藤島大の楕円球にみる夢
(2023/12/04)

ゲスト/垣永真之介選手(日本代表/東京サントリーサンゴリアス)

三井住友銀行(SMBC)ほかがラジオNIKKEI第1で提供するラジオ番組「藤島大の楕円球にみる夢」は、スポーツライターの藤島大さんが素敵なゲストを迎えて、国内外のラグビーや日本代表などの幅広い情報を詳しく伝えています。
12月4日放送のゲストは、ラグビー日本代表で東京サントリーサンゴリアスの垣永真之介選手です。

藤島スポーツライターの藤島大です。本日のゲスト、リーグワン東京サントリーサンゴリアスのプロップ、ジャパン、垣永真之介選手です。よろしくお願いします。

垣永よろしくお願いします。

藤島経歴の方、私からさっと紹介をします。1991年12月19日生まれ、もうすぐ32歳になります。福岡県出身。6歳でラグビーを始めて、小中学生時代、草ヶ江ヤングラガーズ、これ本当に日本のラグビースクールにおいてもとても大切な存在ですけれども、そこでプレー。それで東福岡高校、おなじみですね。キャプテンとして花園で優勝をしています。3年間で2回優勝ですね?

垣永はい、そうですね。

藤島その後、早稲田大学に進んでここでもキャプテン。決勝に進出して、帝京大学と対戦し、惜しい試合を落としました。サントリーに進んで、2016年にはサンウルブズでも活動。もちろん先日のワールドカップ、非常に重要な存在として、私も見ていて心を打たれました。そのことを後で聞きたいと思います。180センチ、体重は115キロ。2014年11月にジャパンの初めてのキャップをつかんで今、総計で12キャップですね。
ではさっそく話を聞いていきますけど、先にワールドカップの話を聞きますね。今振り返って、どうですか?

垣永社会人になって、大きな夢に対してちょっと現実味が帯びるようになってきて掴んだチャンスでメンバーに入れました。振り返ってみると本当にきつかったんですけど一瞬だった、儚くも美しい日々だったなと思います。

藤島ワールドカップ出場の機会はなかったけれどもあそこにいたことは大きいですか?

垣永大きいですね。本音を言うとやっぱり出たかったので残念ですけど、本当に大きいです。

藤島僕らの言葉で言うと「メンバー外」とか「ノンメンバー」とか言いますけれども、ベンチに入らない人たちのことを「柱」と呼んでいた、と。まさにプロップって意味ですけれども、垣永選手のように経験を積んだ人ってそこで使命感があるでしょう。

垣永悔しいのが一番ですが、日本代表はコンバインドチームなのでそこで協力できないとか人間性に欠けるような人はやっぱり入れないと思います。一番はこのチームで勝ちたいって皆が思っていたことが大きいです。

藤島本当は出たいけれどもその役が回ってきたら、見事に務めていたと思うんですけど、そこは長年の経験が。

垣永そうですね。2016年以降は3年くらい、あまり試合に出てなくてそういう選手の気持ちも分かるというか、出られない選手だからこその振る舞い、やらなきゃいけないことも学べました。

藤島アスリートだからずっと出るに越したことはないんでしょうけど、そういう経験も人間に深みをもたらすと私は思いますね。

垣永藤島さんに先日書いていただいた記事の通り、「これも人生」。本当に好きな言葉で、これも含めて本当に人生で、本当に素晴らしいと思います。

藤島ワールドカップ期間中に対戦相手の研究をして、ジャパンの先発、あるいはベンチの人のためにスクラムを組む、そういう仕事があったと思うんですけれども。例えば最初のチリの試合、チリの右プロップのことを研究して、垣永選手もそのモデルをしたんですか?

垣永基本的には相手チームの3番の選手のコピーをしつつ。

藤島大切な仕事ですよね。ある意味、自分を殺すけれども、それによってチームが生きていくみたいな。

垣永そうです。

藤島チリのスクラムの特色ってどんな感じだったんですか?

垣永オーソドックスな外国人のスクラムというか、どっぷり組んで1番のルースヘッドロックから押していくみたいな感じでした。

藤島次のイングランド、スクラムがものすごく重くて強いって我々は思うんですけれども、大雑把なわけじゃないんですか?

垣永わりと大雑把にどっぷり組んでくるんですけどバックファイブの押しが特に強くて、そこにジェイミー・ジョージとかエリス・ゲンジとか強くてパワフルなプレーヤーが加わると相乗効果が。

藤島結果としてスクラムに関してはイングランド戦、ぴたっと行きましたよね。

垣永日本人というのは言い訳にしたくはないんですけど、パワーとか体重差、いかに相手の100%を70%にするか、それが本当にうまくはまったと思います。僕も(スクラムコーチの長谷川)慎さんの組み方を教わってから、人生が変わるようにスクラムが良くなりました。慎さんはいつもセットアップでスクラムが全て決まるっていうんですけど、本当にその通りだと思います。

藤島セットアップを分かりやすく言うと?

垣永そのチームによってルーティンというのがあるんですね、どれだけルーティンを崩して不快感を与えるか。スクラム組む前って一瞬でも不安とか嫌なことが起きるとすごくネガティブな気持ちになって力を発揮できないというところまで繋がるので、僕らは完璧なセットアップしながら相手に力を発揮させない。

藤島つまり組む前に不快感を与えるんですね。

垣永そうですね。どれだけ足を下げさせてやるとか、体を縮こませるとか、セットアップの中に全てが含まれています。セットアップで優勢になれば組んだ後、こちらが優勢になりますし、相手は受け身のスクラムになります。

藤島次はサモア戦。

垣永サモアは3番の選手がすごくキーになっていてとんでもない馬力で、1人で組んで破壊していくというシステムで、コアなところでいくと、3番の選手が相手フッカー目がけて思いっきり入った後に押しに行く。

藤島これまたうまくいきましたよね。

垣永ちょっとやられかけたところもあったんですけど。

藤島サモアもやっぱり強かったんですね。

垣永あの3番は本当にすごかったです。

藤島先発の方?

垣永はい。めちゃくちゃすごかったです。

藤島問題のアルゼンチン戦ですけれども。

垣永アルゼンチンはあまり細部にこだわってなくて、ざっくりしたスクラムだと思ったからジャパンが押されるイメージがなかったです。4試合の中でスクラムに関しては一番心配がなかったですね。

藤島チームの一員として、ジェイミー・ジョセフの2023年ワールドカップのジャパン、どういうチームだったかちょっと言葉にしてください。

垣永本当、「過酷」ですね。あとはもう「未来への希望」っていう感じですかね。

藤島未来の希望というと?

垣永日本のレベルもすごく上がっていて、でも何か最後に決めるというか、最後の粘り強さというか、後半50分、60分くらいのあの時間帯というか、そこをこれからの未来のジャパンが。

藤島最後の20分って僕らもすぐ言うんですけど、別にフィットネスが切れてるわけじゃないんですよね?

垣永多少はあると思うんですけど、一番緊迫する、ミスが試合を左右する段階で容易なペナルティをしたり、気の緩みでフィジカルで前に出られてしまったり、日本が勝つには本当に80分、パーフェクトじゃないと難しいと思うんですよ。

藤島ここからは垣永真之介という選手について聞いていきたいと思います。フィールドに立つと吠える場面がよく知られてますけれども、先にこれだけは言っておきたいんですけど、ワールドカップの話をしても垣永は控えなのにすごい務めを果たしたってなるんだけど、プレーヤーとしても極めて優れてると私は思うんですよね。スクラムをしっかり組めて、フィールドプレーができて、明朗で賢くて、ハンドリングもいい。どうしてこういう選手が生まれたのかってちょっと調べたんですけど、6歳の時に体重が他の人の2倍あったと新聞に書いてあったんですけど、これ本当ですか?

垣永小1のときに40キロぐらいあって、かなりでかかったと思います。

藤島それで少し痩せるためにラグビースクールに行ったというのも本当ですか。

垣永本当です。

藤島痩せることもなく。

垣永1年で10キロずつ太っていって、小学6年で100キロぐらいありました。

藤島そうなるとラグビーをすると面白いでしょう。ボールを持てばどんどんゲインできて。

垣永ただ、すごく厳しいスクールで。本当に負けたことがなくて勝っても褒められないし、0点に抑えてボロ勝ちして初めて褒められるくらいです。

藤島私が早稲田大学のコーチだったときの教え子に草ヶ江ヤングラガーズ、福岡高校、早稲田大学という人間がいて、福岡高校も早稲田大学も当時かなり厳しい練習してたんだけど、ものすごいつらい目に遭うと、草ヶ江の合宿を思い出せと自分を奮い立たせるって言ってましたね。

垣永本当にそれくらいきつかったです。

藤島ジェイミー・ジョセフのジャパンのキャンプで草ヶ江ヤングラガーズを思い出したわけですね。

垣永そうですね。

藤島東福岡高校に入って3年生でキャプテンに。

垣永分かりやすく言えば中間管理職みたいな。

藤島その心は。

垣永あのときの選手は個々が強すぎて反発もすごいし、でも僕は監督、コーチから言われることもありますし、その繋ぎ目です。チームを一つにするのは本当に……。

藤島何が一番うまくいきました?

垣永一番は自分が正しいと思うことをやり続けることだと思うんですけど、みんなが幸せになる方法をずっと探してました。あとは共通の目的を持つことが良かったのかな。

藤島それは頂点ということですか。

垣永東福岡自体、そのときはあまり優勝したことがなくて僕の2個上の山下昂大さんのときが初優勝です。優勝を現実として捉えられるようになって、結束が高まったというか。

藤島早稲田大学に行ってここでまたキャプテンになり、サントリーを選んで、ここもカルチャーがあって、練習も厳しいと思うし、例えば仕事と両立させるような文化もあるし、そこはどうですか。

垣永サンゴリアスは本当にもう、ストイックで、アタッキングラグビーって言葉もあるんですけど。

藤島アグレッシブ・アタッキングラグビー。垣永選手はアマチュアで。

垣永社員です。

藤島仕事はどういう方面なんですか。

垣永居酒屋でビール樽が他社さんのメーカーだったらサントリーに変えてください、と。

藤島いいですね。切れ込んでいくわけですね。戻ってきてどうですか、サンゴリアス。

垣永メンバーが入ったり出たり大きい年なので、大きな母体はありながらも新しいカルチャーを作りながら、また新しいサンゴリアスを作っていってるなというイメージでした。

藤島よく酒場で情報収集するんですけど、垣永選手に会う、話すと言ったら、吠えるのは、あえて吠えてるのか聞いてくれって言われたんですけど。

垣永あえて吠えるときもあります。コベルコ神戸スティーラーズの山本幸輝選手、元気をつけるプレーヤーというイメージがあると思うんですけど、話をしたときに「これって隙間産業だよね」って会話して。

藤島どういうことですか。

垣永雄叫びを上げてチームを鼓舞して元気づける。みんなができることじゃないよね、できることをやって生き延びていこう、みたいな感じです。

藤島要するに意識的なんですよね。
これはもうみんなが聞きたいんですけど、今季加入したニュージーランド代表のサム・ケイン選手、南アフリカ代表のチェスリン・コルビ選手はどうですか。

垣永サム・ケイン選手はチームに入ってまだ1週間弱ですかね。すごく気さくで、もう日本語ですごく話しかけてくれました。人格者だなと。チェスリン・コルビ選手は皆さん見たら分かると思うんですけど、想像以上に小さくて、これでワールドカップの舞台であんなプレーしてたんだ、というのが最初でした。彼も自分から積極的に話してくれたり、すぐにチームに溶け込もうと懸命な姿を見て、この人格で、あの結果ありという感じでした。

藤島今、目標としてるのはどのあたりですか?

垣永サンゴリアスの優勝です。5年連続決勝まで行って、去年はベスト4だったんですけど、何回決勝で負けの屈辱を味わったかと思うと何度優勝してやろうかっていう気持ちです。

藤島本日のゲスト、リーグワン、東京サントリーサンゴリアスの垣永真之介選手でした。お忙しいところ本当にありがとうございます。

垣永ありがとうございました。

12月4日ラジオNIKKEI放送
「藤島大の楕円球にみる夢」
text by 松原孝臣

ラジオ番組について:
ラジオNIKKEI第1で放送。PCやスマートフォンなどで、ラジコ(radiko)を利用して全国無料にて放送を聴ける。音楽が聴けるのは、オンエアのみの企画。放送後も、ラジコのタイムフリー機能やポッドキャストで番組が聴取できる。動画版はU-NEXTで配信中。

12月4日放送分ポッドキャスト http://podcasting.radionikkei.jp/podcasting/rugby-radio/rugby-radio-231204.mp3
U-NEXTでは画像付きの特別版を配信 https://www.video.unext.jp/title/SID0090286