藤島大の楕円球にみる夢
(2024/06/03)
ゲスト/細田佳也氏(元日本代表)
三井住友銀行(SMBC)ほかがラジオNIKKEI第1で提供するラジオ番組「藤島大の楕円球にみる夢」は、スポーツライターの藤島大さんが素敵なゲストを迎えて、国内外のラグビーや日本代表などの幅広い情報を詳しく伝えています。
6月3日放送のゲストは、元日本代表の細田佳也さんです。
藤島スポーツライターの藤島大です。ゲストはリーグワン、NECグリーンロケッツ東葛でプレーをして今シーズン現役を引退した元日本代表の細田佳也さんです。よろしくお願いします。
細田よろしくお願いします。
藤島まず経歴を私の方からざっと話して、その経歴に基づいて色々な話を聞いていきます。
1987年8月5日、長野県の飯田市の出身です。小学2年で上郷ラグビースクールに入ってラグビーを始めます。中学では陸上部、このときに100m走11秒8、速い。背は高かったんですか?
細田そうですね 188センチくらい。
藤島ラグビーと並行してやっていたんですね。飯田高校、便宜的にラグビー部って言いますけど飯田高校は伝統的にラグビー班って言うんですね。ラグビー班で3年のときにキャプテン、花園予選は準決勝で長野高校に。苦い思い出、つまり花園には行けなかった?
細田はい。
藤島その後、日本大学に進むんですけれども実は1年受験浪人をしている。つまり、いわゆる声がかかってラグビー部に行くのではなくて、あくまでも一般の学生として予備校に通って文理学部に合格をして入部をする。そこでの活躍が認められて、当時のNECグリーンロケッツから声がかかって、当時のトップリーグに関わるということですね。
2016年、あのスーパーラグビーのサンウルブズのメンバーとして13試合に出場。
そして15人制日本代表。2016年カナダ戦、2017年韓国戦とキャップ2つ、ここに物語があるので後で聞きます。その前、2014年に7人制のセブンズのジャパンにも選ばれてロンドンのトゥイッケナムでも試合をしたことがあるということです。
NECではいわゆる社員の選手ですよね。何かもう親近感が湧きますね。普通に浪人して大学に入った社員の選手がジャパン、そして36歳のこの間まで、最後の試合は入れ替え戦の最終戦ですけれども5月25日、フル出場してますね。最後まで欠かせぬ戦力としてキャリアを終えたということです。あらためてですけれど、グリーンロケッツ13年間、今現役を終えて心境はどうですか?
細田昨日納会があったんですけども、それで終わったんだなっていうのは感じてますね。意外と落ち着いていたのでやりきったというのは自分の中にあります。
藤島やりきったって言ってみたいですね。なかなか言えないことですね。
細田ありがたいことに。
藤島まだできそうなのに、なぜここで?
細田昨シーズン、本当はやめようと思っていました。パフォーマンスがなかなか上がらない部分があって試合の出場時間が確保できなかったり、自分の中でもモヤモヤした部分があったり、そろそろ、いったん区切りをつけようと思ってやっていました。でも最後の最後にディビジョン2に降格が決まったので、ディビジョン上がって終わりというのをイメージしてあと1年頑張ろうっていう思いでやりましたね。
藤島最後、リコーブラックラムズ東京戦、思わぬ大差で敗れた。総括するとどうですか?
細田僕の中ではもっとできるかなと思ったんですけど、チームとしてこれが実力なのかなってあらためて感じた試合でしたね。
藤島NECに2011年に入って、調べると最初から試合にどんどん起用されています。田村優は同期入社?
細田よく飲みに行ってました。
藤島そうですか。今だから言える話ありますか?
細田寮生活だったんですけど、僕と優は1階で部屋も近かったので、よく部屋を行き来してました。彼も社員だったので、今じゃ研修を受けるって考えられないですけど、研修に一緒に行っていました。電車に乗るので朝早いから毎日起こしました。
藤島今となっては秘話ですね。
細田本当に考えられないと思います。
藤島あそこまで行くと思いました?
細田やっぱりラグビーに対する姿勢は本当に感心するものがあったし、プレーを見てもスキルも高かったのでどんどん上がっていくんじゃないかなと思ってましたね。
藤島大学の時はだいたい試合に。
細田はい、出させてもらいました。
藤島思い出の試合あります?
細田入れ替え戦が多かったですね。大学に入ったとき2部でした。そこから1年で上がれたんですね。その後も3年と4年は入れ替え戦をやっています。
藤島入れ替え戦がけっこうつきまとう。
細田つきまといました。最後までつきまとうか、と思いながら最後の試合を迎えました。
藤島なるほど。グリーンロケッツのチームメイトで同じ時期に引退をすることになった元日本代表の田中史朗さんに、細田さんについてのコメントをもらっているので、聞いてください。
本当に努力も惜しまない選手ですし正直まだまだできるんじゃないかっていう思いはあるんですけども彼が決めたことなので。でも最後もしっかりレギュラーで試合にも出てくれましたし、タックルも決めてくれたので、本当に尊敬しています。
藤島どうですか?
細田本当に、本当にレジェンドなので、そういう風に言ってもらえるのは誇らしいなって思います。
藤島最後までいいタックルしていた、これに勝る称賛はないんじゃないですかね。
細田そこを大事にしているので本当に嬉しいです。
藤島日本代表の話をお願いしたいと思います。この物語に小さいタイトルをつけると「成田空港で離脱」。どういうことかというと、2016年のカナダ戦、バンクーバーの敵地で初めてキャップをとるんです。このとき後半5分ですね、レッドカードを受ける。覚えていますか?
細田忘れることはできないです。
藤島何をしたんですか?
細田上に入ったら相手の顎だか顔に当たっちゃって、それでですね。
藤島つまり初キャップがレッドカード。しかも緑豊かな伊那谷で育った穏やかな青年が。その後帰国して成田空港からスコットランドとのテストマッチへ行くスコッドに入っていたわけですよね。そこにいわゆるワールドラグビーの裁定の報告が届いて、しばらく出場停止だった。成田空港で離脱。
細田もうショックで、いつの間にか帰っていましたね。
藤島2016年、サンウルブズでは13試合出場。その経験はどうですか?
細田7人制は経験しましたけれど、15人で海外の選手と試合するのは初めてでした。やっぱりフィジカルの部分は全然違うなと感じました。でももっと大きく考えると通用する部分もあるんだなって感じたのでそこで勝負できるところもあると感じました。
藤島当時、おそらく192センチ、103キロぐらいですか?
細田そうですね。
藤島普通の人にしたら巨漢なんですけど、フィールドに立つとまさに名字の通り細く見える。ラグビーのトップクラスの世界で細身の体で、通じるところがあると。
細田そうですね。ワークレートがあって正確性がある、そういうところは日本人の意識は高いのかなと思いました。
藤島我々の方が、あるいは自分の方が早く起きる意識が高いということですか?
細田そういうことはできていると思いました。
藤島するとその延長線上に、2019年のワールドカップジャパンの快挙があって、あれも不思議じゃなかったですか。
細田と思いましたけれどもやっぱりすごかったですね、みんな。
藤島そこにはいたかったでしょうけれども。これを忘れちゃいけないんですけど、細田さんは怪我の問題が。
細田NECに入って2年目の最後ぐらいにアキレス腱を切って。2回切ってるんですよね。その後からもう毎年主に肉離れで。
藤島アキレス腱は普通2回切るもんじゃないですよね、人生。
細田しかも同じところで。反対の足を切る人は結構いると思うんですけれど。
藤島一生懸命治療をして、多少リハビリをして戻るとまた別のところが。
細田そこら辺は苦労しましたね。それで代表も行けなかったりして。
藤島エディー・ジョーンズさんのとき期待されているなっていう雰囲気は僕らにも伝わってきて。
細田ちょうど合宿前に怪我してしまったりしましたね。
藤島いい選手って怪我すると人間が大きくなって帰ってくる。
細田そういうのはあるかもしれないですね。今思えばいい経験になったなって思います。自分の体を知る、自分のことをより考えるじゃないですか。僕自身の体を長年ラグビーに使える体にしてくれたのかなって思いますね。
藤島歳をとると肉離れが増えると思うんだけど、逆だった?
細田逆でしたね。昨シーズンは肉離れしていないのかな。今シーズンは1回したんですけど、基本的には調子は悪くなかったです。
藤島最後の試合もフル出場。年齢を重ねてつかんだ具体的なプレーが。
細田僕はディフェンスが好きで、タックルも大事なんですけどそこまでいく過程を意識していて。相手がどう来るかをイメージして、その前にタックルまでいけるのでそういう部分は体に染みついたというかある程度余裕を持って動きに落とせているかなって感じています。
藤島これだけ長いキャリアがあって、引退したから言えることってあると思うんですけど、この人は今だから言うけどすごかったとか、一緒にプレーしてこの人は本当のラグビー選手だ、ということはありますか?
細田同期の田村もそうですけど、村田毅。一緒のポジションだったのですごい刺激をもらいました。めちゃめちゃ考えている選手で、僕はもともと考えるってあまりしてこなかったので、こういうラグビーあるんだ、みたいに感銘を受けました。
藤島慶応大学からNECに入った選手ですね。考えるというのはラグビーについて?
細田そうですね。例えばどういうサイン出しするか、どこへ飛んだらいいか、相手がどう来るか。これが伝統校の強みなのかなと感じました。自分も考えるようになったらラグビーがもっと面白くなりました。
藤島今振り返って、ラグビー人生はどうでしたか?
細田いろいろな繋がりもそうですし自分自身の成長もそうですし、ラグビーに助けられたなと感じます。引退すると思い出すこと、思い返すことが多くて、それこそスクールの人もそうですし、高校の人もそうですし、感謝しかないですね。
藤島グリーンロケッツはどんなチームですか?
細田時代によって変わってきてるんですけど、どんなときも「これやろう」って言ったら絶対やるし、いい面も悪い面もありますが真面目でいいチームだと思いますね。
藤島最後の試合のメンバー表見たら、たぶんチームメイトで一番若いのがスタンドオフの吉村紘、そこに継承していく。
細田入れ替え戦でああいう形になって、いろいろダメージを受けてるみたいなんですけど、いい成長の糧になるかなと思っているので、グリーンロケッツを引っ張って欲しいなと思いますね。
藤島細田さんはラグビー部をいったん離れしばらく社業に。自分で決めたんですか?
細田社業専念ということで決めさせていただきました。ラグビーという道もあるかなと思うんですけど、人生の経験の一つとしてラグビー界を離れてそれも大事かな、今しかできないのかなと思いました。そういう環境にいるのも社員選手という一つの特権というか価値かなって思っているので。
藤島またまた面白い人生が始まります。照れずに社長になってください。みんなを幸せにしてください。
細田ありがとうございます。
藤島本日のゲスト、NECグリーンロケッツ東葛の細田佳也さん、今後の活躍も期待しているというか、おそらく活躍するでしょう。今日はありがとうございます。
細田ありがとうございました。
6月3日ラジオNIKKEI放送
「藤島大の楕円球にみる夢」
text by 松原孝臣
- ラジオ番組について:
- ラジオNIKKEI第1で放送。PCやスマートフォンなどで、ラジコ(radiko)を利用して全国無料にて放送を聴ける。音楽が聴けるのは、オンエアのみの企画。放送後も、ラジコのタイムフリー機能やポッドキャストで番組が聴取できる。動画版はU-NEXTで配信中。
6月3日放送分ポッドキャスト http://podcasting.radionikkei.jp/podcasting/rugby-radio/rugby-radio-240603.mp3
U-NEXTでは画像付きの特別版を配信 https://www.video.unext.jp/title/SID0090286