藤島大の楕円球にみる夢
(2023/10/02)

ゲスト/田村一博氏(「ラグビーマガジン」編集長)

三井住友銀行(SMBC)ほかがラジオNIKKEI第1で提供するラジオ番組「藤島大の楕円球にみる夢」は、スポーツライターの藤島大さんが素敵なゲストを迎えて、国内外のラグビーや日本代表などの幅広い情報を詳しく伝えています。
10月2日放送のゲストは、「ラグビーマガジン」の田村一博編集長です。

藤島スポーツライターの藤島大です。ゲストはベースボールマガジン社「ラグビーマガジン」編集長、おなじみ田村一博さんです。ワールドカップ進行中ですけれどもフランスで開幕から取材しています。よろしくお願いします。

田村よろしくお願いします。

藤島今、フランスのどこにいるんですか?

田村今はトゥールーズです。

藤島日本のベースですね。

田村はい。日本代表はここを拠点に、いろんな開催地に動いているってことですね。

藤島なるほど。もうおなじみですけれども、私から略歴を話します。
1964年10月21日、熊本市生まれ。鹿児島中央高校から早稲田大学。高校時代は野球部ですね。1989年、ベースボールマガジン社に入社。「ラグビーマガジン」「週刊ベースボール」を担当して現職です。早稲田大学では、奇人変人の巣窟として知られているGWラグビークラブに所属しておりました。ポジションはフッカーです。
9月17日(日本時間18日)、ジャパンとイングランドの大一番。私はこちらで観ていたんですけれども、現地で取材され、どうでしたか?

田村いや、本当に試合が始まる前まで、やってみなきゃ分からなかったのですが、やってくれましたね、ある程度。自分たちのプランをちゃんと遂行して、追い詰めるまでは行きませんでしたけど、本当に勝ってもおかしくないぐらいのところまで持っていけたので、地力がついているなと思いました。

藤島私も放送を見て、そう思いましたね。なんていうか、やっぱり仕上げてくるなと思いましたね、ジェイミー・ジョセフさん。

田村そうですね。彼のいいところはチームの設計っていうか、その時までにきっちりチームを仕上げてくるっていう声はよく内部からも聞こえてくるんですよ。周りが不安に思っていても、なかなかベストメンバーで試合を重ねられなくても、練習を通してその時までにはチーム力を上げてくるなって改めて感じましたね。

藤島イングランド戦ですけど、前半スクラムがピタッとしてて、見事なスクラムを組んで。何か情報はありますか、もう自信あったんですかね?

田村もう1年前、去年の11月にトゥイッケナムでイングランドとやった時に最初の3本ペナルティとフリーキックを取られた。その時の3番の具智元選手ですね。彼がものすごく悔しいと1年かけて長谷川慎スクラムコーチと対策を練ってきた。その成果が本当に出たと思います。

藤島なるほど。あと堀江翔太もさすがだなっていうスクラムワークを感じましたけどね。

田村試合の2日くらい前、具智元選手も「堀江さんが何でも教えてくれる、何でも答えてくれる」と頼りにしていましたね。スクラムの時には必ず自分の方に寄ってきてくれるんですって。これの感覚がね、実際にスクラムの中に入らないと分からないんですけど。

藤島寄ってくれるという感じですね。

田村はい。相手はそこを分離させようとしてるんでしょうけど、3番を孤立させないで絶対に寄ってきてくれると言ってましたね。

藤島開幕の少し前に関西で中村直人さん、1999年ワールドカップの右プロップですね。今京都で酒屋のおっさんをやってますけど、たまたま会ったら、「具智元はイングランド戦では絶対素晴らしいスクラムを組む」って断言してたんですね。ウォームアップマッチでちょっと苦しんでいたけれども、サモアとかトンガとかフィジーとかああいうところは無手勝流で組んでくるから噛み合わせが悪いんだと。イングランドはきちっとしてるから、絶対押されない。まさにそうでしたね。

田村素晴らしかったですね。

藤島ディフェンスも良くなった気がして、どうですか、そのあたり。

田村ディフェンスリーダーの中村亮土、彼のコミュニケーション能力がすごく高いんですね。常に声をかけ続けるのもあるし、3列もしぶといですよね。

藤島イングランド戦はヘディングのトライがちょっと余計。しかしあの前のディフェンス、素晴らしかったんですよね。食い込まれたのにみんなピタッて帰ってきて一線で足をピタッとそろえて前に出て、だから相手がキャッチングできなくて、それが頭に当たってへんてこりんなトライが生まれた。むしろジャパンのディフェンスが良かったから生まれたトライのような気がして。

田村2019年のアイルランド戦もね、どんどんディフェンスで作っていったじゃないですか。イングランド戦もあれと似た時間帯はありましたね。

藤島観客席の雰囲気はどうですか。

田村ニースの試合はイングランドの声も大きかったですが、日本のファンもたくさんいるし、五分五分でしたね。やっぱりワールドカップなのでお互いのチームのサポーターがものすごく頑張るっていうか声が大きくて、チリ戦のチリサポーターはすごかったんです。チリの選手たちもこんなにチリ人が集まってくれるなんてびっくりしたって言ってるぐらいで。

藤島私あの試合でチリの大ファンになりました。タックルいいですよね。

田村素晴らしいですね。何人かビッグクラブから呼ばれるんじゃないですかね。

藤島呼ばれますよ。
現地にいて、練習全部を見ることは今、なかなかできませんけれども、雰囲気っていうのは漏れ伝わるじゃないですか。どうですか?

田村この2試合で出た選手って25人ぐらいなんですよね。ほとんど固定ですね。その中でもサポートしている選手たちがすごい献身的で、昨日、小倉順平選手、福田健太選手やフィフィタ選手が会見に出てきて今のチームの状況を話してくれたんですけど、国内で負け続けていた時からやっていることはほとんど変わらないんだけど、ワールドカップに入って自分たちは日本代表でやらなきゃいけないんだっていう1点のみで全然チームが変わった。何一つやってることは変わってませんって言っていました。

藤島開幕前、いろんな人に聞かれて、私は比較的楽観的な対応してたんですけど、ウォームアップマッチで負けたあとも選手たちが話すことが一貫してるんですよね。自分たちがやってることは間違いない、ミスをしたりして遂行できてないだけだと。建前で言ってるんじゃなく、この人たちは本当に信じてるなっていう感じがして、そこがある限りひどいことにはならないと思っていたんですよね。そういうことですよね、控えの選手たちが言っているのは。

田村そうですね。

藤島ジャパンを離れると、フランスは開幕戦を見るといいなと思ったんですけど、国民の見方はどうですか?

田村2戦目がだらしない試合で勝ちましたけど、それですごく批判されたみたいですね。3戦目はほぼベストメンバーで出て、圧勝。上位は間違いないんじゃないですかね。

藤島あの開幕戦を観ていて、フランスが調子良くないのにオールブラックスに勝つから相当強いなと思ったんですよね。
アイルランドはトンガの試合を観た時に強いなと思いましたね。トンガが必死でタックルするんだけども、全く動じないで淡々と攻めていく。あの短いバスがみんな丁寧で、これはしつけられてるなって思いましたね。

田村「ラグビーマガジン」のワールドカップの展望で神戸製鋼ヘッドコーチのデイブ・レニーに話を聞いたんですけど、今のフランスとアイルランドには本当にコーチングを感じるんだよねと言ってましたね。お気に入りの選手の名前を挙げろって言われたらほぼ全員になってしまうとも言っていました。

藤島この番組に布巻峻介が出てくれた時、アイルランドの選手って1人ひとりになってリーグワンに来たら活躍しない気がする、だけどチームとして強い、そこがすごいんだっていう文脈の話をしていて、なるほどと思いましたね。
ガットランドの率いるウェールズもしぶといよね。ガットランドは昔アイルランドのクラブですかね、指導したことがあってウェールズと比較してコメントしています。アイルランド人はなんでも議論してコーチにもすぐつっかかってくる。それは彼らが何でも考えているからだし、ディベートをしたり自分の意見をはっきり述べよっていう学校に通った人たちだから、そういう習慣があると。ウェールズの選手は黙ってレンガの壁を突き破るんだって言ったんですよね。面白いなと。

田村そうなんですね。

藤島日本でテレビを観ていると、試合の後は一体どうなっているのか、みんなそこは分からない訳ですけど、試合が終わった後どんな感じになっているのですか?

田村まずは記者会見があってそこにはヘッドコーチと主将が来ます。そこを終えてミックスゾーンというところに流れるんですね。試合中に誰を呼びたいか聞かれるので、何人かリクエストして、選手がやってくるんですけど、一気に来たり、あまり配慮はないんですよ。どっちの方向から誰がどんな順番で来るかを見定めながら自分の聞きたい選手のところに走る。しかし着いた時にはもう大きな人垣ができていて、手を差し込むのがやっとだとかそんな感じが続いていて。

藤島イングランド戦の後はどういう感じだったでしょうか?

田村個人差はあるんですけど。ビッグゲームに勝てば一気にという期待も大きかったと思うので負けた悔しさは全員持っていましたけど、あそこまでやれたのはよく考えれば自信になったと思うので、その両方を感じてる選手が多かったですね。

藤島なるほど。スタンドオフは松田力也が初戦から出て、直前まで苦しんでいたプレースキックがよく決まるようになった。何か現地で聞いていますか?

田村はい。ちょっと方法を変えたと本人は言っていて、確かに以前とはちょっとフォームが違うというか、蹴りだす前の形が違うんですけど。右肩だけ意識していて、右肩がちゃんと上がっていれば入ると自分の中でつかんだものがあるので、そこだけを考えて蹴っていると言ってました。

藤島ここまででいいなと近くで見ていて感じる選手の名前をあげてください。

田村勢いがあるのはアマト・ファカタヴァ選手ですね。無我夢中でやってるのが伝わってきます。ワールドカップのコメントにも、「今何で自分がここにいるのか分からない」って出したりしてますね。それからレメキロマノラヴァ選手。

藤島イングランド戦、よかったですよね。

田村相変わらず自信満々ですね。「全然強くなかったよ」って言っていましたよ。

藤島頼もしいですね。キックオフの、あのドロップのキックがいいですもんね。

田村いいですね。練習の時から周りを盛り上げますし。

藤島トゥールーズと結んで、早朝にお邪魔して語ってもらいましたけども、「ラグビーマガジン」編集長の田村一博さん、ずばり優勝国は?

田村フランスのような気がしています。それがあの国にとって幸せでしょうし、その前に本当に長く時間をかけて作ってきたチームであるのをすごく感じるし、スタンドオフのヌタマック選手が怪我で離脱しましたけど、全く遜色ない選手が出てきてしっかり活躍している。フランスが優勝してこの国が盛り上がるところを見たいですね。

藤島分かりました。本日のゲスト、ベースボールマガジン社「ラグビーマガジン」編集長の田村一博さんでした。ありがとうございます。

田村ありがとうございます。

10月2日ラジオNIKKEI放送
「藤島大の楕円球にみる夢」
text by 松原孝臣

ラジオ番組について:
ラジオNIKKEI第1で放送。PCやスマートフォンなどで、ラジコ(radiko)を利用して全国無料にて放送を聴ける。音楽が聴けるのは、オンエアのみの企画。放送後も、ラジコのタイムフリー機能やポッドキャストで番組が聴取できる。動画版はU-NEXTで配信中。

10月2日放送分ポッドキャスト http://podcasting.radionikkei.jp/podcasting/rugby-radio/rugby-radio-231002.mp3
U-NEXTでは画像付きの特別版を配信 https://www.video.unext.jp/title/SID0090286