藤島大の楕円球にみる夢
(2025/06/02)

ゲスト/田村一博氏(「Just RUGBY」編集長)

三井住友銀行(SMBC)ほかがラジオNIKKEI第1で提供するラジオ番組「藤島大の楕円球にみる夢」は、スポーツライターの藤島大さんが素敵なゲストを迎えて、国内外のラグビーや日本代表などの幅広い情報を詳しく伝えています。6月2日放送のゲストは、「Just RUGBY」編集長の田村一博さんです。

藤島スポーツライターの藤島大です。本日のゲスト、ウェブマガジン「Just RUGBY」編集長のおなじみ、田村一博さんです。よろしくお願いします。

田村よろしくお願いします。

藤島私の方からプロフィールを。田村編集長は1964年熊本生まれ。鹿児島中央高校野球部。早稲田大学に進んでラグビーの名門クラブですね、GWクラブでプレーをしました。ポジションはフッカーでした。
1989年、ベースボールマガジン社に入ります。「ラグビーマガジン」の編集部に配属をされ、1993年から4年間「週刊ベースボール」編集部勤務を挟んで、1997年から「ラグビーマガジン」編集長として長く活躍をしました。2024年1月に退任をして昨年6月、ウェブマガジン「Just RUGBY」を立ち上げて、編集長として取材にまさに奔走していますね。
さて、リーグワンのいわゆるカテゴリーの選手資格が5月に発表されました。

田村これまで、カテゴリーAと言われる日本代表選手、日本代表資格を持っていれば日本人選手と同じように扱って出られたところが、義務教育を6年受けていないと一番いいA1に入らない、30キャップを持ってないとA2の方になってしまう。

藤島要するにジャパンになる資格がある、例えば高校から留学した海外の選手、大学から来た人、あるいはクラブに入って長い年月が経った人は資格ができて、必然的にどんどん増えていくわけですね。

田村そうですね。

藤島現象としては、例えば先発のメンバーの10人ぐらいの名前がカタカナであって不思議はないし、実際にそういうことが起きている。ここが議論の分かれるところで、だから面白いんだというのも一つ。そのままだと子どもたちに希望がないんじゃないかというのも一つ。それと、カテゴリーAの資格を取れる外国の選手はいくらでも試合に出られるのでどこのチームも確保したい、それがクラブの財政に影響する、これ、海外でもよくある話なんですけど。ジャパンの強化が、この制度によって落ちるかもしれないけれど、20年したら強くなるんじゃないかとか、色々な見方がありますよね。とりあえず説明としては今のカテゴリーAがA1とA2になって、A1は小中学校の義務教育9年間のうち、6年以上を日本で過ごした選手、A2は48カ月以上継続的に日本でプレーをしている選手ということですよね。

田村そうです。

藤島30キャップを超えるジャパンの選手については義務教育のところは関係なくA1になる。改革案は先発15人のうち8人以上はA1に、登録の23人のうち14人以上はA1にしましょう、こういうことですよね。どう考えますか?

田村今一番多いのは「かわいそうじゃないか」という意見ですよね、単純に言うと。

藤島今までの路線で日本に来て、人生設計じゃないですけどそういうふうに進んでいるのに急に変わる。

田村さらに言うと、サラリーの高騰が問題でしたら、本来は各チームのサラリーキャップを決めれば抑えられるわけですよね。

藤島海外であるのは、例えば代表のキャップを70以上持っている人については、そのサラリーキャップから外すとかね。
クラブが成り立たないとリーグも存続しないので年俸に歯止めをかけたいというクラブ側。選手側はエージェントを含めてもらえるものはもらいたい。文化的にはラグビーって国籍じゃないしワンチームでやってきてこれでいいんじゃないかっていう見方。一方で、いくら何でも全部がカタカナのチームばかりになって本当に発展するのかと。いろいろな見方があって難しいですね。

田村エディー・ジョーンズ日本代表ヘッドコーチも、今、日本人選手の出場機会がすごく制限されていると。彼は若い選手をどんどん育てたいので、このままじゃ駄目なんじゃないか、それを是正するルールにしようって何回も言っていたのでそれも反映されているはずなんですね。
一方で、海外から来ている選手を超えるぐらいの日本人選手がどんどん出現しないと強くならないという考え方もあるし、20年後に日本代表が強くなると言っても、20年間代表が強くなくなったら、その間にラグビーの人気が衰えるんじゃないかという考え方もある。

藤島私はね、学生ラグビー、具体的には高校と大学ですかね、本当のアマチュアリズムを貫くと解決する気もするんですね。抜け穴みたいな、はっきり言えば大学の留学生もエージェントがついていて、彼らも公然とエージェントに誘われて来たって話している。プロフェッショナルに近いですよね。もちろん本当にただの学生もいて、昨年明治に留学生がいましたよね。

田村カナダの代表経験者ですよね。

藤島そういう例はあるんですね。

田村今の時代それは全然不思議じゃない。

藤島それとエージェントがついて契約を結んで来るのは違うと言えば違う。いや、それだって留学生だ、悪いことはないと言われたら反論しにくいところもあるけれど、学生ラグビーはアマチュアリズムを守り切ることで意外と解決できる気もするんですね。

田村本当に色々な人を入れて話し合わない限りは難しいかなと。ニュージーランドもね、フィジーとかトンガ、サモアから入れるじゃないですか。学生を留学生というか奨学生で獲って代表に近いところ、スーパーラグビーに入れたりする。何を喋っているか分からなくなるぐらい難しいですよね。

藤島スポーツに優れているから奨学金が出るところまではおかしくないんですね。しかし、たぶんプレーの対価が出る。どう線を引くか難しいけど、学費の奨学金と寮の費用、食事、ケア、原則そこまでがアマチュアだと思うんですね。こういう話をすると日本の選手だってラグビーに限らず、実質的にプロみたいな人がいるじゃないかという話になる。もちろんその通りで、海外の人だけを対象にした話じゃなく学生スポーツはアマチュアリズムの範疇になって欲しいというのが私の意見なんですね。
これも見方が分かれるんですけど、例えばニュージーランドにトンガとかの選手が行く、強国にそれより弱い国から人が行くのと、力がまだ低い方に高い方から選手がどんどん流れて来るのとでは事情が違う。

田村強国から今強くなろうとしている日本に流入が多いというのが世界でもなかなかない事例なので世界と一緒にできない。

藤島「Just RUGBY」に、フランス語が堪能な福本美由紀さんのコラムがあって詳細に書かれていて、あるとき、フランスのリーグは70%フランス人が試合に出られるようにしましょうと方針を変更したんですよね。今フランス代表が強くなったのは、明らかにその影響だと。

田村印象的だったのはフランスで代表キャップ27持っている人が、チームの教育期間が3年なきゃいけないところ2年しかできていない、でも僕は27キャップ持っているんだから、特例も認めて欲しいって裁判を起こしたけど、公益性として突っぱねられている。

藤島この話、きりがないですね。
女子、男子含めてジャパンの話を。まず女子15人制はテストマッチのカザフスタンとホンコン・チャイナに勝利。どんな印象ですか。

田村4月にアメリカ代表に勝ったメンバーとは違うメンバーが出たんですね。サクラフィフティーンに入っているけどプレータイムが少ないとか、これから伸びてきそうだっていう人を集めたチームで戦ったんですけど、両方圧勝して女子ラグビーも選手層が厚くなってきたなっていう感じを受けました。国内の女子ラグビーの環境が整備されて、やる人も増えて、ちゃんとしたコーチングを受けて、成果が出ましたね。

藤島女子ラグビー、セブンズと15人制ともに感じるんですけど、ずっと努力をしてきてちょっとずつ伸びる、あるいはときには苦しんで行ったり来たりする。でもずっと努力するとあるときぽんといく。なぜかラグビーってそうなんですね。
この2戦に留まらず女子ラグビー、今誰が輝いていますか?

田村ホンコン・チャイナ戦、大内田夏月選手が初キャップでいきなり4トライ。もともと内側の選手でスタンドオフとかセンターなんですけどウイングで出て、スピードもテクニックもあるし、ここから伸びるんじゃないですか。

藤島今度は男子の15人制、いわゆるジャパン。

田村6月28日にジャパンフィフティーンがマオリ・オールブラックスと戦う。あとは7月5日、12日にウェールズ代表。エディー・ジョーンズの進退がかかっているぐらいのレベルの試合になると思います。

藤島候補をこれから絞ってジャパンを編成していくわけですけども、この人が選ばれたら面白い、選んで欲しいという選手は?

田村前々からなんですけど横浜キヤノンイーグルスのウイング竹澤正祥選手。足腰が強くて基礎体力がすごい。フォワードにも負けないぐらいのものを持っているので。

藤島私はね、38歳になったコベルコ神戸スティーラーズのスクラムハーフ日和佐篤選手。本当に好調じゃないですか。

田村いぶし銀でいいですよね。テンポも速いし。

藤島ベテランという雰囲気はないですね。素早いハーフが年輪を刻んでますます賢くなっているような感じで。

田村プレーオフの準々決勝、神戸対静岡ブルーレヴズで、スクラムハーフは日和佐選手対北村瞬太郎選手、この2人が対決して勝ったのが日和佐選手。北村選手が言っていました。「日和佐さんのゲームコントロールに負けました。でも絶対来年は上回ります」。そういう若手とベテランのやり合い、いいですね。

藤島私はね、その時のベストでその試合に全てを尽くすのがテストマッチの精神だと思うので、もちろん計画はあるんだけど、本当にいいベテランは選んでいいんじゃないか、その試合限りだっていいんじゃないかと思います。長い目で見ると日本のラグビーをふくよかにする、やっぱりチャンスがあるんだっていう心の影響がある気がするんですね。
あとはクボタスピアーズ船橋・東京ベイの7番、末永健雄選手。

田村いいですね。

藤島一緒にやっている人がみんな、ものが違うと言うんですよね。アタックのセンスがすごくあるんだけど、それをある意味封印してひたすら倒し切るタックル、球への絡み、そこに集中していく割り切りの賢さもあっていい選手だと思うんですけど。
同じ7番、東芝ブレイブルーパス東京の佐々木剛選手。この人なんかも入っても全く不思議のないザ・フランカー。

田村結果を残しているというのであれば東芝のウイング森勇登選手。内側の選手ですけど、外をやって成功していますよね。

藤島ところで編集長、「Just RUGBY」、他のインターネットメディアと違うじゃないですか。活字の雑誌のような長い記事が。あれは方針ですよね。

田村方針ですけど、書く人にもどこまで書いてもいいんだっていうのが浸透してきて。

藤島正直言えば、時の人が出てきて、短くシャープで分かりやすい記事は、クリックされるというのかな、絶対伸びるじゃないですか。それは一つの大切なファクターだけど、あえて反対を行っている。

田村もちろんたくさんの人に読んでもらいたいので、スター選手の短い記事を挟みつつ、好き勝手というか自分の好きなことを続けていますね。「ANALYSIS」というページがあって、今本貴士さんが分析をしてくれるんですけど、最初はそんなに読まれなかったのが、最近は楽しみにしてくれる人が増えてきて、月曜日の朝はこれが楽しみだって書き込んでくれる人も出てきて。

藤島ああいうものは専門誌に必要ですよね。専門誌の醍醐味ですね。

田村もう1点、中村知春さんのコラム、いいですよね。

藤島「文は人なり」で、いい人って分かるんですよ。細かいところまで気を配って書いているけれど、ありのままの人だっていう感じがする。これは相当腕がないといけない。天然に見えて全然天然じゃないですね。相当書き直したと思います。

田村うれしい。

藤島本日のゲスト、ウェブマガジン「Just RUGBY」編集長、田村一博さんでした。ありがとうございます。

田村ありがとうございます。

6月2日ラジオNIKKEI放送
「藤島大の楕円球にみる夢」
text by 松原孝臣

ラジオ番組について:
ラジオNIKKEI第1で放送。PCやスマートフォンなどで、ラジコ(radiko)を利用して全国無料にて放送を聴ける。音楽が聴けるのは、オンエアのみの企画。放送後も、ラジコのタイムフリー機能やポッドキャストで番組が聴取できる。動画版はU-NEXTで配信中。

6月2日放送分ポッドキャスト http://podcasting.radionikkei.jp/podcasting/rugby-radio/rugby-radio-250602.mp3
U-NEXTでは画像付きの特別版を配信 https://www.video.unext.jp/title/SID0100786