藤島大の楕円球にみる夢
(2022/12/05)
ゲスト/田村一博氏(「ラグビーマガジン」編集長)
三井住友銀行(SMBC)ほかがラジオNIKKEI第1で提供するラジオ番組「藤島大の楕円球にみる夢」は、スポーツライターの藤島大さんが素敵なゲストを迎えて、国内外のラグビーや日本代表などの幅広い情報を詳しく伝えています。
12月5日放送のゲストは、「ラグビーマガジン」の田村一博編集長です。
藤島スポーツライターの藤島大です。ゲストはベースボール・マガジン社、「ラグビーマガジン」編集長、おなじみ田村一博さんです。よろしくお願いします。
田村よろしくお願いします。
藤島ジャパンの取材で、いわゆるヨーロッパですね、イングランドとフランスに行ってきたと。今日は徹底的にその現地事情と、珍道中のありさまを語っていただこうと思います。
田村編集長の経歴を私の方から紹介します。1964年10月21日、東京オリンピックの年ですね、熊本市生まれ、鹿児島中央高校、早稲田大学卒業。鹿児島中央高校時代は野球部です。
1989年、ベースボール・マガジン社に入ります。「ラグビーマガジン」「週刊ベースボール」を担当して今、「ラグビーマガジン」編集長です。早稲田大学時代、伝統のある「GWラグビークラブ」に所属しました。ポジションはフッカーでした。広島カープの熱烈なファンとして、我々の世界ではとどろいております。
早速ですけれども、男子のジャパンですね。男子15人制のジャパン、イングランド、フランスと現地で見て、しばらく語ってください。
田村分かりました。ヨーロッパ、強いですね。選手たちも言っていましたけど。オールブラックスより強いと言っていました。
藤島プロップの稲垣啓太もフランスはオールブラックスよりだいぶ強いと言っていましたね。
田村リーチ(マイケル)は「イングランドの当たりが全然違った」と言っていました。あのときの試合、すごいプレッシャーもかけられたじゃないですか。特にフロントローがシャローでばーっと出てきて。それもあったと思いますけど、オールブラックスの比じゃないって言っていましたね。
藤島これは選手の実感で現地にいたからこその貴重な証言ですね。
田村エディ(・ジョーンズ)はもうにこにこしていて「何の準備もしてないよ」と言っていましたけど、かなり準備していますよね。前の週にアルゼンチンに負けたので、気合の入り方はかなりでしたね。
藤島あのアルゼンチンがイングランドに勝ったのを見て、あ、まずいな、と。
田村そう思いますよね。
藤島トゥイッケナムはどうでした?
田村相変わらず満員でみんなお酒飲みまくって。もう床がベタベタで、帰りはみんな残るじゃないですか、残ってスタジアムのパブでずっと飲み続けている。とにかくジャパンのプレーには興味ないんですよね、あの人たち。試合前から(日本代表ヘッドコーチの)ジェイミー(・ジョセフ)が言っていたんですって。「日本のときにはしーんとした空気があるから、そういうときは自分たちで盛り上げる。じゃないとなんか変な感じになっていくから。このトゥイッケナムでやれるのはすごく貴重だし、そういうことも味わっておけよ」という話があったそうですね。
藤島ヨーロッパではラグビー、すごいお客さんが入るじゃないですか。やっぱりコロナがあって、もういよいよ解放されて彼らにしたら、久しぶりにあそこで騒ぎたいっていう感じですよね。
田村大騒ぎですよ。電車も早い時間から満員でみんな叫んでいるし。コロナないですね。あるけどないですね。はい。
藤島観客は8万人ですか?
田村8万超えていましたね。
藤島試合ですが、これ先に言いますけど、日本のラグビー好きの集まる酒場界隈では「イングランド、オフサイドじゃね?」と。
田村よく見たらどうか。あんなに早く出られるわけないとは思いましたけれど、現地では「すごいな」、しか思わなかったですね。もう手も足も出なかったなという感じがしました。
藤島そこに敗因はないですよね。ほんとうにジャパン攻略法としてある種の一つのモデルで、球の出所にもプレッシャーをかける、ラックのところでカウンターしていってハーフにプレッシャーかける、ファーストレシーバーに距離を詰めてしまう。
イングランド戦はスクラムでかなりペナルティを取られて。稲垣啓太に立ち話のような感じでそこを聞いたら、あれは向こうの反則なんだというニュアンスでしたね。
田村リーチもレフリーとやりとりするときに最初から日本の反則だろと決めているような感じだったと言っていましたね。
試合の後にチームとして10個ちょっと疑問なのがあると質問状を出したら「8つ間違えていました」と回答が来た、と。
藤島いいですね、正直で。
「ラグビーマガジン」、あの時期はちょうど次の号を出す最後の、土壇場のものすごい時期ですよね。
田村リーグワンの写真名鑑も付録で付いているし、それを持ち込んでいました。
キャップ数合っているかな、身長体重合っているかなとかそういうのをずっとやって。
藤島今、円安じゃないですか。けっこう大変でしょう。
田村大変も大変ですね。こんなことばかり気にして生きていかなきゃいけないかっていうぐらい。パンとかあまり好きじゃないんですけれども、パンしか食えないくらいとか、ホテルから近くのスーパーに行って冷凍食品を3食分ぐらい買って、もうそれで4000円ぐらいになるとかそういう生活をしていましたね。
藤島もし若い人が聞いてくださっていたら、ラグビーを取材するなんて何ていい仕事だろうと思っていると思いますけど、そういう面もありますよね。
皆さんご存知でしょうけれども、イングランドは来年のワールドカップでプールD、ジャパンと同じ組ですね。他にアルゼンチン、サモア、チリ。今回フランス戦が行われワールドカップでもジャパンのベースとなるトゥールーズにはラグビーが盛んで強いクラブがある。日野剛志が在籍していたスタッド・トゥールーズ。どうですか、雰囲気は。
田村まずパリより全然治安がいいですね。これが最高ですね。大きい市場もあっていい感じで、ラグビーがすごく盛んで、ラグビーと航空産業の街ですね。エアバス社があって、航空博物館があってコンコルドが置いてある。ワールドカップのときに訪ねるのはいいんじゃないですか。
藤島フランス戦の印象は?
田村イングランド戦ほど差はなかったですよね。前半はちょっと空気にのまれたかな、というのがあってミスにつけ込まれて点を取られて、ちょっと差が開きましたけれど。ブレイクダウンでそんなに負けていないので後半になってボールを動かせて、そうなると攻めることができて、得点も7点差ぐらいまでいったところはあったんですけど、勝てるという雰囲気はちょっとないのかなという気はしましたね。
藤島近場を中野(将伍)が抜けた場面がありましたね。齋藤直人と2人でつないでトライに。
田村齋藤直人のあのサポートプレー、最近すごいですよね。イングランド戦でもワーナー(・ディアンズ)が抜けたところについてトライ取ったし。
藤島今、ハーフがそこを狙っていくのはけっこうありますね。昔はパスと、ちょっと深く帰って俯瞰してポイントとかラックができたらそこに追い上げて走っていって放るのがいいハーフと言われていて、高校生はまずそれをトレーニングした方がいいと思うんですけど、今のラグビーではハーフはパスしたらちょっと平行に走って。
田村先回りが多いですよね。
たしかに今言われたように、立正大学監督の堀越(正己)さん、スクラムハーフの名手じゃないですか。「パスしたら必ず後に1メートル下がってから行け」と僕もそう教わりました。
藤島後ろに下がって追い上げろ。これ理にかなっているんですね。ビジョンが広がるので。
田村「もしスタンドオフが落としても自分が下がりに行っているからそこでボールを確保できる。それが大事なんですよ」と言われました。
藤島僕は一度それを身につけるべきだと思います。
印象に残った選手はいますか?
田村ワーナー。すごいですよね。まだ二十歳で7キャップですよ。毎試合通用していますもんね。オールブラックス戦なんか4人のロックでいちばんよかったですよね。
藤島「ニュージーランド・ヘラルド」のコラムニストも書いていました。オールブラックス2人も含めて4人でいちばん、と。ニュージーランド協会を批判していましたね。こういう選手を逃している、こういう選手にもっと目を向けなきゃいけないんだと。
ほかに選手の発言やスタッフの発言、何かありますか?
田村2022年度の活動が終わったので次に集まるのが2023年の5月、6月じゃないですか。本当にリーグワンの戦い方が一人ひとり大事で、ワールドインターナショナルで戦ったスタンダードを絶対に下げることなくリーグワンで戦っていかなきゃいけないというのは選手が言っていましたね。
藤島リーグワンがいよいよ始まるんですけど、昨シーズンはいわゆるパンデミックの影響はもちろん受けました。
田村コロナに関して別に気を緩めているわけじゃないですけど、去年よりはちょっとルールが緩和されて、簡単には試合を中止にならないよう段階的に検査をしていって、23人そろえられるような仕組みになっています。万が一流れたとしても、簡単に中止するのではなく再試合をどこかで用意すると言っていましたね。
藤島チケットが買いづらいという声もけっこうありました。
田村できるだけアナウンスを多くするんですけど、システム自体は簡単にできるもんじゃないんですって。翌シーズンぐらいか翌々シーズンからできるようにはしたいんだって言っていましたね。
藤島ふらっと見に行くことができないのはふらふらしている人間にとって非常に大事なところですね。
ラグビーそのものの話ではどうでしょう?
田村シーズンの序盤に関しては、代表選手が長くハードな活動を続けたので、例えば開幕戦には間に合わないというかちょっと休んだ方がいいんじゃないかとか、そういう選手たちもいるので、例えばパナソニックは10人近く代表選手が出ています。彼らが全員出る状況にはならないと思われるんですね。他のチームと力が近づくので、より接戦になるとかこれまで出られなかった選手が頭角を現すとか、そういう意味では新しいものは見られますね。
藤島強いのは、今の時点ではどうしてもビッグなクラブとなりますよね。
田村そうですね。でも各チーム、特にD1チームの力は近づいてきています。昨シーズンのMVPの堀江翔太選手も「今は自分たちが強いから全員必死に向かってくるし、楽な試合は本当に1つもないですよ」と言っていましたね。
藤島昨シーズン、正直TMOがあまりにも回数が多いし長すぎるし、リーグワンの問題でもあるけれど、今、国際的にも問題になっていますね。ラグビーが複雑になりすぎていると。女子ラグビーのワールドカップの決勝戦を観たときになにか原点を見るようでした。レフリーが目立たない、選手が伸び伸びと自分を表現する、聞かれたことは何でも素直に喋る、自分の意志で話す、すぐ広報が入ってこない、そういうことを向こうの記者が書いている。ルールも複雑になりすぎていろいろなことが起きすぎますよね。
田村そうですね。イエロー、レッドで試合が崩れてしまって、ちょっと勝利の価値が落ちてしまうというのは多いですよね。やっている方も見る方もちょっと残念なところがある。安全とか公平公正とか、その辺ももちろん大事なんでしょうけど、もうちょっと人間味があっていいような気がしますね。
藤島リーグワンは非常にオープンなラグビーをどのクラブもするし、レフェリングの解釈というか適用ももう少し選手を信用して性善説に立って。
田村ビデオを、悪気がないのを証明するために使ってくれた方がいいかなとは思います。
藤島「ラグビーマガジン」1月号、今発売中ですけどね、リーグワンの名鑑、恒例のラグビーカレンダーが付録としてついています。付録って言葉、子どものときを思い出してなんかときめきますね。
田村お得ですよ。2大付録ですからね。
藤島表紙は?
田村日程的にイングランド戦、中村亮土さん。
藤島本日のゲスト、ベースボール・マガジン社「ラグビーマガジン」編集長、田村一博さんでした。ありがとうございます。
田村ありがとうございます。
12月5日ラジオNIKKEI放送
「藤島大の楕円球にみる夢」
text by 松原孝臣
- ラジオ番組について:
- ラジオNIKKEI第1で放送。PCやスマートフォンなどで、ラジコ(radiko)を利用して全国無料にて放送を聴ける。音楽が聴けるのは、オンエアのみの企画。放送後も、ラジコのタイムフリー機能やポッドキャストで番組が聴取できる。動画版はU-NEXTで配信中。
12月5日放送分ポッドキャスト http://podcasting.radionikkei.jp/podcasting/rugby-radio/rugby-radio-221205.mp3
U-NEXTでは画像付きの特別版を配信 https://www.video.unext.jp/title/SID0090286