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定年後、「やっかいなひと」になるのはどんな人?
2019.6.12定年後のリア充診断
私たちは物心ついたときから、毎朝一定の時間に起き、夕方〜夜までを学校や会社で過ごし、週末は休む、という生活をしています。
そしてこのような生活を、仕事をリタイアするまで約60年にわたり続けています。
ところが、仕事をしなくなると、この生活パターンが突然変化します。
たとえば、現役時代に週休2日の会社員であった場合、週5日の働く時間帯が空白になり、生活の中核とも言える時間を、自分の好きなように使うことになります。
そう聞くと、「定年後は毎日が日曜日」という良いイメージを持つかもしれません。
ただ、日曜日が嬉しいのは、普段の活動とは離れてリフレッシュ出来るからで、そもそも活動することが減少する定年後には、そのありがたみは感じにくくなります。
また、現役時代は平日と休日で生活パターンに区切りがあり、起床や就寝の時間も異なると思いますが、定年後にはその差もなくなります。
仕事があると、連休明けなどに「曜日の感覚がズレる」ことがありますが、定年後は「曜日の感覚がなくなる」かもしれません。
普段仕事をしていた分の時間が一気に空くわけですから、定年後に仕事を完全にリタイアした人は、基本的には「時間を持て余す人」になるでしょう。
ただ、持て余す時間の多さに四苦八苦する人と、上手に対応する人には、違いがあります。
定年後の時間を充実して過ごすためには、自身の生活パターンそのものが大変化するということを念頭に置いて、準備しておく必要があります。
定年前は、日常のほとんどの時間を仕事のために使わざるを得ない状況で、他のことをするには時間が足りない、というのが普通だと思いますが、定年後は時間は持て余すほどたっぷりあります。
これまで常識であった「時は金なり」という価値観は、定年後には持たない方が良いでしょう。むしろ、充実した時間をどれほど多く過ごすことができるのか、という視点が大切になってきます。
たとえば、現役時代に週5日×8時間働いていた場合、定年後には、1週間で40時間(通勤や隙間時間を含めると週50時間)の時間を自由に使えるようになります。
まずは、自分の好きな分野から、時間をかけて楽しむということをしてみてはいかがでしょう。自分のやりたいことや好きなことが、自分でもよく分からないということもありますが、時間はいくらでもあります。
楽しそうなことは、なんでもやってみるということが大切です。
また、自分が心から楽しめるものは、実は幼少から少年期に見出すことが多いと言われています。それをヒントに、やりたいことを探すのもひとつの手です。
ただ、10代の時間の多くを受験勉強に費やした場合、好きなことを見つける機会を逃していたかもしれません。
そのようなときは改めて、「自分はどんなことが好きなのか」という「自分探し」をしてみるのも、定年後の楽しみのひとつになるでしょう。
「自分探し」をする時には、配偶者や家族に手伝ってもらったり、アドバイスをもらったりしてみてください。あなたの最大の理解者は配偶者であり、家族だからです。
定年後を楽しむためのアプローチは、2つあります。キーワードは「過去」と「未来」です。
60年の人生を振り返ったとき、もしかして思い出したくない過去もあるかも知れませんが、逆に、同じ時間を過ごした人とのつながりは貴重なものです。
小・中学校や大学、社会人生活など、それぞれの年代に応じて親しい仲間がいると思います。
たとえば、その人たちとの同窓会を開いて「過去」を十分に懐かしんでみてはいかがでしょう。幹事役になれば、さらに充実した時間を過ごすことができます。5〜6つのコミュニティで同窓会が年に数回あれば、ほぼ毎月同窓会を楽しむことも可能です。
また、これからの人生を楽しむには、新しいことに挑戦することも重要です。
これも、できれば4〜5つを同時並行で進めるのがおすすめです。何ごとも入門、初級、中級、上級、そしてプロというレベルがありますが、プロになる必要はもちろんなく、それぞれのレベルで時間をかけて楽しんで、階段を登っていってください。
このように「過去」と「未来」に一生懸命トライしても、まだまだ「時間」があるのが定年後。ぜひ楽しんで過ごしてください。
井戸 美枝(いど みえ)
CFP®、社会保険労務士。社会保障審議会企業年金・個人年金部会委員。経済エッセイストとして活動。「難しいことでもわかりやすく」をモットーに、数々の雑誌や新聞の連載記事の執筆をはじめ、講演、テレビ、ラジオ出演などを通じ、生活に身近な経済問題、年金・社会保障問題を紹介。近著に『定年男子 定年女子』共著(日経BP社)、『100歳までお金に苦労しない定年夫婦になる』(集英社)、『届け出だけでもらえるお金』(プレジデント社)など。