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「二拠点生活」を叶えた"お金と暮らしのメリハリ術"(後編)
2021.7.7ステキに暮らす人
中村大祐さん
トラストアンドアソシエイツ株式会社 代表取締役/長野県立科町在住
東京での23年間に渡る会社員生活を経て、ワイン用のブドウ栽培農家に転身。近隣ワイナリーに醸造を委託し自社ブランドのワインを販売している。
1991年(23歳) | 大学卒業後、都内の企業に就職 |
2015年(47歳) | 退職 ワインアカデミーに通学(人生の夏休み期間) 立科町のブドウ畑を引き継ぐ |
2016年(48歳) | トラストアンドアソシエイツ株式会社を創業 |
中村さん:会社員時代は、朝から晩まで目の回るような忙しさ。家族と過ごす時間もままならない。そんな日々に心身が疲弊し、“これが人間らしい暮らしといえるのだろうか”と、都会での生活に限界を感じ始めていました。
もともと田舎暮らしに憧れていたこともあり、自然に囲まれながら自分の価値観に従って暮らすほうが幸せなのではないかと考えるようになりました。
中村さん:当時、3人の子どもたちは、小学校高学年、中学生、高校生で教育費がかかる時期だったこともあり、お金に関する不安が大きかったですね。ただ、もともと質素で倹約的な暮らしをしてきて、収入が上がってもそれが続いていたので、その分を貯蓄に回していました。
資産運用に関して言えば、入社当時から給与天引きで財形貯蓄、自社株の購入をスタート。金利が下がってからは、他社の株や投資信託を購入したり、税制優遇のあるNISAを活用したり、試行錯誤しながらコツコツと運用してきました。その結果、一定の貯蓄ができていたこともあって、思いきったキャリアチェンジに挑戦できたと思います。
中村さん:定年後を見据え、人生について考えていた時、長野県にワイナリーを目指す人を対象にしたワインアカデミーができると知りました。知識も経験もありませんでしたが、ワインが好きだったため興味を持ちました。
そこで、会社を退職し、“人生の夏休み”と称して1年間ワインアカデミーで学んでみようと考えたのです。
中村さん:実は、思っていた以上にワイナリーへの道のりは険しいことが分かり、かなり迷いました。しかし、アカデミーで出会った仲間たちのやる気溢れる姿に刺激を受け、挑戦してみる決断をしました。
中村さん:質素な暮らしには慣れていたものの、やはり会社員時代とは違い、自由に使えるお金などありません。若い頃からコツコツしていた貯蓄が、今の生活の支えとなっており、あらためて貯蓄の大切さを実感しています。
現在はブドウづくりのほか、美味しい地元の食事やワインを楽しめる場を提供するゲストハウスの運営も行い、安定した収入を得るために試行錯誤しているところです。
もちろん安定した収入を得ることは大切ですが、こちらではお金をかけなくても豊かな時間を過ごすことができます。時には自分のワインと共に、と共に、庭のピザ窯でピザを焼いてゲストに振る舞ったり、星空を見上げながらお酒を吞んだり。朝は鳥の鳴き声をBGMにウッドデッキでコーヒーを飲むこともあります。
中村さん:将来的には、自分のワイナリーを持ちたいと思っています。そのためには、まずブドウ畑を広げて収穫量を増やし、安定的に高品質なブドウを育てられるようになることが当面の目標です。将来、このブドウ畑を子どもが継ぐかどうかは本人の意思に任せますが、継ぎたいと思ってもらえるように安定させたいですね。
中村さん:お金は人生の選択を広げるための重要な要素。若い時から貯蓄をする習慣を身につけるとともに、経済や金融に興味を持ち、勉強して積極的に投資していくことも必要だと思います。いずれ叶えたい夢ができたときのためにも、計画的にお金を準備することは自分の未来に投資することでもあると思います。
私自身、貯蓄額がある程度なければ転身は諦めていたでしょうし、そもそも転身すること自体考えていなかったかもしれません。
人生100年といわれる時代ですから、40代でもまだ折り返し地点。手元に備えがあれば、自分のタイミング次第で生き方を自由に選ぶことができると思います。
中村さんが育てたシャルドネを100%使用した2021年の新作ワイン「M」は、白ブドウを果皮ごと醸造させた、いわゆるオレンジワインです。
写真左は、フレンチオーク樽で約8ヶ月間熟成させたもので、すっきりとした味わいが特徴です。写真右は、アメリカンオーク樽で約5ヶ月間熟成させ、その間にマロラクティック発酵を行ったもの。重厚な味わいに仕上がっています。
いずれも濾過せずに瓶詰めしているため、時間経過とともに進む瓶内熟成による味わいの変化も楽しめます。