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2019.11.6 くらしのマネー辞典
子どもの大学入試に備え、高校の進路は有力進学校を考えている人もいるのではないでしょうか。
しかし、都内の中高一貫校で高校募集を停止する学校が相次いでおり、そのシナリオは実現できなくなる可能性が出てきています。近年の高校募集停止の動きが、子どもの教育や家計に、どのような影響があるのかを考えます。
先取り教育など、体系的な履修プログラムで人気の中高一貫校の数は、年々増えています。文部科学省によると、2007年度の176校から2016年度には595校と、10年間で約3倍になりました。
中高一貫校が増えた背景としては、「学校教育法等の一部を改正する法律」が1999年に始まり、中高一貫教育が制度化されたこと。また、より良い教育環境を求める親のニーズに、中学・高校という区切りを設けず、自由で質の高い教育計画が可能な6年間の一貫教育がマッチしたことなどが考えられます。
ところが、最近では都内の有力な私立中高一貫校で高校募集を取りやめる動きが出ています。本郷高校が2020年度入学、豊島岡女子学園は2021年度入学を最後に、停止するとの報道がありました。
また、都内の公立中高一貫校の一部も、高校募集を停止する方向です。富士高校、武蔵高校は2021年度、両国高校、大泉高校は2022年度の入学生から募集が停止になります。さらに、白鴎高校についても2021年度以降に高校募集の停止を検討中です。
中高一貫校では、中学入学が叶わなかった生徒へ入学機会を与えることや、学校運営の問題などの理由から、高校募集をしていた面もあるでしょう。しかし、高校からの志望者の減少や、高校からの入学者がいることで、中高一貫教育ならではの体系的な指導が難しくなるという状況が、相次ぐ高校募集停止の背景として考えられています。
予算的な問題で、子どもの有力校進学は高校から、と考えている方もいるかもしれませんが、そのような場合、教育プランの見直しが必要になるでしょう。高校からの募集が停止される中で、中高一貫校に入る場合は、中学受験の必要性が高まります。
では、あえて中高一貫校に入学するメリット、デメリットには、どのようなことが考えられるのでしょうか。
・高校受験の必要がないため、大学受験までは比較的ゆとりのある学生生活が過ごせる
・6年間同じ環境なので、学習や部活動に集中できる
・中学受験によって学校レベルに合った生徒が選抜されているため、学力差が少なく適度な難易度で学べる
・私立では実力ある教員の採用活動に力を入れている学校もあり、そのことで指導レベルが上がり、質の高い授業が実現する
・中学受験は通常の小学校の授業だけでは合格することは難しく、必然的に小学校のうちから塾に通い受験対策が必要
・一定期間、学習時間を優先することになるため、友人との付き合いやスポーツなどの習い事も制限される
・入学後に学力差ができ、ハイレベルな授業についていけなくなる
これらを踏まえ、進学先については子どもに与えたい教育環境をよく考え、決めることが大切です。
昨今の状況を考えると、もし有力な中高一貫校への進学を希望するのなら、中学受験は避けて通れません。入試問題は小学校で習うよりもハイレベルな問題が出題されるため、子どもの教育費には、進学塾へ通う費用も見込んでおくことが望ましいでしょう。
大手進学塾の早稲田アカデミーによると、2019年度の公立中高一貫校受験予定のクラス(小学5年生が対象)では、週2回・4科目コースで毎月26,080円。これ以外にも年会費や教材費、テスト代などが必要になるので、月額で3.5万円〜4万円程度はかかる可能性があります。
また、私立の中高一貫校の場合は公立よりも多額の学費が必要です。
文部科学省「平成28年度子供の学習費調査」を見ると、1年間の学習費総額の平均は、公立中学校47.9万円(月額約3.9万円)に対して、私立中学校は132.7万円(月額約11万円)と、約3倍です。ひとつの目安としては、中学校入学までに400万円程度の貯蓄が目標になるでしょう。
ここまで見たように、私立の中高一貫校を志望するなら、小学生時の進学塾の費用や中学入学後の多額な費用の準備が必要です。そのためには、早めの貯蓄計画が欠かせません。
教育費をめぐっては、2019年10月から幼児教育・保育の無償化が始まっています。認可保育所、幼稚園、認定こども園に通う3〜5歳児のいる世帯では、原則として保育料が無料になります(幼稚園は月額25,700円の上限あり)。
例えば、幼稚園無償化の上限2.57万円と児童手当1万円を合わせれば、毎月約3.6万円の貯蓄が可能になります。「幼稚園から準備は早すぎない?」と思うかもしれませんが、家計の優先度から行けば、教育費を早めに準備することは欠かせません。
教育費を確実に貯めるには、子供のためにと決めた予算を、他の支出に回らないよう、銀行の自動積立定期や財形貯蓄などを利用して、別の場所に移す工夫が必要です。
その他、教育費を貯めるための商品としては、生命保険会社の学資保険や、終身保険(低解約払戻金型)なども利用できます。
投資経験があり、価格変動などのリスクも許容できるのであれば、投資信託を利用した、つみたてNISAなども選択肢です。
ただし、つみたてNISAは元本保証がないので単独での利用は避け、教育費に充てる予算の一部に利用するのが賢明でしょう。
将来的に、高校から入学できる有力校が少なくなれば、中学入試で一部の学校に生徒が集中することも考えられます。
とはいえ、子どもにとっても家計にとっても、中高一貫校への入学が最終ゴールではもちろんありません。
子どもの適性を考えながら、高校、大学の費用も視野に入れた早めの情報収集と資金準備を心がけましょう。
高橋 浩史(たかはし・ひろし)
ファイナンシャルプランナー。 FPライフレックス 代表。 書籍編集者を経て2011年にFP事務所を開業。マイホーム実現のため、資金計画・家計改善の面から応援する「住まいの相談FP/家計の赤字V字回復アドバイザー」として活動中。セミナー講師、書籍・雑誌、webでの執筆業務も行う。「災害に備えるライフプランニング」(近代セールス社)、「老後のお金安心ガイド」(イースト・プレス)他。趣味はバイクツーリング、ギター、落語。