相談者:野崎晴彦さん(仮名)

家族構成:妻60歳(パート)、長男34歳、長女32歳

職業:会社員

年齢:62歳

世帯年収:約480万円 ※年金は未受給

定年間際にまさかの株価が急落! 慌ててとった行動で、さらなる不運に!?

30代で中途入社した会社でのサラリーマン生活も、残りわずか。65歳の定年をめざして頑張ってきた野崎さん。年収がピーク時の半分以下になった現在でも、後進の指導と引継ぎなどで元気に働いています。

会社の退職一時金は約1,000万円を予定していますが、老後によりゆとりある暮らしを送るため、自身でも約15年間iDeCoに加入。世界の株式に投資していて、退職時に一括受給しようと計画していました。
2人の子どもはすでに結婚・独立し、住宅ローンももう少しで完済。定年後は夫婦で旅行に行く機会を増やしたいと考えていました。

定年まであと3年となり、老後のお金について本腰を入れて計画を練ろうとしていた矢先にコロナ・ショックが起き、世界中で大きく株価が下落。不安になった野崎さんは、以前年金について相談したことのあるファイナンシャルプランナーに意見を聞いてみたそうです。

「株価下落による年金残高の目減りが不安なら、今後の相場次第で、株式の投資信託は全部売却したほうが良い」というアドバイスをもとに、iDeCo口座内の運用商品を変更。世界の株式の投資信託を全部売って、定期預金にしました。このように、積み立ててきた運用商品を変更することを「スイッチング」と言います。

野崎さんは、結果的に運悪く、2020年の世界の株式市場の最安値にほぼ近い時期に売却して、定期預金にしてしまったとのこと。その後の世界の株価の回復を見て、取り返しのつかない判断ミスをしたと、暗い気持ちになって相談に来られました。

長期積立投資でも、完全なほったらかし状態は危険

「iDeCoは長期積立投資だから、スイッチングは定年間近になったら考えれば良い」と考えていた野崎さん。そのためiDeCoの資産残高確認やスイッチングが行える管理用Webサイトにログインすることもほとんどなく、ほったらかし状態だったそうです。

また、新型コロナウイルスのニュースが出はじめた当初はそれほど株式市場に影響がなかったため甘く見てしまい、株価の急落に慌ててしまったことも、今回のしくじりの一因でした。

では、世界の株式を中心に運用していた野崎さんは、どうすれば良かったのでしょう。

定年が近づいたら、変動幅の少ない商品にスイッチング

iDeCoの年金残高を一括受給するつもりでいた野崎さんの場合、定年が近づけば近づくほど、年金残高が増えていきます。そのため、株式市場の動き次第で、残高の変動幅も大きくなってしまったわけです。
iDeCoの運用では、定年が近づくにつれ、変動幅が少ないとされる債券や定期預金などにスイッチングしていくのが良いとされています。

スイッチングのベストタイミングを事前に見極めるのは難しいので、株価の暴落に備えて段階的に定期預金にしていくなど、野崎さんにあった適度なリバランス(リスクの再調整)が、本来は必要だったのです。

また、野崎さんは、想定利回り(期待できる年平均の利回り)が6%以上の比較的ハイリスク・ハイリターンの運用をされていました。別途退職金もあるので、自分が納得できるタイミングで想定利回りを1〜3%程度に調整していくのも一手でした。

投資をする際の値動きへの考え方を自己分析

資産配分をみながら売買してリバランスしていくのが難しいと感じる場合は、自分がどういうときに後悔するタイプなのかを知っておくのがポイントです。

たとえば、投資信託を売った後に、その価格(基準価額)が上がって「あの時売らなければ良かった」と後悔するタイプなら、売買することはあまり考えず、なるべく長期保有を優先。

一方、投資信託を売らずに、価格が下がったときに「あの時売っておけば良かった」と後悔するタイプなら、定期的に、あるいは大きなニュースの際に保有資産のバランスが大きく崩れていたら、スイッチングするといった具合です。
ただし、リバランスはあまり頻繁にやると投資効率(利益率)を下げてしまうこともあるので、ほどほどにしましょう。

受け取り時期が決まっている老後資金は、終盤のリスクヘッジが重要!

受取時期が決まっている老後資金の積立投資では、終盤のリスクヘッジが重要です。

定年を意識しはじめたら将来の年金額を計画通りに確保しておくために、年に1〜2回程度は、iDeCoの資産残高や損益率の確認やスイッチングが行える口座管理用Webサイトにログインをして確認しておきましょう。

そして、定期預金へのスイッチングもしっかり考えていきたいですね。もちろん、iDeCoのメリットである税制優遇は定期預金でも活かせます。

iDeCoのメリットは以下の3つです。「iDeCo公式サイト」などでも確認できます。

1.掛金が全額所得控除

掛金が全額所得控除の対象となり、仮に毎月の掛金が1万円の場合、所得税(10%)、住民税(10%)とすると年間2.4万円の税金が軽減されます。

2.運用益も非課税で再投資可能

通常、金融商品を運用すると、運用益に課税される(源泉分離課税20.315%)が、iDeCoなら非課税で再投資されます。

また、本来であれば年金残高に「特別法人税」(年1.173%)がかかりますが、現在は課税が停止されています。iDeCoは積み立てした時点では年金残高が確定しておらず、実際の受取時まで課税が先延ばしになっているので、その遅延利息に相当するものです。

3.受け取る時も大きな控除

iDeCoは年金か一時金で、受取方法を選択することができます(金融機関によっては、年金と一時金を併用することも可能)。年金として受け取る場合は「公的年金等控除」、一時金の場合は「退職所得控除」の対象となりますので、ほかの所得次第では節税になります。

50代にもなれば、自分の働き方、資産状況や老後の生活設計に合わせて、老後の資産計画は早めに立てていきたいところです。iDeCo(個人型確定拠出年金)や企業型DC(企業型確定拠出年金)に加入されている方は、適切にリバランスをして資産を守りながら増やしていきましょう。

  • 2021年7月現在の情報です。今後、変更されることもありますのでご留意ください。
野原 亮

野原 亮(のはら りょう)

確定拠出年金創造機構 代表

明治大学政治経済学部経済学科卒業。現東証1部上場の証券営業・株式ディーラーとして従事。その後、営業コンサル会社を経てFPとして独立。中小企業の確定拠出年金を中心とした福利厚生の社外担当として活動、上場企業等の金融研修なども担当している。証券外務員1種、ファンナンシャル・プランナー(AFP)、企業年金管理士(確定拠出年金)、公的保険アドバイザー。書籍に『スピードマスター 1時間でわかるiDeCo〜50代からの安心投資』(技術評論社・2020年)『ポイントですぐにできる!貯金がなくても資産を増やせる「0円投資」』(日本実業出版社・2021年)がある。
個人Webサイト:https://fpsdn.net/fp/rnohara/
事務所Webサイト:https://kakuteikyoshutsu.com

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