退職金制度そのものを見直し、企業が社内で退職金を準備する従来の制度から、外部機関を使って準備する「確定拠出年金」に移行する企業も増えています。
確定拠出年金とはどういう制度で、どのように活用できるのでしょうか。

この記事では、退職金と確定拠出年金との違いやそれぞれの活用方法について解説します。
ぜひ老後の生活費を確保するための参考にしてください。

確定拠出年金(401k)とは?

確定拠出年金は、老後資金をつくるための制度です。加入者が自分で掛金を運用し、原則60歳以降に、一括でまとめてまたは分割でお金を受け取ることができます。確定拠出年金には種類がありますので、まずはそれぞれの制度の違いを確認しましょう。

確定拠出年金は個人型と企業型の2種類!

確定拠出年金には個人型と企業型があります。
まずはそれぞれの違いを確認してみましょう。

個人型と企業型の違い

個人型(iDeCo)確定拠出年金とは

個人型には iDeCo(イデコ) という愛称があり、 「個人が自分の意思で加入し、自分で掛金を支払い、自分で金融機関と商品を選んで運用し、60歳以降に受け取る」制度です。
企業型と違い、自分で金融機関を選ぶことができることが特徴で、企業型よりも幅広い投資先の中から運用商品を選ぶことができます。

三井住友銀行では、ニーズに合わせた運用商品をご用意しています。なかでも、「みらいプロジェクトコース」では「困っている子ども達」を対象に三井住友銀行が全額負担をし、寄付を行っているなどの特長があります。

ご自身のニーズや目的に合わせて、iDeCoのお申込みをご検討いただけます。
▼個人型確定拠出年金「iDeCo」:三井住友銀行

iDeCo(イデコ)についてはこちらの記事で詳しく解説していますので、あわせて確認してください。

【関連記事】 iDeCo(イデコ)ってなに? 〜基本をイラストで理解しよう〜

企業型確定拠出年金(企業型DC)とは

企業型は企業型DCと呼ばれ、「企業が退職金制度として導入し、企業が掛金を支払い、企業が指定した金融機関で、従業員が自分で商品を選んで運用し、60歳以降に受け取る」制度です。

企業型は退職金制度の一種ですので、制度を導入している企業に勤めていないと加入できず、企業が掛金を支払ってくれるという点が個人型との大きな違いです。
定期預金や保険、投資信託など複数の金融商品の中から従業員が自分で運用先を選ぶことができるため、それぞれの運用結果によって、受け取る退職金額が変動することが特徴です。

また掛金には上限があり、他の企業年金も導入されている場合は2万7,500円(月額)、他の企業年金がない場合は5万5,000円(月額)です。

従業員が企業型DCに加入する最大のメリットは、2つの税制優遇を受けられることです。1つめは運用で増えた利益(運用益)が非課税になること、2つめは受け取るときに大きな控除の枠があることです。

通常、運用益には20.315%(所得税(復興特別所得税含む)15.315%+住民税5%)の税金がかかります。運用益が100万円だとすると本来かかるはずの税金は約20万円ですので、これが0円になるのは大きなメリットと言えるでしょう。

また60歳以降に受け取るとき、一括でまとめて受け取るなら「退職所得控除」、分割で受け取るなら「公的年金等控除」が使えます。控除を簡単に説明すると「税金がかからない部分」です。たとえば企業型DCに30年加入した方が一括でまとめて受け取る場合、1,500万円までであれば税金がかかりません。

この税金のかかり方は一般的な退職金と同じです。こちらの記事で詳しく解説していますので、あわせて確認してください。

さらに、企業が支払う掛金とは別に従業員が掛金を上乗せできる「マッチング拠出」を利用した場合は、自分で支払った掛金が全額「所得控除」の対象となり、所得税と住民税が安くなります。

2022年度時点で、この「マッチング拠出」が利用できる企業は、企業型DCを導入する企業の約50%です。勤務先で利用できるかどうかは、総務や人事の担当に確認しましょう。

確定拠出年金も退職金も受け取り方を選ぶことができる

確定拠出年金や退職金は、全額を一括で受け取る一時金タイプと、毎月少しずつ受け取る年金タイプ、もしくは両者を組み合わせるタイプで受け取り方を選ぶことができます。(企業によっては、DCや退職金の受け取り方を選べない場合もあります)

確定拠出年金や退職金を受け取る前に知っておきたいこととして、「受け取り方によってかかる課税方法が異なる」というものがあります。いずれも退職金にかかる税金は所得税と住民税ですが、受け取り方によって計算方法が異なるので注意しましょう。

以下では、一時金として受け取る場合と年金として受け取る場合の税金の違いについて解説します。

一時金として受け取る場合

確定拠出年金や退職金を一時金として受け取る場合は「退職所得」として分類され、「退職所得控除」の対象となります。この場合、受け取ったお金は他の所得と切り離して計算されます。

一時金として受け取る場合の控除額は、勤続年数が20年以下かどうかによって異なります。計算式は以下の通りです。

20年以下:40万円×勤続年数※
(80万円に満たない場合には80万円)
20年超:800万円+70万円×(勤続年数−20年)

  • 勤続年数が1年未満の場合は1年として計算

また、退職所得金額の計算は原則として以下の通りです。

(収入金額(源泉徴収される前の金額))−退職所得控除×1/2

例えば、勤続30年で退職金2,000万円を一時金として受け取る場合、課税対象となる退職所得金額は以下のような計算で求めることができます。

  • 退職所得控除:800万円+70万×(勤続30年-20年)=1,500万円
  • 退職所得:(退職金2,000万円−控除額1,500万円)×1/2=250万円

上記の例の場合、2,000万円の退職一時金を受け取ると、課税対象となる所得は250万円分です。一時金として受け取る場合は、金額が大きいほど受けられる税制メリットが大きいことがわかります。

退職所得控除には「5年ルール」がある

退職金を2回以上受け取る場合、基本的には合算して退職所得を計算し、控除額などを算出します。例えば、会社の退職金と確定拠出年金をそれぞれ受け取るケースや、2社から退職金を受け取るケースなどがあります。この際、退職所得を受け取ってから別の退職所得を受け取るまでの期間が5年以上(確定拠出年金の場合は15年以上)経過している場合は、別々に退職所得の収入金額を計算できるようになります。これは、「5年ルール」と呼ばれています。

例えば、iDeCoと退職金を受け取るケースで考えてみましょう。30年務めた会社で2,000万円の退職金を65歳に受け取り、iDeCoは50歳から60歳まで加入して200万円受け取るとします。この場合、退職金とiDeCoは別々に計算されるので、iDeCoで受け取る金額はすべて非課税となります。
これがどちらも65歳で受け取る場合は、2,200万円の退職所得として受け取る計算になってしまうので、かかる税金が増えてしまうケースがあるのです。

注意したいのは、この逆パターンです。確定拠出年金の場合は15年以上間を空ける必要があるので、60歳に退職金2,000万円を受け取り、65歳でiDeCoを受け取る場合は合算して2,200万円と計算されてしまいます。

以上のように、「5年ルール」を踏まえて退職金を受け取ると税金面でメリットがあるので、事前によく確認しておきましょう。

退職金にかかる税金の詳しい説明については以下の記事でも紹介しているので、気になる方はぜひこちらもご覧ください。

【関連記事】 退職金にも税金がかかる! 受け取り方による違いや控除について解説

年金として受け取る場合

確定拠出年金や退職金を年金形式で受け取る場合ですが、企業年金の場合、受け取り開始できる年齢には個別にルールが設定されています。基本的には60歳からや、公的年金の受給開始年齢に合わせて受け取れるケースがほとんどです。

年金形式で受け取る場合は、一時金として受け取るときとは異なり「雑所得」として分類され、他の公的年金(国民年金や厚生年金)などの所得金額と合算して「公的年金等控除」の対象となります。

年金の雑所得の計算方法は以下の計算式で求めることができます。

下の表は横にスクロールできます

公的年金等の収入金額 公的年金等に係る雑所得の金額
65歳未満の方 60万円以下 0円
60万円超130万円未満 収入金額 ー 60万円
130万円以上410万円未満 収入金額×0.75 ー 27万5千円
410万円以上770万円未満 収入金額×0.85 ー 68万5千円
770万円以上1,000万円未満 収入金額×0.95 ー 145万5千円
1,000万円以上 収入金額 ー 195万5千円
65歳以上の方 110万円以下 0円
110万円超330万円未満 収入金額 ー 110万円
330万円以上410万円未満 収入金額×0.75 ー 27万5千円
410万円以上770万円未満 収入金額×0.85 ー 68万5千円
770万円以上1,000万円未満 収入金額×0.95 ー 145万5千円
1,000万円以上 収入金額 ー 195万5千円
  • 引用:国税庁「高齢者と税(年金と税)」

例えば、退職金を年金形式で65歳から受け取る場合で考えてみましょう。公的年金の平均受取金額は約175万円なので、その金額で考えます。さらに、退職金を年金形式で1年あたり200万円受け取る場合、所得金額の合計は375万円となります。
その場合の雑所得は下記のようになります。

375万円×0.75-27万5,000円=雑所得:254万円

こう見ると、1年分の課税対象になる所得金額が一時金として受け取った場合とほとんど変わらないので、一見すると年金形式で受け取る方が多くの税金を払ってしまうように見えます。
しかし、年金形式で確定拠出年金や退職金を受け取るメリットもあります。それは、分割して受け取る場合の残りの金額は運用され、うまくいくと将来的にもらえる金額が増える可能性がある、という点です。

金額にもよりますが、退職金の受け取りは一時金の方が税制優遇を受けられる場合が多いです。しかし、どのように受け取るのが良いかはその時々の資産の状況などによって異なるので、自分の状況を鑑みて受け取り方を決めると良いでしょう。

企業型DCと退職金とはなにが違う?

さて、ここまでは企業型確定拠出年金(企業型DC)と退職金の、受け取り方と税制について紹介してきました。では、両者には具体的にどのような違いがあるのでしょうか。ここでは、企業型DCと一般的な退職金制度との違いについて解説します。

企業型DCと退職金はどちらが得?

まず出てくる疑問が、企業型DCと退職金、どちらが得なのかどうかという点でしょう。結論として、一概にどちらが得だと言い切ることはできません。まずは両者の特性についておさらいしてみましょう。

まず退職金の計算方法ですが、これは明確に定められているものではなく、退職金制度を導入している企業によって計算ロジックは異なります。退職時の基本給と、勤続年数などによって変動する支給率をかけて算出する「基本給連動型」、役職や等級によって基準額があり、そこに支給率をかけて算出する「別テーブル方式」など様々です。この掛け率などを含めた計算ロジックは所属する企業の就業規則等によって定められているので、一概にどれくらいもらえるもの、というものではありません。

一方、企業型DCの場合は会社が出した掛金に対して運用を行い、最終的な支給額が変動する仕組みとなっており、この運用成果によって最終的な受取金額が変動します。運用は企業型DCに加入する個人の責任になるので、運用がうまくいけば多くもらえることもある、ということになります。

ご自分が所属する会社に退職金制度が導入されている場合は、どのような計算で算出されるものなのか確認し、企業型DCも選択できるのであれば加入する必要があるのかどうかきちんと検討するのが良いでしょう。

なお、退職金制度の計算方法についてはこちらの記事でも詳しく解説しています。

【関連記事】 退職金いくらもらえる? 自分で計算して老後の生活のシミュレーション

企業型DCと退職金はどちらももらえる?

前述の通り、企業型DCと退職金は必ずどちらももらえるというものではありません。企業型DCも退職金制度もどちらも導入が義務付けられているものではないので、何を採用するかは企業が独自に設定することができます。

自分の企業にはどのような制度が導入されているのかは、就業規則などに掲載されていることが多いので、そちらを確認してみると良いでしょう。

退職金から企業型DCに移行する企業が増えている

企業型DCを導入する企業は増えています。
具体的にどのくらいの企業が導入しているのか、なぜ移行しているのかを確認しましょう。

企業型DCは企業の倒産に影響されない!

地方公務員(都道府県)の退職金の平均
  • 総務省「令和3年 給与・定員等の調査結果等」令和2年4月1日から令和3年3月31日までの期間に退職した職員1人当たり平均支給額を基に株式会社ぱむ作成。

一般的な退職金制度では、退職金の原資は企業が用意し、将来受け取る金額も企業の就業規則により決められています。そのため、もしも企業が倒産してしまったら、退職金は減額または受け取れない可能性があります。
一方で企業型DCは、外部の機関を利用した制度であるため、企業の倒産により退職金の減額や受け取れなくなることはありません。

一般的な退職金制度については、こちらの記事で詳しく解説していますので、あわせて確認してください。

【関連記事】 退職金、わたしはもらえる? 退職金制度を知り、将来に備えよう

企業型DCは大企業の約7割、中小企業の約5割が導入している

まずは大企業のデータから確認しましょう。

企業型DCの導入状況の推移
  • 中央労働委員会「退職金、年金及び定年制事情調査」、東京都「中小企業の賃金・退職金事情」各年度を基に株式会社ぱむ作成。

大企業の場合、退職金制度として企業型DCを採用している割合が2019年時点で67.9%となっています。2003年時点では6.8%でしたので、導入企業が大幅に増えていることがわかります。

中堅・中小企業においても企業型DCの割合は年々増加しており、2011年時点では27.0%でしたが、2019年には46.4%と導入企業が増加していることがわかります。

企業型DCに移行する背景は、景気の悪化

退職金制度が企業型DCへ移行している背景には、日本の景気が影響を与えています。 企業は従業員に支払う退職金を用意するために運用を行いますが、共済や保険のような元本保証型の商品が主です。しかし日本は低金利が続いており、運用成果が悪くなっています。そのため、外部機関を使って従業員が自分で運用する形の企業型DCへ移行する企業が増えていると考えられます。

豊かな老後生活に向け、企業型DCを活用しよう!

豊かな老後生活を送るための生活費は月36万円が目安

ここで、豊かな老後生活を送るためにはどのくらいの金額が必要なのかを紹介します。

「豊かな老後生活」のイメージは人それぞれですが、生命保険文化センターの調査によると、夫婦2人でゆとりある老後生活を送るための生活費の目安は、約36万円(月額)です。

老後に国からもらえる年金の標準額は、夫婦で約22万円(月額)です。
ゆとりのある老後生活費と比較すると、約14万円(月額)不足します。仮にその生活が20年続くとすると、不足額の合計は約3,360万円です。

ただし、この額はあくまで「ゆとりのある老後生活費」の目安より算出しています。夫婦2人で平均的な老後生活を送るということであれば、目安は約26万円(月額)です。その場合、不足額は約4万円(月額)で、20年分の不足額の合計は約960万円です。

年金をどれくらいもらえるのかは、こちらの記事で詳しく解説していますので、実際の不足額を計算したい方はぜひあわせて確認してください。

【関連記事】 年金の受給額〜わたしはいくらもらえる?年代・年収・職業別に解説〜

月5万5,000円を年3%で20年運用すると、約1,800万円に!

現在40歳の方が企業型DCに加入し、年3%の利回りが期待できる投資信託で20年運用した場合のシミュレーションを紹介します。

運用シミュレーション
  • 今回のシミュレーションは、実際に企業型DCでの運用結果をお約束するものではありません。
  • 企業型DCには、投資リスクがあるため損失が発生する可能性もありますので、参考程度に確認してください。

掛金が月2万7,500円なら20年で約240万円、掛金が月5万5,000円の場合は20年で約480万円増えています。受け取り額の合計を見ると、夫婦で平均以上の生活を送るための金額を受け取れることがわかります。

企業型DCでは、企業によって選べる商品が異なります。
商品の種類は、定期預金や保険のように元本が保証されているものと投資信託のように元本が変動するものがあります。安全性を重視する場合は元本が保証されている商品がおすすめですが、その分ほとんど増えることはないと考えておきましょう。一方で元本が変動する商品は上記のシミュレーションのようにお金が増える可能性がありますが、元本割れする可能性もあります。

将来必要となる金額や、元本が変動することによって一喜一憂しストレスにならないかなどを考慮しながら商品を選択すると良いでしょう。
この機会に、どんな老後生活を送りたいのか、そのためにいくら準備が必要なのかを家族で話し合ってみてください。

まとめ

一般的に退職金というと「企業が社内で準備する退職金」ですが、企業型DCは「掛金は企業が出し、外部の金融機関を使って従業員が運用する退職金制度」です。

企業の財務状況の変化から、企業型DCを導入する企業は年々増加しています。企業型DCには税制優遇のメリットもありますので、導入されている会社にお勤めの方は、ぜひこの記事を参考にしてください。制度を賢く活用し、豊かな老後生活を楽しみましょう。

  • この記事は2020年3月時点の基に作成し、2022年11月に内容を更新しています。今後、変更されることもありますのでご留意ください。

花 惠理 (はな えり)

不動産会社や住宅メーカーに勤務後、現在は不動産・金融関係をメインに執筆しているWebライター。大手メディアなどに多数寄稿。不動産業務には年金・保険・税務・保険などの知識も必要だと感じ、FP2級などの資格を取得。不動産や金融などのテーマを初心者にもわかりやすい言葉で解説することが得意。 ファイナンシャル・プランニング技能士2級/宅地建物取引士/賃貸不動産経営管理士

シリーズの記事一覧を見る

関連記事

会社員,年金,節税,退職後