藤島大の楕円球にみる夢
(2023/03/06)

ゲスト/安江祥光選手(三菱重工相模原ダイナボアーズ)

三井住友銀行(SMBC)ほかがラジオNIKKEI第1で提供するラジオ番組「藤島大の楕円球にみる夢」は、スポーツライターの藤島大さんが素敵なゲストを迎えて、国内外のラグビーや日本代表などの幅広い情報を詳しく伝えています。 3月6日放送回は、三菱重工相模原ダイナボアーズのフッカー安江祥光選手が出演しました。

藤島スポーツライターの藤島大です。ゲストはリーグワン、三菱重工相模原ダイナボアーズのフッカー、38歳ベテラン、安江祥光さんです。お忙しいところ虎ノ門のスタジオに来ていただきました。よろしくお願いします。

安江安江です。よろしくお願いします。

藤島プロフィールを紹介します。安江祥光、千葉県の出身。1984年8月25日生まれ。もう1回言いますけれども38歳です。
大学は帝京大学、そう聞くと、強豪校から来たように感じるけれど、付属の帝京高校出身です。帝京大を出て、日本IBMビッグブルー、そこに社員選手として入って2年間は会社員をしていました。その後、強化縮小の流れがあって、2009年、神戸製鋼にプロとして移籍します。
2012年度のシーズンはプロップとしてリーグのベストフィフティーンにも選ばれています。2016年から今の三菱重工相模原ダイナボアーズに加わりました。日本代表のキャップは2つ、香港と韓国の試合に出場しています。 176センチ、109キロ、ポジションはフッカーです。

安江よろしくお願いします。

藤島まずやっぱりチームのことを聞きますけれども、昇格のシーズンにいきなりポンポンと白星を、驚くのは失礼なんでしょうけど。みんな驚いたんですね。これ、一体なぜですか。

安江我々は去年、ディビジョン2の頃から、ディビジョン1で勝っていくというチーム作りのもと練習して、昇格して開幕を迎えるにあたって、自分たちの強みは何だというところから考えていき、激しい練習を土台にしました。去年5月末にシーズンが終わりまして、7月中旬の頭には、外国人選手や我々「おじさん」と言われている「おじさん組」も含め全員が集合して一緒に練習してきました。

藤島よそのクラブと比べると2カ月近く早い。ちょっとしか休まないで、「えーっ」と思うけれどやるしかないって雰囲気になるわけですね。

安江やはり勝ち取ったチャンスですので、みんな燃えていました。燃えていた以上に練習がきつすぎて。「朝ご飯をちょっともう一度味わう」と言われるんですけど、朝食べた物を戻してしまうぐらい。

藤島GMの石井さんが「久しぶりに吐くような選手を見てうれしかった」と言っていました。

安江選手は誰1人として笑えていなかったですけどね(笑)。

藤島下部のリーグから上がるシーズンは大変だから練習しとかなきゃいけないというのは理屈では分かるけれどなかなか練習をさせられないじゃないですか。させた人がいるわけですよね。

安江そうですね。

藤島グレン・ディレーニーヘッドコーチ、新しいヘッドコーチですね。前のシーズンまではディフェンスのコーチ。どういう人なんですか?

安江すごくパッションにあふれている人で、なおかつディテール、細部にまですごくこだわる人間ですね。何をしたいのか、どういうプレーをしたらいいのかを分かりやすく説明してくれるコーチだと私は感じています。ディビジョン2の頃から失点という部分を目に見えるように減らし、我々が何をすればいいのか明確に表現してくれたので、選手はすごく分かりやすかったですね。

藤島シーズンをちょっと振り返りますけれど、去年の12月17日、開幕戦でリコーブラックラムズ東京に大勝しますね。34対8。みんな驚いたんですけれども、自信はあったんですか。

安江正直ありました。我々はどこのチームよりも早く練習を始めて、どこのチームよりも走ってきた。どこのチームよりもアタックストラテジーやディフェンスの詳細の部分を突き詰めて練習してきた。絶対勝てるんだという自信を持って開幕したシーズンでした。

藤島次のトヨタヴェルブリッツ戦も勝ちましたね。27対25。

安江どっちに転ぶか正直分からないゲームでしたけれども、我々は80分間むしろ90分間、100分間やれと言われてもできるぐらい走ってきた自負があるので。やってきたのは間違ってなかったんだ、戦えるんだと再確認できた試合だったと感じています。

藤島リーグワンの注目の存在になって。その次の埼玉パナソニックワイルドナイツは強かったですね。スコアは5対40でした。
そして東芝ブレイブルーパス東京23対19で勝利、これまたしびれる試合でした。
あの試合の7番、坂本という選手、タックルという動物が生きているみたいですね。

安江タックルという言葉が動いているみたいな。

藤島坂本侑翼さん。いやあ、いい選手ですね。

安江いい選手です。本当に大丈夫かこいつの体は、というぐらいのタックルをするので、我々としても、「あいつがやっているから行かなきゃ」と、若い選手ですけれど背中で見せてくれます。

藤島次の試合は静岡ブルーレヴズ。27対27で最後に追いついたんですよね。

安江79分まで負けていてもいい、80分間経ったきに笑っているのは我々だというマインドのもとで戦っているので。

藤島なるほど。その後、サンゴリアス、神戸、船橋、ちょっと黒星は続きます。つまり相手もだんだん分かってくる。ダイナボアーズは強いから、しっかり準備してくる。ダイナボアーズとしてもシーズンが進めば疲労もあるし、怪我も出てくる。折り返すと今度勝った相手が向かってくる。今、どう思っていますか?

安江去年昇格するときに9連勝から連敗を喫し、順位決定戦で近鉄さんに自動昇格を取られ、でもそこから昇格した。我々はやっぱりあきらめが悪いチームですので、ここからその経験が生きてくるんじゃないかと感じています。

藤島ここからは「安江はどこから現れたか」をうかがっていきます。
安江さんは東京の四谷第一中学校卒業、さっき雑談で聞いたら(皇居の)お堀で釣りをして遊んでいた、と。東京の真ん中の子どもですね。そこからいわゆる普通に勉強して帝京高校に入るわけですね。帝京高校ってサッカーや野球が有名ですけれども、そこは一般入試だと入れない。

安江そうですね。

藤島そこでラグビー部が「おいでおいで」をしたということですか。

安江何かスポーツをやりたいという考えがあったので、野球サッカーがなければ何かな、ラグビーだというところから始まって、まさか16年間ラグビーと一緒に過ごせるとはもう思ってもみなかった高校生ですね。

藤島要するに普通の学校の普通のクラブですよね。

安江そうなんですよ。サッカー部、野球部が全国区でグラウンドをメインで使っているので我々はグラウンドがなかなか使えない。スペースの有効活用ということで、体育で使うマット、よく「耳を隠せ」「輪っかを隠せ」と言われるマットを敷いて教室の中でタックル練習をしたり。

藤島いいですね。これ、私は興味深くてテレビの解説でも何度かつい喋っちゃうんですけど。帝京高校に相撲部があったんですね。

安江ありました。

藤島伝統があるんだけれども部員がゼロになって、ラグビー部の安江がいいじゃないかとOB筋から声がかかり大会に出るんですよね。3年のときは東京で明大中野、相撲の名門ですよね。そこの選手に勝ってしまう。

安江勝って関東大会に出場させていただいて。たぶん、本来相撲の選手がする動きじゃない動きをするので、皆さん困惑してたまたま勝てたのではないかなと僕は感じているのですけれど。

藤島明治大学や日体大相撲部からスカウトの声が。

安江ラグビーよりも相撲の方が多かったんではないかなと僕の記憶では認識しております。

藤島もしかしたら明治大学相撲部に行っていたかもしれない。しかし、帝京大学でラグビー部に入る。そこはどういう道をたどったんですか。

安江これも縁なんですけれども、私、高校時代に、「全国レベルのラグビーを知らない、でもやっぱり大学ではラグビーをやりたい。大学ってどういうレベルなのか体験・体感してみたい」ということで高校のラグビー部の監督が掛け合って大学で練習させてもらいました。その当時の岩出(雅之)監督が「お前、ラグビーやりたいのか、どこに行きたいんだ」と。私は他の大学名をあげさせてもらったんですけれども、「うちに来い」と言われました。そのとき、半分冗談ぐらいの感覚で「はい、ぜひともお願いします」と言ったんですけれど、次の日学校に行ったら「お前よかったな、帝京行けそうだな」と高校の監督に言われました。

藤島あの岩出監督が「来い」と言うのはやっぱり何か輝いたんでしょうね。今度は強いクラブに入れたわけです。

安江初めてというのもあれですけれど、グラウンドを使ってラグビーができるクラブに入れました。

藤島やはり帝京のあの黄金時代をみんな思い浮かべますがその直前ですか。

安江ちょうど堀江翔太が僕の1個下にいて、準優勝しました。「よく言うな」と後輩に言われるかもしれないけれど、我々は「礎の世代」、礎を築いたんだと言わせていただいています。

藤島グラウンドを使えなかった人がこんなに息長くプレーしている。月並みな質問をしますけれど、何か心がけていること、秘訣みたいなものはあるんですか。

安江いろいろな選手、五郎丸さんのときからルーティンやいろいろなことが慣習化してそれを崩さないようにやっていると思うんですけれども、僕の場合、逆にそういうことを決めない、決めつけないようにしています。それができなかったときに不安が残ってしまう部分があるので。

藤島自然体ということですか。

安江例えば試合中、目の前のことをやり続ける、当たり前のことを当たり前にするのが難しいとき、あるじゃないですか。何か違うことが起こっても対処しやすいし、できなくても不安にならないのかなと感じています。

藤島スクラムはフッカーがリードすると僕ら解説者は言っているけれど、深い森の中は分からないんですよ。スクラムはあるときから覚えていくんですか。

安江ラグビーは森なので、私もわからないことが。もう本当に深い深い森ですので。やはり数を組めば組むほどこういう選手にはこういう組み合わせがいいというツールができて、それを瞬間的に引き出せるようには心がけております。

藤島今まで組んで、怖かった選手は?

安江今の現役選手、素晴らしい選手がものすごく多いんですけれども。僕が強いなと思ったのは、東芝にいらっしゃった湯原選手です。

藤島湯原祐希さん。亡くなられましたけれど。

安江本当に残念ですけれども。彼は流経大、私が帝京大のときに組んで、その瞬間、俺は何を今やっているんだろうという森の一歩手前に来たような感覚になったのを覚えています。なんかすごい深いな、と。

藤島この場合の強いというのは、普通の人は相手がものすごい力があって重くてぐっと押されるみたいなイメージを持ちますが、そうじゃないんですよね。

安江僕もその頃は体もある程度大きくなっていましたし、パワー負けすることがあんまりなかったんですけれども、あのときにパワー、なおかつパワーだけではないスキルでいなされたときに、深いと思いましたね。

藤島おしまいに、今後チームの目標あるいは個人の目標があれば、あるいはファンの皆さんにおっしゃりたいことがあれば。

安江三菱重工のファンを我々は「ダイナメイト」、キッズを「ウリボアーズ」と呼ばせていただいているんですけれども、日本全国津々浦々、どこの会場に行っても緑、セカンドジャージーのときは青にグラウンドを染めてくれて、我々としてはすごく力になっています。この場を借りて「ありがとうございます」と伝えたいです。我々はダイナメイト、ウリボアーズの力を胸に、派手さがあるプレーヤーや華がある選手は正直いないんですけれども、泥臭く猪のごとく一戦一戦戦っていきたいと思いますので、変わらず応援をいただけたらうれしいです。

藤島開催中のリーグワンで昇格のシーズンにどんどん前へ進んでいる三菱重工相模原ダイナボアーズのフッカー、安江祥光さんにお話をうかがいました。ありがとうございます。

安江ありがとうございました。

3月6日ラジオNIKKEI放送
「藤島大の楕円球にみる夢」
text by 松原孝臣

ラジオ番組について:
ラジオNIKKEI第1で放送。PCやスマートフォンなどで、ラジコ(radiko)を利用して全国無料にて放送を聴ける。音楽が聴けるのは、オンエアのみの企画。放送後も、ラジコのタイムフリー機能やポッドキャストで番組が聴取できる。動画版はU-NEXTで配信中。

2月6日放送分ポッドキャスト http://podcasting.radionikkei.jp/podcasting/rugby-radio/rugby-radio-230206.mp3
U-NEXTでは画像付きの特別版を配信 https://www.video.unext.jp/title/SID0090286