相談者:寺井拓也さん(仮名)

職業:会社員

年齢:30歳

年収:約500万円

名前に惹かれて、なんとなく選んだ投資信託4本が……

ご両親と同居し、実家から通勤している寺井さん。実家通いというメリットもあり、家計には余裕があります。高齢のお祖母さんを介護する両親の様子を身近で見ていたこともあり、自分の老後や将来のお金について、考えを巡らせることも多かったそうです。

そんな寺井さんが、投資をはじめたきっかけは、数年前に参加した勤務先での確定拠出年金の説明会でした。長期に積み立てることでリスクを分散できるという積立型の投資に惹かれ、企業型DC(企業型確定拠出年金)とNISA(少額投資非課税制度)でさっそくスタート。毎月、企業型DCでは「バランス型ファンド」2本に2万円、NISAでも「バランス・ファンド」2本に3万円の積み立てを継続してきました。

バランス型ファンドを選んだのは、世界中の株式や債券、リート(不動産投資)など、国際的な分散投資をすることでリスクも分散できると聞いたため。「これなら損をしにくいだろう」と思い、そのなかから、名前がなんとなく良さそうなものを選んだそうです。

その後、日々の業務に忙しく、積立額や運用益はそれほど気にしていませんでしたが、2020年のコロナ・ショックによる株価暴落のニュースを見て、改めて自分の資産状況をあわててチェック。予想通り、値下がりしていました。

ただ、ニュースで株価指標の1つ、日経平均株価が30%程度下落していると知り、覚悟していたものの、寺井さんの保有するバランス型ファンドは10〜15%程度の値下がりだったとのこと。それでも、これまで経験したことのない値動きに不安になると同時に、こういうときに何か打つ手はないのかと気になったそうです。

そこで、想像していたほど値下がりしなかったのはなぜか、値下がりしたときはどうすれば良いのか、さらに、今後、運用商品を入れ替えたほうが良いのかを教えてほしいと相談がありました。

「バランス型ファンド」の中身を分解してチェック!

バランス型ファンドと一口に言っても、中身はそれぞれ異なっています。そこで、寺井さんには、まず、保有しているバランス型ファンドの基本情報を再確認してもらいました。

複数保有している場合、全体としてどの資産に分散投資しているかは、それぞれのファンドにどんな資産(株式、債券、不動産投資など)が組み入れられているかを洗い出したうえで、資産ごとに配分を整理してみるとよく分かります。

寺井さんの4本のバランス型ファンドの資産配分を分解して整理してみたところ、およそ株式50:債券50という配分だと判明。今回のコロナ・ショックでは、株式やリート(不動産投資)での下落率が高かったのですが、債券の値下がりは比較的おだやかでした。株式と債券を半々で投資している寺井さんの場合は、想像よりも下落率が低かったわけです。

ただ、バランス型ファンドのなかには、「先物」が組み入れられているものも。「先物」とは、その場で代金を払うのではなく、あらかじめ決められた日に決められた価格で売買することを約束する取引のこと。比較的リスクが大きいとされています。

そして、今回のようにバランス型ファンドが値下がりをしたときには、一時的に通常より多くの金額を積み立てて、リスクを再調整(リバランス)するという選択肢があります。

その際は、当初の予定より割合が減った資産を買い足すのが一般的。寺井さんも、値下がりをしたときに追加投資をしようと考えたものの、どのバランス型ファンドを選べば良いか判断しづらく、断念したそうです。

長期積立投資は「分散が命」と考え、バランス型ファンドを選ぶことで投資対象を分散するだけでなく、複数を購入して分散するという買い方をしていた寺井さん。

分散投資は大切ですが、中身を理解しないまま組み合わせすぎてしまうと、資産配分を自分で把握できていない「分散貧乏」と呼べる状況になってしまうことも。

寺井さんには、投資への理解を少しずつ深めてもらえるように、次のようなアドバイスをしました。

現金化しにくい運用から、優先順位をつけて資産配分を考えよう!

資産運用をするときは、いつまでにいくら貯めたいのか、一時的な損失にどれくらいまで耐えられそうかを考えておくことが大事です。それらが明確になれば、具体的にどう貯めていくかも見えてきます。

寺井さんにも、いま運用しているバランス型ファンドのことは一度忘れてもらい、資産運用について以下のようなステップで再確認してもらいました。

@貯める目的、期限、金額を明確にする

寺井さんは祖母に対する両親の介護状況を肌で感じ、最低限の自分の老後生活費と介護費用を用意しておきたいという希望がありました。65歳まで働く予定で、90歳までの25年間分の費用として4,500万円を貯めたいという結論に。そのためには、65歳までのリスクの取り方と、65歳からの安定的な資産取り崩しを意識した資産配分がポイントとなってきます。

Aリスクをどう捉えるかを考える

寺井さんはコロナ・ショックを経験し、その後の回復傾向も体感したことで、ある程度の一時的損失には耐えられる心づもりができたそうです。また、積立投資以外に、毎月1〜5万円の預金もしています。

長期積立投資については、時間によるリスク分散が望める点についても理解され、バランス型ファンドのなかでも比較的リスクの高い株式中心のものでも大丈夫という考えに変わってきたそうです。

そこで、寺井さん自身に理想的な資産配分や想定利回りを決めてもらい、将来見込める貯蓄額をシミュレーションしてもらいました。
毎月5万円を30年間積み立て、想定利回り5%でシミュレーションしたところ、元本1,800万円で、約4,000万円を貯められる可能性があることが分かりました。

Bどう運用していくかをプランニングする

寺井さんは、老後資金を貯めることが目的なので、これまで通り企業型DCやNISAなどの優遇制度を活用する方向性を活かし、運用商品を再検討。

企業型DCはスイッチング(運用商品の預け替え)がリアルタイムでできないため、基本的にはコツコツ積み立てることを狙って、株式50:債券50のバランス型ファンドを継続。

一方、商品の売買が比較的容易にでき、いざというときには売却して現金化できるNISAでは、株式中心のバランス型ファンドを選択しました。

また、マーケット環境が悪化した際に、NISAで別途積立を増やせるよう、資金を用意しておくこともアドバイス。年末調整による還付分や毎月の預金額などから資金を確保してもらうようにしました。

相談がひと通り終わった後、寺井さんには、バランス型ファンドの積立投資とはいえ、マーケットの値動きはまめにチェックしておくことも提案。なぜなら、これからさらに活躍されそうな30代ビジネスパーソンにとって、マーケット情報を知ることは、経済や金融などの世情の把握につながるからです。

また、仕事上でも、積立投資を通じて日常会話の“引き出し”を作っておけば、取引先との雑談などでも有効活用できるでしょう。

コロナ・ショックのような一大事は、寺井さんのような投資初心者にとって、これまでの運用方針を見直し、将来のお金について考えるきっかけになる良いきっかけとなったようです。

資産運用をはじめている方も、これからはじめようという方も、目的と目標金額、リスク許容度を確認し、将来どのように取り崩していくのかも含めて、未来につながる運用方針を固め、少しずつ前進していきましょう。

  • 2020年9月現在の情報です。今後、変更されることもありますのでご留意ください。
野原 亮

野原 亮(のはら りょう)

確定拠出年金創造機構 代表

明治大学政治経済学部経済学科卒業。現東証1部上場の証券営業・株式ディーラーとして従事。その後、営業コンサル会社を経てFPとして独立。中小企業の確定拠出年金を中心とした福利厚生の社外担当として活動、上場企業等の金融研修なども担当している。証券外務員1種、ファンナンシャル・プランナー(AFP)、企業年金管理士(確定拠出年金)、公的保険アドバイザー。書籍に『スピードマスター 1時間でわかるiDeCo〜50代からの安心投資』(技術評論社・2020年)『ポイントですぐにできる!貯金がなくても資産を増やせる「0円投資」』(日本実業出版社・2021年)がある。
個人Webサイト:https://fpsdn.net/fp/rnohara/
事務所Webサイト:https://kakuteikyoshutsu.com

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