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「心も身体も日本晴」会社員から農家に転身した欠掛隆太さんの理想のワークスタイル
2021.8.4理想のワークスタイル
それは2007年末のこと。富永さんは夫婦でNZに訪れました。
「夫婦ともに海外移住に興味があり、いろんな国を訪れていました。その中でも大きな契機になったのが、NZ旅行。NZの最北端にある、1日1組限定のロッジに宿泊しました。
オーナーが目の前のビーチで釣った鯛やアワビを使って、奥さまが作ってくれた家庭料理は、とても美味しくて。オーナーご夫婦に私たち夫婦の未来を重ね合わせて、こんな暮らし方ができたらと思うようになったんです」
帰国した年の秋に息子さんを出産。仕事と子育て、お母さまの介護でしばらく忙しい日々が続きましたが、時間を見つけては、やりたいことやアイデアをノートに書き連ねていきました。
そして帰国から3年後。旦那さまが青森に単身赴任になり、徳島に住んでいたお義母さまが上京。
「育児に忙しい私のために、義母が家事を手伝ってくれるようになりました。義母の料理があまりに美味しくて、これを海外の方に食べていただくことができたらすごく喜んでもらえるんじゃないかとひらめいたんです。これを機に、『外国人向け料理教室』を開こうと決意しました」
富永さんはお義母さまに料理を教わり、レシピにまとめていきました。さらに、友人にも手料理をふるまったところ大好評。大きな手ごたえを感じました。
「『20分で調理できる』というコンセプトを考え、企画書にまとめて、自宅近くの自治体が運営する国際交流ラウンジに提出。同時に、ブログを開設し企業やメディア向けに情報を発信していきました。マーケター時代に培ったスキルも活かし、多くの人の目に触れるように工夫しました」
当時、こういったサービスは画期的でした。国際交流ラウンジでのイベント実施も決まり、情報誌から取材の申込がありました。また、イベントで配布したビラを見た日本在住の外国人も、料理教室に参加してくれるように。
製薬会社勤務のため、料理教室は自宅で週末のみ開催。さらに1年後、新たな事業をスタートさせることとなります。
「『私も外国人に料理を教えたい』という問い合わせをいただくようになったのです。ニーズがあるのなら、事業化しよう。そんな思いから認定講師の育成事業を立ち上げました」
ノウハウをテキストにまとめ、講座を開講。フランチャイズ化の仕組みを構築しました。
さらに、ビジネス交流会にも参加。
「起業家や個人事業主など、自分自身の力でビジネスを立ち上げて成功している方々と交流でき、とても勉強になりました」
2016年、それまで勤務していた会社を退職し、いよいよ正式に会社を立ち上げました。社名は、わしょクック株式会社。
「和食とクックを掛け合わせて、キャッチーで覚えやすい社名を編み出すことができました。マーケター時代のコンセプトワークの経験が活かせましたね」
わしょクックを設立した2016年は、インバウンド需要が急激に高まった時期です。
「市役所にPRリリースや企画書を持って行くと、メディアに情報を流してくれたんです。それを機にテレビ番組の出演依頼がいくつも舞い込んだほか、法人向けの料理教室も開催するようになりました」
順調に事業を拡大させていった富永さんでしたが、大きな壁にぶち当たります。
「2020年春、新型コロナウィルスが世界的に流行。対面による料理教室の開催が厳しくなってしまったのです」
そこで富永さんは、オンラインに活路を見出すことに。
「オンラインでも料理の様子をうまく伝えられるだろうか、コミュニケーションは問題なくとれるだろうか……。初めてのことだったので不安がありましたが、思い切って挑戦することに。すると、これが大成功。日本食や日本が好きな外国人に人気を博し、結果的にはコロナ以前より多くの方が参加してくれるようになりました」
認定講師の育成事業もオンラインにシフト。
「一時は予約のキャンセルが相次ぎましたが、今ではコロナ前よりも多くの方がオンラインの料理教室や認定講師の講座を受講してくれるようになりました」
オンラインには「遠方に住む方でも気軽に参加できる」というメリットがあり、海外に住む日本人の方も認定講師の講座を受けるようになったそうです。
「薬学部の出身ですが、マーケティングに興味があり、新卒からずっとマーケターとして仕事をしてきました。商品開発も経験したし、事業計画の立案や営業の仕事にも携わりました。また、外資系の化粧品会社では英語を習得。これら会社員時代に身につけたすべてのスキルや経験が、今の仕事に役立っています。結果、会社員時代より多くの収入を得ることができるようになりました」
開業のための資金は、最低限に抑えました。
「なるべく経費をかけたくなかったので、自宅のキッチンを使って料理教室を開催。初期費用は30〜40万円で、食器と調理器具、パソコンとプリンターを新たに購入したぐらいです」
会社員時代、富永さんは「上司のため、部下のために働いていた」と言います。
「当時はとにかく忙しくかったです。子どもと関わる時間もほとんど持てなくて、息子は私の仕事が大嫌いでした。今では『うちのお母さんは料理の先生』と胸を張って言ってくれるようになりました」
現在は誰のためでもない、自分や家族のために生きている。そんな実感があるとのこと。
「独立した今は、時間や場所にとらわれない自由な働き方ができています。なので、子育ても家庭も仕事も私自身のことも、すべてがつながっているシームレスな生き方ができていると感じています。今も時間に追われることはありますが、会社員時代と違ってストレスを全く感じません」
かつてNZで家庭料理のおもてなしを受け、移住を考えるようになった富永さんご夫婦。外国人料理教室は、その夢を叶えるための第一歩でした。
「NZに移住する方法はいくつかあって、私たちは『投資家ビザ』の取得を考えていました。投資家ビザは、日本円で8,000万円程度の資産があれば取得できます。もともと貯蓄は好きだったのですが、それだけでは限界がある。そこで帰国した年から資産運用をスタートしました」
ボーナスの半分を貯蓄にまわし、投資信託や外貨を購入していったそうです。
「両親が株式投資をやっており、その株式を相続したタイミングで、より積極的に投資を行うようになりました。お世話になっている金融機関の方に情報を聞いて、納得のいく商品のみ買うようにしています。基本的には長期で安定して運用できる投資信託で資産形成をしています。
初心者の方は、まずは少額でも良いので、すぐに使わない余裕資産から始めるのがおすすめです。周囲に運用経験者がいれば、相談してみるものいいと思いますよ」
しかし、当初予定していた資金は既に貯まったものの、投資家ビザの審査基準が厳しくなってしまいました。そこで方針を変更して、現在は起業家ビザの取得を目指しています。
2020年秋、富永さんは「たびクック」という新しいサービスをスタートさせました。
「たびクックはわしょクックを発展させたサービスです。日本だけでなく、世界中の国々のお料理を学びながら、その土地を旅しているかのような経験をしていただくことができます」
そんな富永さんに、現在のご自身に点数をつけていただきました。
「70点です。移住という目標がまだ達成できていないので……。いつかNZに住まいの拠点を築き、世界中の人々に日本の家庭料理を広めていきたいですね」
最後に、働き方に悩んでいる人に向けてアドバイスをいただきました。
「まずは、人生の棚卸しをしましょう。今まで、どんな経験をしてきたのか。何をしている時が一番好きなのか。強みや弱み、克服してきたことなどを書き出してみてください。その中から、好きなことを突き詰めていくと、やりたいことが見えてきます。次にやるべきことは、頭に思い描いたプランを『利益を生むビジネス』に育て上げること。思い付きでスタートするのではなく、必要な知識を学びましょう。
また、私はみなさんに『計画は60%まで固まったらGoだよ』とお伝えしています。100%の成功はないのだから。たとえ失敗しても、それは有用な実験だったと思って、改善していけばいいだけの話。あまり臆病になりすぎないでほしいですね」
目標ができたら、言葉にすることも大切です。富永さんは周囲の人たちに「海外移住したい」「外国人向けの料理教室をやりたい」と、自分の思いを伝えてきました。
失敗したらどうしようと考えると、前に進めなくなってしまう。失敗ではなく、実験だと考えて、トライ&エラーを繰り返しながら成功に近づけばいいのです――コロナ禍を乗り越えた富永さんらしい、力強いメッセージを贈ってくれました。
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