藤島大の楕円球にみる夢
(2023/02/06)

ゲスト/福本美由紀氏(フランス語通訳兼ライター)

三井住友銀行(SMBC)ほかがラジオNIKKEI第1で提供するラジオ番組「藤島大の楕円球にみる夢」は、スポーツライターの藤島大さんが素敵なゲストを迎えて、国内外のラグビーや日本代表などの幅広い情報を詳しく伝えています。
2月6日放送回は、フランス語通訳兼ライターの福本美由紀さんが出演しました。

藤島スポーツライターの藤島大です。ゲストは2015年のラグビーワールドカップ・イングランド大会でジャパンのフランス語通訳を務めた福本美由紀さんです。お忙しいところ関西から虎ノ門のスタジオに来ていただきました。お願いします。

福本よろしくお願いします。

藤島私の方からざっとプロフィールを紹介します。
福本美由紀さん、最初に日本の服飾メーカーに就職をされて、そこでフランス語を学ぶ機会を得ます。その後留学し、在大阪のフランスの総領事館で6年間働く、そしてその後有名な「エルメス」、日本の「エルメス」に職を得ます。フランス語、私も聞いたことありますけども、いわゆるベラベラです。
ジャパンの時代、覚えていらっしゃるリスナーの方もおられると思いますけれど、マルク・ダルマゾさんというフランスから来たスクラムの虫みたいなコーチがいて、その人をほぼ担当していたんですね。かなり私は変人と見ますけれど、後でちょっとその話も聞きたいと思います。
また福本さんの弟正幸さん、福本正幸さんは、天王寺高校、慶應大学のプロップですね。神戸製鋼に進んで今、コベルコ神戸スティーラーズのチームディレクターです。神戸のチームを司っている人。慶應時代から私よく見ていましたけれども、慶應の中でがっちりして体が強いフォワードで、風貌がね、慶應ボーイのイメージを爽やかに裏切る。

福本(笑)。

藤島でもいい人ですね。
福本さん、要するにフランス語のエキスパートであってラグビーに近いところにおられたということでまさにこのワールドカップイヤー、様々な役割があるんだと思いますけれども、いわゆる通訳兼またフランスのラグビーなどに関する文筆ライターとして活躍されています。大体以上のような感じで問題ないですか。

福本はい、ありがとうございます。

藤島ラグビーのワールドカップ、今年9月開幕ですけれども、ジャパンは最初がチリと9月10日にトゥールーズというところで戦います。トゥールーズ、ラグビーが盛んな土地ですよね。

福本そうですね。ワールドカップ期間中は地元のプロのラグビーは完全に試合が止まってしまうので、そっちが楽しめないのがかえって残念なぐらいラグビーが盛んなところですね。ラグビーファンが行きつけの酒場のパブとかもあるので、ぜひそういうところでね、地元の人や他の国から来ている人と交流を楽しんで欲しいなと思いますね。

藤島9月17日のイングランド戦は、ニースというところです。これはどういうところ?

福本ニースはコートダジュールですね。昔から冬の寒い時期に暖かいところを過ごそうということで冬のリゾート地だったんですが、ビーチがあるので夏のリゾート地、観光地にもなっています。とてもきれいな浜辺があるんですけれど、砂浜じゃなくて石ころなのでニースに滞在している間、試合のないときはちょっと足をのばして周りの小さなプロバンスの村に観光されるのもいいかなと思います。

藤島行きたいですね、村。フランスって小さな町の角のパン屋さんとかああいうのが美味しいんですよね。

福本そうなんですよ。

藤島ジャンボンって言うんでしたっけ。ものすごくおいしいですよね。

福本バゲットにハムとバターだけ入っているサンドイッチ。あれだけで十分。

藤島あれが底力なんですよね。

福本底力ですね。レストランに行かなくてもお手軽に楽しめる、そういうファーストフード的なものもね、楽しんでいただければと思います。

藤島第3戦が28日。これまたトゥールーズですね。最終戦。プールの最終戦、10月8日、アルゼンチンとナントというところです。
過去のワールドカップを振り返ると、2007年もそうですけど、フランスの人は大体日本をけっこう応援してくれるんですね、自国のチームが関係ないときは。やっぱり長いものに巻かれない雰囲気をみんな持っているらしいと。アルゼンチンとジャパンがやったらフランスの中立の人ってどっちにつきますかね。

福本難しいですね。アルゼンチンの選手、結構フランスでプレーしている選手が多いので。でもやっぱりプレーにもよる。
ダルマゾのエピソードをと思っていろいろ思い出していたんですけど、2015年ワールドカップ開幕戦の南アフリカ戦前に、フォワード集めてミーティングをしたんですよ。いつものようにスクラムのビデオが出ると思っていたら、「グラディエーター」を見せたんです。主人公は勇敢に戦うから観衆を味方につけたんです。それを伝えたかったんですね。アルゼンチン戦もきっとその日本がどういう戦い方をするかで。

藤島それにもよるということですね。
昨年の秋、ジャパン日本代表がヨーロッパツアーに行って、フランスと戦いました。トゥールーズでした。現地でご覧になって、17対35で敗れましたけれども、雰囲気その他どういう印象を持ちました?

福本実はあの試合の後フランスチームがフランス人の観客からブーイングされているんです。

藤島そうなんですか。

福本つまらない、プレーを思い切りしなかったから、ラグビーをしようとしなかったから。シックスネーションズもあるので、フランス代表のアタックコーチがアタックのオプションをとても限定していました。あんまり手を与えなかったのですね。

藤島手の内を明かさなかった。

福本というのもあるし、怪我人が多かったから、あまりあれこれしようとせず勝つことを優先に考えたということなんですね。ただあれだけのレベルの選手たちだから自分たちの判断でやってくれるだろうと思ったら、いい子ばっかりだから、コーチの言うことを1から10まで全部聞いてやらなかったんですよ。それに対してファンはやっているラグビーが面白くない、素晴らしくない。日本の方が良かった。いろいろ何かをプレイしよう試みようとしていたからという話が出ていて。なので、やっぱり勇気を持って挑む、試みる、そういう姿勢のチームがあの人たちは好きなのかな。

藤島トゥールーズの観客。ラグビー好きの人たちはやっぱりなかなか手ごわいというか。自分の国の代表だから、何でも認めるわけじゃないのですね。つまらん、コーチがなんと言おうとお前たち走れよ、みたいな感じでしょう。

福本そうですよね。フランス代表が強いのは選手がコーチに反乱を起こしたときって言われますもんね。

藤島あれいつだったかな、2011年ですね。記者会見の雰囲気がもうこれ大丈夫かなっていうような、キャプテンと監督がそっぽ向いているみたいな雰囲気で。意外と決勝まで行っちゃったんですよね。

福本そうなんですよ。そこで蜂起した瞬間に勝ち始めた。

藤島あのとき新聞で読みまして、フランス人は怒りっていうのがね、エネルギーになるんだと。そういうところありますか。

福本ありますね。だから、今回のシックスネーションズも負ければいいと思っているんです。このまま順調に行きすぎると……。

藤島フランスがたぶん、史上初めて最有力優勝候補なんですね。

福本もうかつてないほど優勝の望める位置、ポジションにいるのかな。

藤島これがフランス通としては逆に不安だと。

福本そうですね。そういう状態でワールドカップに行ったことがない。

藤島なるほどね。この話の流れで、前提としてフランスはラグビーがものすごく盛んですよね。人気がありますよね。

福本そうですね。学校の体育でするのもあるし、向こうはキリスト教カトリックで各村に一つずつ教会があるように、各村に一つずつラグビースクールがあるって言われているぐらいなんですよね。フランスの北部とか東の方に行ったらまた変わってくるとは思うんですけど。その村のチームを応援するっていうのがベースになって、その上にトゥールーズであったり、クレルモンであったり、ボルドーであったり、大きなクラブチームがあって、みんなやっぱり地域の地元のチームを応援するっていうのが身に付いている。習慣になっているんですね。

藤島この番組では一度紹介したことがあるんですけれど、昔、ニュージーランドラグビーがプロ化された直後、1990年代の後半ですね。ニュージーランドの選手がフランスに行くんですね。もともとオックスフォード大学か何か出たライターなんですね。ジャーナリストが本職で。彼がそのフランスの体験記を本にしていて、その本面白かったけどね、フランスに行って驚くことばかりなんですよね。試合の前にワイン飲んですごい昼食を食べたり。いわばエゴの塊みたいな連中もいる。
記憶しているのが、ニュージーランド仕込みの今なら反則になるぐらいのタックルをバーンとした。相手のフランスの選手がうめき声で倒れた。その人の横に勢いで倒れたその瞬間に自分の仲間が自分の方にみんな覆いかぶさったんです。絶対に報復されるから自分の身を投げ出して守ってくれるんだと。何て言うのかな。

福本仲間意識と連帯感。

藤島強いんですよね。僕らはフランスを表層的に捉えると、個人主義でみんな勝手な人たちで自由で、それも魅力なんだけど、いざ団結したときってすごい強いんですよね。

福本そうですね。連帯感っていうのはもしかしたら日本人よりあるのかな、と。

藤島ちょっとだけ2015年の話を。先ほど言ったダルマゾさんという、フランスの元フッカーですね、スクラムの虫。

福本ワールドカップを経験したことが、彼の人生の中でも強烈に残っているみたいで今も時々思い出したように電話がかかってきて。特に日本代表の試合があった後とかみんなどうだった? (堀江)翔太は? 稲垣(啓太)は? 具(智元)は? って。

藤島ダルマゾさんはジャパンのコーチなんですけれども、U20を日本で見たときに、そこに拓殖大学時代の具智元がいたんですよね。もう惚れ込んじゃってジャパンそっちのけで心はそっちに向いたって噂を聞いたことがあるんですけれども、ほぼ本当でしょう?

福本ほぼ本当。自分に正直な人なので。

藤島フランスの有名な新聞『レキップ』がジャパンのことを聞きにダルマゾのところに来たのにずっと具智元のことを話していたと。

福本U20の合宿の食事会場で具選手を見つけたら、スクラムの姿勢を食堂で廊下でもさせて、ホテルのフロントでもさせて(笑)。

藤島結局それが2019年に開花して。僕は拓殖大学時代の具智元に取材に行ったことがあります。拓大の監督が言っていました。八王子の山の方にある大学なんですけれども、「突然トゥーロンの代理人がこの山の上まで急に来てびっくりした。アカデミーに入らないかと言われた」。たぶんダルマゾさんが通報したんでしょうね。
こういう話をして尽きないですね。フランスのワールドカップの年、今したい、伝えていきたいことはありますか。

福本本当はもっとフランスの草ラグビーのレベルから見てみたいなという気持ちがあるんですね。この間コロミエの2部の試合を見て、もう本当に村祭りなんだって思ったんですよ。「ボディガ」って言われるプレハブの仮設の建物の中に簡単な軽食や飲み物が用意されていて、そこが村の人同士の交流の場になっている。試合後は選手も出てきて、サポーターたちと軽くしゃべって挨拶して。これがフランスのラグビーのルーツなんだなって思ったし、そういうところから伝えていけたら。別に日本も真似しろと言うわけではないんですけれど、交流の場というか人の輪を繋げていくことによって、会場に来てくれる人ももっと増えるようになるのかなとも思います。

藤島私も思うんですけど、ラグビーのクラブあるいはスクールですね、あそこはね、簡単に言うと老人を孤独にしないための共同体になっていくべきだと思うんですね。高齢化社会が来て、あそこに行くと自分が昔やっていたスポーツをする若い昔の自分がいる。そこには何か仕事がある。ボールを渡すとか。それでみんな孤独にならないんじゃないかと思って、これからラグビーはそういう務めを果たすべきじゃないかなって思うんですよね。フランスにモデルがあるんじゃないかな。

福本お年寄りで思い出したんですけど、トップフォーティーン、ふだんはエスコートキッズで会場入りしますよね。たぶん年に1回だったと思うんですけど、施設に入ったお年寄りと一緒に手をつないで入場する日があるんです。お年寄り、みんなと一緒に試合を見て楽しめるじゃないですか。選手は選手で、「ちょっとでも楽しんでもらえたら僕たちもうれしい」って。

藤島リーグワンのどこかのクラブで検討して欲しいですね。
フランスの大会現地に行かれると思うんですけれど、間違いなく楽しいですよね。

福本きっと楽しませてもらいます。
行かれる方にはいろいろなことでフランスという国を体験していただきたいです。食べるものがおいしい国なので、快適に滞在できますしね。

藤島今日は9月8日にフランスで開幕するラグビーのワールドカップに向けて福本美由紀さんに話をうかがいました。ありがとうございます。

福本ありがとうございました。

2月6日ラジオNIKKEI放送
「藤島大の楕円球にみる夢」
text by 松原孝臣

ラジオ番組について:
ラジオNIKKEI第1で放送。PCやスマートフォンなどで、ラジコ(radiko)を利用して全国無料にて放送を聴ける。音楽が聴けるのは、オンエアのみの企画。放送後も、ラジコのタイムフリー機能やポッドキャストで番組が聴取できる。動画版はU-NEXTで配信中。

2月6日放送分ポッドキャスト http://podcasting.radionikkei.jp/podcasting/rugby-radio/rugby-radio-230206.mp3
U-NEXTでは画像付きの特別版を配信 https://www.video.unext.jp/title/SID0090286