藤島大の楕円球にみる夢
(2023/01/02)
ゲスト/藤井雄一郎氏(男子15人制日本代表ディレクター)
三井住友銀行(SMBC)ほかがラジオNIKKEI第1で提供するラジオ番組「藤島大の楕円球にみる夢」は、スポーツライターの藤島大さんが素敵なゲストを迎えて、国内外のラグビーや日本代表などの幅広い情報を詳しく伝えています。
1月2日放送回は、男子15人制日本代表の藤井雄一郎ディレクターが出演しました。
藤島スポーツライターの藤島大です。日本ラグビーフットボール協会、男子15人制のナショナルチームディレクター、藤井雄一郎さんをお招きしています。お願いします。
藤井お願いします。
藤島2度目の登場です。略歴を私の方から紹介します。1969年5月28日生まれ、奈良県の出身です。天理高校、名城大学、それからニコニコドーそして宗像サニックスでバックスとしてプレー。センターでしたね。キャプテンもしました。2004年からサニックスのバックスコーチで2005年に監督に就任します。2019年1月に退任。
スーパーラグビーのサンウルブズのゼネラルマネージャー、それから男子の15人制強化委員長に就いて、いわば今のジャパンのジェイミー・ジョセフヘッドコーチの、何て言うんでしょうかね、横にいて一心同体と言ったら失礼ですか(笑)。それと私は非常にこの経歴が好きなんですけど、2003年に東海学生リーグで母校の名城大を率いて、しっかり優勝していると。これがね、指導力の証だと私は思います。
早速ですけれども、せっかく来ていただいたので欧州に遠征した中身ですね。それと、その前の東京の国立競技場でやったオールブラックス戦についてお聞かせください。
藤井イメージとしては世界で一番強いというか、このチームでオールブラックスとやるのは次いつ訪れるか分からないチャンスなので、気合は一番入っていましたね。
藤島ジェイミー・ジョセフさん、トニー・ブラウンコーチ、2人ともオールブラックだったわけで、思うところがあった?
藤井そうですね。いつも試合の日はホテルを出る前にミーティングするんですけど。まあ、ジェイミーは、気合が入っているなと。
ミーティングがうまくいったときは、やっぱりいい試合をするんですよね。ちょっと考えすぎてしまったりというときは、試合もあまりよくなかったりする。あの試合はミーティングがばっちりだったですね。
藤島よく「塹壕を語るな」、「その中は、中の人の秘密だ」と言うのを承知で聞くんですが。どういう風に持っていったんですか?
藤井選手も今どれぐらいの位置にあるのかというのと、オールブラックスがあまり調子よくなかったので絶対勝てるんちゃうかっていう思いでやっていて、手の届くところまでは行っていたと思うんですよね。ずっと厳しい合宿をやって、試合の2週間前に1週間休みにしたんですね。これはジェイミーのスタイルで、家に帰って家族と会ったりして。実はワールドカップの前もそうだったんですけれど、ワールドカップの前の2週間前に1週間休みしたんですよね。1週間しか練習していないんですよ。たぶん「大丈夫かな?」みたいに思われたかもしれませんが。
藤島心配になりますよね。
藤井でも僕らもそれはもう慣れていたので1回リセットして帰ってきて。すごい集中力も高かったですし、練習もよくて。結果は負けたんですけれど、すごいみんな悔しがっていましたよね。チャンスがあったからですね。
藤島欧州に行って、11月12日ですね、あのトゥイッケナムで大観衆のイングランドと戦います。これスコア見ると13対52で。スクラムで反則取られて、結構「やられたな」って印象があるんですけど。本当のところは?
藤井あそこは8万人入るんですね。それは僕らも意識して、そこはもう「自分たちのエネルギーに変えろ」とは言っていたんですけど、やっぱり向こうの一つひとつのいいプレーに大歓声が沸く。逆に言えば、2019年のワールドカップのときに、僕らがそのエネルギーをもらっていたわけですね。
藤島そうですね。
藤井イングランドもその前にアルゼンチンに負けて、結構ぎりぎりの状態だったんですよ。その中でレフリーもちょっとのまれている感じだったんです。あとから僕らも反則についての疑問点10個のクリップを送って、8つは「間違っていた」と認めたんですね。レフリーも、やっぱりティア1相手に勝たせてしまうと、どうなるかとプレッシャーがかかります。アセスメントもありますし、もしかしたら試合に呼ばれなくなる可能性もある。やっぱりラグビーの場合はあんまりアップセットを好まないですね。ちょっと調整が入るんですよね、やっぱり。
藤島「調整」っていい言葉ですね(笑)。
藤井それも含めて、点数ほどやられた感はなかったですね。その次のフランス戦でもしっかり立て直しましたし。
藤島トゥールーズに滞在してキャンプを張って、気づいたことはありますか。
藤井日本をたぶん応援してくれるだろうなっていうくらいみんなによくしてもらいましたね。ホテルの周りは何もなかったので、どう飽きさせないようにするのかということと、ベッドが硬くて腰が痛いとか寝られない奴が結構いて。
藤島そういうことが大事なんですね。
藤井そうですね。だからそこはコーチがつてのある寝具メーカーさん にお願いして(笑)。何とかしてくれるんじゃないかなと思います。
藤島フランス戦は11月20日ですね。率直な印象は?
藤井選手は実際勝つならフランスかなと思っていましたね。でもまあ、普通に強かったですね。実際は、イングランドはなんとかなるな、みたいな感じが。たぶん次はああはならないと思うんですよ。
藤島選手の評価は立場上難しいですけど。これは楽しみだなって選手の名前をあげることができますか?
藤井ベテランで言えばリーチマイケル。なんであんな風に復活できたか分からないくらい調子いいですね。李承信もよくなりましたし下川甲嗣とかもそうですね。ちょっと選手層の厚みが増えたかなと思いますね。
藤島2023年と言えばワールドカップイヤーなのでジャパンの強化の全てを知る藤井さんに聞いていきたいと思います。まずリスナーなんかも興味があるところなんですけど、掲げているモットー、2019年に「ONE TEAM」が非常に有名になりました。今は「OUR TEAM」ですね。
藤井前回はほんとうに「ONE TEAM」になろうと。多国籍やったんですごい大変だったですけれどそれも出来たので、今度は出来上がったチームを自分らのチームやと思って育て上げようと。
藤井ワールドカップ本大会はプールD、イングランド、それからアルゼンチン、サモア、チリ。どう捉えていますか?
藤井直前になって、しっかりプラン立てると思うんですね。今どうのこうの言っても早いので。
藤島我々のほうが気が早くて「ここがターゲットでここに勝負を懸ける」とか話したがるけれど、まだその段階ではない?
藤井2週間前ですね、それをやるのは。
藤島一緒に刺身を食べながら焼酎を酌み交わす親友のような存在でもあるし盟友でもあるし、ジェイミー・ジョセフさんを一番よく知るのが藤井さんですが、どういう人ですか?
藤井絶対に安心させないですよね。ベテラン選手だったとしても気持ちよくそこのシートに座らすことは絶対させない。
藤島リーグワンで今まで網にかかってないけれどあまりにも元気がいいとか頑張っていると、そこをファンはすくってあげろと思うけれど、コーチにはコーチのビジョンが。
藤井そうですね。リーグワンで持ち合わせているスキルとテストマッチで僕たちが欲しいスキルはちょっと差があるんですよ。ティア1とやると半分以上はディフェンスなんです。ハイボールが飛んできますし、そうすると多少足が遅くてもハイボールを100%とる選手を選ぶんですね。そこでやられるともう何もできなくなるので。
藤島正しいですよね。
藤井それプラス自分の持ち味を出せる選手にならないとテストマッチでは戦えないですね、やっぱり。
藤島フォワードとバックス、それぞれいかがでしょうか。
藤井フォワードは今ものすごくいいんですよ。バランスがとれています。ラインアウトもいいですしディフェンスもスクラムもよくなっています。あとはバックスがどこまで高められるか。
藤島バックスでここは伸びてほしいというのは?
藤井決定力が欲しいですよね。例えば(福岡)堅樹みたいな、どこかでトライを獲ってくれる、みたいな。そういう選手が出てきてほしいですね。
藤島今更ながら福岡堅樹のスピードというのは。
藤井自分でボールを獲ってそのままトライしますから。タックルもジャッカルもいけますし総合力で素晴らしい選手だったのでああいう選手が出てきてほしいというのがあります。
藤島ワールドカップで一番大切なことは?
藤井どのチームに対してもしっかりファイティングポーズを取れるかどうかだと思うんです。
藤島前のテストマッチシリーズの試合前の記者会見で下川が「チームのテーマがストリートファイトだ」と言っていました。一番ストリートファイトしそうにない人間が。
藤井パブファイトとかストリートファイトとか言う人いると思うんですけど、オールブラックスは仕掛けてくるんですね。いろいろな面倒くさいことを。それに対して、しっかりファイトしとかないと気持ちで負けてしまう。最もやってくるのはイングランドなんですけど。
藤島「何が紳士の国だ」、と?
藤井全く紳士の国ではないですね。ばれないようにやっている。やられたときにやり返すんじゃなく、プレーで負けないようにファイトしないと。
藤島日本では誰がその役を?
藤井稲垣啓太とか意外とできますね。下川もできますよ。
藤島藤井さんは「持たざる側」の指導もしたことがありますが、選手の性格が大事じゃないですか。
藤井ジェイミーと話するんですけれど、コーチをやっていて失敗したときは試合に出れていない選手に対する気遣いがちょっとおろそかになったりしたとき。今回はまったく出ない選手もいて、そっちは僕が見ていたんですけど、みんなすごい頑張ったんですよね。
藤島特に日本の選手は辛抱強いから不満はあまり直接もらさないじゃないですか。自然に良くない雰囲気になると怖いけれど、そういう意味ではいい集団ができてきた。
藤井はい。小指だけでも引っかかって残っているんやったらそれはチャンスじゃないですか。まだ9カ月か8カ月ある。どういうチャンスが巡ってくるか分からないので、そこはもう絶対にあきらめずに頑張っていくしかないと思うんですね。そういう意味ではどのチームも一緒ですよね。代表だからスペシャルなことがあるのではなく、やっていることも起こる問題も全部一緒だと思うんですね。
藤島私もワールドカップに向けて新しい戦術や戦法を導入するのか、みたいなことを聞こうと思ったんですけど、大体練習はふつうのことをやるんでしょう?
藤井そうですね。こういうシステムでこうやったら勝てる、というのはワールドカップではあまりないんですね。
藤島では最後にあらためてなんですけど、ワールドカップの目標を。
藤井一戦一戦ファイト出来るように戦って、最低でも前回と同じところにいって、そのあといけるかどうかというところまではいきたいなと思っています。2019年はファンの皆さんの声援がどれくらい力になったかというのはアウェーに行って余計に感じるんですね。5点違うと思うんです。だからしっかり盛り上げていただいて選手に力を与えていってもらいたいなと思います。
藤島9月8日、フランスで開幕するラグビーのワールドカップに向けて男子15人制日本代表ナショナルチームディレクター藤井雄一郎さんに来ていただきました。ありがとうございます
藤井ありがとうございました。
1月2日ラジオNIKKEI放送
「藤島大の楕円球にみる夢」
text by 松原孝臣
- ラジオ番組について:
- ラジオNIKKEI第1で放送。PCやスマートフォンなどで、ラジコ(radiko)を利用して全国無料にて放送を聴ける。音楽が聴けるのは、オンエアのみの企画。放送後も、ラジコのタイムフリー機能やポッドキャストで番組が聴取できる。動画版はU-NEXTで配信中。
1月2日放送分ポッドキャスト http://podcasting.radionikkei.jp/podcasting/rugby-radio/rugby-radio-230102.mp3
U-NEXTでは画像付きの特別版を配信 https://www.video.unext.jp/title/SID0090286