藤島大の楕円球にみる夢
(2025/02/03)
ゲスト/齊藤聖奈選手(PEARLS主将)
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三井住友銀行(SMBC)ほかがラジオNIKKEI第1で提供するラジオ番組「藤島大の楕円球にみる夢」は、スポーツライターの藤島大さんが素敵なゲストを迎えて、国内外のラグビーや日本代表などの幅広い情報を詳しく伝えています。
2月3日放送のゲストは、PEARLS主将の齊藤聖奈選手です。
藤島スポーツライターの藤島大です。ゲストは、三重県四日市を拠点に活動する女子のラグビー強豪チーム、PEARLS(パールズ)のキャプテン、日本代表の齊藤聖奈選手です。よろしくお願いします。
齊藤お願いします。
藤島私から略歴を紹介します。1992年5月30日生まれ、大阪府富田林市の出身です。6歳の頃、お兄さんの影響でラグビーを始めました。お兄さんはその後もずっとラグビー続けたんですか?
齊藤お兄ちゃんは高校生までやってます。
藤島ポジションは?
齊藤お兄ちゃんもナンバー8です。
藤島四天王寺羽曳丘高校、今はもうなくなってしまった学校なんですけどね。そこから大阪体育大学を経て、三重県の女子ラグビーチーム、パールズに加入しました。2017年女子ラグビーワールドカップでは日本代表の主将を務めています。2019年はバーバリアンズ。これはラグビーの世界では格の高い、ここに呼ばれるっていうのは本当に選手として名誉な、説明すると長くなるんですけど、クラブハウスとグラウンドを持ってないクラブです。もちろん上手な人を各国から選ぶんですけれども、それだけじゃなくて人間性とか、試合が終わった後楽しくみんなと付き合えるとか、冒険的なラグビーを志しているとかそういうことを加味して呼ばれます。これに呼ばれるというのは本当に羨ましいですね。これも女子の日本の選手では初めてですよね。
齊藤はい。
藤島素晴らしい。2021年のワールドカップニュージーランド大会にも出場しています。2024年、昨年ですね、これも日本の選手として初めてスーパーラグビーのチーフスに参加しました。そこでもトライをしっかり獲っています。164センチ72キロ。現在日本代表のキャップは47、そして今、勤務先はエイワテック株式会社、これは機械のメンテナンスの会社ですか?
齊藤はい。
藤島これも四日市の会社ですよね。ラグビーをサポートしている会社だと。
齊藤そうです。うちのチームもサポートしてもらって、自分は雇用支援してもらっています。
藤島齊藤さんはチーフスに昨年在籍。ニュージーランドのトップクラブの一つですけれども、一般の人って例えば男子のオールブラックスの印象が強いと思うんですけど、オフロードが上手でナチュラルにボールを動かすスキルが高い、やっぱり同じような雰囲気ですか、選手の能力っていうのは。
齊藤そうですね。行ったとき、正直言って結構圧倒されたところがあって、フィジカルの強さはもちろんなんですけれど、加えてすごくスキルフルでした。ボールの扱いがとても上手かったので、びっくりしました。
藤島みんな上手ですか?
齊藤みんな上手かったです。フロントローの選手もボールの扱いは手慣れたもんで「そこからボール出て来る?」みたいなところから投げてみたりして。
藤島そうするとサポートする方も、これまでの経験ではないところから。
齊藤ボールが来るんですよ。最初戸惑ったところがあったんですけれど、もういつでもボールをもらう準備しておかないと、と色々なところに目を配らせていました。
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藤島いまパールズでは一般的な練習のある日はどんな感じで暮らしているんですか?
齊藤大体早朝にジムをして、家に帰ってきて、次の試合のアナリストをしたり、練習の準備をしてから練習をします。チームでの晩御飯が週2回あります。練習前はリーダーミーティングやフォワードのミーティングがあったり、コーチとミーティングしたり、結構ミーティングも多いかもしれないです。
藤島シーズンオフは出社したりもするんですか?
齊藤いや、私はもう出社なしです。
藤島素晴らしいですね。会社は応援してくれている?
齊藤そうですね。新年会に参加させてもらったんですけれど、「準決勝も応援に行くからね」とか色々声かけてもらって、うれしかったです。
藤島ここから私個人の関心の領域に入っていきますけれど、ゴール前に片側のチームが攻め込む、トライラインの前でラックが重なる、ピックアンドゴーが起こる。ちょっと動かして誰かがバーンと当たってまたラックになる。そこになぜか背番6、7、8、2番のときもありますけれども、齊藤選手がスーッと来てボールを取ってなぜかトライするんですよね。ことごとくトライしますよね。今日その秘密を聞くために来たんですけれど、あれ、誰でもできるかってできないんですよね。
齊藤いやそんなことないんですけれど、たまたま順番が回ってくるっていうか。
藤島トライしたシーンを見ていると最後空いたから行ったように映るんだけれども、私もコーチの経験があるので分かるんですけれど、できない選手はできないんですよ。
というかできる人は稀なんですよ。スペースは先に見ているんですか?
齊藤自分が意識しているのはスペースを見逃さないことと、ディフェンスの動き。一瞬目をそらしたときとか、どんどんラックの反対から回ってくるじゃないですか。そのタイミングとか人が動いたタイミングとか、そういうのは見ています。
藤島目はどこを見ていますか?
齊藤目線は結構見るかもしれない。あとは足元をやっぱりセーブするのは結構難しいじゃないですか。地面すれすれに来られたら難しいと思うので私は背の高い人のところを狙ったりして。
藤島チーフスでも背番号2をつけてトライする映像を観ましたけれど、まさに一番いいところに一番いい角度で、すっと出てくる感じですよね。
齊藤あのときは角度を意識して走り込みました。
藤島角度を意識すると。先ほどから視線を見る、足元を狙う。言葉にするとそうかと思うけれど、ゴール前で一番みんなが興奮するときじゃないですか。みんな懸命に戦ってるときに、そういうことを考えるわけですか?
齊藤一瞬だけ。
藤島思い出したことがあって聞きたいんですけど、インタビューか何かで、日本では男女問わず「ダブルタックルをしろ」ってよくコーチに教わる。分かりやすく言うと1人がボール、1人が体を倒せばボールを不自由にさせるというイメージだと思うんですけれど、ニュージーランドに行くと「1対1で倒せ」って言われると話していましたよね。そうなんですか?
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齊藤日本はダブルタックルしないと大きい選手を倒せないのもあるのでダブルタックルが基本なんですけれど、ニュージーランドはまず「ワンオンワンで見ろ、それからボールに行くんだ」って言われて。120キロとか130キロとかある選手もいっぱいいるじゃないですか。足元にタックル行くしかないけれど、大きすぎて腕が回らない、というか大変でしたね。タックル成功のパーセンテージが一気に低くなって、「お前の課題はこれや」って言われて確かにそうだなと。
藤島一番落ち込んだ数字ってどんな感じだったんですか?
齊藤60何パーセントとかあって、2本に1本ぐらい外してるような。
藤島どうやってそれを克服したんですか?
齊藤もう練習あるのみというのと、あとはヒットした後の腕の使い方が重要だって学んで、チームメイトにお願いして、ひたすらタックルを受けてもらって。腕が回らなかったとしても腕を使い続けないといけないというのを学びました。国内の日本のクラブだったら、最初のヒットインパクトで相手がぐってなって、倒れるじゃないですか。でもニュージーランドでは体格が違いすぎてヒットインパクトにあまりなってないんですけど、インパクトをつけてその後の腕を脚の膝の裏に思いっきり引き寄せに行くとか。そういうのを今まで以上に強く速くやらないといけないなって感じました。
藤島参考になりますね。
齊藤一番びっくりしたのは、日本って色々シナリオがあるじゃないですか。でもチーフスでは「私達の強みはビジョンを見て判断することだからカウンターアタックのシナリオはなし」って言われたことです。決まりごととかほぼなかった。
藤島アタックでもボール持った人が判断したらそれが正しいと思っていく雰囲気ですか?
齊藤そうですね。練習も周りを見て判断するものばかりでした。シーズンが開幕してから「これは止めるの難しいわ」って思いました。相手からしたら分析しても何もないじゃないですか。
藤島今年のワールドカップ、ニュージーランドともあたりますよね。チームメイトに代表選手もいて、彼女たちのやり方は分かりますか?
齊藤癖は分かるかもしれないです。ここでボール殺しておかないとオフロードされるとかフォワードの選手だったらこういうあたり方をしてくるとか。
藤島現実に向こうのトップクラブで一緒にプレーをすると、そこまで恐れることはないという感じですか。それともやっぱりこれは大変だと。
齊藤最初行ったときはやっぱりニュージーランドやなって衝撃だったんですけれど、日々過ごしてるうちに、この人も人間やなって。代表のキャプテンをやっているケネディ(・サイモン)選手の家に住んでたんですけれど、ケネディ選手も普通の人だし、日本にだって勝機はあるなと思いました。あと、スクラムハーフは日本の方が速いって思いました。
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藤島さばきが?
齊藤はい。ニュージーランドではボール出てくるタイミングを結構待たないといけない。ラックからボールもらうときもちょっと待ってから走り出さないといけなかったりしたんですけれど、うちの選手の方が速いというか、準備するまでもどんどんボールが出てくるぐらいなので、展開力、速さは日本の強みかなと思います。
藤島ワールドカップはアイルランド、それからニュージーランド、スペインの順にプール戦で当たります。8月24日、8月31日、9月7日。イングランド各地で対戦します。2度ワールドカップを経験してしかも2017年はキャプテン。ワールドカップと普通のテストマッチでは違うものですか?
齊藤ワールドカップは負けたら次に進めないので、次に進むのに非常に高い壁があるというかずっと打破できていないので、ベスト8入りして新しい歴史を刻みたいですね。
藤島あらためて、日本代表がいわゆる強豪国に伍していく、対抗するには、何が焦点ですか?
齊藤お話させてもらったテンポの速さ、低さというのは日本の武器で世界に通用するところかなって思います。
藤島例えば、足首にタックルするみたいなことあるじゃないですか。あれ、向こうの人は嫌がるんですか?
齊藤練習のときにめっちゃ言われました。こんな低いタックルを受けたことがないって。
藤島四日市でずっとラグビーをしてきて、地域にも馴染んできて、充実して楽しい毎日ですか?
齊藤本当に毎日が充実して、四日市で「パールズだよね」って声をかけられたりして地域の温かさも感じますし、本当にラグビーに集中できる環境を与えていただいているので、引退前のラグビー漬けの楽しい時間を過ごしてます。
藤島引退する必要が感じられない。
齊藤そう言ってもらえてうれしいです。
藤島今日のゲストはパールズのキャプテン、日本代表の齊藤聖奈選手でした。今日はありがとうございます。
齊藤ありがとうございました。
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2月3日ラジオNIKKEI放送
「藤島大の楕円球にみる夢」
text by 松原孝臣
- ラジオ番組について:
- ラジオNIKKEI第1で放送。PCやスマートフォンなどで、ラジコ(radiko)を利用して全国無料にて放送を聴ける。音楽が聴けるのは、オンエアのみの企画。放送後も、ラジコのタイムフリー機能やポッドキャストで番組が聴取できる。動画版はU-NEXTで配信中。
2月3日放送分ポッドキャスト http://podcasting.radionikkei.jp/podcasting/rugby-radio/rugby-radio-250203.mp3
U-NEXTでは画像付きの特別版を配信 https://www.video.unext.jp/title/SID0100786