藤島大の楕円球にみる夢
(2023/05/01)
ゲスト/香川あかね氏(公益財団法人日本ラグビーフットボール協会理事/事業遂行責任者・女子ラグビー担当)
三井住友銀行(SMBC)ほかがラジオNIKKEI第1で提供するラジオ番組「藤島大の楕円球にみる夢」は、スポーツライターの藤島大さんが素敵なゲストを迎えて、国内外のラグビーや日本代表などの幅広い情報を詳しく伝えています。
5月1日放送のゲストは、公益財団法人日本ラグビーフットボール協会理事で、事業遂行責任者・女子ラグビー担当の香川あかねさんです。
藤島スポーツライターの藤島大です。今回のゲスト、日本ラグビーフットボール協会の理事で、事業遂行責任者・女子ラグビー担当の香川あかねさんです。ありがとうございます。
香川よろしくお願いします。
藤島プロフィールを私の方から。1974年2月23日、東京都の出身ですね。ラグビーが好きな父親の影響で幼い頃からスタジアムでラグビーを観戦していた、と。
早稲田大学を卒業後、いったん企業に勤めたんですが、2000年3月、日本協会が職員を募集しているのをインターネットで見て応募しました。
面接に臨んで採用されて以来、日本協会で経理、普及、国際、様々な分野で経験を重ねました。2016年リオデジャネイロオリンピック、2021年に開催された東京オリンピックでは女子7人制の裏方というか、いろいろな仕事をする総務としてチームを支えました。
その後2022年9月までMBA、経営学修士を取得するため、アイルランドの首都ダブリンにある「UCD」、ユニバーシティ・カレッジ・ダブリン、ラグビーが盛んな名門の大学ですね、そこに留学をしました。この4月からディレクター・オブ・ウィメンズラグビー、事業遂行責任者女子担当、女子ラグビーを推し進めていく、その責任者を務めています。
先日の4月12日ですね、都内で記者会見を香川さんが開いて2050年までの女子ラグビーの中長期の戦略計画というのを発表しました。端的に言うと、2037年、あるいは2041年のワールドカップ日本開催を目指すということですか?
香川男子もすでにラグビーのワールドカップ再招致を掲げているんですけれども、今回あらためて女子も2037年のワールドカップの招致を目指して中長期の計画を作ることになりました。
藤島同時にジャパンが優勝するという目標も。
香川はい。日本開催のときに。
藤島はっきりして分かりやすいですね。
ちなみに女子のワールドカップ、今本当は女子をつけないんですよね。英語でもつけないですけども、便宜的に女子のワールドカップ、2029年がオーストラリア、2033年がアメリカでの開催がもう決まっているんですよね。
この1年かな、世界的に見ても、女子ラグビーが急激に見るスポーツとしても進歩し前へ進んでいる気がするんですけど。
香川昨年ニュージーランドで開催されたワールドカップでも決勝戦は4万5000人観客の方がいらっしゃって盛り上がりました。シックスネーションズでも今はイングランドの試合が5万人。世界的に女子のラグビーが認知され始めているというところです。日本も15人制はレスリー(・マッケンジー)ヘッドコーチのもと頑張っていますし、セブンズも、ワールドシリーズのニュージーランド大会で、過去最高位の6位になるなど、世界で頑張っています。
藤島私、15人制の女子ラグビーが大好きなんですけど。
香川一度見ていただくとまた見たいっておっしゃっていただけます。
藤島女子の15人制の一流のラグビーというのはちょっと昔の男子のラグビーみたいな駆け引きがあって、そんなに速くないけど、仕掛けは早くてアイデアは豊富で、スキルフルで面白いですよね。
香川そうですね。日本の女子はスキルの点で言ったら世界と並ぶところには来ていると思います。
藤島ニュージーランドのワールドカップが大成功した頃、海外のメディアが女子のラグビーのストーリーをたくさん書いて、私よく読んでいたんですけど、BBCが1991年の最初のワールドカップを実現させた人たちの物語をしていました。日本も出場したんですけれども、推し進める人が、あの頃は携帯端末もないし会って話をするしかない。何もかもが初めてで、とにかく話し合ってそれで実現させたんだ、と。
91年大会にはソ連が参加していたんですね。最初は滞在費が出るという話だったけれどスポンサーのお金が集まらなくて結局ウェールズに飛行機のチケットだけ持ってきた。ウォッカとキュウリと人形を売って足しにしたいと言って、でも法律に反する。誰かが記事にしたら町の人たちが援助して、ホテルの宿泊代、デパートも服を買っていい権利を与えたりして。
イングランドが準優勝でアメリカが優勝するんだけど、決勝の前にホテルがダブルブッキングになっていて、ホテルの会議室でみんな寝ていた、と。そういうところから始まったわけですよね。
香川いろいろ工夫して何とか進んでいくという文化が最初に女子ラグビーを日本で始められた方のときから脈々と続いているので、継承していけるようにしたいと思います。
藤島岸田則子さんですね(注1988年に日本女子ラグビー連盟を設立し普及に尽力。1991年ワールドカップ出場)。最近のラグビーマガジンのインタビューにね、「今の選手は恵まれているけれども、羨ましいと思わない」と。あの時間がやっぱり好きだったんでしょうね。
香川本当に学ぶところがたくさんあるというか、岸田さんが女子ラグビーの最初を切り開いてくださってよかったと思います。
藤島1988年11月3日、初めて女子交流大会が駒沢オリンピック公園補助グラウンドであったんですけど、私、当時スポーツ新聞の記者で、朝早く行ったらみんながテントを組み立てている。これから何かが始まるというようにうれしそうで、すごく覚えていますね。岸田さんという本当のパイオニアがいかに苦労したかという話も聞いたし、普通もう少し怒りの感情があってもいいと思うんだけど、ただ好きなラグビーをするために戦わなきゃいけなかったんですよね。今もまだそういうことは残っていますか?
香川地域、草の根のコミュニティレベルのところではあると思います。例えば、ラグビースクールでも、お母さん方がコーチングをしにくいとか女性が入りにくい。
藤島たしかにラグビースクールのコーチって男の人多いですよね。
香川でも入りやすい環境ができると少し景色が変わってくるのかなと思うので、そういう環境作りを後押しできるようなことを協会の方でしたいです。
藤島女子ラグビーの魅力というのは借り物がないところから始まっている。もう自分たちで全部やる。実はラグビーというのはもともとそういうアマチュアリズムを守ってきたということもある。
1991年のワールドカップについて、Timesのデビッド・ハンズという私も仰ぎ見るような記者が文章を残しています。
――ラグビーの本来の姿に戻った。全部手弁当でやって自分たちで探して、一切金銭的な見返りはなくてむしろ自分たちが経済的には払う。しかし、ただ純粋なプレーをしたい喜びと友情がある、と。
実はニュージーランドのワールドカップのときも同じようなことをある記者が書いていた。これは昔のラグビーだ。選手は自分の意見を堂々と自分の言葉で全く何も気にせず喋る。選手と接近できて会話ができる。必要以上の過剰なものがない、と。時代が変わってプロの選手もいるんだけど、そういう原点がまだ残っているというか。
香川女の子がラグビーをしようと思ったとき、どうしても男の子と一緒にしなくてはいけないとか限られた場所でやらなきゃいけないとか、ラグビーをすること自体が難しいところを、自分たちで何とかしなきゃというところでやってきています。だから代表にしても、人間力や人間性が確立できている選手が多いのをすごく感じます。
藤島ここからは香川あかねさんとは何者なのかという話を。
実は私は面識が一応あるんですね。なぜかというと、香川あかねさんの弟、香川航太郎という素晴らしいフランカーがいました。私が東京都立国立高校のコーチをしていたときに入って、その後早稲田大学のコーチになったとき彼がすでに早稲田に入っていて、いわば再会するんですけども。
香川は身長が178センチで当時同じサイズの名フランカーがイングランドにいました。ニール・バックと言うんですけど、国立のとき教室でよくビデオを見せていました。すると大学何年生かのシーズンオフにノーアポイントメントでニール・バックに会いに行くんですね。「会えたか?」と言うと「会えた」。門番のおじさんか誰かに日本から来たと言ったら感心して連絡してくれて、ついに家まで呼ばれて、パブでご馳走になって国立高校のジャージとイングランド代表のジャージを交換して帰ってきた、と。「議論した」と言っていて、ラインアウトの最後尾からのディフェンスのコースだけ考えが違ったと言っていました。まあ変わった人間がいて、そのお姉さんだと後に知るんですけど。
ダブリンに留学していますがなんでダブリンを選んだのですか?
香川たまたま遠征で、それこそUCDで試合したことがあって、お世話になった日本人のリエゾンの方が大学で日本語を教えている方でした。その方からアジア地域の女性の学生を募集していると連絡があったんですけど、遠征のとき何年か後にここに勉強しに来るかもしれないと思った瞬間があったんです。不思議ですけど。
藤島香川家にぴったり(笑)。今、力を注いでいることは?
香川よく女子ラグビーの情報が全くない、情報発信が足りないとお叱りを受けるので、情報発信を強化していきたいなと思っております。
藤島年内の国際試合、もう話せる段階ですね。
香川5月はカザフスタンで15人制のアジアチャンピオンシップが2試合ありまして、9月に国内でテストマッチをやります。10月に今年から始まるワールドラグビー主催の「WXV」という大会があります。
藤島もちろんセブンズも動いていますね。
香川11月に来年のパリオリンピックの予選を行うことになっています。国内のセブンズのシリーズが5月20日から熊谷、秩父宮、鈴鹿、花園と1週間おきに4大会続けてあるのでぜひ見に来ていただきたいですね。
藤島ここまでの話以外にこれをやる、と決めていることはありますか。
香川ワールドカップが招致できたときに開会式で日本の全ての最高のエンターテインメントを集めたフェスティバルをしたいですね。スポーツだけじゃなくいろいろな文化を集結させて盛り上げるような大会にしたいです。もう1つ、競技人口はその競技の1つの評価軸になっていると思います。でも、ラグビーでどれくらい1人ひとりの方が満足しているか、幸福度を図れるようなことができたらいいな、と。
ラグビーって幸せを感じられる、楽しいと感じられるスポーツだと思うので、ラグビーをする人も、支える人も、見る人もラグビーに携わることで幸せになってほしいです。
藤島そういう意味で繰り返しになりますけども、いろいろプロフェッショナルになって、オリンピックなんか典型的だと思うんだけど仕組みがあまりに肥大化して開催するのも負担になってきて、パンデミックや戦争もあって。考える機会ですよね。そこにいる人が楽しければいいんじゃないか、と。
今回のゲストは日本ラグビーフットボール協会の理事、女子ラグビー事業の責任者、香川あかねさんでした。ありがとうございます。
香川ありがとうございました。
5月1日ラジオNIKKEI放送
「藤島大の楕円球にみる夢」
text by 松原孝臣
- ラジオ番組について:
- ラジオNIKKEI第1で放送。PCやスマートフォンなどで、ラジコ(radiko)を利用して全国無料にて放送を聴ける。音楽が聴けるのは、オンエアのみの企画。放送後も、ラジコのタイムフリー機能やポッドキャストで番組が聴取できる。動画版はU-NEXTで配信中。
5月1日放送分ポッドキャスト http://podcasting.radionikkei.jp/podcasting/rugby-radio/rugby-radio-230501.mp3
U-NEXTでは画像付きの特別版を配信 https://www.video.unext.jp/title/SID0090286