藤島大の楕円球にみる夢
(2024/08/05)

ゲスト/長田智希選手(日本代表/埼玉パナソニックワイルドナイツ)

三井住友銀行(SMBC)ほかがラジオNIKKEI第1で提供するラジオ番組「藤島大の楕円球にみる夢」は、スポーツライターの藤島大さんが素敵なゲストを迎えて、国内外のラグビーや日本代表などの幅広い情報を詳しく伝えています。
8月5日放送のゲストは、ラグビー日本代表で埼玉パナソニックワイルドナイツの長田智希選手です。

藤島スポーツライターの藤島大です。私は今、埼玉パナソニックワイルドナイツの本拠地、埼玉県熊谷市にあるワイルドナイツグラウンドに併設されているクラブハウスの一室に来ています。早速ですけれども今月のゲスト、ワイルドナイツの長田智希選手にお話を伺います。よろしくお願いします。

長田お願いします。

藤島まずちょっと略歴を私の方から。1999年、第4回ワールドカップの年ですね。その1999年11月25日生まれ。京都府出身。乙訓郡の大山崎町というところで育ちました。「おとくにぐん」、響きがいいですね。
小学4年の時に幼なじみに誘われて京都の亀岡ラグビースクールでこの競技を始めます。京都の神川中学、これ越境しているんですよね?

長田そうです。

藤島大阪の東海大仰星高校に進学してラグビー部に入ります。1年はリザーブで花園優勝、2年が準優勝で、3年キャプテンとして全国制覇で高校ジャパンにも選ばれています。
早稲田大学に進み1年生からレギュラーで活躍。U20の日本代表を経験して2年のとき齋藤直人キャプテンで全国大学選手権久しぶりの優勝を遂げる一員でもありました。最終学年、キャプテンとして大学選手権で明治に敗れてベストエイト。卒業後、埼玉パナソニックワイルドナイツに加入して社員の立場で選手をしているということです。179センチ、90キロ。ジャパンのキャップはこの間で10になりました。
記憶に新しいところから伺います。エディー・ジョーンズ体制になってのテストマッチのシリーズがあって、まずイングランドとぶつかりました。

長田システムも新しくなって選手全員がまだ自分たちのラグビーに慣れてないというか、イングランドのプレッシャーもあったんですけど自分たちのラグビーに対するプレッシャーがまだあって、すごく難しい試合でした。

藤島エディー・ジョーンズが戻ってきて、超速、極めて速いラグビーをすると。それをイングランドで試してみてどうでした?

長田いい部分はありました。特に最初の20分、自分たちのラグビーが通用している感覚はありました。それを80分間通してどう勝ちに持っていくかが大切です。

藤島その後マオリ・オールブラックスと連戦をして、初戦は敗れて2戦目に勝つ。この間何を学習したんですか?

長田エディーさんが求めるラグビーをみんなが学ぶ段階だから何か特別に修正したのではなく、自分たちのやろうとしているラグビーを成長させるところに注力してそれが良い形で出たと感じています。

藤島その後ジョージアが来て、ジャパンが退場で14人にわりと早くなってしまうとはいえ、一応ランクとしては格下と思われていたジョージアに負ける。

長田フィジカルのところはすごく強さを感じましたし、プレッシャーも感じはしました。でも1人少なかったとはいえ、勝ち切らないといけない試合だったと感じています。

藤島札幌のイタリア戦はちょっと力に差があったように映ったんですけど、これはどうですか?

長田正直すごく差があったと思いますし、向こうの完成度もそうですし試合に対する準備のところも含めてもう完全に負けたなっていう感じでした。

藤島長田智希という人はこの連戦で何を学んだんですか?

長田この5試合、結果も得られなかったですし、反省すべきところもたくさんあります。でもいい部分もいっぱいあります。エディーさんは4年でトップに持っていくという話をしています。この5連戦の結果だけで悲観的になるんじゃなく次に向けて、いかに求められていることを遂行していくか考えています。

藤島リスナーの人はやっぱり聞きたいところですけど、ジェイミー・ジョセフさんとワールドカップを戦いました。エディーさんとジェイミーさんとでは、どういう違いがありますか?

長田僕も正直、ジェイミーさんのときは本当にワールドカップの最後の期間しか一緒にやってなかったので、そこまでどんな人か分かってなかったというのが正直なところです。

藤島練習の方向性とかラグビーのスタイルとか根本の思想とか、違うなと感じるところはありますか?

長田ジェイミーさんとブラウニー(トニー・ブラウン)さんの方が、デザインされたアタックをはじめ、よりシステムががっちり決まってたイメージです。今ももちろんデザインをされてるんですけど、その中でもある程度自由がきくというか、自分たちの判断も尊重されている部分が多いと感じます。

藤島ちょっと遡っていきたいんですけど、ワールドカップはどうでしたか。

長田本当にシンプルにすごい緊張しちゃって、それが一番です。

藤島それまでと次元が違う? 雰囲気ですか? 相手の気迫?

長田両方ですね。観客の雰囲気もそうですし相手の試合にかける思い、気迫みたいなものをすごく感じました。あとは味方チームの思いもすごく強く感じて、色々なものが。正直、すごく緊張していて思うように体も動かなくて、自分のプレーをすることに精一杯というか与えられた役割の遂行に精一杯で、ゲームに勝てるかどうかをあまり考えることができなかったというのが正直なところです。

藤島個人として何を学びました?

長田すごく大事だなと思ったのが自信の部分、メンタルの部分です。ワールドカップに入るまでのテストマッチでパフォーマンスも良くなってきたと思って、自信を持ってプレーできていました。でもワールドカップでの緊張感によって少しずつ自信が減ってきたというか、本当に自分はできるかどうかという迷いみたいなのも生じてそれが試合に出てくると感じました。

藤島世界のどの選手であれ、突然選ばれてあの舞台に出れば誰だって緊張するし、今までの自信が少しはそがれていくのは普通だと思うんですけど、同じ過ちを繰り返さないためには?

長田準備だと思います。ワールドカップという舞台がどういうところかあまり理解しないまま行きました。そこの準備、メンタルの準備、覚悟が足りてなかったと感じます。

藤島なるほど。昔の早稲田大学に木本建治さんという名監督がいて、いつも言っていました。「ラグビーは自信学なり」。結局はそこなんだと。
早稲田を卒業してワイルドナイツに進むわけですけど、自分で選んだ理由って何ですか?

長田そのとき本当に強かったチームに行きたくて、最終的に決めたのは一番センターの層が分厚くて、一番チャレンジしないといけない、一番難しいなって思ったからワイルドナイツにしました。

藤島そこをあえて選ぶ。

長田それが自分の成長に一番繋がるって考えましたね。

藤島例えば東海大仰星、早稲田大学、それぞれカラー、クラブの文化というのがあるチームですね。ワイルドナイツの文化もある。違うものですか?

長田少し違いはあると思います。ワイルドナイツって結構自由な文化というか自主的なチームだと思っていて、自分のパフォーマンスは自分で責任を持つ。だから、休みのバイウイークも完全に休みで、自分たちに全て任されているチームだなって感じますね。

藤島休みだと言っても鍛えなきゃとジムに来る選手もけっこういるんですか?

長田やる人もいますが、次のパフォーマンスがよければ完全に休んでいいわけだからそういう意味でも自由で、自分たちで考えないといけないチームだと思います。

藤島これ、聞かないわけにいかないんですけど、リーグワン2シーズン連続ファイナルで敗れて、今何を思いますか?

長田クボタスピアーズに負けたのは去年になるんですかね。そのシーズンは僕もそうでしたしチーム全体として仕上がりもすごくよくて、個人としては負けるはずがないなっていうぐらいの思いで決勝に臨みました。おそらくそういう思いがどこかで慢心につながって、僕個人もそうですし、チームとしても簡単なミスをするし大事な場面で決めきることもできない。一ついい学びになったと思いました。東芝ブレイブルーパスとの決勝は、スピアーズのときと違う思いがあります。本当にブレイブルーパスの完成度の方が高くて、強かったなというところです。

藤島今回は東芝ブレイブルーパスが強かった。その前は自信があったのが慢心なところにも。難しいですね。今日の話で言うと自信がないと駄目だとワールドカップで学び、しかし自信が慢心につながる。この辺はどう調整しますか?

長田一番大切なのは準備だと思っています。どれだけ自信があっても細かいところまで、もうやることがないところまで準備して臨むのが慢心や油断を消してくれると僕は思います。もちろん自信は大事なので100%の自信を持って試合に挑む。それまでは謙虚に準備を突き詰めてやることだと思います。

藤島なるほど。今後を伺う前に一つだけオールドファンに確かめてくれと言われることがあります。1970年代ぐらいのうまいジャパンのバックスや早稲田の名選手とそっくりな動きをする。もはや絶滅危惧種と言われている接近プレーをする。ボールを受ける前にさっと外に引いてそのまま振り切っちゃう。ああいうボールをもらう前に勝負を決めるみたいなのをなぜできるのか、どこで身に着けたのか。

長田どこでかは分からないですけど、中学時代ぐらいからああいうずらしてラインブレイクしていくのは得意でした。

藤島自分で気づいて練習して身に着けた?

長田そうですね。フィジカルとかスピードはトップクラスじゃないと思うので、それで相手を抜くとなると、いかに接近して一瞬で、一歩で置き去りにするかだと思います。相手との間合いがある状態では相手もディフェンスできるので抜けない。だから接近してずらして前に出る。

藤島自分で気づいて自分で獲得しているところが強いですね。早稲田大学のラグビー部に入ったらコーチに習って、そうすると無名選手でも抜けるようになる。しかしそれを自分でつかんでいるから強いんだなって今思いましたね。
今後、ジャパンのシーズンが秋まで続きますね。エディーさんにかけられた言葉とかありますか?

長田僕が評価されている部分はオフザボールの動き、例えば、サポートプレーだったりキックチェイスだったりボールがないところでいかにワークするか、そのワークの量だと感じます。超速ラグビーをするとなると、どんどん誰かが仕事を重ねないといけないので、1人の仕事量、1分間にどれだけ仕事ができるかが大事です。パワーやスピードじゃなく自分の意識で変えられる部分でもあるので、今僕が少し評価されている部分でもあるし、チームとしても大事にしている部分だなと感じます。

藤島エディー・ジョーンズさんの話で一番好きなのは、どこか海外の新聞で話していることだけど、スタッツなんて意味ない。一つだけ意味があるのは転んでいるところから正しいポジションに戻るスピード、これだけが有用なスタッツだ、と。私、すっかりいただいて、この前、大学のラグビー部をちょっとみたときに「君たちでも世界一になれるところがある。転んで起き上がるスピードだ」と話しました。ボールを持ってないときにプレーする選手をコーチが一番信用する、それはよく分かります。
今日は埼玉パナソニックワイルドナイツのクラブハウスに来て話を伺いました。長田智希選手、ありがとうございます。

長田ありがとうございました。

8月5日ラジオNIKKEI放送
「藤島大の楕円球にみる夢」
text by 松原孝臣

ラジオ番組について:
ラジオNIKKEI第1で放送。PCやスマートフォンなどで、ラジコ(radiko)を利用して全国無料にて放送を聴ける。音楽が聴けるのは、オンエアのみの企画。放送後も、ラジコのタイムフリー機能やポッドキャストで番組が聴取できる。動画版はU-NEXTで配信中。

8月5日放送分ポッドキャスト http://podcasting.radionikkei.jp/podcasting/rugby-radio/rugby-radio-240805.mp3
U-NEXTでは画像付きの特別版を配信 https://www.video.unext.jp/title/SID0090286