相談者:川上えりさん(仮名)
家族構成:夫(会社員)38歳、長男2歳
職業:会社員
年齢:35歳
世帯年収:約950万円
2020.10.7お金のしくじり失敗談
家族構成:夫(会社員)38歳、長男2歳
職業:会社員
年齢:35歳
世帯年収:約950万円
共働きのえりさん夫婦は、子どもが産まれるまでは、お財布も預金などの資産も夫婦別々で管理。
しかし、出産を機に、夫婦で家族のマネープランについて話し合ったそうです。 希望する教育費や老後資金を貯めるために、必要な毎月の貯蓄額をシミュレーションした結果、夫婦ともにお小遣い制にし、ガッチリと家計管理することを決めました。
ただし、削れる出費は削る反面、必要なものにはお金をかけても良いというのが夫婦の共通認識です。
健康意識の高いえりさんは、忙しい毎日でも自炊を心がけていました。毎月の食費予算は、5万円。オーバーしないよう、毎週1万円の現金を財布に入れ、1週間分のスーパーでの買いものにあてることで、家計簿は特につけなくても予算内で管理できていたのです。
クレジットカードはほぼ使うことがなく、夫婦共有の家計口座から、クレジットカード利用分が引き落とされても、家計は毎月の予算内に収まっていました。
しかし、2019年10月の消費税増税にともなう「キャッシュレス・消費者還元事業」をきっかけに、おトクだからとクレジットカードを使う頻度がアップ。さらに、独自のおトクなキャンペーンを実施している二次元コード決済もよく使うようになったのです。「20%還元」や「500円クーポン」と聞くと、つい気前よく買ってしまっていました。
同年12月、えりさんがクレジットカードの引き落とし後に家計口座の残高を見ると、数千円になっていてビックリ! 11月のクレジットカードの請求額が、いつもより10万円ほど増えて、家計口座に予備で入れていたお金も使い切るところでした。
そこで夫婦共有の貯蓄口座から、10万円を家計口座に移したいと夫に正直に相談したところ、「無駄遣いのしすぎじゃない?」と言われてケンカに。振り返ると、「おトクだから」と食費や日用品、衣料品など、これまでは買っていなかったものに手を出していたと反省しました。
えりさんは、キャッシュレス決済の利用をやめようと思っているそうですが、おトクなキャンペーン情報を見ると、「損している気になってしまう」とのこと。2人目の子どももほしいし、今後どう家計管理をしたら良いかと相談に来られました。
時代の流れを見れば、おトクさ、便利さ、時間節約のスマートさ、そして非接触の安心感のあるキャッシュレス決済は、今後さらに普及していくでしょう。スーパーやドラッグストアなどの日常の買いもの、さらには、税金や保険料、家賃などもクレジットカードや二次元コードで決済できるケースが増えてきています。
お小遣いなど、子どもにお金の使い方を教える場合も、キャシュレス決済が欠かせなくなるでしょう。
もとの現金生活に戻るよりというよりは、キャッシュレス決済でもしっかりと家計管理をしていく術を身につける方が得策です。
確かに、えりさんのように「キャッシュレス決済を利用するようになって、無駄遣いが増えた」という相談は多くなっています。ただ、その原因は心の持ちようである場合がほとんど。出費が増えがちになるのは、以下のような心理が挙げられます。
@希少性の原理
「いまだけ・あなただけ・いまあるだけ」といったような、期間限定キャンペーン・会員限定特典セール・在庫限りの特売など、限定されているというレア感につられて、つい買ってしまう。
Aアンカリング効果
定価の価格水準からの「割引」などに弱くなり、目の前の商品が本当にそれに見合った価値があるかわからなくなる、または考えようともしない。
B感応度逓減性(かんのうどていげんせい)
新商品発売日など、いま目の前にあるものの方が、将来よりも価値が高いと判断してしまい、つい予算オーバーしてしまう。
Cメンタルアカウンティング
現金で買い物をしようが、キャッシュレスで買い物をしようが、支払う金額は同じ。ところが、「キャッシュレス=おトク」「キャッシュレス=財布の現金が減らない」といった感情に左右され、トータルで損得を判断しづらくなり財布の紐がゆるんでしまう。
実は、これらは動物が持って生まれた本能がうまく機能しない場合の事例。「他のライバルに奪われるくらいなら、自分が手に入れておきたい」「失うことで自分の生命が危機にさらされるかも」といった恐れが、冷静さを欠いた直感的・感情的な消費につながり、結果的に自分にとって得にならない選択をしてしまいやすいのです。
えりさんも、もともとは節約志向が強く、「家族のために」という想いがあるからこそ、割引、限定、おトクなどの言葉に魅力を感じ、財布の紐がゆるんでしまいました。
このように、私たちの心理的特徴をある程度理解しておくだけでも、キャッシュレス決済の使いすぎの対策もとりやすくなるでしょう。
私たち人間の心理的特徴にできるだけ左右されず、家計をしっかり管理していくためのいくつかのコツをご紹介しましょう。
キャッシュレス決済での無駄遣いを防ぐためには、「ポイントを元々ないものとする」という対処法が有効です。ポイントが貯まってくると嬉しくなって気持ちが高ぶる傾向にあり、それが余計な買い物をする動機になってしまいます。ポイントがあっても特に意識せず、普段通りの買い物をするなかでポイントを消費していくと良いでしょう。
日用品以外でどうしても欲しいものがある場合は、冷却期間を設けましょう。欲しいものを見つけてから数日期間を空けて、それでも買いたいものであれば買います。ネットショッピングであれば、買い物かご・カートなどに一度商品を入れて、後日に判断するのも良いでしょう。
家計簿をつけて支出を把握しておくのは節約の鉄板ですが、元々家計簿をつける習慣がない方、子育てや仕事に忙しい方にとっては、現実的ではないかもしれません。
そこで、キャッシュレス決済を利用している人におすすめなのが家計簿アプリ。キャッシュレス決済サービスや銀行口座を登録することで、いまどれくらい使っているのか、家計を“見える化”できるようになります。
また収支をリアルタイムで管理するという意味では、デビットカードを活用する方法も。支払うと家計口座からすぐに引き落とされ、タイムラグなく支出を管理できます。使った金額に応じたポイント還元もあります。
旅行代や引越代など、あらかじめ使うことが決まっているお金を、生活費と別口座に分けておくのもおすすめです。予算をたてて計画的に貯めていく「先取り貯蓄」のイメージです。
細かく分けすぎる必要はありませんが、財布代わりの口座(生活費)、将来使う予定がありそうなお金専用の口座(予備費)、貯蓄用の口座(緊急資金・老後資金など)というように分ける習慣がつくと良いでしょう。
その後、えりさんは、さっそく家計簿アプリにいくつかの銀行口座やキャッシュレス決済サービスを登録。忙しくても週に1回は収支を確認するようになりました。
また、まとめて管理していた貯蓄口座に加え、子どもの教育費、自分たちの老後資金の口座を追加。長期的に貯める老後資金には、引き出しにくい積立型の投資信託も検討しはじめました。
家計簿アプリで、予備費や貯蓄口座の残高がちょっと増えたのが分かると、その分だけうれしくなるそうです。また、しばらく使っていると、思ったより使いすぎていた費目が明確に。
決済データを把握しておくことで、予算に対する消費ペースがどれくらいかも分かるようになりました。財布に現金を入れて管理していたときのように、残高把握もできるようになり、無駄遣いは減少。本当に買うべきかどうかの判断もしやすくなったとのことです。
賢く消費できるということは、それだけ将来や老後に向けた貯蓄が増えることに直結していきます。家計管理の簡便化や節約にもつながるキャッシュレス決済を上手に取り入れながら、大切な資産をしっかりと管理する習慣をつけてみてはいかがでしょうか。
野原 亮(のはら りょう)
確定拠出年金創造機構 代表
明治大学政治経済学部経済学科卒業。現東証1部上場の証券営業・株式ディーラーとして従事。その後、営業コンサル会社を経てFPとして独立。中小企業の確定拠出年金を中心とした福利厚生の社外担当として活動、上場企業等の金融研修なども担当している。証券外務員1種、ファンナンシャル・プランナー(AFP)、企業年金管理士(確定拠出年金)、公的保険アドバイザー。書籍に『スピードマスター 1時間でわかるiDeCo〜50代からの安心投資』(技術評論社・2020年)『ポイントですぐにできる!貯金がなくても資産を増やせる「0円投資」』(日本実業出版社・2021年)がある。
個人Webサイト:https://fpsdn.net/fp/rnohara/
事務所Webサイト:https://kakuteikyoshutsu.com
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