藤島大の楕円球にみる夢
(2024/10/07)

ゲスト/田村一博氏(「Just RUGBY」編集長)

三井住友銀行(SMBC)ほかがラジオNIKKEI第1で提供するラジオ番組「藤島大の楕円球にみる夢」は、スポーツライターの藤島大さんが素敵なゲストを迎えて、国内外のラグビーや日本代表などの幅広い情報を詳しく伝えています。
10月7日放送のゲストは、「Just RUGBY」編集長の田村一博さんです。

藤島スポーツライターの藤島大です。ゲストはウェブマガジン「Just RUGBY」編集長の田村一博さんです。よろしくお願いします。

田村よろしくお願いします。

藤島これまで出演されるときは「ラグビーマガジン」編集長だったんですけど、今は新しいメディア「Just RUGBY」を立ち上げてどんどん前へ進めているところです。
経歴を紹介します。1964年10月21日熊本市生まれ。鹿児島中央高校から早稲田大学、1989年、ベースボールマガジン社に入ります。「ラグビーマガジン」「週刊ベースボール」を経て1997年から本年の2月号まで27年間「ラグビーマガジン」の編集長を務めました。そして今紹介したように、新しいメディア、ウェブマガジン「Just RUGBY」を立ち上げて今、全国を駆け回っていると思います。高校時代は野球部、早稲田大学で名門のクラブ、変人量産機関として知られている「GWラグビークラブ」に所属しました。ポジションはフッカーでした。これ私、先ほどスタッフの人に聞いたんですけれども、2014年1月に始まったこの番組、最初のゲストは田村編集長だったと。

田村僕も全く覚えてないですね。ありがとうございます。

藤島「Just RUGBY」、まずこの命名はどういう意図が?

田村ジャストというのはど真ん中という意味と、もうラグビーだけという意味と、それで勝負するぞっていう感じの意味を込めています。

藤島ウェブマガジン、雑誌って意味ですね。そこを意識しているのはどういうところから?

田村どうしてもウェブサイトはちらっと見て次に行ってもう見返さないケースがわりとあるかと思うんですけど、見てもらえば分かるんですけど「Just RUGBY」って1本1本の記事がすごく長いんですね。特にパソコンで見てもらうとこれもよく分かるんですけど、写真がすごく凝っていて作りもきれいなんですね。1回見てもう2度と見ないのではなく読むのにも時間がかかるし、もう1回見てみたいな、あのページ見てみたいなと思うところと、それも含めて丁寧に作っていきたいとコンテンツ分けもしている。インタビューのコーナーがあったり、チーム訪問があったり技術に特化したコーナーもあります。ウェブなんですけど雑誌に近い作り方をしたいなと思って、そのようにしました。

藤島ウェブのメディアに、紙との違いって感じるところあります?

田村紙は1回出したら永遠に残る。捨てない限りは残っているし、文字を間違えたらそれも一生残るというところは責任が大きいですよね。ウェブサイトは、今少ない人数でやっているので即時性はできていないんですけどすぐに出せる、反応もすぐに返ってくる。あと一番大きいのは間違えていてもすぐに直せる。

藤島私も田村編集長も同じだと思うんですけど、やっぱりラグビーも好きだけど、雑誌が好きでメディアが好きなんです。だから新しいメディアと言うとときめくんですよね。これ船出だと思ってなんかうれしくなっちゃって。

田村ありがとうございます。できるだけ変わったことをやりたいなと思っているけれど、目の前のものに引っ張られて、日本代表が活動していたらついそればっかりになっちゃうし、というところで最近学生ラグビーも始まって、紙面というかページに彩りが出てきたので。

藤島いいですね。若いアナリストの人がさっそく青山学院と筑波の試合の記事を。ああいうのって読みますね。なるほどそうかと。

田村そうなんですよ。新しい試みで「これ読んでくれる人いるのかな」と思いながらも、実際やってもらうとすごく面白いので共感してくれる人が少しでも増えてくれたらいいかなと思ってやっています。

藤島新しいことが好きな人もいる。片やもう人情一本槍みたいな人もいて、それこそ両方載っている、全てが載っている、それがまさに雑誌ですよね。例えば、青山学院対筑波、紙の新聞で考えるとスコアだけのような10行くらいの記事になってしまう。こういうメディアだと、これが面白いと思ったら、ドーンっていけるじゃないですか。ジャパンの試合もオールブラックスの試合も大学の下部リーグの試合も網羅できる。そういう意味では非常にいいメディアが生まれたなと私は思いますね。この前、あるスポーツ新聞の写真部の元ラグビー選手が「写真がいいですね」と言っていました。

田村ありがとうございます。

藤島「Just RUGBY」はちょうどジャパンのイングランド戦の前ぐらいから始まって。

田村6月18日です。

藤島少しジャパンの話を聞きますけれども、どうですか、現時点で。フィジーに完敗しましたけれど。

田村期待している人は多いと思いますし、ひどくもないですし、若いメンバーがマオリオールブラックスに勝ったりサモアに完勝したり確実に成長はしているとは思います。でも本当に自分が見たいラグビーなのか自分が望んでいるジャパンなのかという意味では若干違う点もあると思っています。やっぱりテストマッチなので勝負に出てほしいし常に国内のベストメンバーを組んで欲しいし、今できないのは当たり前なんだ、4年間待てとか、そういうのはどうなんだろう。最近で言うと、エディー・ジョーンズ・ヘッドコーチの率いたワラビーズはそれで大失敗して起き上がれなくなっているし、まだまだやる気だったベテラン選手が引退に追い込まれているし、これは同じ道を歩んでるんじゃないかなっていう気がしないわけではないです。でも全く否定的なわけでもないです。

藤島今の意見を聞いた人はけっこう厳しいなって思うかもしれないけれども、これ当たり前なんですよね。ナショナルチームだから。負けたら批判される、本当にこれがベストなのか常にウォッチされる、それがナショナルチーム。スプリングボクスとかオールブラックスになったら、「若手だから仕方ない」っていう言葉、たぶん辞書にないですよね。

田村ないですよね。

藤島主力が引退した、ここで世代交代しなきゃいけない、何年か先のワールドカップに目標がある、ファンもそれを分かってあげても、一方で目の前の試合に負けたら怒る、ちょっと憤る。それがラグビー国力を高めるんじゃないかと私は思いますね。メディアの仕事もそうですしね。人のことだけ言えないですけどやっぱり優しいですよね。日本のメディア。

田村いやそう思いますよ。でも、この間フィジーに負けた後の記者会見のエディーHCの顔を見てると、なんか怒りのような期待外れのような、ここで勝ってたら絶対上手くいったのにって顔してるんですよね。思い通りにいかなかったなって顔をしてたので、エディーHCもそんなに今のやり方に自信があるわけじゃないだろうし、どこかで跳ねてくれる瞬間が来るとは思ってるでしょうし、怖いと思ってるのもあるでしょうし、というのは伝わってきます。

藤島「超速ラグビー」っていうはっきりしたテーマを掲げるのは正しいと思うんですね、私。はっきりしたイメージを最初に出してとりあえず貫く、極端に貫いてみるという過程はオールブラックス、スプリングボクス級でないチームにとっては、通らなきゃいけない道だと思っていてその意味では手順としては正しいと思うけれども、だから負けてもいいという雰囲気になっちゃいけないですよね。

田村今言われたように徹底は間違いじゃないんですけど、あれを4年間続けるとなると、もうメンバーの替えがきかないような気がするんですよね。蓄積していくしかないので。鍛えました、2年鍛えたからここまで来ました、やっぱり駄目だったから替えるってできないじゃないですか。ちょっと心配ですね。
エディーHCの言い分としては、スーパーラグビーのチームを持てないだろう、と。あれがあって同じようなことをやれるチームが二つあれば選手層が倍になる。それができないんだからしょうがないだろうと言うような気はするんですけど。どこかに逃げ道が常にあるなっていう気がしないでもないです。全然批判じゃないですよ、これ。

藤島極端にやっていくのは正しいと思うんですね。今回のパシフィックネーションズカップでも、サモアとカナダはあまり日本のことを意識しないで自分たちのラグビーをするという感じだったから非常にうまくいった。フィジーが根本を抑えに来たら、通じなかった。だから一本調子ではどこかで行き詰まるんですけど、どこまでやるかというのはきっと頭の中にあると思いますけどね。
9月1日にラグビージャーナリストの小林深緑郎(こばやし しんろくろう)さんが亡くなりました。小林深緑郎さん、実はこの番組にも出ていただきました。かなり前ですね。小林深緑郎さん、どうですか。思い出は尽きないでしょうけど。

田村「トライライン」というラグビーマガジンのコラムを書いていらっしゃったので、毎月1回は連絡を取るということはやっていました。それ以外にも、毎年年末に大阪に小林さんもいらっしゃっていたので茨田高校、清宮克幸さんの母校ですね、ラグビー部のOB達と年末に会ってみんなで飲むんですね。もう20数年続いている会でそこにもいらっしゃっていて、どちらかというと常に飲み会の席で一緒というイメージが大きいです。

藤島あの人はいつも純な人だっていうイメージがあってね、心が澄んでいるというか人の陰口言ったり、威張ったり、自分を大きく見せたりというのが全くない人ですよね。

田村全くないんですけど、みんな大好きで、大きく見せないのにみんなが尊敬して大きく見てる。これ、人間の到達点じゃないですか。

藤島人徳。ずるいところがないし、純粋にジャパンが大好きで。興奮するんですよね、試合解説の席で。

田村そうですよね。

藤島ああいうのもそのままなんですよね。解説者がこんなに興奮したらみっともないじゃないかっていう濁りがないんですよね、心にね。

田村いつもね、ジャパンが劇的な勝ち方をすれば名言出るじゃないですか。最後ね、同点コンバージョンキックが決まったりすると「オーバー」。

藤島2007年、ワールドカップのカナダ戦ですね。大西将太郎が同点のゴールを決める。「オーバー」。深緑郎さんの、何ていうかな、真骨頂というんですかね。教養がある。オーバーという表現を知っている。あれはね、要するにね、ラジオの中継からテレビに移るときに、海外の英語圏でボールが目で見えるものを言葉にしたときにオーバーという言葉が生まれたというのを深緑郎さんに聞いたことありますけどね。

田村何でも知っていますよ。

藤島その教養と子どもみたいなジャパン愛というか、あれが一瞬にして溶け合って絶叫になる。あの絶叫はいやらしくないんですね。盛り上げることで自分を輝かせよう、そういうところが全くない。だから聞いてる人、見てる人がいいなと思うんですよね。
何と言ってもあの「ラグビーマガジン」連載の前に、個人でワープロで打っていた小冊子というかね。「トライライン」と同じタイトルなんですけども、あれはすごかったですね。

田村短波ラジオを聴きながら原稿を作っていたんですよ。

藤島BBCのね、向こうのラジオ放送を聴いて人名をチェックしたり、試合経過をずっとメモをしたりして。

田村今のアメリカはディフェンスが悪い。何でそれが分かったかというと、ラジオを聴いていても、「アメリカがタックルした」っていう言葉が全然出てこない。だからディフェンスが弱いんだって書いていて、すごいなと思って。

藤島僕、最初に受け取ってびっくりしましたね。こんなことをする人がいるんだと思って。
今日は「Just RUGBY」編集長、田村一博さんに来ていただきましたけれども、今後の展望は。

田村好きなところに行って好きなように書いて、楽しく過ごすっていうことを続けて行きます。「Just RUGBY」、ぜひ見てください。

藤島今日のゲスト、あらためて「Just RUGBY」編集長、田村一博さんでした。ありがとうございます。

田村ありがとうございます。

10月7日ラジオNIKKEI放送
「藤島大の楕円球にみる夢」
text by 松原孝臣

ラジオ番組について:
ラジオNIKKEI第1で放送。PCやスマートフォンなどで、ラジコ(radiko)を利用して全国無料にて放送を聴ける。音楽が聴けるのは、オンエアのみの企画。放送後も、ラジコのタイムフリー機能やポッドキャストで番組が聴取できる。動画版はU-NEXTで配信中。

10月7日放送分ポッドキャスト http://podcasting.radionikkei.jp/podcasting/rugby-radio/rugby-radio-241007.mp3
U-NEXTでは画像付きの特別版を配信 https://www.video.unext.jp/title/SID0100786