藤島大の楕円球にみる夢
(2022/09/05)

ゲスト/鎮勝也氏(スポーツライター)

三井住友銀行(SMBC)ほかがラジオNIKKEI第1で提供するラジオ番組「藤島大の楕円球にみる夢」は、スポーツライターの藤島大さんが素敵なゲストを迎えて、国内外のラグビーや日本代表などの幅広い情報を詳しく伝えています。
大学ラグビー秋のシーズン開幕にあたり、9月5日放送回は、スポーツライターの鎮勝也氏をゲストに迎えて話を伺いました。

藤島スポーツライターの藤島大です。ゲストはスポーツライター、関西在住です、鎮勝也さんです。お願いします。

どうもこんにちは。鎮と申します。よろしくお願いいたします。

藤島略歴を私の方から。1966年、大阪府吹田市で育ちました。6歳から大阪ラグビースクールで楕円球と戯れて、大阪府立摂津高校、それから立命館大学でラグビーをずっと続けます。卒業後、大阪のデイリースポーツ、スポーツニッポン新聞で整理、整理というのはレイアウトしたりする担当ですけどね、それと取材記者を経験して、記者時代、野球とラグビーを主に担当しました。現在は独立してスポーツライターとして「ラグビーマガジン」、関連サイトの「ラグビーリパブリック」、そこの「ラグリパWEST」で名物コラムを発信しています。野球の著書も複数あるんですけど最近は『ラグビーが好きやねん』という、その連載をまとめた1冊があります。
関西に限らないんですけど、殊に関西のラグビーシーンに詳しいということで、大学ラグビー開幕を前にいろいろ話したいと思います。その前に、小笠原博さんという日本代表の名ロックですね、79歳で亡くなられました。8月26日ですけれどもね。写真見たら分かるんですけど、強面でちょっとぶっきらぼうでわざとちょっと偽悪的な雰囲気を漂わせて。現役時代は近鉄で活躍し、それといわゆる大西ジャパンの中核を担った存在なんですけれどもね。
1971年、イングランドとの6−3の試合を通した映像は残っていないとされているんですけど、ニュース映像はあるんですね。ジャパンのキックオフがあって蹴り込んで白いジャージのイングランドがモールを作る、そこに小笠原さんがばちーんと入って、モールの中からボールをもってそのまま出てくるんですよね。びゅーっと走る。

小笠原博氏

すごい方で、ロックとして歴代ナンバーワンじゃないですか。キャップ数が24なんですけど、今は春と秋にテストマッチのシーズンがあり、ワールドカップもある。今いらっしゃったら100キャップくらいじゃないか。若い方は分からないと思いますけど、本当にすごい選手だった。

藤島顔がね、調べてみてください。いい顔しています。日本のラグビーの歴史で絶対欠かすことのできない大きな大きな存在でした。
ここから大学ラグビー開幕の話題に移ります。関西の本命は、昨シーズンの戦績をもとにすれば京都産業大学。今年1月の大学選手権の準決勝、あわや帝京を倒すかと。

倒していれば優勝していた可能性が高い。

藤島今シーズンもここまでの練習試合その他をみると、一応京都産業大学が中心で先頭を走っている。この見立ては正しいですか?

正しいですね。夏の菅平の戦績を見ても、日本大学に68−26。今年の大学選手権でも対戦しているんですが、そのときは1点差とトントンだった。流通経済大学に56−0、早稲田に26−40と取りこぼしてしまっていますけど夏はいろいろな目的をもってやるので、勝ちに来ていない部分があるんですね。キックを使わないとかディフェンスだけとかフォワード戦に集中するとか。この点数が秋に直結するか分からないですけど、フォワードがしっかりしているのでいいなと思いますね。
1年のシオネ・ポルテレ、目黒学院から入ってきた選手ですが、目黒ではプロップをやっていました。それがセンターをやっています。それを見た関西の重鎮の方が「フィフィタ(天理大学−近鉄)の1年生のときと突破力はかわらない。ディフェンスは上違うか」と。
フランカーの福西隼杜君、もう1人の三木皓正君とバックローもいい。スタンドオフの家村健太君、キック力に秀でた選手で、キックで前に出してフォワード勝負ないしはセンターのところで突破、バックスリーにもいい選手がいるので弱点が少ないというか、どこからでも勝負できます。

藤島三木のタックルいいですよね。磁石というか。
スポーツライター鎮の目で、他の大学で注目するのはどこですか。

注目というか頑張ってもらわなあかんのは同志社なんですね。好むと好まざると、同志社が関西では軸なんですよ。同志社は選手権で4回勝っています。実は1回目の優勝と3回連続優勝の間の選手権でウイングの方が退場する事件がありました。準決勝でね。それで負けてしまうんですけどそれがなければ5連覇していたんじゃないか。若い人は知らないと思うんですけど、つまり同志社は昔から強かった。京産、大阪体育大学、大商大あたりが同志社に対して勝負をかけてそのあともう一回全国で勝負する、そのバロメーターになっていたチーム。同志社が強くないと関西は盛り上がらないという気がします。

藤島同志社の注目の1つは新しい監督が来たということですね 宮本啓希監督。

バックスは橋野晧介コーチですね。宮本監督はサントリー(現・東京サントリーサンゴリアス)から、橋野さんはキヤノン(現・横浜キヤノンイーグルス)から出向という形で来ています。

藤島夏の早稲田戦(25−33)は悪くなかった。前に出るディフェンス、コンタクトが強くて早稲田が手こずっていました。新しい監督が来て新しいビジョンを植え付けていると思います。宮本監督はサントリーの厳しい練習を落とし込んでいくんでしょうけど、同志社は自分たちで伸び伸びせめていくんだというクラブの大義みたいなのがありますよね。

同志社はそのときのメンバーを見てフィジカルとかをつけて学生が決めてやっていく。そういう意味では大学スポーツらしい部分がありましたが、2人の監督、コーチがどれだけ自分の色を出していくか。

藤島例えば、きっちり決め事があって、それを遂行するためにものすごく猛練習をして反復をしていくという作り方をすると、選手の自由性というか、個性がなくなると考えがちなんですけど、多分そんなことないんですよね。宿沢広朗さん(元日本代表監督)がよく言っていましたね。「決め事があったって、その通り攻めて、最後、抜けてパスするかキックするかは自分で決めるんじゃないか」。決め事を恐れることはないと。私もそう思うんですね。

自由に振る舞える状況はある。

藤島確かに昔の文献を見ると、アメリカンフットボールみたいに股の下からひゅっとドロップゴールを狙うとか。

ボールを囲んでね、ジャージをふくらませて誰が持っているか分からないようにしたり。

藤島同志社にはそういう気質が。同志社の黄金時代を率いた岡仁詩さんが亡くなる少し前に自宅で話を聞いたんですけど、「同志社はいつもいつも勝つわけじゃない、しかし勝ったときは素晴らしいんだ。それが同志社のラグビーだと思っている」。早稲田との対比で「早稲田はいつも勝ちにいくでしょ」と。

それがチームの面白さですよね。早稲田も正しいし、同志社は選手が集まったときに勝つ、それを率いた人が言うのは重みがある。

藤島「薄い戦力で強いところを一発勝負で倒していく、大西先生はそうでした。でもね、私は強いものが勝つべきだと思うんですね。弱いもんが勝ってはいけないんじゃないかと思うんだ」。それも面白かったですね。あの人は天王寺高校出身で、もし天王寺高校の監督になったら、私学の強いところに一発勝負仕掛けるんじゃないですかと聞いたら、「うん、やりたいかもしれませんね。一番面白いからね」と。

岡先生のすごいところは、全否定はしないんです。お前の言うことも分かるなあ、と。

藤島「早稲田の人は『絶対』と言うでしょ、僕は言えないです」とも言っていましたね。

大西鐵之祐先生は、絶対はないけど信じる。岡先生は絶対はないんじゃないかと言う。でもどっちも優勝している。どっちが正しいかじゃなくどっちが好きか、大学ラグビーはそれでいいんじゃないか。

藤島昨シーズンの近畿大学は驚かされましたね。

中島茂という名物監督、今は総監督ですが、この人が面白いですね。昨シーズン活躍した選手たちが抜けてどうなっていくか。

藤島大事なシーズンですね。天理はある程度のところに持っていくだろうなと。天理が2020年度の大学選手権で初優勝する数年前、前田隆介(早稲田大学−近鉄)に天理にどういう印象を持っているか聞いたことがあります。「あそこはね、ラグビーがしなるんですよ。突進型の留学生もしなるラグビーの中に組み込まれている」。

前田さんは関西大学のコーチをしていましたし、天理高校出身。近いところで見ることができている。私も「ラグビーって何ですか」と聞いたことがありますが、「スクラムとブレイクダウン。そこに各チームが色を出していく」と言っていましたね。天理は岡田明久さんがスクラムのコーチを、比見広一さんがブレイクダウンを担当していて、大崩れしません。スクラムを強化すると拠り所ができるんですね。京産大の大西健先生(元監督)が「スクラム、スクラム」と言っていましたが、そうやな、と。

藤島関東では帝京も相馬朋和新監督です。

ラグビー界の西郷隆盛と呼んでいるんですけど、人を包み込む力があるんですね。山みたいな体をしていて、それでじわーっと人を包み込む。

藤島選手層は厚い。留学生も利いていてプラスアルファがあって、やっぱり軸になっていく。

ちょっと映像を観たんですけど、バックラインがいいんですよ。例えばラインが外に流れていくと普通はそのまま流れていくんですけど、帝京ってウイング、フルバックが結構クロスで入ってきたりするんです。バックラインが教え込まれている。気の利いたプレーする。

藤島夏を見ていると早稲田が上がってきました。

本命は帝京、対抗は早稲田と思います。バックラインに選手が集まっていて、速いしうまい。あとはフォワードがどこまでできるか。

藤島スクラムが急速に伸びていますね。仲谷聖史コーチの考えが浸透して「押さないと負けだ」とマインドがかわった。

スクラムが勝つとチームが乗る。早稲田は怖いですね。

藤島早稲田の卒業生がときめいているのはCチームが帝京に勝ったこと。瞬く間に広がって、今年は行けるんじゃないかと。Aチームが。

Cチームと3つめになると選手層の薄さ出てきますが、Cが勝ついうことは全体に上がっているんじゃないか。C、Bを上げていけば勝手にAはお尻に火がつく。それができる監督、コーチはえらい。

藤島明治大学も地力はありますね。

選手層厚いですね。ウイングの石田吉平君や怪我している人が戻ってくると。

藤島慶応、筑波もどこに対しても一発勝負する力はある。

慶応は明治と早稲田のときは別物。最終戦には帝京があって、この3校には、そこまで負けていても違うチームになる。その日までの勝敗だけで決まらないすごみがあります。

藤島リーグ戦では、東海大学、しっかり体を作って真面目にプレーするチームですね。

このチームのすごさは木村監督のマネジメント力だと思います。きちっきちっとするので大崩れしない。やることを分かっていてチームをまとめている。リーグ戦4連覇、たいしたもんだと思います。日本一になりたい気持ちがあると思うのでリーグ戦では軸ですね。

藤島たいがい試合直前には勝敗があたるけれど流通経済大学だけはうまく予想できない。突然大爆発する。前の試合を見て研究すると危ない。

大東文化大学も爆発する力があります。

藤島昨シーズン、リーグ戦で2位になり殻を破った日本大学は菊谷崇ヘッドコーチが就任しました。

ジョン・カーワンが日本代表の監督をしていた頃、いちばん信用していた選手です。

藤島さっぱりしていて感じがいいんですね。いい人間だなと思います。
今日はどうもありがとうございます。

ありがとうございました。

9月5日ラジオNIKKEI放送
「藤島大の楕円球にみる夢」
text by 松原孝臣

ラジオ番組について:
ラジオNIKKEI第1で放送。PCやスマートフォンなどで、ラジコ(radiko)を利用して全国無料にて放送を聴ける。音楽が聴けるのは、オンエアのみの企画。放送後も、ラジコのタイムフリー機能やポッドキャストで番組が聴取できる。動画版はU-NEXTで配信中。

9月5日放送分ポッドキャスト http://podcasting.radionikkei.jp/podcasting/rugby-radio/rugby-radio-220905.mp3
U-NEXTでは画像付きの特別版を配信 https://www.video.unext.jp/title/SID0090286