藤島大の楕円球にみる夢
(2024/09/02)
ゲスト/桑井亜乃氏(日本ラグビーフットボール協会公認レフリー)
三井住友銀行(SMBC)ほかがラジオNIKKEI第1で提供するラジオ番組「藤島大の楕円球にみる夢」は、スポーツライターの藤島大さんが素敵なゲストを迎えて、国内外のラグビーや日本代表などの幅広い情報を詳しく伝えています。
9月2日放送のゲストは、日本ラグビーフットボール協会公認レフリーで、ラグビー界で史上初、選手とレフリーの両方で五輪に出場した桑井亜乃さんです。
藤島スポーツライターの藤島大です。ゲストはパリオリンピックで7人制ラグビー女子のレフリーを務めた桑井亜乃さんです。よろしくお願いします。
桑井よろしくお願いします。
藤島略歴は私の方から紹介します。1989年10月20日、北海道の幕別町生まれ。これは十勝ですね。幼少期から陸上競技の選手として活躍しました。北海道の帯広農業高校で円盤投げをして国体で5位に入る。だからトップクラスの選手ですね。同時にアイスホッケーもしていました。アイスホッケーはどういう?
桑井クラブチーム、御影グレッズという地域のチームでやっていました。
藤島そして中京大学、投てきでは名門ですよね。そこに進んで活動するんですけれども大学の授業でラグビーと出会う。卒業後社会人生活を経て、立正大学の大学院に進む。この頃もうラグビーに夢中なんですか?
桑井夢中です。
藤島大学院在学時、2014年4月のアルカス熊谷創立と同時にそこに加わる。そこから本格的なトップの選手としてのキャリアが始まります。2016年のリオデジャネイロオリンピックの代表選手。トライしたんですよね。
桑井トライしました。
藤島オリンピックでトライしたら自慢ですね。ポジションは7人制で名称も難しいんですけど、イメージとしてはプロップのところですね。スクラムの両脇。
桑井はい、両サイドで組んでいました。
藤島その後サクラセブンズとしてキャップを重ねながら15人制の代表にもなっていますね。
桑井なっています。ウイングで。
藤島東京オリンピックを目指して届かずというか、そこでレフリーに切り替えていくと言っていいんですかね。
桑井そうですね。
藤島2021年日本ラグビー協会のC級の資格を取って、エリートのレフリーとしてキャリアを重ねて。現役引退も2021年ですよね。
桑井引退と同時にレフリーを始めさせてもらいました。
藤島選手として、レフリーとしてオリンピックに参加した人というのはラグビーでは世界で初めてですね。現在アルカス熊谷にレフリーとして在籍しています。従って職業はプロフェッショナルのレフリーです。パリオリンピックですけれども、世界で23人でしょうか、選ばれたのは。
桑井男女23人です。女子の方だと11人。
藤島入ったときは嬉しかったでしょう。
桑井もう号泣しましたね。
藤島私、男子の方のレフリーをしていた友人がいて、オーストラリア協会で資格を取った八嶋亮太という人なんですけれども、彼がよく言っていたのは、選手やコーチという場所は競争がある。コーチは自分のチームを勝たせなきゃいけないから尊敬し合っていても仲間じゃない。レフリーは仲間なのでみんなで助け合う。これ本当ですか?
桑井本当ですね。決勝の笛を吹きたいからそこを目指しているんですけれど、でも足の引っ張り合いは絶対ないです。たぶんそういう人たちが、ワールドシリーズとかに選ばれるんだと思います。ワールドシリーズって大会は3日間だけですけど、5日ぐらい前から前乗りして、フィットネスを午前中やって午後はレフリーのディスカッションみたいなのがあります。それから大会で、本当にチームで固まって動かないと達成できないというか。
藤島そういう世界の公用語はやっぱり英語なんでしょう? どんどん上達している感じですか。
桑井聞き慣れてはきました。ただ2分でディスカッションしてって言われた瞬間に、最初に日本語で考えちゃうし、英語のボキャブラリーが少ない分、言葉を出すことがすごく難しいですね。
藤島うまくないと喋って恥ずかしいと思いがちですけど、とにかく言いたいことを言って聞きたいことを聞く方がいいわけでしょう?
桑井はい。分からなかったら分からないって言います。
藤島セブンズと15人制のレフリーって時間は違うけれども、セブンズの方がきついですか?
桑井セブンズはきついです。気づいたら心拍数が200近くまで上がっているんですよ。心臓とか呼吸系はセブンズの方がきついです。15人制は長い分、足にきます。
藤島そうなんだ。パリではニュージーランドと中国、それから南アフリカとフィジーの試合をレフリーし、あとアシスタントもしました。セブンズ、盛り上がりましたね。
桑井6万6000人入っていましたからね。2016年のリオに出させてもらったとき、緊張して初戦で体が浮いちゃう感じがしたのを覚えていて、レフリーでもグラウンドに入ったときちょっと浮いてる感じがして、この感じ懐かしいなって思いました。
藤島そこにいる選手も日頃とは違う?
桑井裏で並ぶときにいつもより顔がこわばってる選手もいました。でも貫禄あるなって思ったのはニュージーランドですね。
藤島どういうところに感じましたか?
桑井チームのまとまり感だったり、ここぞというときのチーム組織としてのまとまりだったりを感じましたね。
藤島ここからふるさと幕別町の話を。幕別町のある十勝、あの地域が大好きで、あそこの人たちってダイレクトでたくましいじゃないですか。そういう土地柄というか気風があってスポーツが強いんじゃないかなって思うときが取材経験でよくありました。
桑井私の町もすごいオリンピアンが出ていたので、それはあるのかもしれないです。
藤島幕別町の人口は?
桑井今、2万5000人ぐらいですね。
藤島スピードスケートの髙木姉妹(菜那、美帆)、陸上の福島千里、マウンテンバイクの山本幸平、桑井さんと計5人がオリンピックに。なかなかですよね。
桑井5000人に1人ですね。
藤島陸上は何で始めたんですか?
桑井姉2人が陸上少年団に小学校のとき入っていて、お迎えについて行ってもじっとしていられなくて、お母さんが我慢できなくて、土手を1周してくれば、お菓子を買ってあげるからっていうのから始まっています。
藤島中学のときは投てきですか?
桑井まだ走ったり跳んだりしていて、高校から円盤投げを始めました。
藤島国体で5位。進学のときおそらく声もかかったんでしょうけれど、陸上の強いところというイメージで進学を?
桑井室伏(広治)先生もいらっしゃって、そこでもう1回頑張ってみたいなっていう思いもあったので中京大学に行きました。大学1年のとき1人でトレーニングしていたら室伏さんとばったりお会いして、「1人でしているんだったら一緒にトレーニングしようよ」って言ってくださってそのまま大学生活を一緒にさせてもらいました。
藤島伝説の人じゃないですか。オリンピックの金メダリスト。
桑井パリでも私の試合を見に来てくださいました。
藤島1人でトレーニングしていたからよかったんでしょうね、きっと。
桑井そうですね。
藤島1人で何かしてる人ってなんかいいんですよね。
体育の授業でラグビーに。そのとき指導する人が向いていると思ったんでしょうね。
桑井「ラグビーやらない?」「ラグビーやらない?」って、授業で毎回おっしゃってくださいました。まず知ることが大切だと思って、1年生のときに履修して3年、4年は選ばなくていいんですけど履修して、楽しそうだなと思いました。卒業するとき、ラグビーでオリンピックに挑戦するのか地元に帰って学校の先生やるのか2択あったんですけど、後悔するなって思ってラグビーにチャレンジさせてもらいました。
藤島陸上競技の投てきの人って体強いじゃないですか。それは活かせる感じでした?
桑井スクラムとかラインアウトはパワーをすぐ発揮できたんですけど、タックルのときは技術がないと無理だなって思いましたね。陸上って「急に止まるな」って教えられるんですよ、危ないから。でもラグビーって急に止まって低くなるじゃないですか。
藤島なるほど。桑井さんもそうだけど他の競技やった人が遅くラグビーを始めて、それでもオリンピックに行けるんだからそういうレベルなんだって見る人もいるじゃないですか。どうですか、その辺の実感は。
桑井私が入ったとき他競技転向組の方々はいっぱいいて、でもオリンピックってバックアップメンバー含めて14人中3人しか他競技転向者はいなかったんですよ。皆さんから見たら寄せ集めた感じで見えるかもしれないですけど、蓋開けてみたら小さいときからラグビーをやってる人たちに中村知春と桑井、竹内亜弥さんがバックアップと3人だけでした。だけどこの3人に共通しているのはラグビーが本当に大好きになったということですね。
藤島3人とも話したことありますけど、ただもんじゃないですもんね。結局そういうことですね。
桑井でも中村知春はもうお化けだと思いますね。彼女は今が一番パフォーマンスいいと思いますね。
藤島すごかったね。
桑井レフリー仲間も中村って知ってるんですよ。強いチームじゃないと名前も覚えられないんですけど中村はすごい、と。「何がすごいの」って言ったら、「ボールキャリーもすごいけど運動量もいいし、体を張るから名前を覚えた」って言ってましたね。
藤島桑井さんの場合、本格的にラグビーを始めて1年で日本代表、4年でリオデジャネイロ。
桑井9年現役やって、そこから3年レフリーです。
藤島外から見ると滑らかな、なんて言うのかな、出世というか。時間が密になっているので喜びも強い分、東京オリンピックから漏れた厳しさも激しいでしょう?
桑井オリンピックとかに懸けながら生活しているので、本当に濃い時間だから私生活は何やってたんだろうって振り返っても分からないですね。レフリーの最初の1年間も赤字になってもいい、貯金がなくなってもいいと思いながら始めています。何のためかっていうともう1回オリンピックの舞台に立ちたいから。自分で海外のレフリーの人5人ぐらいに連絡して大会がないか聞いて、イギリスの友達が5月、6月に4大会あると教えてくださいました。それを聞いた瞬間、マネージャーとレフリーコーチとリモートミーティングさせてもらって、自費でもいいのでイギリスに行きたいと伝えました。企画書とかも書いて提出してOKが出ました。
藤島日本の国内の女子ラグビーの歴史を考えると先駆者は自分で動くしか何もできないところから始まって、その頃よりずっと環境が良くなってもそういうスピリットはあるんじゃないか、流れているんじゃないか。
桑井待っていたらチャンスはないって思って。私のコーチはリオで笛を吹かれた大槻(卓)さんなんですけど、「すごいプレッシャーだった」って言ってました。私からの圧もすごいし、行かせなきゃいけないっていう思いも強く、本当にプレッシャーをかけてしまったなって思います。でもそれだけ強い思いは伝わっていたって今でも言ってくださって。色々な人を巻き込んでしまったと思うんですけど、皆さんのおかげでオリンピックの舞台に立てたって感じます。
藤島報道でも読みましたけど、15人制に重きを置く?
桑井セブンズは目標を有言実行したというのがあります。もちろん笛も吹くし、もっとうまくなりたいっていう思いもありますけど、リーグワンで女性が吹いたことがないというのもあるので、次はそこに向けて挑戦していこうかなと。
藤島そこも広がりますね。国内のファイナルもきっと目標になるしジャパンのテストマッチもなるしワールドカップの最後はファイナルも。
レフリングをするときのモットーというか心がけていることは?
桑井「強く美しく」と言わせてもらっているんですけど、やっぱり堂々としている人は美しく見えるし強く見える。そこだけはぶれずに持っていたいなと思います。
藤島今後15人制で高みを目指していくという発言もありました。どんどん自分で行動していくんでしょう。今日のゲスト、桑井亜乃さんでした。ありがとうございます。
桑井ありがとうございました。
9月2日ラジオNIKKEI放送
「藤島大の楕円球にみる夢」
text by 松原孝臣
- ラジオ番組について:
- ラジオNIKKEI第1で放送。PCやスマートフォンなどで、ラジコ(radiko)を利用して全国無料にて放送を聴ける。音楽が聴けるのは、オンエアのみの企画。放送後も、ラジコのタイムフリー機能やポッドキャストで番組が聴取できる。動画版はU-NEXTで配信中。
9月2日放送分ポッドキャスト http://podcasting.radionikkei.jp/podcasting/rugby-radio/rugby-radio-240902.mp3
U-NEXTでは画像付きの特別版を配信 https://www.video.unext.jp/title/SID0090286