藤島大の楕円球にみる夢
(2023/08/07)

ゲスト/久富雄一氏(元日本代表)

三井住友銀行(SMBC)ほかがラジオNIKKEI第1で提供するラジオ番組「藤島大の楕円球にみる夢」は、スポーツライターの藤島大さんが素敵なゲストを迎えて、国内外のラグビーや日本代表などの幅広い情報を詳しく伝えています。
8月7日放送のゲストは、ラグビー元日本代表の久富雄一さんです。

藤島スポーツライターの藤島大です。ゲストは元日本代表のプロップ久富雄一さんです。よろしくお願いします。

久富よろしくお願いします。

藤島略歴を私の方から紹介します。1978年、ここが今日の一つの焦点ですね。1978年8月11日生まれ、今月、もうすぐ45歳になります。佐賀県の出身。佐賀工業高校でラグビーを始めて、関東学院大学時代に3度、日本一。キャプテンでも勝っています。卒業後はNECに入団して日本選手権を3度制覇します。2011年、NTTドコモに移籍。2017年からこの春まで日野レッドドルフィンズに所属していました。
日本代表のキャップは21、183センチ、115キロ。今年の5月、リーグワンの年間表彰式ではリーグワンの最年長出場記録、これがまたすごい。44歳5か月10日を記録して、功労賞が贈られました。もう一つ、これ私なんか好きですね、東日本社会人リーグを知っている。東日本社会人リーグ、トップリーグ、リーグワンと三つ経験しています。

久富結果的にそうなりましたね。

藤島そういう息の長い選手です。いろいろ後で聞きますけれども、ラグビー界の都市伝説の一つに、久富はバーベルを挙げたことがないという、これも後で真偽を確かめたいと思います。早速聞いていきますけれども、たぶん年齢をそんなに意識はしてないんですよね? 僕らは意識するんですよ。44歳で、しかも、功労者をお飾りでちょっと出すというんじゃなくて、この間のリーグワンのディビジョン2でも先発2回、途中交代でも後半の大事なところに必ず出てくる。普通の戦力として44歳にして力を発揮したんですけど。なぜですかって聞かれても困りますか?

久富そうですね。自分としては20代の子たちと一緒にやっていて、気持ちは全然そういうつもりなんですけど、試合前に出場選手表というんですかね、あれ見たときに、1人だけ44という数字が出て、うわーって思うことが多々あります(笑)。

藤島この番組にも出ていただいた日野のチームメイト、浅原拓真さんが「あの人はバーベルを、ウエイトをちゃんとしている感じはない。でも強い」と。この辺はどうなんですか?

久富やらなきゃいけないことはやってはいるんですけど、好き好んでやってはいないですね。ウエイトトレーニングが直接ラグビーにつながると頭で思えていないので、積極的にやりたいという気持ちにはならないです。

藤島その話を聞く前から、久富さんを見ていて、本当に勝手なイメージですけど、金太郎さん、あるいは四股と鉄砲で鍛えた昔のお相撲さんが浮かびます。

久富山の中で育ったのと、家の仕事をけっこう手伝って、スコップを使ったり、そういうのが土台にあるのかなと自分では思っています。

藤島野山を駆け回るみたいなイメージですか。

久富山に虫捕りに行ったり、川に魚獲りに行ったり。急流とかそれこそ山の崖とか、今考えると、親目線ではもうとんでもないところで遊んで。

藤島実家がたしか建設業。現場の仕事を手伝うわけですか?

久富はい。好きだったので小学生でも中学生でも手伝いをしていましたね。

藤島自然に力を使っていた。

久富それが普通だったので、鍛えているという感覚は全くなかったですけど。

藤島お相撲さんがウエイトを持ち上げるようになってからかえって怪我するようになったという一つの説があります。

久富自分には分かります。やり方を間違えると、なんか体を硬くするだけの感じが自分はするのでそういうトレーニングは絶対したくないです。

藤島なるほど。スクラムの、いまだに本当に日本を代表する組み手だと思うんですけど、スクラムの極意は?

久富けっこう聞かれることあるんですけど、正直あまり考えて組んでないので、逆に難しいですよね、言語化が。

藤島今、久富さんはいったん退いて、コーチングをけっこうされている。

久富いくつかスポットコーチで掛け持ちさせてもらっていて、スクラムを教える機会が多いです。教えるとなったときに、自分はどう組んでいたかをすごく振り返るようになって、コーチをし始めてスクラムを考えるようになりました。

藤島スクラム論というのはたぶん一晩かかるんでしょうけど、今のラグビーはやっぱり後ろの力を伝えていくというのが大事なんですか?

久富そうですね。今のフロントロー(フォワード最前列)のいちばん大事なことは、後ろの力をいかに100%ロスなく伝えるかだと思っています。若手とか他の選手は、スクラム組んで、ゼーゼー息が切れていることがあるんですね。後ろの力をどこかでロスさせて自分の力を使わなきゃ組めなくなっていると思うので、もったいないところができているのかな、と思います。

藤島すっと組んで後ろの力が伝えられているときは、息が全く上がらない?

久富全然上がらないですよ。それこそトイメンと話しながらでも組めますし。これ言ったら、もしかしたら(日本代表コーチの)長谷川慎さんは怒るかもしれないけれど、スクラムはちょっと休憩みたいな感じがあるので。

藤島今のひとことはすごいですね。

久富自然にぱっと入ってぱっと組めば、あんまりきつさはないです。

藤島ジャパンでキャップ21ですけれども、2002年5月19日、国立競技場のロシアとの試合が最初のキャップですね。

久富試合後、相手チームが選ぶMVPに選んでいただいて、ロシアから持ってこられたお土産のでかい陶器のジョッキみたいなのを渡されて。

藤島危険なにおいがします(笑)。

久富予想通りそれにじゃんじゃん注がれて、ばんばん飲まされて潰れた記憶があります。

藤島意外とキャップ数に頓着しないんですよね。2007年のワールドカップも選ばれると思っていたらどちらかと言うと自ら退いたような感じですね。

久富そうですね。ラグビーってけっこう危険なスポーツだと思うので、信頼できる人のもとでしかラグビーはできないというか。

藤島今の言葉重いですね。スクラムに戻ると、昔のスクラムは離れてバーンと当たるじゃないですか。今はすごく接近して。全然違うんですか?

久富試合の次の日とかのダメージが全く違います。自分が現役を続けてこられたのは、ルール改正が大きかったです。

藤島今思い出したんですけど、2005年のシーズン、NECは東芝としのぎを削って、引き分けで両チーム優勝。6対6だったかな。スクラムだけではないと思うんですけど、寝込んだのはあの試合後でしたっけ?

久富そうそう1週間。そのとき同期の結婚式がグアムで予定されていて、もちろん行く予定だったんですけど、熱が出て起き上がれない。ベッドの上でぼーっと「今頃は飛行機に乗っているんだ」とか。

藤島俗に言う「オールアウト」、出し切った感じなんですか。病名つかないですよね?

久富病名はつかないですね。

藤島やっぱり東芝対NEC、いちばん両方が寝込みそうな。

久富お互いに何ていうか、いい意味でアホですよ。東芝は最後PGを狙えばいいのにやらず、こちらは狙われたら終わるので、「来いよ」って言って、東芝も「おー、行くよ」みたいな感じで。勝つことを考えればすごいアホだなと思うんですけど、お互いの意地の張り合いというか、そういう意味でいい試合だったなと思います。

藤島44歳で現役をへっちゃらでやる。ものすごい節制をしているんじゃないかとふつうの人は思いますが。

久富全くしてないんですよ。好きなもん食って。パンが大好きなので菓子パンとか5、6個平気で食べますし、好きなものを好きなタイミングで食べる。なんか、今の若手を見ていると、囚われすぎている気がするんですけど。これしなきゃいけない、あれ食べなきゃいけない、これ食べちゃ駄目とか。

藤島たしかにストレスがかかるというのが、アスリートにとっては一つの敵だし、その辺が普通の言葉でいうとバランスなんでしょうけど。今の人ってとんかつの衣を取ったりするじゃないですか。

久富怒られるかもしれないですけど「そこまでするの」って思っちゃうんですよね。いろいろな栄養士の方の話を聞くんですけど、それ本当に正しいの? って思っちゃうんですよね。極論を言うと100年後、それが本当に正しいと言われるのかとか、あまのじゃくなので思ったりします。

藤島食べたいものは食べる、飲みたいときは飲む、大好きなものに囲まれる。そうすると長持ちするんですね。
スクラムは20年前の自分と今とでは、どっちが強いんですか?

久富それは今が強いですね。

藤島やっぱりワールドカップ近づいてきているので、一つ聞きたいです。日本代表をそんなにつぶさには見ていないと思うんですけど、長谷川慎コーチとは昔からのつながりがあるし、選手としてはサントリー対NECでやり合った。相手も1番。その長谷川氏が掲げているスクラム、伝わっていることもありますよね。そこについてはどう思いますか?

久富慎さんはめちゃくちゃ負けず嫌いなので、日本代表にいる選手の特性を考えてされているはずですから間違いないと思います。負ける可能性を潰すためにいろいろ考えられていると思うので絶対大丈夫だと思うんですよ。最近話していないので、お前何を偉そうに言ってんだ、と言われそうですけど。

藤島確認ですけど、現役を退いたというわけではないんですよね?

久富オファーがあれば柔軟に考えたいというのはあるんですね。条件が合えば。

藤島最後にファンの人、リスナーの人に、話したいことを話してください。

久富自分としては選手とコーチ、いろいろ揺れているんですけれど、求められる方で力を発揮できればなと思っています。今までそんなに努力して選手をやっていなかったので、復帰してもいける、という勝手な思い込みがあります。周りの選手はめちゃくちゃ努力していたので、あれを努力というなら自分は努力していなかったので。

藤島その人がいちばん丈夫で長持ち。
ゲストは元日本代表の久富雄一さんでした。お忙しいところ、ありがとうございます。

久富ありがとうございました。

8月7日ラジオNIKKEI放送
「藤島大の楕円球にみる夢」
text by 松原孝臣

ラジオ番組について:
ラジオNIKKEI第1で放送。PCやスマートフォンなどで、ラジコ(radiko)を利用して全国無料にて放送を聴ける。音楽が聴けるのは、オンエアのみの企画。放送後も、ラジコのタイムフリー機能やポッドキャストで番組が聴取できる。動画版はU-NEXTで配信中。

8月7日放送分ポッドキャスト http://podcasting.radionikkei.jp/podcasting/rugby-radio/rugby-radio-230807.mp3
U-NEXTでは画像付きの特別版を配信 https://www.video.unext.jp/title/SID0090286