藤島大の楕円球にみる夢
(2024/05/06)

ゲスト/冨田真紀子氏(元日本代表)

三井住友銀行(SMBC)ほかがラジオNIKKEI第1で提供するラジオ番組「藤島大の楕円球にみる夢」は、スポーツライターの藤島大さんが素敵なゲストを迎えて、国内外のラグビーや日本代表などの幅広い情報を詳しく伝えています。
5月6日放送のゲストは、7人制と15人制の元日本代表、冨田真紀子さんです。

藤島スポーツライターの藤島大です。ゲストは7人制と15人制の元日本代表冨田真紀子さんです。よろしくお願いします。

冨田よろしくお願いします。

藤島略歴を私の方から。1991年8月に岡山県で生まれました。千葉県で育って、中学3年、「世田谷レディース」に入りラグビーを始めます。東京・跡見学園高校1年のときにオーストラリアへ留学をして現地のクラブチームでもプレーをしています。その後、早稲田大学国際教養学部に進んで大学2年のときにはスコットランドに留学。卒業と同時にフジテレビへ入社します。高校時代から15人制と7人制の女子日本代表に招集されました。
7人制日本代表サクラセブンズのメンバーとして2016年のリオデジャネイロオリンピック10位、そのときの一員ですね。2009年、2013年のワールドカップに出場。15人制で2017年、アイルランドでのワールドカップに参加しています。15人制で5キャップ、7人制で25キャップ。堂々たるジャパンですね。2015年、「ながとブルーエンジェルス」で日本一、静岡の「アザレア・セブン」にも加わっています。
2021年、フランスへ旅立って1部リーグの「ロンス・ラグビー・フェミナン」というクラブ、そこでプレーをします。本年1月、現役引退を発表しました。今はフジテレビで勤務を続けているということですね。本当に濃厚な濃密なキャリアです。

冨田ありがとうございます。

藤島まずどこから行きますかね。オリンピック行きましょう。2試合目でしたかね、脳震盪。はっきり言うとせっかくの大舞台なのにわりと早めにもうプレーはできなくなった。今も思い出しますか?

冨田はい。6年かけてやっとリオに行けたのに1試合目はフル出場してボコボコにやられ、2試合目の開始30秒ぐらいに。

藤島いわゆる英国、グレートブリテンとの試合でしたね。

冨田ちょうどハイボールのキャッチで脳震盪になって完全にドクターストップ。すごい苦い記憶ですね。こんな一瞬で終わるんだ、6年かけて30秒で終わるんだみたいな感覚がありました。

藤島次の年、2017年、今度15人制でラグビーのワールドカップ、アイルランド開催でした。あれはフランス戦ですか?

冨田そう、初戦のフランス。

藤島何があったかというとレッドカードをもらいました。

冨田後半20分ぐらいにタックルして、相手の顎に肩が入ったというのでレッドカード。本当は6試合出場停止だけど半減して3試合出場停止になり、一応最後の香港戦は出られたんですけど、一番きつい試合にはチームのためにできませんでした。

藤島こういうことが起きない方が良かったんでしょう。しかし今思うとね、なんかちょっと人生に深みが出ますね。その後の生き方が変わるでしょう?

冨田変わりますね。同じような失敗を繰り返さないようにしようっていうか、本当に学びますね。なんでこんなにやらかすんだみたいな自問自答する日々が始まって、だからこそ人と違う生き方をしようと。

藤島フランスに行く動機にも関係していますか?

冨田アイルランド大会のときがフランス相手で。リオに行く前のワールドシリーズの昇格大会でもフランスに阻まれて私たちは昇格できませんでした。フランスの記憶を新しい記憶にできたら、自分の失敗が上書きできるのかなって思いました。

藤島リスナーの素朴な疑問は、フジテレビに勤めているんじゃないのか、と。私の責任で言いますけどフジテレビは務めを果たしましたね。いい人をとってそういう経験をさせて。

冨田「お前はラグビー引退したら帰ってくるんだから頑張って行って来い」って送り出してくれて。

藤島行ったのはポーという町ですね。女子の選手はナショナルチームの選手を除けばアマチュアですよね。

冨田はい。

藤島最初は学生ですか?

冨田はい。「英語が通じるから大丈夫だよ」って言われて行ったら全然英語が通じなくて、大学にある第2外国語としてフランス語を勉強する学科に入りました。朝トレーニングして、お昼6時間勉強して夜ラグビーするという生活を1年間やり、2年目以降は働きながらラグビーしていました。

藤島ワイナリーですよね。ワインの会社で何をしていたんですか?

冨田ブドウをみんなで一緒に採ったり、日本に私たちのワインを入れられるようにマーケティング、輸出の方も担当したりしていました。チームのスポンサーがワイナリーで、私に就労ビザを出してくれたおかげでラグビーができたんですよ。甘めのジュランソンワインを基本的に醸造していて、実は日本に入ることが決まったので日本でも色々な人に買っていただけるんじゃないかなと。

藤島業績を残したわけですね。
フランス語で郷土を表す「テロワール」、フランスのラグビーの本を調べていると、よく出てくるんですね。つまり自分の土地のためにラグビーのクラブも戦う。そういうイメージはありましたか?

冨田ロンスだからずっとロンス、他のチームに行くなんて考えられないみたいな考えを持っている人が多くて、他のチームに行くと「なんやねんあいつ」みたいな、友達じゃなくなるというくらいロンスが好きです。田舎で女子の1部リーグに入っているチームってロンスしかないんですよ。仕事もみんな毎日鳥の餌をやっていたり、牛乳を牛からとったり、そういう酪農系の仕事をしてる人ばかりだったので、みんな朝4時から夕方6時まで仕事して7時からグラウンドに来る。でも試合ではすごいタックルして誰よりも飲んで帰る。

藤島あるところのインタビューで、本当にみんな生きたいように生きて自由だと思った、と。

冨田本当に自由ですね。

藤島フランス人はすごい個人主義だっていう一般的評価があるじゃないですか。自分らしく生きているってことですか?

冨田我慢しない。だからこそチームとして作っていく規律とかは大変でした。そもそもルールは破るためにあるみたいに考えている人が多いので。私もリーダーグループに入っていたので、どうやってみんなが納得する言い方ができるか、意見を聞いてもらえる選手になるかを考えて、認めてもらうにはみんなと同じように働かないといけないなって思ったのがきっかけで働くことになりました。

藤島働いたら変わりましたか?

冨田働いたらチームの輪に入れてくれた感覚がありました。

藤島ルールは破るためにあるんだ、規律は難しい。でもちゃんと試合するじゃないですか。

冨田試合前の円陣なんか、スイッチが入ってお前ら何のためにラグビーしてんだ、みたいなことを汚いフランス語で言い合って。泣きながら試合に入る人もいっぱいいるし、殴り合いの喧嘩が始まるんじゃないかっていうぐらいの気性の荒さを作るんですよ。試合に入ったら練習で見たことのないタックルをする。練習でやらないと試合で出ないって日本代表で学んできたのに、それが通用しない社会でした。

藤島日本ではドーベルマンの愛称をいただいた冨田真紀子だけど、例えばワールドカップのフランス戦、レッドカードをもらうぐらいの気合は正しかったんですよね。それぐらいで行かないとあの連中は止められない。

冨田私たちも気持ち的にいろいろな準備はしてきたけれど、あっちに行ってみると、ここぞというときのスイッチが。普段ストレスを溜めずにやっているからだなって思いました。日本の社会だと溜めて溜めて爆発するみたいなことが多いじゃないですか。溜めないからこそ本当の100%が出るんですよ。

藤島つまり、自由に普段個人主義で生きている人がそのときだけ集団になるからエネルギーがすごい。

冨田結束力が。これが嫌いだからやりたくない、この練習はこれがいらないと思うから嫌だ、というのが多いんですよ。でも何のためにこの練習をしなければいけないのか、1段階上の会話はできると思いました。上が言ったから仕方なくやるみたいな、なあなあになるところはないです。思い出したんですけど、スタッド・トゥールーザンっていう女子1部リーグで毎年優勝しているようなチームに1回だけ6対3で勝った試合がありました。それが一番の思い出なんですけど、「うちらは1個のチャンスしかないよね、ディフェンスでペナルティをしないかどこまで規律を守れるか」っていう話をしていました。

藤島そこには規律が出てくるんですね。

冨田私もびっくりなんですけど。

藤島冨田さんは中3でラグビーを始めて、高校でジャパンに入り早稲田大学を選びました。

冨田ラグビーをやりたかったし、英語を勉強したい、留学ができるところとなったら早稲田の国際教養学部しかなくて、そこしか受けませんでした。

藤島はっきりしてますね。

冨田はっきりしたいタイプです。グレーゾーンとか苦手なタイプ。

藤島ラグビー部に入ろうと考えたんですか?

冨田入学式の後、スーツのまま上井草のグラウンドに行きました。女子部員としてラグビー部に入れてくださいと言ったら、早稲田クラブの後藤さんが。

藤島後藤禎和、この番組にも出てくれました。

冨田「お前体重何キロ?」と聞かれて、50何キロみたいなこと言ったら「そんなんでラグビーできんのか。出直してこい」と言われました。とりあえず顔を覚えてもらおうとまた行ったりしていたら「グレーアンドホワイト」、GWっていう準体育会のチームがラグビー部と一緒に毎週日曜、水曜に合同練習していると聞きGWにまず入りました。大学4年生のとき「どうするの、夏合宿」と、その時は早稲田の監督になっていた後藤さんから聞かれ、「もっとちゃんとやりたいと思ってます」と言ったら「来い」と言われました。私は顎が折れていたので、大きい白の絆創膏を顔につけて、いつも血が出て膿んでいたんですけど参加させてもらいました。

藤島早稲田大学に女子のラグビー部がこの春誕生しました。その動きの支援とかそういうことはしていたんですか?

冨田大きい歴史的な大学にラグビー選手として女子が入ることにすごく意味があると思っていて。というのも文武両道がラグビーの強みだと思っているんですよ。男子でも文武両道の人が活躍しているし、それを女子でも作りたいという思いがありました。女子が早稲田に入って来ていたので、3年前くらいだったんですけど、そのタイミングに、今、柳澤眞さんという主務とか全部女子のことをやってくださっている方に、大変僭越ながらお願いいたしました。

藤島やっぱりサポートしていたんですね。今は社業に励んでるわけですけれども、パリのオリンピック、気になるでしょう。

冨田気になりますね。今ちょうど現地で日本語とフランス語が喋れる日本人の方のリエゾンを選出したりして、ちょっとでも関われているだけで本当にありがたいです。今の女子はメダルを獲る可能性も大いにあるので本当に注目です。

藤島ラグビーに関連する将来というか、思い描いてることはあるんですか?

冨田ラグビーに本当に20年ぐらいお世話になったのでラグビーに返せるようなことを探していきたいなと思っています。

藤島ゲストは、7人制、15人制の元日本代表、冨田真紀子さんでした。今日はありがとうございます。

冨田ありがとうございました。

5月6日ラジオNIKKEI放送
「藤島大の楕円球にみる夢」
text by 松原孝臣

ラジオ番組について:
ラジオNIKKEI第1で放送。PCやスマートフォンなどで、ラジコ(radiko)を利用して全国無料にて放送を聴ける。音楽が聴けるのは、オンエアのみの企画。放送後も、ラジコのタイムフリー機能やポッドキャストで番組が聴取できる。動画版はU-NEXTで配信中。

5月6日放送分ポッドキャスト http://podcasting.radionikkei.jp/podcasting/rugby-radio/rugby-radio-240506.mp3
U-NEXTでは画像付きの特別版を配信 https://www.video.unext.jp/title/SID0090286