藤島大の楕円球にみる夢
(2023/04/03)
ゲスト/武井日向選手(リコーブラックラムズ東京)
三井住友銀行(SMBC)ほかがラジオNIKKEI第1で提供するラジオ番組「藤島大の楕円球にみる夢」は、スポーツライターの藤島大さんが素敵なゲストを迎えて、国内外のラグビーや日本代表などの幅広い情報を詳しく伝えています。
4月3日放送のゲストは、リコーブラックラムズ東京の主将でフッカーの武井日向選手です。
藤島スポーツライターの藤島大です。今回は東京の世田谷区、リコーブラックラムズ東京のグラウンドの横にあるコミュニティハウスからお送りしています。ゲストはリーグワン、リコーブラックラムズ東京の武井日向さんです。ありがとうございます。
武井よろしくお願いします。
藤島プロフィールを私の方から話します。1997年6月17日生まれ、栃木県佐野市出身。小学3年からラグビースクールでプレーを始めて強豪の國學院栃木に進んで3年連続で花園に出場しました。明治大学に進んで3年生の時に全国制覇。4年生で主将、国立競技場の決勝へ。
卒業後リコーブラックラムズ東京に加入して2年目にして主将に抜擢されました。ポジションはフッカー。ジュニアジャパン、U20日本代表に選ばれています。ここは大事ですが、身長171センチ、さほど高くない。体重97キロ。しかし、芝生の上にいると強い。
第3節のトヨタヴェルブリッツ戦まではほぼフル出場。その後負傷でずっと休んでいる状態ですけれども、現状のチームをどう見ていますか?
武井勝ち切れない試合が多かったり、自分たちの思うようにいかなかったりする部分はあるんですけど、それでもチームはばらばらにならず1人ひとりが考えて行動できていると思います。シーズンが深まるにつれて、よりまとまっている感じは伝わってきます。
藤島少し前の東芝ブレイブルーパス東京戦、最後ちょっと悔やまれる反則があって7対17。でもいいところに来ていますよね。
武井あそこで勝ちきれるチームというのがトップ4だったり常に上位に食い込めるようなチームだと思うので、しっかり改善してそういうチームになっていきたいと思います。
藤島ずっとキャプテンですよね。高校も大学も。ブラックラムズに入ってわりと直ちに主将に指名されて、驚きはなかったでしょう。
武井いや驚きですね。もうやるのか、みたいな感じで。2年目のシーズンだったので社会人の中でできるのかなという不安ももちろんありましたし、ただやってみたい思いはもともとあったので、チャレンジしたいと思いました。
藤島例えば高校生をまとめる、そこには監督の存在も大きい。大学は100人ぐらいいる部員のいろいろな背景や、いわゆる二軍三軍の人たちをどうモティベートするのか、そういう経験をしてきた。トップのクラブになると、ものすごい外国人もいるし自分よりはるかに年上の猛者も元日本代表もいる。どうしようと思ったんですか。
武井自然体ですね。誰を目指すでもなく自分らしいキャプテンをやり続けよう、行動で示そうと思ったので、チームがやるべきことだったり、やりたいラグビー、オンオフも行動で示し続けることを自分の中でテーマとして持っていました。
藤島海外からの選手は、若い人が主将になることにどちらかというと慣れていると思うんですけれど。
武井もともと先輩後輩は外国人にはあまりないのでそこまで抵抗がないのかなと感じます。
藤島でもブラックラムズだけの話じゃなくて、ある場面を想像で勝手に喋るけれど、若い主将に対して強い国のキャップをたくさん持っている人が「これ違うと思うよ」と言う。どうします?
武井もともと僕は一方的に話すようなキャプテンではなかったと思います。いろいろな意見を聞いて自分の意見を言って、しっかり話して結論に持っていく感じなので、こっちは正しいと思えばそれを伝えるのもすごく大事だと思います。
藤島チームが強くなるときって、あるところで衝突が必要じゃないですか。それを乗り越えたら強くなる。そういうこともあったんですか?
武井衝突まではいかないですけれど、1回自分たちのそれこそDNAって何なのかを、毎日ミーティングを重ねたくらいお互いに意見を出し合って、先輩後輩、日本人外国人関係なく話して、そういうところがチームとして成長できた部分かなと思います。
藤島殻を破る寸前みたいな感じもありますよね。
武井そうですね。
藤島よくリスナーの人に聞いてくれと言われるんですけど、スクラムを組んだときの感触をみんな知りたいらしいんですね。
この番組は、何となく私が話を聞きたいなという人にフッカーが多いんですけど、この前は三菱重工相模原ダイナボアーズの安江祥光さんが出演しました。まだ組んだことはない?
武井はい。スクラムが強いと聞いているので一度組んでみたいです。
藤島静岡ブルーレヴズの日野剛志さんも出てくれました。
武井昨シーズン、試合で組んだんですけど強かったですし、組む前から相手の嫌なことをして、組んだときにはもう負けているみたいなところもありました。そういうところはスクラムのうまさなのかなと思いました。
藤島埼玉パナソニックワイルドナイツの堀江翔太と組んだことはありますか。
武井1年目のときにあります。なんて言うんですかね、硬いというか何か岩があるみたいなイメージでした。強いのはもちろんですけど。
藤島堀江さんと同じワイルドナイツの坂手淳史、ジャパンのリーダーですけれども組んだことは?
武井ありました。坂手さんはやっぱり強いですね。そして安定しているのであのレベルになっていきたいですね。毎日分析して、自分の組んだスクラムを観たりする時間を増やすのが一番上達するには早いのかなと思います。
藤島映像で観て、こういうときはいいスクラムになるとか違いが分かりますか?
武井分かります。いいときのスクラムを再現性高くやることが近道なのかなと思います。
藤島当然毎回いい構えをするわけでしょう。それでも変わるんですか?
武井自分が思っているのと1センチ単位で違っても全然違うスクラムになってしまうので、小さいところにこだわり続けたいですね。
藤島ここから武井さんがなぜラグビーを始めたのかという話を。実は私の知り合いなんですけど、石井勝尉という男が実家の近所に住んでいたんですね?
武井はい、そうです。
藤島この人は昔、栃木県立佐野高校から早稲田に行ってジャパンになる。そして栃木県の教員になる。この人が近所だったんですね。よりによって(笑)。
武井もう本当に近所で石井先生の息子の雄大さん、双子なんですけれどよく一緒に遊んでいて、そのつながりでラグビーを始めました。
藤島今話のあった石井雄大という選手、やはり國學院栃木から明治に進んで、セコムラガッツのウイング、フルバックですね。お父さんは超ロングキッカーで、1986年9月にスコットランドのエジンバラで戦ったジャパンのフルバックです。栃木県立佐野高校からジャパンになってエジンバラで試合できた。いい時代ですね。要するに近所にジャパンになった人がいて、誘われてラグビーを。
武井やってみたらすごく楽しかったので、必然的にラグビーをやることに。
藤島学業が得意で中学生のときオール5だったと。本当ですか?
武井公立校のオール5でそこまで自分から言えるような成績ではないので。
藤島そんなことを言ったら公立中学でオール5を取れなかった人は怒りますよ。お医者さんになろうと思っていた、と。
武井小学2年生のときに祖母が亡くなってから思うようになりました。
藤島でもラグビーも大好きで、迷って強豪の國學院栃木に。そこは自分で選択したわけですか?
武井親には「好きなことやった方がいいよ」と言われました。勉強は医者になるためにやっていたからそんなに好きではなかったですが、ラグビーは好きでやっていたので、好きな道で生きていこうと決めました。
藤島國學院栃木に入ってポジションはナンバー8、でも170センチだから高校ジャパンの声はなかなかないですよね?
武井なかったですね。U17とかも全然選ばれなくて、候補には一応入っていたんですけど、合宿に行くこともなく終わりました。
藤島「やっぱりサイズだ」と思い知らされたところも?
武井でかい奴は選ばれたりしていたのでそれが反骨心になったというか、この身長でも行けることを証明しようという感じでした。中学のときに勉強を捨てる形で僕はラグビーの道に行って、もうこの道で生きていくしかないと思っていたので、その覚悟は人よりもあったかなと。
藤島捨ててきた、この道で行くんだ、こういう人は強いですね。昔、明治の吉田義人キャプテンが学生のときにね、あの頃の早稲田と慶應は一般入試部員ばかりだったから「僕らの方が先にラグビーで生きていくと決めたんだから、俺たちが強いに決まっているんだ、彼らより練習したら絶対に負けないんだ」と言ったんですね。実に正しいと思う。それを思い出しました。決めた奴の強さってあるんですね。
明治に入って、身長の問題があったからフッカーに?
武井そうですね。上で目指すならフッカーしかない、と。
藤島明治大学は創部100年を誇ります。メイジ というと昔の重戦車フォワード、「前へ」「まっすぐ」に僕らは郷愁を持って語るわけですけど、学生のとき、そういうのはピンと来ました?
武井明治DNAじゃないですけど、やっぱりそこで勝負しなきゃいけないと思いました。バックスもいい選手が入ってきて展開できるようになっても「明治はフォワード」というプライドをフォワードの選手は持っていたと思います。(フォワードコーチの)滝澤(佳之)さんも伝え続けてくれました。
滝澤さん、すごく熱い方で。「スクラムを何で押さなきゃいけないか分かるか」と聞かれて、試合が優位に進むからとか学生は答えていたんですけれど「そこに理由はない。明治だからだ」と言われて、それで全員がピンと来たというか。
藤島哲学が出ましたね。
ジャパンも当然視野にあると思いますが、2021年の10月でしたかね、いわゆるスコッドに入ってジャパン合宿に参加して、トップレベルの選手、コーチングはどうだったでしょう。
武井一番思ったのは理解力の高さというか、コーチがやれと言うことに対して実行できる選手が多いイメージがあります。トレーニングやリカバリーの意識もすごいなと思いました。
藤島昔ね、ジャパンのスクラムを作り上げた長谷川慎さんが私に話していましたけれど、ヤマハで築き上げたノウハウ、ヤマハの選手が何カ月もかかるところを何分かでできるような感じだと。技術じゃない、自分は絶対にジャパンになりたいと思っているからコーチの言葉がすぐ入るんだと言っていたのが印象的でした。
武井本当にそんな感じだと思います。なりたいと思う選手が集まっている緊張感もありました。今年からプロに転向したので、個人としてはよりジャパンを目指していきたいです。
藤島最後にブラックラムズの話を。リーグワンってファンを大切にしたチームが勝つ、最後は笑うと思っているんですけれど、ブラックラムズのファンに対する意識はどうですか?
武井ファミリーという言葉もあるくらい、家族としてファンの方々を受け入れています。僕たちがすごく感謝しているのは完全にボランティアで手伝いをしてくれる方々もいて、それくらい家族のようなチームだと思うので、結果だったりプレーで感動を与えたり、勇気づけたいと思っています。
もっと僕たちはできるんじゃないかなと思いますし僕たちができていけば、よりファミリーの数や規模も大きくなってくるので、そういうチームになっていけたらと思います。
藤島リコーブラックラムズ東京の武井選手にグラウンド近くのコミュニティハウスの中で話をうかがいました。ありがとうございます。
武井ありがとうございました。
4月3日ラジオNIKKEI放送
「藤島大の楕円球にみる夢」
text by 松原孝臣
- ラジオ番組について:
- ラジオNIKKEI第1で放送。PCやスマートフォンなどで、ラジコ(radiko)を利用して全国無料にて放送を聴ける。音楽が聴けるのは、オンエアのみの企画。放送後も、ラジコのタイムフリー機能やポッドキャストで番組が聴取できる。動画版はU-NEXTで配信中。
4月3日放送分ポッドキャスト http://podcasting.radionikkei.jp/podcasting/rugby-radio/rugby-radio-230403.mp3
U-NEXTでは画像付きの特別版を配信 https://www.video.unext.jp/title/SID0090286