藤島大の楕円球にみる夢
(2024/02/05)

ゲスト/丸尾崇真選手(セブンズ日本代表)

三井住友銀行(SMBC)ほかがラジオNIKKEI第1で提供するラジオ番組「藤島大の楕円球にみる夢」は、スポーツライターの藤島大さんが素敵なゲストを迎えて、国内外のラグビーや日本代表などの幅広い情報を詳しく伝えています。
2月5日放送のゲストは、セブンズ日本代表の丸尾崇真選手です。

藤島スポーツライターの藤島大です。ゲストは男子セブンズ日本代表の丸尾崇真選手です。よろしくお願いします。

丸尾よろしくお願いします。

藤島昨年の11月19日、ファイナルは香港との試合、最後劇的なトライをしてオリンピックを決める。パリ行きを決めた当事者ですね。
私の方から略歴を紹介します。幼少期に2学年上の兄隆大郎さんの影響でラグビーを始めました。川崎市ラグビースクール。2005年に早稲田実業の初等部、小学校ですね。そこに入学をして中等部、高等部、大学に進学、早稲田大学3年時には大学選手権で優勝。4年でキャプテンを経験しています。大学を卒業後、イギリスに留学をして現在、神奈川タマリバクラブに所属。7人制ラグビーの日本代表としてパリ五輪の出場を目指し、出場権を取りました。自分がそこに出場してメダルを獲得することを目標としています。
同時に、オックスフォード大学入学のための勉学も継続中であります。現在のサイズ185センチ94キロ、日本代表セブンズのキャップ17、これはね、一つの大会を一つのキャップと数えます。
さっそくですけど11月の決勝、たぶん時計の針は8分ぐらいですかね。つまりもう、いわゆるインジュアリータイムに入ったところで腕を伸ばしてトライをしてあれで決まったんですけれども、あの日、どんな感じだったんですか?

丸尾いつもと変わらず朝は勉強して、その後試合会場に向かいました。先制されて、なかなかアタックも継続できずいいところで反則をしてしまう、そういう悪い流れもありつつ、これはもう無理かもしれないとかそんなことを思いかけながらも、でも、もうワンプレイあと1分頑張ろうというのを続けて、最後にああいう瞬間が来て。

藤島あれ、ボールを置くの簡単じゃないですよね。

丸尾簡単じゃないですけどあの瞬間は変に落ち着いてたなって思います。たしかに一見、思い切って飛んでいる、いちかばちかに見えるかもしれないですけど、僕の中ではトライできるからボールを置こうというぐらい落ち着いていたというか。

藤島オリンピックが現実になって、自らが選ばれなきゃいけないし、負傷のリスクももちろんあるんだけれども、パリへ向けてどんな心境で日々を送っていますか?

丸尾すごい楽しみである一方やっぱりオリンピックを目の前にするとプレッシャーとか不安とかあるのも事実で、色々な感情が毎日巡ってるんですけど、日本は今、世界の中で全然強くない。その日本がどう世界を驚かせるか、それもすごい楽しみですし、今のジャパンはもう完全に発展途上のチームであって、今メダルを取れますかっていう質問に「はい取れます」って自信を持っては言えないですけど、着実に階段を上っているという実感もあります。この階段を上った先に、パリオリンピックの舞台で、どう活躍できるか、どういうプレーを見せるか、どういう結果が出るかは楽しみです。

藤島セブンズは一般的には、身体能力の差が如実に、顕著に表れる。一方で、番狂わせの可能性もある。

丸尾そうなんですよ。そこが、すごい面白いなと。香港の予選決勝もそうですけど、実際に自力ではどっちが上だったか分からないけれど一発がある。それがセブンズの怖さでもあるけど面白さでもある。

藤島聞いておかなければいけない話を忘れないうちに。オリンピックを決める決勝の当日の朝もいつものように勉強した。要するにオックスフォードに入るための勉強ですね。

丸尾そうです。

藤島朝起きて、チームのルーティン、例えば飯を食って、決勝の日は何時から何時まで勉強したんですか。

丸尾決勝の日は1時間ぐらいですかね。朝、食べた後に勉強して。

藤島そこでYouTubeを見ることもなく勉強する。

丸尾何もしない時間が自分にとってストレスになっちゃうので。ダラダラしてるというのが。

藤島その域に達したらしめたもんですね、人生。数年前にオックスフォードとケンブリッジの面接の問題が文庫本になっていたんですよ。すごく面白くて、例えばカタツムリに悲しみが分かるかとか、答えがないことで、いかに相手を説得するか、そうなんですね?

丸尾はい、答えのないものをどう考えてそれをどう形に落として実行するか、卒業した後の社会でもそういう問題に直面していくと思うんです。

藤島丸尾選手個人の色々なことを聞いていきますね。早稲田でキャプテンをして決勝まで導いた。あれはコロナパンデミックの最初の年でしたよね。天理大学に完敗する。今振り返るとどうですか?

丸尾あの1年は、日々、試合もできない、特に春とかは全くできないし、本当に1日1日を決勝で戦うかのように、それぐらい思いと精度を高くやろうっていう日々を重ねていったんですね。重ねていた自信はあって、負けた直後は、もうやり切った、これで勝てないんだったら、しょうがないって思ってたんです。だけど1年間留学する中で、あの試合を振り返るときが何回もあって、そこで思ったのは、一つ、後悔してるところがあるなと。準決勝を勝って決勝の週になって、何か自分たちがもうストーリーに乗っているかのように主役かのように、後は勝つだけ、先が見えちゃったかのような感じだったんですね。その1週間でさえ一つずつ階段を登らなきゃいけなかった。特に1日で覚えているのは、最後に上げる練習があってコンタクトとかも激しくやる中で、みんな怪我もしたくないし、最後のこの練習をちょっと置きにいってしまった部分があったんですね。そこだなって思って。

藤島置きにいくというのはちょっと調整的に。

丸尾そこでさえ本気でぶつかり、また一段と登らなきゃいけなかったものを登れなかった。決勝は完敗ですけど、本当に勝てなかったのかって思うと、そんなことはない。あの週は、やりきれたとは言えないなって思いました。

藤島なるほどね。イギリスに行ったりセブンズでサーキットを巡ったりしながらも時々思い出すわけですね。

丸尾特にイギリスにいるときは夢を見たり。

藤島今の、すごい大事な発言で、世の中、スポーツは勝利ばかりじゃない、勝利ばかりの勝利至上はけしからんと言う人がいるけれど、勝利至上で思いつめた人がたどり着く境地ってあるんですよね。つまり、この悔いの深さとか、後に何か人生を豊かにするというかね。そう思いますね。きっとそれは、例えばコーチになったときも生きるし、多分セブンズの選手としても生きる。でも勝つべきだったんだけどね。

丸尾そうなんですよね。

藤島それでオックスフォードを受けた。

丸尾受けて、駄目で。

藤島そこで自分で「セブンズへ」と思った?

丸尾オックスフォードには必ず挑戦したいって思ったけれど、次の年にまた受験するまでの期間で、どこまでその合格率を上げられるんだろうって考えたときに、これはちょっと違う方法を考えなきゃいけない、オックスフォードに入るためにプロアスリートになろうと思いました。

藤島その順番面白いですね。

丸尾オックスフォードの入り方を色々考えて調べて、卒業生も全部見て、アスリートから行ってキャリアを変えるところに使う人もいました。この方法がいいんじゃないかと思ってまずプロアスリートになろうと思いました。アスリートとしてやりきってない感というか中途半端だなっていうのをすごい実感して、もっと挑戦してみたいっていう思いが出てきました。アスリートの極みを目指してみたいなって思ったときに僕の中ではオリンピックだった。オリンピックに出るためにはどうすればいいんだろうなと思って一応全競技見たんですね。最後にセブンズだな、セブンズやろうと思ってオリンピックに出るために、セブンズを始めました。

藤島自分で動いて、日本協会なんかにアプローチしていく。

丸尾そうですね。

藤島自分で考えて自分で決めて自分で最初に動く。言葉にすると当たり前でも意外と日本のスポーツ選手でできる人は少ないんですね。それはまさにイギリスの教育が求めていることじゃないですかね。
一方でイギリスにいるときにウクライナにロシアが侵攻した。ポーランドに飛んだわけですね。

丸尾イギリスに1年間いる間に色々な国をまわったりもしていて、2月に侵攻が始まったときに行きたいところとしてポーランドのアウシュビッツがありました。航空券が片道7ポンドだったんですね。

藤島7ポンドって?

丸尾1000円ぐらいですね。往復2000円ぐらい。アウシュビッツに行って色々なものを感じましたが、アウシュビッツに行く前に、駅でバスを探しているとき、何か大きな待合室みたいのがあって開けたらもう雑魚寝していて。避難してきた人たちですよね。そういう方がいて炊き出しみたいなのをして、というのを目の当たりにしたときは、日本では全くわからない理解できないことだなって思いました。

藤島間近でそこに接するっていうのは違いますか?

丸尾違いますね、全く。自分がいかに恵まれているか、やりたいことをやり続けて目標に対して挑み続けているけれど、一方本当にそんなことを考える余地もなく、その日生きられるか死ぬかみたいなことになっている人たちもたくさんいるのを目の当たりにするのは貴重な体験でした。

藤島パリを目指す、パリでの躍進を目指す、しかしどうもスポーツのアスリートの枠に収まりそうにない雰囲気ですね。将来、どうしますか?

丸尾今はプロラグビー選手っていう肩書きですけど、自分をプロラグビー選手って思ってないようなところがあるんですよね。というのは、ラグビーだけをやっているわけでもないし、ラグビーをやることが自分のゴールにはなっていないので。

藤島一方でしばらくトップレベルで続けたいっていう気もなくはないでしょう。

丸尾そうです。こうなったらこう、こうなったらこうっていうプランもいっぱいあって選択肢もあって、それを広げるように色んな準備をしています。ラグビーに関してはパリまでやりきって、その後やるかやらないかはやりきってから考えよう、そこをやりきらなければ次はないし、2028年とか先を見据えていたらパリは適当なものになってしまう。パリまでやりきる、その後にオックスフォードに行くのかラグビーをするのか、違う道を選ぶのか、色々な選択肢は考えてますけど、楽しみではあります。

藤島オリンピックがあってオックスフォードがあって、なぜそこだったか聞かれるでしょう? 答えはどうですか。

丸尾短く言うと、ロマンですね。究極に突き詰めると憧れとか夢なんだよっていうところに行き着くもの。そういうものが自分のやりたいこととして浮かんでくる、そこまで行き着くともうロマンというか夢というものだろうと。

藤島私も仕事柄、オリンピックの金メダリストに何度か会ったり、インタビューしたりしたけれど、プライドのレベルが明らかに全く違いますね。日本のレスリングの選手とじっくり話したこともあるし、ロシアのカレリンという無敵のレスラーもある。自信と誇りが異次元でオリンピックの金メダリストって違うなと思いましたね。だからロマンというのは間違ってないんじゃないか。
本日のゲスト、男子セブンズ日本代表の丸尾崇真選手でした。お忙しいところありがとうございます。

丸尾ありがとうございました。

2月5日ラジオNIKKEI放送
「藤島大の楕円球にみる夢」
text by 松原孝臣

ラジオ番組について:
ラジオNIKKEI第1で放送。PCやスマートフォンなどで、ラジコ(radiko)を利用して全国無料にて放送を聴ける。音楽が聴けるのは、オンエアのみの企画。放送後も、ラジコのタイムフリー機能やポッドキャストで番組が聴取できる。動画版はU-NEXTで配信中。

2月5日放送分ポッドキャスト http://podcasting.radionikkei.jp/podcasting/rugby-radio/rugby-radio-240205.mp3
U-NEXTでは画像付きの特別版を配信 https://www.video.unext.jp/title/SID0090286