうですか?」
ブログか。おもしろいかもしれないな。こうして、気軽な気持ちでブログをスタートしました。
「料理の写真を撮って、レシピや作り方を書いて、アップする。思っていた以上に大変でしたが、読者がコメント欄に『作ってみました』『おいしくできました』と書いてくれるようになって、それがとにかくうれしかったですね」
さらに、ブログを読んだ企業から仕事の依頼が舞い込むようになりました。
「ブログを始めて1年たった頃。『当社の商品を使ってアレンジレシピを考えてください』というご依頼をいただいたんです。自分のアイデアが仕事になるんだと驚きましたね」
メーカーの社員として働きながら、2日に1本は新しいレシピを更新し、副業として料理の仕事をする生活が2年ほど続いたころ、料理に専念することを意識するようになりました。
「このまま会社員と料理の仕事を掛け持ちするか、それとも、思い切って独立するか。かなり悩みました。安定を求めるなら、会社勤めを続けたほうがいい。でも、料理の仕事も順調だし……」
悩みに悩んでいたひろさんきっちん♪さんの背中を、奥さまが押してくれました。
「妻は僕が悩んでいることに気づいていたのでしょう。『料理の仕事に専念したら?』と言ってくれたんです。手料理をよく食べていた会社の仲間も応援してくれました。幸いなことに、2年間は生活できるだけの貯金がありました。それにまだ30代ですし、うまくいかなかったら、また別の会社に就職すればいいかと」
こうして、ひろさんきっちん♪さんは15年間勤めていた会社を退職。2019年1月に、フリーランスの料理研究家として新たなスタートを切ったのです。
もちろん、不安がなかったわけではありません。独立当初は、「仕事を軌道に乗せられるだろうか」という不安と、「料理研究家として、どこまで高みを目指していけるだろうか」という期待が混在していたといいます。
とにかく、自分にできることをやってみよう。そう思って取り組んだことは2つ。一つは、アルバイトのみの最低限の収入でも生活していけるように、固定費を見直すこと。もう一つは、関係各所へのあいさつでした。
「安い車に買い替えたり、スマートフォンの契約を見直すなどして固定費を徹底的に削減。関係各所へのあいさつは、料理雑誌の編集部を中心にあいさつ状を送りました。料理サイトや食品メーカーが東京で主催するイベントなどにも、安い高速バスを利用して積極的に参加して名刺を配りました。あいさつを済ませて2カ月たった頃から、それをきっかけにブログを見てくれた人が仕事を依頼してくれるようになりましたね」
企業から仕事をもらうようになっても、ひろさんきっちん♪さんはあいさつ状を送り続けました。
「最初は料理雑誌が中心でしたが、やがて長野の食品メーカーなど、地元企業とのコネクション作りに力を入れるようになりました。各企業の商品を使ったオリジナルレシピを考案し、あいさつ状に同封することで、気に留めてもらえるように工夫しましたね。都会だとライバルが多く、独立したばかりの自分は埋もれてしまいますが、長野を拠点に活動すれば、交通費もそれほどかからないし、何よりも長野の企業とコラボすることで地元に貢献することができるかもしれないと思って。それが、料理研究家として活動する軸となりました」
ひろさんきっちん♪さんが新しいレシピを発信する際、必ず実践していることがあるそうです。
「会社員時代、製品に不具合が出たら必ず原因を突き詰め、不具合が再発しないための方法を考え、試作し…ということを繰り返していました。料理研究家の今も、この考えを活かしています」
誰が作っても、何度作っても同じおいしさが再現できるよう、新しいレシピを開発するときには必ず自身だけでなく、奥さんにも作ってもらって、分量や作り方をブラッシュアップしていくそうです。
「長野は野菜やキノコがとてもおいしいので、これらを使ったレシピもたくさん作っているんですよ」
長野を拠点に活動することで、人とのつながりがどんどん広がっていったそうです。
「長野の農家さんの団体から依頼を受けて、地元野菜をたっぷり使った料理教室を開いたり、『メニューに載せる写真がきれいに撮れない』と悩む地元飲食店のニーズに応えて、メニュー写真を撮影したり。僕の料理研究家としての活動は、その多くが地元の企業や飲食店と組んだものです」
さまざまな飲食店のメニューを撮影するうちに、メキシコ料理店のオーナーと仲良くなり、今では週に数日、メキシコ料理店の厨房に立つようにもなりました。
「メキシコ料理は専門外なので、厨房に立つたびに新たな学びを得ています。特にスパイスの使い方が参考になりますね。最近は、オーナーからスペイン語を教えてもらっています。地元のつながりがご縁となり、ホームパーティの際や、奥さまが入院中のおじいちゃんに頼まれて、個人のお宅で出張料理を行ったりもするようになりました。地元で料理研究家というと現状僕しかいないと思うので、重宝されますね」
仕事を通じて、さまざまな人と出会い、そこからさらに新たな人との出会いにつながっていく。会社員時代には想像もできなかった交友関係が生まれていきました。
実は、ひろさんきっちん♪さんは子どものころから貯金好き。小学生のころには、おつりを貯金箱に貯める「おつり貯金」を行っていたそうです。
独立するときに「2年分」の貯金があったのは、しっかり者のひろさんきっちん♪さんだからこそ。会社員とのかけもち時代は、複式簿記の帳簿などを提出する必要のない「白色申告」をしていましたが、独立を機に「青色申告」に移行しました。
「青色申告は、帳簿や青色申告決算書の提出が求められますが、その分、一定額の控除を受けられるので、白色申告よりも税金を軽減することができます」
日々の収支管理に関しても、独立前はざっくり計算するだけでしたが、今はExcelで管理するようになりました。
「僕の場合、経費のほとんどが材料費。買い物に行くときには、仕事用と自宅用の食材を別々の買い物カゴに入れて、仕事用のみ領収書をもらっています」
数字の管理は思っていた以上に面倒でしたが、奥さまが経費の入力などを手伝ってくれるそうです。
また、ひろさんきっちん♪さんは資産運用にも興味があり、料理研究家として独立する前から投資を行っています。
「最初はFXからスタートし、今はCFD取引もしています。少額ずつ毎月積み立てていく方法で、長期的に無理なく資産形成できればなと思っています」
「フリーランスの料理研究家は不安定な仕事です。だから今は、『可能な限り借金をしない、モノを持たない』という考えで、アルバイトの収入だけでやっていけるくらいまで、支出の削減に努めています」
結婚後、35年ローンで買った一軒家も、住宅ローンを安い金利のものに借り換え、ローンの支払額を月あたり10,000円ほど減額することに成功しています。
独立して1年半がたった今、これまでの道のりを振り返った感想を聞いてみました。
「会社員時代の僕は日々の仕事にストレスを感じていて、いつも『早く週末が来てほしい』と願っていました。今はその逆です。自由に使える時間が増え、好きなことに思う存分、取り組めるようになりました。毎日がしあわせで、『時間が過ぎてほしくない』という気持ちです」
結婚して子どもができたら、ミニバンに乗るのが当たり前。身だしなみにもこだわり、好きなブランドの洋服を身に着ける――そんな価値観で暮らしていたひろさんきっちん♪さんは、独立したことで、「その価値観は本当に必要なのだろうか」と自問自答するように。
そして、がむしゃらに働いて高収入を得るよりも、無駄な支出を削減し、ゆったりとした時間の中で好きな仕事に取り組み、大切な家族と過ごすほうがはるかにしあわせであることに気づいたのです。
そんなひろさんきっちん♪さんに今の自分自身に点数をつけてもらったところ、「65点」と答えてくれました。
「料理研究家としての活動は、まだ始まったばかり。理想は、僕のブログやSNSを読んだ誰かが、僕のような料理研究家になりたいと思ってもらえるようになること。『会社員を辞めて、料理研究家になってもいいんだ』と思ってもらえるような活躍ができたらうれしいですね」
では、ひろさんきっちん♪さんのようになりたいと思っている方に対して、アドバイスをするとしたら?
「会社勤めをしながら、一方では『好きなことで自由に生きたい』という思いがあるのなら、一歩踏み出すためにも、まずは貯蓄を頑張ってほしい。最低でも1年間は収入がなくても生活できるだけの貯金をしましょう。逆に言えば、生活費1年分の貯蓄ができるまで、行動するのは待ったほうがいいと思います」
さらに踏み込んで、こんなことも言ってくれました。
「独立を実現するための準備は、会社に勤務している今からでもできます。たとえば、人間関係を広げること。料理研究家を目指しているのなら、飲食店のオーナーに話を聞いてみたり、料理関係のイベントに参加したり。そうすることで、料理関係の方々に顔を知ってもらうことができますよ」
自分にできるだろうかと悩むくらいなら、今できることをやってみよう。ひろさんきっちん♪さんの言葉から、力強いメッセージが伝わってきました。
貯蓄や資産運用などを堅実に行いながら、地元を拠点に等身大で活躍する。そんなひろさんきっちん♪さんの生きざまは、独立を目指している数多くの方々に大きなヒントを与えてくれそうです。
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