藤島大の楕円球にみる夢
(2022/06/06)

ゲスト/南早紀選手(横河武蔵野アルテミ・スターズ)
ゲスト/田村一博氏(「ラグビーマガジン」編集長)

三井住友銀行(SMBC)ほかがラジオNIKKEI第1で提供するラジオ番組「藤島大の楕円球にみる夢」は、スポーツライターの藤島大さんが素敵なゲストを迎えて、国内ラグビー、日本代表、世界のラグビーなどの幅広い情報を詳しく伝えています。6月6日放送回では、ラグビー女子15人制日本代表の南早紀選手、「ラグビーマガジン」の田村一博編集長が出演されました。

藤島スポーツライターの藤島大です。今日はお二人、ゲストをお迎えしています。
まずラグビーの女子15人制日本代表で、世界ランクでそのとき5位のオーストラリア代表、「ワラルース」とテストマッチを行い、12-10、歴史的勝利と私は思いますけれども、そのときのキャプテン、南早紀さんにお越しいただきました。よろしくお願いします。

よろしくお願いします。

藤島そしてこの番組でおなじみ、女子ラグビーも熱心に追い続けるジャーナリスト、専門誌「ラグビーマガジン」の田村一博編集長です。よろしくお願いします。

田村よろしくお願いします。

藤島南早紀さんの経歴を紹介していきます。1995年11月18日生まれ、福岡県筑紫野市出身ですね。3歳のとき、二人のお兄さんに影響されてラグビーを始めます。お父さんはもともと相撲の選手で、ラグビー好きなんですよね?

はい。

藤島大宰府少年ラグビークラブに入り3歳からずっとプレーをして、小中でラグビーと柔道を両立させていました。福岡県立筑紫高校に進学。ラグビーファンおなじみの強力な東福岡高校に猛練習で肉薄していく公立高校、非常に厳格な雰囲気がある、格別な学校の一つですけれども、初の女子としてラグビー部員になります。女子ラグビー部ではなくて、筑紫高校ラグビー部の一員となって男子と一緒にプレーをしていた。そのとき同僚だった私の知人が「すさまじかった」と言っていました(笑)。筑紫では男子とほぼ同じ練習をするんですか。

まったく同じ練習ですね。

藤島通用していたらしいですね。

いやいやそんなことないです。負けるのが悔しいんで。

藤島高校時代にすでに7人制の女子の日本選抜に選ばれ、日本体育大学に入って今度は15人制のジャパンで出場。大学を出て横河武蔵野アルテミ・スターズに加わって2017年、ワールドカップアイルランド大会に出場します。女子の日本代表「サクラフィフティーン」のキャプテンを2019年から務めています。ポジションはプロップ。背筋がぴっと伸びる、雨が降ると背中に水たまりができる姿勢でおなじみのポジションですね。163cm、72kg、キャップ数は今21です。
お兄さんである長男祐貴さんはフッカーで筑紫高校から関西学院大学、次男の友紀さんもやはり筑紫高校から立命館大学に進みました。もともとセンターで大学でもセンターで試合に出たけれども途中でフランカーになってフッカーに転向。JR九州に入りその後ニュージーランドに武者修行に出て、今、豊田自動織機でプロップとして活躍しています。気が付くと三兄妹とも同じフロントローになっていた。

兄妹でスクラムが組めるんです(笑)。

藤島このほどのオーストラリア遠征、まず5月1日にフィジー代表に28-14で勝利、5月6日にはオーストラリアンバーバリアンズに24-10で勝ちました。そして5月10日、オーストラリア代表ワラルースを12-10で破る歴史的な快挙を遂げました。

田村ワラルースは世界5位というランキングにも表れていますけど強い。それに勝ったというのはすごいですね。フィジーに勝った時「あ、いいラグビーするな」と思ったので、もしかしたらとは思っていたんですけれど、本当に勝ち切るとはね、思っていましたけれども思っていませんでした(笑)。どうですか、南さんは。

いざ勝ったら、想像していた以上の高揚感というかうれしさだったりというのが本当にあって。歴史的勝利と言われていますけど、その瞬間にグラウンドに立てていたのは本当に幸せなことだなって思っています。

田村一番びっくりしたのはメンバー編成が試合直前で変わったのに自分たちでセルフコントロールしてあれだけのパフォーマンスができたのはすごい。

藤島ヘッドコーチを含めて、いわゆるコロナの感染があってオーストラリアとの試合はメンバー変更があった。キャプテンとして非常に難しかったと思うんですけど、どう対処を。動揺はしませんでした?

どうしようというのはなかったんですけど、あ、こんなに間近にコロナがあるんだというのがいちばん率直な感想で。よかったのは、代わった選手たちが、複雑な心境があったと思うんですけどそれを見せずにプレーしてくれたことですね。一選手としてリスペクトしますし、キャプテンとしても本当に感謝していて、誇るべきチームメイトだなと思いました。

田村フィジー戦からディフェンスがよかったですよね。例えばブレイクダウンからとか、セットプレーからとか、あのへんもすごい前に出ていて、しつこいんですよね。チョップタックルを遠征の最初からテーマにしていて、やっぱり外国人選手はすごく嫌がるので、フィジーもどんどんいらいらして、イエローカードとかもらえていたので、あ、この調子でいくといいかな、と。

藤島チョップって足首を狩るようなタックルですね。前に速く出るディフェンスが効いていたし、ラックですね、ブレイクダウンのしつこさも。

前に前に出るというのはレスリー(・マッケンジー)ヘッドコーチが重点的にいつもコーチングされていたので、オーストラリア戦では今まで積み重ねてきたことが特に出ていたなと思います。

藤島田村編集長がずっと見てきて、南さんはどういう選手ですか、ずばり。

田村簡単に言うと立派(笑)。プレーもそうだし言動も立派だし、常にきりっとしているし。

藤島ナショナルチームのキャプテンって大変でしょう。

サクラフィフティーンは一人一人リーダーシップをとってくれる選手がたくさんいるので、みんなのおかげで自分は成り立っているところがあるのでみんなに感謝しています。

藤島立派ですね。

田村立派ですよ。国際レベルとしてはプロップとしては大きくないじゃないですか。でも姿勢がいいのでちゃんと組める。

藤島オーストラリアとの試合、スクラムの対面のアソイバ・カルパーニ、公称95キロ。たぶん110キロくらいありますよね。

ありますね。

藤島極端な体格差があるけれど、試合していたら体格はそんなに関係ないですか?

変えられないことに何か言っても仕方ないので、今自分ができるプレーだったり自分の体格でできるものをというところで低さだったり、ヒットスピードのところをフォーカスしていたんですけど、うまくやれているところもあったので。

藤島サクラフィフティーンのヘッドコーチ、カナダの元選手でもあるレスリー・マッケンジーヘッドコーチ、この方はどういう指導者ですか。

詳細にこだわる、選手自身に考えさせるコーチですね。

藤島細かいところをいい加減にしない、それでいて選手にも考えさせる。

はい。今のはどうだったかというところを「Why?」「Why?」「Why?」と突き詰めていく。それに心をやられるときもあるんですけど(笑)。でもそれによって何が足りなかったのか、考えていなかったのかに気づけるし、細かい部分について考えるきっかけにはなりますね。

藤島ヘッドコーチから「一つ一つ魂をこめろ」と言われたとコメントにあります。

日本の車メーカーのエンジンをつくる工場の動画を観て、その人たちはプライドをもって、魂を込めてじゃないですけどやっている、私たちも一緒だよね、と。

藤島昔、大西鐵之祐さん(元日本代表、早稲田大学監督)が同じことを言っているんですね。「一つのパス、一つのヒットに魂をこめろ、それがチームワークを作るんだ」と。それを思い出したんですよね。
チームには合言葉があるそうですね。

田村「サクラウェーブ」と言われますけど、言葉としては僕らにも伝わってきますが真意というか実際どういうことを込めていますか?

チームの中でもいろいろな捉え方があっていいし自分自身で考えていこうと言っています。私としては、雨が降ってその雨がどんどん水になって波になっていくと考えています。その雨の粒が私たち一つひとつの努力であったり積み重ねていくもの、一つひとつが大きくなって最後、波になって、大きな波に乗って今年10月にあるワールドカップに乗り込んで私たちの波を作っていく、というのが私の解釈としてありますね。

田村壮大ですね。

藤島雨を想起したことはなかった。立派ですね。
個人的に興味があるので聞きたいんですけど、2019年にバーバリアンズに選ばれています。バーバリアンズはもともとは英国の名誉ある、クラブハウスとグラウンドがないクラブと言われているんですけれども、世界中の観客を魅了するようなラグビーをする、尊敬される選手を集めてチームを臨時で編成する、その女子に選ばれ、ウェールズとカーディフで試合をした。どんな経験でした?

2017年のワールドカップの後に女子のバーバリアンズが作られるという話が出ていて、そのときから出たい、プレーしてみたいという気持ちがあったので現実となって誇りに思いましたしうれしくもあり名誉なことだなと思いました。

藤島男子もそうですけどソックスだけ自分の所属クラブのを履く伝統がありますね。

私は両足それぞれ違うソックスを履きました。片方はアルテミ・スターズ、もう片方は日本代表のソックス。ヘッドキャップは筑紫でいきました。

藤島筑紫でカーディフに。

足は2本しかないので。

田村すばらしい。

藤島田村編集長、バーバリアンズもそうですが、今、世界中でシックスネーションズや英国のプレミアシップですごい観客動員が増えたり、私が新聞の扱いを見てもまったく男子の一流試合と同じように、何か女子だからってバイアスがかかっていない、まったく普通の一流の試合として報道されるようになったりしていますね。

田村ヨーロッパのチーム、特にイングランド、フランスが強くなって報道量が増えていますよね。ラグビーマガジンも表紙にサクラフィフティーンの見出しと写真も入っています。世界的にそういう流れになっています。

藤島15人制の女子のラグビーは面白いですよね、本当に面白い。見るスポーツとして、セブンズと同じように、違う面白さだけど同じように楽しめる。

田村今このタイミングでね、国内で女子の15人制のテストマッチなどをワールドカップまでにやってくれればすごく注目されるんじゃないかな。

藤島見たら分かりますよ。面白いんですよね。なんでだろうと思うんだけど、サクラフィフティーンを見るたびに昔の男子のジャパンと重なるんですね。選手の編成がほとんど日本で生まれ育った人、ほぼ漢字の名前が並んでいる時代。強豪国に立ち向かっていくとき、もう前に出ないと、低いタックルじゃないと話にならない、負けるときもあるけど勝つときは感動する。女子のほうが可視化されるというか、くっきり日本らしさが分かる。

田村外国人選手が多かったらだめという話ではなくて、世界の大きい選手に日本の小さな選手が低く速く戦うんだという明確さがみんなの琴線に触れると思うので、ぜひワールドカップまでにね、男子相手でいいから国内でやってもらいたい(笑)。

藤島最後に本年10月8日から開催されるワールドカップニュージーランド大会に向けて、ファンの人に伝えたいことがあったらおっしゃってください。

女子ラグビーを知っていただいて、そこから興味を持っていただいて応援してくださっているのを感じています。もっともっと女子ラグビーのファンが増えていけばいいなと思いますし、これからは女子ラグビーだったり女子の日本代表というのではなく、名前も覚えていただけたらなと思います。

藤島編集長、最後締めてください。

田村男子の日本代表キャプテンのリーチマイケルも立派な男として世の中に知られたので、女子の日本代表のキャプテン南早紀も立派な人間だと多くの人に知ってほしいですね。

6月6日ラジオNIKKEI放送
「藤島大の楕円球にみる夢」
text by 松原孝臣

ラジオ番組について:
ラジオNIKKEI第1で放送。PCやスマートフォンなどで、ラジコ(radiko)を利用して全国無料にて放送を聴ける。音楽が聴けるのは、オンエアのみの企画。放送後も、ラジコのタイムフリー機能やポッドキャストで番組が聴取できる。動画版はU-NEXTで配信中。

6月6日放送分ポッドキャスト http://podcasting.radionikkei.jp/podcasting/rugby-radio/rugby-radio-220606.mp3
U-NEXTでは画像付きの特別版を配信 https://www.video.unext.jp/title/SID0090286