藤島大の楕円球にみる夢
(2025/01/06)

ゲスト/谷口廣明氏(スポーツアナウンサー)

三井住友銀行(SMBC)ほかがラジオNIKKEI第1で提供するラジオ番組「藤島大の楕円球にみる夢」は、スポーツライターの藤島大さんが素敵なゲストを迎えて、国内外のラグビーや日本代表などの幅広い情報を詳しく伝えています。
1月6日放送のゲストは、スポーツアナウンサーの谷口廣明さんです。

藤島スポーツライターの藤島大です。ゲストはJ SPORTSの放送席で隣になることもよくあるスポーツアナウンサーの谷口廣明さんです。よろしくお願いします。

谷口よろしくお願いします。

藤島Sports Zone株式会社代表取締役という顔もあります。これはいわゆるアナウンサーの事務所であり、養成機関のようなところもある、そういう組織を運営されています。
経歴を紹介します。1972年6月6日大阪府の出身です。大阪府立羽曳野高校、
追手門学院大学を卒業して会社員。この謎の経歴をちょっと聞きたいんですけど、いわゆるジャーナリズムの会社じゃないです。放送の会社でもない。
2000年からアナウンサーに転身をしてプロダクション、これ、私知ってます。浜村淳さん、キダ・タローさんなどが所属していた昭和プロダクション。「浪花のモーツァルト」、響きがいいですね。そこの事務所に所属をして、ラジオ、MC、そしてスポーツアナウンサーとして活動を開始します。
2005年、東京に拠点を移して2011年10月に独立をして、いわゆるフリーランスとして、今に至る活躍をしている。谷口さんと言えばもちろんラグビーで私は知り合ったんですけれども、J SPORTSをつけたらチャンネル1、2、3、4が全て谷口さんだったことがあるんですよね。

谷口たまにありますね。

藤島ラグビー、野球、ウィンタースポーツ、自転車ですね。

谷口あとバスケとか卓球とか、ほぼやらせていただきましたね。

藤島多岐にわたって全てを高いレベルで話し続ける、そういう人です。リーグワンの開催期間中は今すごい人気のあるJ SPORTSの番組「ラグビー わんだほー!」に出演中です。
谷口さんと現場で一緒になることが多いので、いつも話してることだとなんか迫力が出ないんで私の知らないことを。会社員だったと、何か鉄板を扱っていたと、そこまでしか知らないので。

谷口一般企業に就職して、僕が担当していたのが鉄鋼部門で、いわゆる日新製鋼さんとか新日鉄さんとかそういうところから「100トンください」とか「それを切ってください」とかオーダーしてから引き取りに行って、それを例えば家電製品のサイズに切って卸す、間に立っている商事会社でした。振り返れば日新製鋼さんと新日鉄さんに通って人生の中にすでにラグビーがあったんですね。日新製鋼の大阪の事務所に行けば「ラグビー観に行きませんか」と言われて、実際に行っていました。

藤島会社は大阪?

谷口はい。淀屋橋の方にいました。

藤島営業マンですか?

谷口そうです。水曜日だけはノー残業デーなので「帰りなさい」って言われていたんですね。早く帰ってもすることもないし、何かないかなと思って広げた夕刊の下の三行広告に「アナウンサーになりませんか」というのがあって、それを見て、会社の目の前から即電話しました。

藤島その三行広告に出会うまでアナウンサーは?

谷口全く頭になかったですね。レッスンがあるので週1回来てくださいというので行きました。

藤島受講してみて、何となく面白いな、と?

谷口こういう世界があるんやなと思いながら1年ちょっとプログラムが進んで、タレントになるオーディションがあったんですね。それを受けて、「あなた受かりましたけどどうしますか」っていう話になって、翌日会社に行って上司に「すいません、ちょっと会社辞めたいんですけど、こういう道に行きたいんですけど」と。「お前は正気か」と言われました。

藤島僕も会社辞めたことあるんですけど辞める人って突然言うんですよね。日頃言っている人ってあまり辞めない。私も突然辞めると言って、みんなびっくりして。スポーツ新聞の仕事は嫌いじゃなかったんですけど、ここで50過ぎて働いているイメージはないなと思って、何となく。

谷口僕もそんな感じでしたね。そのとき27とか28だったので30歳までチャレンジをして、駄目だったらすっぱり諦めて、という感じでした。
スポーツをやる前は、演歌の司会も含めてビッグスターの北島三郎さんや八代亜紀さんの現場に一緒に行ったりして勉強したりもしました。

藤島そこからだんだんスポーツに。

谷口やっぱりスポーツがしたいなっていうのがありました。今はインターネット配信がいろいろ増えてきましたけど、当時の大阪はスポーツの案件が少なかったのでフリーの人間が入れる現場ってなかったんですよ。どうやったら入れるか研究していたんですけど、もうこれは無理だな、入れないなって思った中でJ SPORTSができて、その他、色々媒体が出来て、その波とちょうど合った感じで。

藤島流れというか運というか、勢いというか。

谷口花園ラグビー場に行って音源を自分でとったりして、当時はテープで、関西の地方局のスポーツのところに色々送ったんですけど返ってくる答えが「不合格」です。悔しいなって思いと、絶対に負けないと心に決めながらやっていたら、チャンスがいただけました。J SPORTSのオーディションでは、花園ラグビー場のメインスタンド側の放送席の下でみかん箱をひっくり返してマイクを置いて、試合を見ながら喋ったりしました。

藤島先ほどの紹介のように本当に実況は多岐にわたります。スポーツによってカルチャーが違う?

谷口カルチャーが違うので、何をいつやってもすごく新鮮に入れる部分があります。また、体の筋肉の使い方や考え方など色々な解説者に聞いている話は、他競技でもリンクする部分が多かったりすると、そこから話が広げられることもあって、自分にとってプラスですね。

藤島例えば、野球の大御所の解説者がいるじゃないですか。

谷口そういう時にちらっとラグビーの話を入れるとね、意外とすごく反応してくれて、そこから話が進んだりして。選手間でも他競技と繋がりのある方が多いので、そういうのもうれしいですよね。

藤島プロ野球選手にはラグビー好きな人が多いんですよね。権藤博さんとか。

谷口有名ですね。この間、早稲田OBで元ジャイアンツの仁志(敏久)さん、ラグビー大好きで「スーパーラグビーを観てる」って言っていましたね。

藤島自転車は自転車でコアなファンがいて、あれも楽しいんじゃないですか?

谷口楽しいですね。景色がまずヨーロッパになるので、ヨーロッパの文化をそこで知ることができたりして、行けないところに自転車で行ってくれるので隣町のたばこ屋のおばちゃんまで分かるくらい、地域に深く入っていけそうで楽しいですね。

藤島色々なスポーツをするから例えばラグビーのリーグワンが開幕となると、また新しい気持ちになる。

谷口新鮮な気分が1年間繋がっている感じがしますよね。

藤島その話に思い出したのが、エディ・バトラーというウェールズの元No.8でキャプテン。この人が、解説もするし実況もするし新聞記者として文章も書く。2022年、チャリティーで南米の山に登ったときに亡くなるんですけど、同僚が、彼のどこが良かったかを語っていて、トライの映像を見るのと同じように古い映画とか文学が好きだった、趣味が他にあった。だからシーズンが開幕するといつも新鮮な気持ちなんだ、と。ちょっと似ているなと思いました。

谷口本当そうですよね。だから毎月、常にわくわくしてるみたいな感じがあります。

藤島なるほど。私、大学のラグビーのコーチをしている時、ある大先輩に言われました。部室があって、昔はコーチもそこで着替えていたんですけど、ドアをね、バーンと開けて「こんにちは」って入っていく感じがなくなったらやめろと。確かに何年もやっているとだんだん慣れてきてしまう。谷口さんはその心配がないですね。

谷口競技が変わるから解説者の方も必ず変わるので。もう本当に扉を開けたら新しいお話ができる、何を聞こうかなっていう楽しみがありますね。

藤島ラグビーの実況で気をつけるところは?

谷口実況中にいわゆる資料とかデータとかあまり使わないんですね。今プレーをしている選手たちのそのワンプレーを同じタイミングで、タックル入った瞬間にタックルに行っている選手を呼んであげたい。でも資料を喋って、というマインドだったらできないんですね。瞬間、瞬間を逐一言ってあげたいなって思いがすごく強くて、トライするのみならずトライに繋がるラスト2プレー前のパスとか、ゲームのキーになるようなところを見逃したくないなっていう思いでやってます。

藤島視聴者にとって自然に入ってきますよね、言葉というか、興奮が。

谷口グラウンドで観ている人たちの興奮度と戦っている選手たちの熱と放送席が一体にならないと、いいシーンが浮かばれないと思うんですよね。そこが一つの輪になるか。そのバランスはやっぱり常に意識をして喋ってます。
また、解説者の方に喋っていただける時間をいかにとれるかも大事なところです。実況アナが言うことは描写にすぎないので、そこに花を添えてもらえるような話が大事だと思います。リプレイが出ている間は解説者の方の時間だと思っています。

藤島例えば野球だと違いますか?

谷口野球は間があるので、いかに観ている人と一緒にわくわくできるような話ができるかとか、常に四方八方を見ていなければならない部分もあります。常に動いている競技と間がある競技では話し方を変えないと。何の競技でも一緒に聞こえるよねって思われてしまったらもう終わりだと思うんですよ。

藤島野球はどうしても記録がつきまとうと思うんですけど。

谷口ただ数字だけ見ていると、数字ありきに見てしまう部分も出てくるんですね。プロ野球選手に取材したとき、僕ともう1人、横にいたんですね。もう1人の方が「最近ヒット出てないですね。5打数ノーヒット」。そうしたらその人が向こうに行ったときに選手が「谷口さん、あの人は見てないですから。数字しか見てないですから」。その選手はもう答えないです。数字を使う以上はその数字を自分が理解してやらないと怖いですよね。数字だけ見てたらいいんかってなるので。

藤島ラグビー中継は、本格的には2002年ぐらいからですね、どうですか、ラグビー中継で印象に残ることは。

谷口色々な高校や大学の現場に行ったとき、選手の方に「谷口さん、あのときは花園での実況ありがとうございました」って言われるんですよね。それがうれしくて、頑張ってよかったなとか、その子たちの瞬間を伝えられて良かったなと感じます。

藤島印象に残った試合はありますか?

谷口最近ですと2019年のワールドカップ、藤島さんとご一緒した静岡の日本対アイルランドですね。

藤島2023年のワールドカップ、準々決勝の南アフリカとフランスもすごかった。

谷口あれはすごかったですね。最後のワンプレーが長く続いて呼吸困難になって、最後のシーン、後藤翔太さんに「後藤さん喋って」ってパスを送って。

藤島あの試合、僕が覚えてるのが、試合が終わった直後、谷口さんが「初めて言葉が展開についていけなかった」と。

谷口あんなことは今まではなかったですね。表現が追いつけないぐらいのスピード、クオリティの試合を生で観られました。

藤島これからしたいことは?

谷口このスポーツの世界に飛び込みたいっていう人たちの、少しでも手助けできればいいなと思っています。狭き門な部分も未だにあるので、できるだけ遠回りを近道にできるようなアドバイスをしながらお手伝いしたいです。

藤島今日のゲスト、J SPORTSのラグビー中継でおなじみ、スポーツ実況アナウンサーの谷口廣明さんでした。ありがとうございます。

谷口本当にありがとうございました。

1月6日ラジオNIKKEI放送
「藤島大の楕円球にみる夢」
text by 松原孝臣

ラジオ番組について:
ラジオNIKKEI第1で放送。PCやスマートフォンなどで、ラジコ(radiko)を利用して全国無料にて放送を聴ける。音楽が聴けるのは、オンエアのみの企画。放送後も、ラジコのタイムフリー機能やポッドキャストで番組が聴取できる。動画版はU-NEXTで配信中。

1月6日放送分ポッドキャスト http://podcasting.radionikkei.jp/podcasting/rugby-radio/rugby-radio-250106.mp3
U-NEXTでは画像付きの特別版を配信 https://www.video.unext.jp/title/SID0100786